桜通りメイドカフェ『かぐや姫』
そこは繁華街から一本外れた通りの、入り組んだ道の途中にあった。
こんな場所に作って、客は入るのだろうかと他人事ながら心配してしまう程の分かりにくい道だった。
僕はいつもの予備校の帰り、このメイドカフェに寄った。
大体はコンビニによって何か軽く食べてから帰るのだけど、今日は違っていた。
『新規オープン! メイドカフェ【かぐや姫】
素敵な女の子と美味しいメニューがあなたの疲れを癒します』
予備校へ行く道すがら、こんなビラを暑苦しいウサギの着ぐるみに渡された。
別にメイドカフェなんて興味なかった。行く気すらなかった。
なのでビラを貰っていた事すら忘れていた。
予備校でテキストを仕舞う際に、何かの用紙をグシャっと潰した感じでビラを捨ててなかった事に気付いたくらいだ。
「メイドカフェか。もうそんなもの廃れたと思ってた」
一時期、某電気屋街界隈ではそれは繁盛し、店舗も溢れる程あったと聞く。
いまやそのブームも去り、メイドという言葉にどれだけの男性がときめくのかも僕的には疑問だった。
そんな事を疑問に思いつつも行く気になったのは、ブーム時に行った事がなかったのもあったが、ビラの裏に書いてあったメニューにちょっとだけ惹かれたのがあった。
僕は甘いものが好きで一人でカフェやらに入るのを躊躇っていた。
最近はそうでもないのかもしれないが、男がスィーツ目当てでカフェに入るなんて変な目で見られそうで入れない。
あちこちのカフェで美味しそうな新作が出るたびに、僕は何度となく垂涎の思いをしたことだろうか。
メイドカフェなら男が入ってもまず変な目では見られない。
そもそもメイドカフェに入るという段階で変な目で見られそうだが、地図を見る限りでは人目は避けられそうである。
しかも予備校帰りとなるとあたりはもう暗くなっている。
人に見られるという心配もさほどなさそうだ。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
チリーン、とドアのストッパーにつけられた鈴が小さく鳴ると同時に、数人のメイドさんらしき女の子がお決まりのセリフを言う。
テレビや雑誌で見ていた『メイドカフェ』と内装はかなり違ったもので、レースやハートの飾り付けなどもなく、色調も白と紺色を基調とした落ち着いたものだった。
うるさいBGMがかけられている事もなく、静かなピアノ曲が会話の邪魔にならない程度の音量で流されている。
ここにいるメイドさんの服装も、丈の長いスカートの古風な感じのメイド服を着ている。
「ご主人様は初めてでいらっしゃいますか?」
キョロキョロと店内を見ていると、どこからか一人のメイドさんがやってきて僕に声をかけた。
「あ、はい。初めてです」
ちょっと恥ずかしそうに答える僕にメイドさんは『大丈夫ですよ』と言わんばかりの笑顔で席へと案内してくれた。
「それでは当店の説明をさせていただきますね。当メイドカフェは時間制限制のあるカフェになっております。席に着かれましてから、メイドのご指名とメニューから一品以上のオーダーになりますが、時間のカウントは席に着いた段階で始めさせていただいております」
ここでリーダーをしているんだろうと思われる位にテキパキと丁寧に説明していく。
年齢も他のメイドさんより若干上な感じもする。
セミロングの髪がとても似合っており、時折サラリと肩から流れる姿がまた美しく感じられた。
「旦那様、メニューはいかがいたしますか?」
「あ、はい。えっと……」
つい姿に見とれて、メニューのことなんて忘れていた。
そもそもメイドさんを見に来た訳ではなく、カフェのスイーツを楽しみに来ていたのに。
席に着いてから時間を計られているとあっては、ゆっくりメニューを見て決めるのにも限度がある。
このあとメイドさんも指名しなくてはいけないらしいし。
「それでは、これを」
「はい、ありがとうございます。お付きのメイドはいかがいたしますか?」
メニュー表のような冊子を開き、本日出勤のメイド一覧という部分を示す。
