(3)タージマハル
宵ちゃんと遥の日常的な冒険譚?
宵ちゃんの「図書委員だから」に「???」な遥がかわいいです。
(3)タージマハルじゃない
ゴールデンウイーク間近の金曜日、日中の日差しは暖かくなってきたが夜はまだ寒かった。
学校から帰ると、私は宵ちゃんとのお出かけに少しウキウキしてフリル付きのブラウスに赤いキュロットスカート、二―ハイソックスにスカートとおそろいの色のベレー帽をかぶってお気に入りのコートを羽織って出かけた。
駅の構内で電車を待つあいだに男子達三人組が近づいてくる。
「あれ? タージマハルじゃん?」
小学校の時の同級生たちだ。
「あ、ホントだ但馬守、どうしたの?」
「あれ? 田中君じゃない、ヤッホー!」
真ん中にいた私を変なあだ名で呼ばなかった田中君にだけ声をかける。
「お、おう…」とちょっと下を向く田中君。
「元気にしてた? 違う中学になっちゃってしばらくぶりかな?」
「こないだ、街で見かけた」
「そうなんだ、声かけてくれれば良かったのに!」
「なんか帷垂さんと楽しそうだったから」
「タージマハルもさー元気にしてたのかよ」
右にいた吉村君が会話に参加したそうだ。
「吉村君だっけ、ひさしぶりね、できれば、はるかちゃんって呼んでほしいな」
急に、そわそわする吉村君。
「ばっ、何言ってんの? 彼女でもない女子、下の名前で呼べっか! タージマハルでいいんだよ、タージマハル!」
まあ、思春期の男子だもんねー。
「山本君は?」
「は、はる…やっぱ無理、但馬…さんで」
「んーまあいっか、で、三人して何してんの? こんな時間に」
「塾だよ、はるか」と田中君。
「そっか、頑張ってね、田中君、名前呼んでくれてうれしいかも」
「そ…うか、うんはるかは何してんのこんな時間に」
「えーっと、学校に忘れ物みたいな?」
「西校だっけ?」
「うん、そう! 宵ちゃんと一緒なんだよ、宵ちゃんめっちゃ頭良いのに、私と同じ学校に入ってくれたんだ、そんなの良いのにって言ったんだけど、大学で巻き返すし別にいいって」
「そうなんだ、帷垂さん、いつも学年首位だったからてっきり県女子行くかと思ってた」
県立の河越女子は偏差値71の難関校だ、とてもじゃないけど私には入れる場所ではない。
「ひゃあ、そうなんだ、頭いいとは思ったけど宵ちゃん、ひゃああ」
「あそこ夜、人気が無くて危なくない?」
「大丈夫、宵ちゃん一緒だから」
「あああ、あの鉄仮面眼鏡か」と吉村君。
「私の親友悪く言わないでよ!」
「吉村は肝試し失禁事件で帷垂さん恨んでるから」と山本君。
「うるせー、うるせーよ山本、殺すぞ!」
「ふふふ、吉村君、けっこう宵ちゃん好きだったもんね?」
「ば、そんな事ねーし! タージマハルの勘違いだってーの!」
「耳まで紅くして説得力ないよ吉村君? You!みとめちゃいなよ?」
「うるせーなあ」
「あ、そういえば電車来るよ、私反対側だからまたね田中君!」
「お、おう」
三人の元同級生が手を振って見送る。
タージマハルは嫌だけど、なんか懐かしい。
「おはよーはるか」
「ひゃああ、宵ちゃんいつから居たの? 背後で気配消さないでよ~、心臓飲み込んだじゃない! ひどいよーもう!」
宵ちゃんはクスクス笑ってごめんごめんと謝った。
「だって、はるか、田中君たちと楽しそうにしてたから」
「えーっ? この年になってタージマハルって言われたんだよ?」
「でも田中君はそう呼ばなかった」
「え、どこから聞いてたの? さっき見かけたばかりだから何も聞いてないわ、それに遠かったし」
「じゃ、なんでわかるの?」
「図書委員だから」
