ヒトラーが生徒会選挙に出てみた。
だぶーん
やぁ、諸君!
あなたの総督、アドルフ・ヒトラーだ。
私は現在、生まれ変わって日本人として生を受けている 。
こちらでの名前は人浦仁というのだ。どうぞよろしく。
それはそうと、日本は良いところだ。
そうは思わんかね?
青い空に美しい自然。
島国ゆえの独特な文化。
実に素晴らしい。
ここでの生涯を画家として終えようかと思ったほどだ。
だが、私はまたも天啓を受け、世界をかえねばならなくなった。
思えば記憶が残っていたのもそのためかもしれない。
その天啓とは、日本の闘争心を呼び戻すことである。
今の日本人は、腑抜けている。
ペコペコとして、金髪の豚の言いなりになって、何も言い返せないでいる。
あぁ、なんとも嘆かわしい......
かつて、あの紅茶の香りのする豚に「史上最悪の惨事」とまで言わしめ、ドイツと同盟を結んだ誇り高き国家、日本はどこへ行ってしまったのだ.......
私は、神に選ばれた教師である。
時代も国境も崇高なるご意思の前では無に等しい。
私は必要とあらばどこだって変えてみせる。
この日本を誇り高く、気高い国に戻そうではないか!
それが私に課せられた使命だ。
さしあたって、私は情報を集めることとした。
現代のユーモアの最先端、芸術、歴史、国際問題などなどだ。
いつの時代も、最も強力で手軽な武器は情報なのだ。
今の時代には、ネットなるものがある。
これさえあれば、SD※(ナチス・ドイツの諜報機関)など必要ないのだ。
こうして私は何年もの間、知識を蓄えて気が熟すのを待った。
時は流れ、中学校なるものに入学する年齢となった。
私は、ここで人生最大の驚きを体験する。
なんと、中学校なるところでは、我々の頭髪は一定基準に揃えられ、服装は学生服なるものに固定されてしまう。
私は思わず、収容所か軍学校にでも連れてこられたのではないかと錯覚してしまったほどだ。
この酷い状況に直面して、ようやく私は最初に着手するべきことに辿り着いた。
「教育」の改革だ。
教育とは国の未来そのものだ、これが腐っていてはどうしようもない。
まず私は、この東瀧下中学校の掌握から始めた。
ここを起点にして日本のこの腐った学校制度を変えるためである。
そこでお誂え向きなのが、この生徒会選挙なるものである。
端的に言えばこの学校の最高指導者を決める選挙だ。
私はこれに出馬し、この学校の覇権を握る。
この間読んだ「監〇学園」なる書物には生徒会がいかに強大な組織であるかが記してあった。
私の偉大なる第一歩に相応しい。
「人浦くん、本気で言ってるの?」
眼鏡をかけた女教師が怪訝そうな目を私に向けた。
「勿論ですともご婦人」
「だから、そのご婦人って言うのやめてって言ってるでしょう?」
女教師が溜息をつく。
「ねぇ、人浦くん。生徒会長って言うのはね、誰よりも模範的で人望がないといけないのよ?あなたはそれに当てはまると思う?」
「ハッハッハ、随分と愉快なジョークですな。いつの時代もついて行きたいと思うような人間は真面目な人間ではなく、圧倒的なカリスマを持った人物ですよ。それのみが指導者に求められる絶対条件であり他には何もいらないのです。そう例えば、アドルフ・ヒトラーとかですかな」
女教師は呆れたようの首を振り、どうせ無理よ......とブツブツ言いながら出馬を承諾した。
「ところで、応援演説者はどうするの?」
「それならもう決めている」
私は電話をかけた。
その相手は、前世での私の忠実な部下「ヨーゼフ・ゲッベルス」の生き写し、大山久憲くんだ。
彼は実に演説が上手い。
彼はMotubeに動画を投稿しており、その語りで人気を博している。
勿論、私には及ばないが引き立て役としては申し分ない。
私は彼に言葉巧みに近づき、道化の振りさえもしながら彼からの信頼を勝ち取った。
真に偉大なものは泥水をすすっていても偉大なのだ。
準備は全て整った。
あとは、私が原稿を書くのみだ。
私は全神経を注ぎ書き始めた。
私は演説では手を抜かない。
全ての言葉が後世に残ると自負しているからこその心がけだ。
深夜3時。ついに私は傑作を書きあげた。
紙を広げて読み返す。
ふふっ、思わず笑みがこぼれる。
明日ついに、大いなる第一歩を踏み出すのだ。
私の心は喜びで満ち溢れていた。
「それでは、小椋京子さーん。演説をお願いします」
アナウンスが次の演説者を呼ぶ。
横の席の少女が緊張を解すおまじないをして立ち上がる。
つまらん。どいつもこいつもクソのような演説だ。
つらつらと小さな改革を掲げて長ったらしい話をしている。
ふむ、これが私の初授業となりそうだ。
彼らに真の演説というものを教えてやらなければならないようだ。
「次、人浦仁さーん。お願いします」
まずは、忠実なる部下。
大山が演説台に立つ。
彼は、ちょうどいい調子で話し始めた。
人々は彼の言葉回しに芸術のように練り上げられた演説に聞き惚れた。
時に飛び出すブラックジョークで笑いを誘い、時には激しい口調で人々を引き込んだ。
民衆はもはや、一つの塊と化していた。
大山が締めの言葉で私にバトンタッチする。
これ以上ない完璧なタイミングだ。
民衆は餌を待つ豚のように静まり返っている。
私は沈黙を貫いた。
人々はまだかまだかと、ジリジリした感情に駆られる。
誰も話さない、物音ひとつない静寂が体育館を包み込む。
私はあえて息を吸い込む音を強調し、話し始める。
人々は私の一言一言に熱狂する。
時に笑いが起き、狂気が生徒中に伝染していた。
教師までもが聞き入っている。
最初は笑っていた生徒も歓声上げている。
これだ。
ナチスの始まりはこれだったのだ。
熱狂した一つの塊はゆきだるまのように大きくなり、やがて国をも飲み込む。
アドルフ・ヒトラーの生徒会選挙は、驚異の支持率100%で幕を閉じた。
彼の使命はまだここに始まったばかりである。
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