顔写真と名前と何か書いてあるが、緊張と時間への焦りで頭に入って来ない。
「あの、あなたではダメですか?」
安心できる笑顔と、テキパキの対応、そしてそのサラサラの髪をもっと見ていたかったのもあった。
「申し訳ございません。私は案内係と他のメイドを取り纏める仕事をしております。こちらのメイド表の中からお選びいただくようになります」
「そうでしたか」
やはりこのメイドさんはリーダーだった。
リーダーともなると客の席に着いて接客できるような余裕もないというのだろう。
些か残念ではあるが、ここで駄々をこねても彼女が接客してくれる訳でもない。諦めて別なメイドさんを探す事にした。
しかし焦れば焦るほどメイドさんが選べない。
そんなに経ってないようだが、もの凄く時間が過ぎていくように感じて落ち着かない。
一旦落ち着こうと、メイド表から顔を上げる。
メイドリーダーさんは、『お決まりになりましたらお呼びくださいね』と声を掛けて席を外した。
さてどうしようと周りを見渡す。
それぞれの席に一人メイドさんが着いて楽し気に話をしている。
まだご主人様に着いていないメイドさんはキッチン近くの壁に、無駄話をすることもなく行儀よく立っている。
その中でふわふわのロングヘアのメイドさんが目についた。
大きいな目でじっと店内を見つめ、ちょっとだけ眠たそうにしている。
「すいません」
先ほどのリーダーメイドさんに声をかけ、ふわふわロングのメイドさんを指名した。
メイドさんの名前は『まゆき』と言った。
まゆきさんは僕の頼んだ季節のフルーツ添えティラミスと共に席にやってきて挨拶をした。
「初めましてご主人様。まゆきと申します」
「あ、は、初めまして」
「ご主人様、そんなに緊張しなくてもいいんですよ?」
「え、あ、はい」
どこからどう見ても緊張しているのが分かってしまう程にガチガチらしい。
普段からあまり女の子とも話をする事もないし、ましてやこんな可愛い女の子しかもメイドさん。緊張しない訳がない。
多分顔も赤いのだろう。まゆきさんは僕の顔を見てはクスクスと笑う。
でも馬鹿にされている気分ではない。
こんな姿を見られて恥ずかしいけど、まゆきさんを見ていると何かそれもいいかな? という気分にさせられる。
「ご主人様、お飲み物はよろしかったんですか?」
「はい、今日はこれだけで……」
当然ながらメイドカフェの値段設定なんて知りもしなかったから、臆することなく入って来たが、やはり接客分のプラスαが高かった。
コーヒー一杯に八百円とかって、こだわりの珈琲店を思い浮かばせる値段だった。
もう口が甘い物を欲していたし、小腹も空いていたので少し高いと思いつつもティラミスを注文してしまったが。
まゆきさんばかり見ていて本命のティラミスを見ていなかったが、値段相応の美味しそうなものが運ばれてきていた。
フルーツも惜しげもなくふんだんに使われていて、ティラミス本体も甘すぎずほろ苦さとのバランスがとても良い。
「おいしい。メイドカフェだからもっと簡素なスィーツが出てくると思った」
「ありがとうございます、ご主人様。お気に召していただけて幸いです」
ニコリと微笑むまゆきさん。
何となくメイドカフェに通う男性たちの気持ちが理解出来た感じがする。
よくあるメイドカフェの『萌え』とかではないが、あの笑顔が見たくて通いたくなる気持ちが分かる。
現にもう僕はまた来ようとまで考え始めている位だ。
惜しくも時間になってしまい、メイドリーダーさんが「ご主人様、お出かけのお時間です」と告げに来た。
他のメイドカフェではどうなっているのか分からないが、ここでは退出することを「お出かけ」としているみたいだ。
まゆきさんが立ち上がり、僕の椅子を引いてくれる。
やはり仕事だからだろう、あんなに仲良く話してくれていても別れを惜しんでくれているようではなかった。
当たり前だけどそれはもう少し何とかならないのかなぁ、とか思ってもみたが、毎日多くの「ご主人様」を送り迎えしているのにいちいち感傷に浸っているのも疲れるというものだ。
