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2/12

01 目覚めるとそこは、最終決戦でした。

「うーん。ママぁ?もう朝ですかぁ?」


 至福の安眠を妨げられ、檜渡ひわたり 瑠娜るなはご機嫌斜めという様子で瞼をこすった。ついでに、華の女子高生には似つかわしくない程の巨大な欠伸をかます。


「ふわぁぁ。ねみゅい。今日は休日だよぉ」


 どうやら、意識はまだ半分以上が夢の中にあるようだった。ぴたりと接着された瞼を開眼する素振りも見せずにごろんと反転。気持ち良さそうに寝返りを打つ。だが、いつものふかふかなベッドとは異なる感触に顔をしかめた。巻き込んだつもりの掛布団の感覚もしない。


「はれ?硬い?」


 口の端から涎を垂らしながらぼんやりと薄く目を開いた。ぼやける視界に映る景色は薄暗い。


「なんだぁ。まだ夜だよぉ。ひどいですよママ。私の布団、返してください」


 周囲の暗さに安心したのか、寝心地など意に介さず再び眠りにつこうと試みる瑠娜。少し肌寒いのか、ぶるっと震えた後に自らの膝を抱えた。もふりとした感触と共に、温もりを感じる。


「あ、お布団だぁ」


 目を閉じたまま、にんまりと幸せそうに笑う。意識がどんどんと薄れていき、次第にすーっすーっと深い吐息が漏れ始めた。体がぷかぷかと浮き上がるような心地の良い感覚に包まれ、吐息が寝息に変わっていく。


(あぁ、幸せ。でも、今日って何かあったような・・・)


 ――が、ふとあることを思い出して飛び起きた。


「今日は、インターハイだ!」


 瑠奈は、私立谷峨昌西やがまさにし高等学校に通う学生であった。

 三年二組、身長百四十八センチ、出席番号十六番。弱小ではあるが女子ソフトボール部の副部長として、三十名程度の部員を頼れるエース兼部長の服部はっとり 美琴みことと手を取り合い纏めていた。美琴はともかくとして、瑠娜自身は決して実力があるという訳ではなく、単に三年生の部員が二人しかいないため副部長の任に就いているのであるが、天性の運動音痴が災いして年中補欠選手だった。公式戦では一度もベンチから立ったことが無いのだ。だからと言って後輩からの信頼が皆無ということはなく、持ち前の明るさと面倒見の良さからむしろ慕われていた。トレードマークである兎のゆるキャラ『ルナモッチー』のヘアピンをいつも装着しているため『ピョン吉先輩』、『うさちゃん先輩』、『ラビ先輩』など、思い思いに愛称で呼ばれ、その愛くるしい容姿も相まって下校時や休日は皆のアイドルとして引っ張りだこであった。いわば、谷峨昌西女子ソフト部の歩くマスコットキャラクターである。クールビューティーで最低限度の言葉しか発さず、常にツン成分の鎧に身を包んだ美琴に『ソフト部に瑠娜が居てくれて本当に良かった』とデレさせた逸話は、後輩たちだけでなく部活に関係のない同級生間でも谷峨昌西ローカル伝説の一つとして語られていた。


 もちろん、今回のインターハイ地区予選も瑠娜は補欠であった。しかし、高校生活最後の大きな大会。試合に出場するしないは関係なく特別なゲームであることは間違いなかった。そのために、前夜は気合を入れて夕方の十八時に布団に入ったのだ。準備は万端である。


(さぁ、かかってこい青春最後の一大イベント。絶対に爪痕を残してやる。補欠だけど)


 と、瑠娜は自分の顔の前で拳を握りしめて気合を入れた。のだが、


「はれ?」


 瞳に飛び込んできた巨大な『何か』を認識して、ゆっくりと拳を下した。半開きのままの口を閉じることも忘れて周囲を一瞥した後、再度確認の意味も込めてじっくりと見回した。


《おはようございます。瑠娜様》


 無機質な女性の声が頭に響く。


「え?」


 脳の処理が追い付かずに、ただ茫然とした。

 

 目の前に広がる光景があまりにも非現実的であったからだ。だだっ広い空間に、どんよりとした濁り気のある空気が蔓延している。何十本もの石造りの太い柱が遥か上空一面に敷かれた漆黒の天井を支え、窓から見える外の景色はひどく荒れていた。唯一の光源である等間隔に設置された燭台の炎は濃緑色で薄気味が悪い。何よりも、離れたところにわらわらと屯っている生物。明らかに人間ではない見た目をしていた。寝ぼけた瑠娜の頭でも自室では無いことだけはすぐに分かった。寝起きドッキリにしては、あまりに手が込み過ぎている。


