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会話術

「え、水族館ですか? 嬉しい! ありがとうございます!」


 琴梨ちゃんは口の前で両手を可愛く合わせて口角をきゅっと上げて喜ぶ。

 その隣でお友だちのマキちゃんは相変わらず眉をしかめてギロッと俺を睨んでいる。


 やはり琴梨ちゃん一人のときに誘うべきだっただろうか?

 しかし通学中に琴梨ちゃんの顔を見た瞬間、いま言わなくてはと決心した。

 先延ばしにするとズルズルと言えなくなる気がしたからだ。


「じゃ、じゃあ詳しくはまた放課後にでも」

「あ、先輩待って。これ」

「え?」

「お弁当です。先輩はいらないって言ってましたけど、どうしても作りたくて作っちゃいました。すいません」

「あー……ありがとう……」


 味は保証付きだけど愛情がたっぷり籠っちゃってるんだよなぁ、これ……


 突っ返すわけにもいかず仕方なく受け取る。

 その態度が気に入らなかったのか、マキちゃんは「はあ?」という顔をして呆れていた。

 苦手な人だが、好意をもって接して来ないので嫌悪感はない。

 好かれている人にアレルギー反応を起こし、嫌われている人には普通に接しられるドMのような体質だ。




 昼休みになり、弁当を食べるよりもまず鳩田を捕まえた。

 話があるので付き合って欲しいというと、不服そうではあるが素直に従ってくれた。

 これも俺の教育の賜物だな。


「なんだよ、藤堂。もう勘弁してくれよ」

「勘弁してくれってどういう意味だよ? 僕と鳩田は友だちだろ?」

「友だちじゃねぇし!」

「拳と拳で語り合ったら戦友ともだろ? それともまだ語り合い足りなかった?」

「も、もう十分語り合ったって! 友だちだ!」


 鳩田は気の毒なくらい怯えていた。語り合いは勘弁してやろう。


「なあ、鳩田って女の子とデートする時どんな会話してんの?」

「は? 聞きたいことってそれかよ?」

「いいからさっさと答えろ」


 こんな奴に聞くのは癪だが、ここ数年まともに女子と会話してない俺は話題選びもよく理解していなかった。

 これまでは嫌われようと努力して会話していたので困らなかったが、好かれようと会話するコツは分かっていなかった。


「別に普通だよ。YouTubeどんなの観てるとか、好きなアーティストは誰とか」

「他は?」

「あとはクラスの話とか、芸人の話とか? とにかく適当だよ。考えて離してる訳じゃねぇからいちいち覚えてねぇし」


 なかなかハードルの高い内容が多い。

 YouTubeの話はなるべく避けたいし、クラスの話なんて聞かせようにも誰とも会話をせずに過ごしているので話題はなにもない。

 芸能界の話題もうちの両親の話題になるかもしれないのでなるべく避けたかった。


「もっとないのか?」

「そもそも会話するっていうより相手の話を聞いてそれについて話すのがいいんじゃね?」

「なるほど」


 聞き上手が話し上手ってことか。

 鳩田にしてはまともなことを言う。


「あとはオドオド喋らないことじゃね?」

「うっせぇわ」


 ぽすっとわき腹を小突くと鳩田は背中を反らせて痛がる。

 軽くしたのに大袈裟な奴だ。


「ていうか琴梨ちゃんとデートする時のために訊いてるんだろ?」

「そうだ」

「一番大切なのは話題や話術じゃなくて自分らしく話すことだろ? あんま固くならずに好きなように話せばいいんだよ」

「偉そうに語るな」

「わ、ご、ごめん」

「別に怒ってねぇし。ありがとよ。もう行っていいぞ」


 鳩田が立ち去ってからその場所で適当なところに座って弁当を広げる。

 卵焼きに肉じゃがコロッケ、アスパラのベーコン巻きと唐揚げといったシンプルなメニューだ。

 ご飯にハートマークやらメッセージなんかが書かれているのかと思っていたが、いたって普通だった。


「やっぱうまいな」


 冷凍食品じゃないのは一口食べれば分かる。

 冷めても美味しいように味付けも濃い目にしてあるのが嬉しい。

 でもその反面琴梨ちゃんの愛情を感じてモヤッとしてしまう。


 頭では琴梨ちゃんの愛を受け入れようとしてるのに、身体がどうしても拒絶する。

 琴梨ちゃんは打算的なところがなく、純粋に俺を愛してくれている。

 これまで出会ってきた人たちとは違う。

 自分にそういい聞かせながら弁当を食べていた。



 放課後はいつも通り二人で帰る。

 今日は食事を作りに来てくれる日なのでこのまま俺の家までついて来る。

 通りすぎていく人たちは相変わらず奇異の視線を向けてきた。

 そりゃこんな美少女とキモオタがならんで歩いてたら見てくるよな。その気持ちは分かる。

 でも琴梨ちゃんはそんな視線まるで気にした様子もない。


「お弁当、どうでしたか?」

「美味しかったよ。ありがとう」

「ほんとですか? よかった! 本当はお昼も先輩と食べたいんですけどすいません。これまでマキちゃんと食べてたから、なんか断れなくて」

「いや、友だちを大切にするのは大事なことだよ。そっちを優先して」

「相変わらず優しいんですね、先輩」


 琴梨ちゃんは嬉しそうに微笑む。


「そういえばあのマキちゃんってやっぱ僕のこと嫌いなのかな? いつもすごい顔で睨まれるんだけど?」

「うーん……嫌いっていうか私をとられちゃうって思ってるのかも? すごく仲良しだからいつも一緒ですし」


 琴梨ちゃんは苦笑いを浮かべる。

 取られるというより親友が気持ち悪い男と付き合ってるのを心配しているだけなんだろう。


「もう少し落ち着いたら先輩にもマキちゃんを紹介しますね!」

「ありがとう」


 やはり琴梨ちゃんとより深い関係になっていくためにはその親友と仲良くした方がいいだろう。

 気が重いけど頑張るしかない。


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