大体ここはそういうカフェではない。
疑似カップルを味わいたいとかならもっと他の店があるだろうし、僕だってそれを求めていたわけでもない、はず。
お会計が済むと、まゆきさんがカードとビラの半分くらいの大きさの紙を渡してきた。
「これが当店のスタンプカードになります。貯まると色々なサービスが受けられますよ。こちらが各メイドの出勤表になります」
スタンプカードはごく普通のもので、担当したメイドさんの名前と何やら数字が書かれている。
メイド出勤表もカレンダーにただメイドの名前が記載されてる。時間も何もない。
「それではいってらっしゃいませ、ご主人様」
まゆきさんにドアを開けられ外へと見送られる。
スタンプカードの数字の事とかを聞きたいという気持ちもあったが、また来るだろうしとそのまま駅への道を進んだ。
数日経った予備校の帰り、僕はまたあのメイドカフェに寄りたくなった。
思ったよりテストの点が悪かったのもあるが、勉強勉強で疲れてしまっていた。
あのまゆきさんの笑顔が見たい、そんな欲望が生まれていた。
欲望というよりも癒しという表現の方がふさわしいかもしれない。
何か欲望というと卑猥な響きがあって、まゆきさんに申し訳ない。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
前回同様、数人のメイドさんがお決まりのセリフを言う。
そしてまた前回と同じようにメイドリーダーさんが案内に来てくれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。当店は初めてですか?」
まだ二回目だから当たり前なのだろうが、顔を憶えられている訳でもなくマニュアル通りだろう対応をされる。
「あ、いえ。二回目、です」
「ありがとうございます、ご主人様。それでは本日のメイドはいかがいたしましょう?」
「それではまゆきさんを……」
勿論来る前に出勤表は確認してきていた。
いなかったらいなかったで他のメイドさんと話すのも良かったが、出来る事ならばまゆきさんと話したい気分だった。
出勤表に名前はあったものの、出勤時間までは分からない。空振りの可能性だってある。
「まゆきですね。他のご主人様にお仕えしていないか確認してまいります。その間メニューをご覧になっていて下さい」
メイドリーダーさんは一礼してキッチンへと下がっていく。
キッチンの壁際にはまゆきさんの姿はない。
もしかしてもう帰ってしまったのだろうか?
メニューを捲りながらもそのことを気にしてしまい、まるでメニューを決められないでいる。
少しするとメイドリーダーさんは戻ってきて、『もうすぐ休憩から戻る』と告げた。
「いかがいたしますか? お待ちいただけますがその分もカウントされてしまいますが。他のメイドをお付けしますか?」
「いえ、少しなら待ちますのでまゆきさんをお願いします」
「かしこまりました。それでは先にメニューをお聞きしますね」
カウントされるとは予想していたが、メニューもその時と思っていた。
慌てる事もなかったのだが、何も食べないでボケーっと待っているのも不自然と、つい焦ってメニューを決めてしまった。
「ミックスフルーツソースのブラマンジェですね。少々お待ちくださいませ」
まゆきさんとメニューの品が来るまで僕は暇を持て余してしまい、周りの観察を始めた。
同じような歳の男の人や、スーツを着たサラリーマン風の人。そしてやはりソレ系と思われるラフな格好の男の人。
みんなそれぞれお気に入りのメイドさんに付いてもらい楽しそうに会話をしている。
隣にいるサラリーマン風の二人組は僕と同じようにまだ来たばかりなのか、メイドさんもいなければテーブルの上には水しかない。
しかしメニューを広げながら熱心に何かを話している。
あまりに熱心なので、つい悪いと思いながらも盗み聞きしてしまった。
「なぁ、本当に裏メニューなんてのがあるのかよ」
「あるって噂だよ。ある条件を満たすと裏メニューが注文出来るらしいが、それが食べ物なのかサービスなのか分からないって話だ」
