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お部屋招待

「散らかってるけど入って」

「散らかってる方がいいんです。掃除をしに来たんですから」


 琴梨ちゃんは腕まくりをしながら意気揚々と家に入ってきた。


「あれ?」

「どうしたの?」

「思ったよりずーっと片付いてます」

「そうかな?」


 だらしなさを演出するためにわざと少し散らかしたのに、琴梨ちゃんは拍子抜けした顔になる。

 どれだけ汚い部屋を想像していたのだろう?


「冷蔵庫お借りします」

「あ、食材買ってきてくれたんだ?」

「はい。おそらく先輩の部屋は調味料もほとんどないと思ったのでそれも買ってきました」

「悪いね。あとで払うから」

「いいですよ、そんなの」


 飲み物以外空っぽの冷蔵庫に食料が入っていくと、なんだかそこだけ一気に生活感が生まれた。


「それにしても一人で住むにはちょっと広いですね」

「2LDKだからね。まあほとんどこの部屋しか使ってないけど」


 ドアを開けてヲタ部屋を披露しながら、琴梨ちゃんの反応を伺った。


「わあ! すごい! 推し部屋ですね!」

「ま、まあね」


 引くどころか目を輝かせてしまっている。


「わー、これ、『転生社畜』の『マフの助』の限定フィギュアじゃないですか! いいなぁ」

「そ、そうなんだ。よかったらあげるよ」


 このアニメ観てると母さんに言ったら送ってきてくれたものなので正直価値とかはよく分からない。


「ダメです。こんな貴重なものは頂けません。それにここにあればこのフィギュア見たいという口実で押し掛けられますから!」

「そ、そうか。でも口実にするつもりなら言わない方がいいと思うよ……ははは」

「わ、これ原作者さんのサインじゃないですか! なんでこんなもの持ってるんですか!?」

「ま、まあ、製作スタッフに知り合いがいてね」

「えー! いいなー!」


 それからも琴梨ちゃんは色んなグッズを見ては興奮していた。

 意外とコアなファンらしい。


「あ、いけない。お掃除しに来たのに」


 我に返った琴梨ちゃんは散らかった雑誌やゲームのコントローラーを片付けていく。


「きゃっ……」

「どうした?」

「あ、あの先輩……これはどちらに片付ければよろしいでしょうか? やはり定番のベッドの下とかですか?」


 琴梨ちゃんはおずおずとセクシーなマンガ雑誌を俺に向ける。

 それを分かりやすいところに放り出していたのはもちろんわざとだ。


「あ、ご、ごごごめん!」


 慌てたふりをしてそれをベッドの下に放り込む。

 中身まで確認してしまったのか、琴梨ちゃんは恥ずかしそうに俯いて固まっていた。


「せ、先輩はやはり、その、きょにゅーのほうが、好きなんでしょうか?」

「え、そ、そりゃまあ……」

「そうですか……そうですよね……男子はみんな大きい方が好きですもんね……」


 琴梨ちゃんは襟元を指で小さく引っ張り、自分の胸を確認してため息をついた。

 なんだか想定外のことで傷つけてしまったみたいだ。



 それほど散らかっていたわけではないから掃除はすぐに終わってしまった。

 まだ夕飯を作るには早すぎる時間だ。


「そうだ琴梨ちゃん。映画観ない? 借りてきてるんだ」

「いいですね! 先輩が選んだものならハズレなしな気がします」

「じゃあ早速」


 セットしてテレビの前に並んで座る。

 おどろおどろしいオープニングが映ると琴梨ちゃんはビクッと震えた。


「せ、先輩……これってホラーですか?」

「そうだよ。僕はホラー映画大好きなんだよね」

「そ、そうなんですね……」


 ホラーが大の苦手という鳩田の意見を参考に借りてきたものだ。

 趣味が合わないというのを感じさせて幻滅させる作戦だ。


 映画は冒頭からヒヤヒヤするシーンの連続で琴梨ちゃんは早くも涙目だった。


「あー、だめだめ。その扉開けちゃダメだってば……」

『ニャアッ!』

「きゃああっ!」


 定番の『なんだ、野良猫か』のシーンなのに琴梨ちゃんは目をバッテンにさせて驚く。

 しかし怯えすぎて俺の腕にしがみついてくるのは想定外だった。

 おかげで先ほど自己紹介された慎ましい膨らみがむにゅむにゅと押し付けられてしまう。


 ずっとこんなに密着されていたら、なんかこっちも変な気分になってしまいそうだ。


「やっぱり観るのやめとく?」

「いいえ。先輩が好きなものなら彼女として慣れておく必要がありますんで……きゃああっ!」


 健気で可愛らしい態度に思わず頬が緩む。

 そのときふと気付いた。

 琴梨ちゃんが俺の腕にしがみついているのに嫌悪感が沸いてこないということに。


 女の子に触れられて嫌気がささないのは本当に久し振りのことだった。




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