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第三話 それはある村の話

 大学構内にある図書館に入り、定位置のテーブルに向う。窓の側面のあまり暖房の効かない場所。皆はあまり寄りつかない場所に僕は座った。


 暖房はあまり良くない。温かな場所で本を読むとその本にのまれてしまう。ここは丁度よい寒さで、僕を失うことなく物語を読み解くことができる。


 僕はしおりを開くと文字に目を移す。


 タイトルは、恋の心狂い病。


 ある村に伝わる物語。


 一人の男と一人の女がその村にいた。二人は幼き頃から親しみ過ごしていた。幼き頃から育んできた感情は、友情が信頼になり、それが愛情となり恋心となった。二人はやがて恋に落ちて行き、その村に伝わる掟にしたがい、男は女と結ばれるために山に行き、紅く輝く宝石を捜しに行った。いくつもの困難があった。何度も諦めようと思いながらも男は女のために必死に探した。そして男はついに求めた宝石を見つけ、村に降りて行った。

これから女とずっと過ごせることを思うと、疲労も忘れ急ぎ足だった。


 しかし、村に降りて女を探しても、どこにもいない。男は必死に探したが見つけることもかなわなかった。親しかった人に女のことを聞いてもなぜか不思議な顔をされ、そんな人はいないと言われる。仕舞にはお前こそ一か月もどこに行っていたのだと問われ、思わず黙ってしまった。


 家に戻れば女がしたためた手紙や装飾品があると思いだし、探すがなぜか女との記憶に該当するものは何一つなくなっていた。


 それから幾度も幾度も女の幻を追えども、結果は女など初めから存在せずに自らの幻想だと確信づけた。それから親から村で器量の良い女をあてがわれ結ばれた。


 しかしその頃から男の心はおかしくなってしまっていた。毎晩毎晩見るのは幻想の女の夢。いつしか男は夢と現の判断がつかず狂ってしまった。日に日に狂っていく姿に村人は訝しく思った。


 そしてそれから数週間もしないうちに、男は姿を眩ました。そしてそれからその男の姿を見る者はいなかった。


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