「サービスったって、ここ、ゲームとか写真とかやってないじゃん」
「だから、それがサービスなのかもって推測もある」
裏メニュー? と面白そうな内容だと思って聞き入っていたが、残念なことに隣にメイドさんがやってきて話はそこまでになってしまった。
最近では裏メニューとかいいつつ、大っぴらに宣伝して出しているところもあるから、もしかしたらこの件もメイドさんに聞けば分かるんじゃないか? とも思ってしまった。
僕的には裏メニューといったら食べ物がいい。
特大〇〇とか、特製〇〇とか。そういった普段出せないような豪華な食材を使った何かを出されると、特別感があってテンションが上がる。
「お待たせして申し訳ございません」
程なくしてまゆきさんと頼んでいたブラマンジェが到着した。
この間のティラミスといい、こちらもフルーツソースといいつつも角切りフルーツをたっぷりと使った美味しそうな一品だ。
「いえ、こちらこそ。休憩もなくお呼びしてしまって」
「休憩は別に頂いてますから大丈夫ですよ。こうしてお話しているのも休憩になりますし」
まゆきさんはまたあの可愛らしい笑顔で微笑み、僕のくだらない愚痴や世間話に付き合ってくれた。
そんな楽しい時間も終わろうとした時、やはり気になっていた裏メニューの事をまゆきさんに聞いてみる事にした。
ある条件と隣のサラリーマン風は言っていたので、既に二回目の僕が今更それを知ったところで条件が揃うかどうかなんて分からないが、聞くだけ聞いても損はないだろう。
「まゆきさん、このお店に裏メニューなんてあるんですか?」
「裏メニュー?」
「はい。ちょっと噂で聞いたもので……」
噂、というか今さっき隣から聞いたばかりだが、盗み聞きしていたと分かっては軽蔑されてしまう。
「どうなんでしょうね。あるとすれば運が良ければお目にかかれるかもしれませんよ?」
あるともないともはっきりとは言わず濁したまゆきさんだが、運が良ければと言ってしまった段階であると返事してしまったようなものだ。
しかしあると分かっても条件が何だか分からない。
僕にも望みがあるのか聞こうと思った時には、まゆきさんは『お時間ですね』と椅子を引いて退出の準備に入ってしまった。
今日のスタンプカードにもまゆきさんの名前とこの間とは違う数字。
このことも聞こうと思っていたのにすっかり忘れていた。
ここ二回でこのメイドカフェのスィーツは、値段は高いがそれ以上のクオリティがあると分かってしまった。
お小遣いが少し乏しいが、何とか気になるメニューだけでも制覇したいと思った。
そして、まゆきさんとまたどうでもいい世間話で心を癒されたいとも願っていた。
お小遣いの限度ギリギリで通うので、やはり週一が限度だった。
それでもまゆきさんに会える、美味しいスィーツが食べれると考えれば一週間を乗り切るのはそんなに苦でもなくなってきていた。
まゆきさんも決まった曜日に休みが入ってる訳でもなかったので、出勤日に合わせて行く日を調節する。
バイトだったり予備校のテスト前日だったり、そういった日は行けないので、必ず出勤表はチェックした。
そんな感じで通い続け、スタンプカードも残り一つというところまできた。
スタンプは全部で十個。今日が九個目ということだ。
「あら、あと一個でいっぱいですね」
まゆきさんはスタンプカードを見てニコリとして言った。
「はい。各種サービスから何かと最初に言われました。それが何なのか楽しみです」
「そうですね。最後の一個にもよりますからね」
最後の一個?
まゆきさんは不思議な言葉と共にスタンプカードを返してくれた。
今まで聞けずに、いや聞くのを忘れてきてしまったが、もしかしたらこの名前と一緒に書かれている数字が関係しているのか?
ビンゴとか抽選とかそんなものに関係しているのだろうか。
謎は次回解ける。
今店を出たばかりだと言うのに、もうメイドカフェに行きたくてソワソワする。
早く知りたい! どんなサービスなんだ!?
サービスはやはり、まゆきさんがしてくれるのだろうか?