「なにそれ、図書委員だと田中君のことわかるの?」
「まあね」
「えーっ? なのそれ私も図書委員だけどわかんないよー?」
「まあ、はるかは図書委員になって日が浅いからね」
と謎めいた答えではぐらかされる。
「それよりはるか、着替えてきたの? そのコーディネートいいわね」
「でしょ、でしょ? 宵ちゃんとお出かけだもん! ちょっと気合入れてきた」
「なんで女の子同士で気合入れるのよ」
「だって宵ちゃん大好きだし」
「はいはい」
と宵ちゃんはクスっと笑った。
「で? なんで私服なの?」
「だから、お出かけだってさっきゆったよー」
「これから私たちは学校に潜入して、朝になって警備のスイッチ切れたら、運動部に紛れてしれっと投稿するんじゃなかったけ?」
と私のコーディネートを眺めて嬉しそうに言う。
「あああああ、そうだった! どうしよう宵ちゃん!」
「私の体操服、貸してあげるわ」
「体操服通学! そっか頭良いね、あ、でも帷垂! って体操服に書いてあるから宵ちゃんの着てるってバレちゃわない?」
「大丈夫、私のジャージには名前縫い取りしてないから」
「そっか、じゃあ大丈夫ね!」
電車が動き出し、三駅先の高校前まで出発進行!
その間に宵ちゃんとおしゃべりをする。
宵ちゃんは博識で、どんなくだらない私の話も拾ってくれる。
すごく話しやすくて私も宵ちゃんと話すのが大好きだ。
「着いたわよ」
「駅ついたー! なんかワクワクするね」
反対側のホームにはまだ運動部の生徒がちらほらいる。
「なんか、悪いことしてるみたいで緊張しちゃうね宵ちゃん」:
「まあ、建造物侵入罪にはなるかもしれないわね」
さらっと法律も出て来る。
「あああ? どうなっちゃうの?」
「立件されれば刑法一三〇条、正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した者を三年以下の懲役または一〇万円以下の罰金に処するって事になるわね」
「私、警察に捕まるの?」
「生徒だし、そこまで大げさにならないと思うわ」
「どうしよう、捕まったら」
「用務員さん言いくるめれば平気だし、第一見つからない」
「ホント? 宵ちゃん…」
「ホント」
「絶対? 宵ちゃん、絶対捕まらない?」
「まあはるかがドジらなければ」
「あ、それは自信あるかも、わたしドジじゃないし!」
「…」
「あーつ、ジト目やめてーっ! 信じてない目で見ないでホントにドジは中学校に捨ててきたの! 今は新生はるかちゃんよ?」
「制服で来てない時点で信憑性は薄れるわね」
「あーんひどいよー、宵ちゃんとデートだから頑張ったのにぃ!」
「はいはい、とても可愛いわ、はるかに似合ってる」
「でしょう? このコーデ可愛いっしょ?」
「はるからしいというかベレー帽、似合うわね」
「今度、宵ちゃんのパーソナルカラーで色違いコーデしよっか?」
「私のパーソナルカラーって何かしら?」
「黒っぽいのばっかり着てるけど、何気に濃い緑も合うよ?」
「似合うと言うより…まあいいわ」
「じゃあ来週の日曜日、服買いに行こう!」
「テスト前じゃない?」
「むう」
「テスト終ったらね」
「やった!」
そうこうしている内に、校舎の裏門に辿り着いた。
「さ、行くわよはるか」
「よっし! 待っててねグリモア―ル」
と何となくぐるぐる腕を回す。
「でもどうやって忍び込むの? この時間、鍵かかってない?」
「それはね」
宵ちゃんはちょっと悪い顔になった。
いよいよ学校に潜入してグリモワールの秘密を暴きます?
女子高生、遥と宵の学校探検編、まだ続きますw