 全く知らないはずの景色。であるはずなのに、なぜか瑠娜はこの景色に見覚えがあった。いつ見たのだろうと首を傾げる。すると、


「ナに、モのだ?」


 地を這うような重低音だった。瑠娜がそれを『声』だと理解するのには数秒かかった。さらに、その発信源が眼前の巨大な『何か』であることを認知するのに数秒。


「えぇっと、まだ寝ぼけてるのかなぁ。あはは」


 瑠娜は、誰に向けたわけでもない困ったような笑顔を作り、頭をかいた。


(何この展開? 夢? 夢だよね?)


 そんな自問に対して回答が返ってくることは当然なかった。


「きサまは、ナにものだとキイているのダぁぁ!」


 しびれを切らしたのか、『何か』が大声を張り上げた。どすんっと、とてつもない爆音が響き『何か』の一部が一瞬高く持ち上がり、再び同じ場所に落とされた。地面が抉れ、空気が激しく振動する。土煙がぼうっと立ち込め、床の破片が飛び散ってこつんと瑠娜のおでこに当たり「いたっ」と小さく呻いた。


 そこで初めて、目の前に振り下ろされた樹齢云千年を超えるありがたい神木の様な塊が『何か』の足に当たる部分であることに気付いた。


「ひぃっ」


 あまりの迫力に引きつった悲鳴をあげる瑠娜。それとほぼ同時に、周りからもざわざわと声があがった。


「魔王様。落ち着いてください。魔王城が壊れてしまいます」


「なんなのだ。あの兎人族は?」


「どうやって侵入してきたんだ?」


「気を付けろ。勇者の隠し玉かもしれんぞ」


「魔王様が動揺しておられる。それほどの強敵という訳か・・・」


「あんな弱そうなの、俺でも簡単に殺れるぜぇ。ひゃははは」


「魔王様。勇者は虫の息です。そのような兎に構うことなく、止めを刺してしまってください」


(魔王? この人が?) 


 瑠娜は意図的に上げまいとしていた視線を、恐る恐る上昇させた。

 体長二十メートル位はあるだろうか。あまりにも巨大すぎる体に強靭な八本の腕。鋭利な牙を携えた虎を連想させるような顔面。体中に刻まれた傷跡は歴戦の戦士であることを物語っていた。


 その魔王が見つめる目線の先、そこには恐怖でペタリと座り込む瑠娜の他に四人の人間がいた。その内の三人は倒れて気を失っており、彼らを庇うような形で立派な白銀の鎧を装備した青年が剣を構えている。青年は満身創痍のようで今にも膝をついてしまいそうであった。立っているのもかなり苦しいのだろう。足はがくがくと震え、魔王に向ける剣先はふらふらと定まっていない。

 だが、その表情だけはまだ死んでいないようであった。瞳の奥には、熱い信念が宿り魔王をきっとまっすぐ睨みつけている。命を賭してでも守るべき使命がある。守るべき仲間がいる。守るべき世界がある。


 口に出さずとも、そう語っているようであった。


(この人が勇者? で、周りを囲む化物みたいな人たちは魔王の手下?)


 このサイズの魔王がいても狭さを微塵も感じないほどの広大な空間を挙動不審に見渡してから、徐々に状況を理解していく瑠娜。ぼうっとしていた思考が急激に鮮明化されていく。そして、見覚えのある景色の正体を思い出した。


(ここ、魔王城だよ! ド〇クエで見たのと同じだ! しかもこの状況、間違いなく最終決戦・・・・ラスボスのシーンだよね? 勇者と魔王による世界の命運を賭けたタイプの。だって、勇者さんの持ってる剣、なんか光ってるし。というか、勇者さん劣勢ですよね。ここから逆転できるんですか? 負けちゃうよ。誰か、ベ〇マかけてあげて! このままじゃ。世界が滅ぼされちゃうよ)


 そして、何より、


「私、絶対に場違いですよね」


 瑠娜は自分が巻き込まれた局面を的確に把握すると共に、この場で最も不必要で不自然な存在が他ならぬ自分であることを悟った。


初めまして。おま風といいます。

モフモフは正義!!

宜しくお願いします。

〇評価、感想、レビューなんて頂けたら、喜びの極みです!!

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