はやる心を抑えられず、来週を待たずに三日後にはメイドカフェを訪れていた。
丁度まゆきさんは二連休で出勤しておらず、それを待っての来店となった。
いつものようにメイドリーダーさんに案内され、席でまゆきさんを待つ。
『最後の一個による』と言われたが、数字の意味がまだ分からない。
待っている間も考えていたが、どうにも僕の頭では予想すらつかなかった。
来店した日に関係するのか、とかその日の気温、何人目の来店だったかとか。
まぁ、サービスを受けられる事には変わりがないので、まゆきさんから受けられるサービスならば喜んで受けようと考えるのを諦めた。
頼んだものと一緒に席に着いたまゆきさんは、いつもと変わらない。
また僕の馬鹿話に付き合って笑い、そして愚痴を聞いてくれた。
「これでポイントカードがいっぱいになりましたね。次回来店された際は新しいのお作りしますね」
そういって全部埋まったポイントカードを返してくれた。
ポイントカードを受け取ると、中に同じような大きさの封筒が挟まっている。
「? これ……」
「それはポイントがいっぱいになったお客様へのサービス内容になります。落とされると無効になりますのでご注意してくださいね」
しっかりと糊付けされた封筒は、ここで開けるなという意味らしい。
開けてうっかり落とすのを防止する意味もあるんだろう。
僕はポイントカードと封筒をしっかり財布の中にしまい、まゆきさんに見送られながら暗い道を進んだ。
家に帰り、そっと封筒を切り開く。
封筒の中には住所と四桁の番号。
何かの間違いでこんな記載をしたのかとも思ったが、紙片にはポイントカードに書いた僕の名前とまゆきさんの名前がある。
うっかりメモを入れたという訳ではなさそうだった。
手に隠れて見落としていたが、日付と時間も書いてある。
「この時間にここに行け、と?」
もしかしたらこの住所の場所でメイドさん達から特別なおもてなしでもされるのであろうか?
それとも他のお客には見せれないような特別メニューでも出して貰えるのか?
料金の記載がないのが些か不安ではあるが、これがポイントのサービスということには間違いなさそうだ。
そして指定の日。
書かれていた時間に遅れないよう、少し早めに家を出て住所の場所を探した。
住所に書かれた場所は『桜通り二丁目〇ー〇〇』。
メイドカフェのある場所のような裏通りではなく、オフィス街のようなところだ。
たどり着くとそこはマンション。入口は誰でも入れるようになっている。
多分住所の最後のは部屋番号なのだろう。
エレベーターで昇り、部屋の前まで行く。
表札には何の記載もない。
インターフォンを押すが反応もない。
間違ったのか? と思って紙片を見返す。
「暗証番号……?」
ドアの前の番号入力式の鍵に、紙片の番号を入れてみる。
カチリと音を立ててドアのロックが解除された。
不安ながらもノブに手をかけ、そっとドアを開ける。
「お邪魔します」
靴を脱ぎ、最初のドアを開けて部屋の奥へを入ると、そこにまゆきさんがいた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。お待ちしていました」
「え? これ、どういうこと?」
「ご主人様は当店の裏メニューの条件を見事クリアされました。本日はそのサービスとなっております」
いつもと変わらない笑顔で微笑むまゆきさんだが、この状況がいまいち飲み込めない。
「あの、まゆきさん。裏メニューとこのサービスの繋がりが僕には見えてこないんだけど」
「ご主人様は条件が何かお分かりにならないままクリアされたのですか? それはそれで幸運でしたね。ご主人様、今まで通われてお食べになったメニューを思い浮かべてくださいな」
言われてぼんやりとながら思い浮かべる。
・季節のフルーツ添えティラミス
・ミックスフルーツソースのブラマンジェ
・ダークチェリーパイ
・ケーク・サレ
・オレンジのスフレ
・タルトタタン
・ベイクドアップルチーズケーキ
・サバランのレアチーズクリーム添え
・せとかのジュレ
・テリーヌショコラ
これに何の法則性があるといのだろうか?
「ご主人様、頭文字だけ読むとどうなります?」
言われてもぱっとは浮かばず、持ち合わせていたペンで紙片の裏に書いてみた。
『キミダケオタベサセテ』
君だけを食べさせて……?
そして今更ながら気が付いた、スタンプカードの数字の意味。
あれは何を食べて帰ったか、記録として付けられていたんだ。
「もうお分かりになりました? こちらが当店の裏メニューになります。どうぞご堪能くださいませ」
甘いケーキのような匂いがする部屋の中、まゆきさんはいつもと違う丈の短いメイド服の白いエプロンの紐をほどいて言った。
読んでいただきありがとうございます。
何か男性向け? な話を書きたくて。
というか妄想でこんなのが出来上がったので晒します。
お気に召していただけたら幸いです。