告白は、戦闘開始の合図になりました
いつもより少し長いです。
『私もお見合いした相手にここまで関心を寄せたのははじめてでね。正直、自分でもどうしたものかと、戸惑っているところなんだ。それで、お見合いのとき、君の言っていた言葉をおもいだしてね。今日貴方に会いにきたのだ。是非、ウェンディ嬢にこれからも協力を仰ぎたいのだが、かまわないだろうか?』
今、この人なんていった??私の気のせいか、な??そう、気のせいだ!
うん、気のせい、聞こえなかった、私の耳に、最終宣告は聞こえなかった!
だいたい、この前の私の言葉って、何なの?私、何かいったかなぁ?
あ!あれか、私のこと知りもしない貴方に、私が貴方の事わかるわけないでしょ。って言葉かな。
・・・だ、だとしたら、もしかして、私のこと知ろうとしに来てくれた――?
はっ!!いけないわ、アイヴィー、しっかりするのよ!!この命がかかった大事な局面で、まさかの魅了の魔力に屈して、『貴女の事もっと知りたい』って妄想を炸裂しかかって、胸キュンなんてしてはいけないわ!
そんな妄想、私は、みとめない!そんな胸キュンなんて、みとめられないんだからっ!!
そう、アイヴィーしっかりするのよ!これは、私の偽装を明らかにしないための戦いなの!
ここで、魅了の魔法にかかって、正直にうなずいてごらんなさい。
その瞬間、この魔王は見計らったかの様に私の頭と胴体を八つ裂きにして、ばらばらにした上で、炎で燃やして、消し炭も残らないようとするに違いないのよ!!
だから、今の私に出来ることは、ただひとつ。今ここで、女を見せずにいつ見せるっていうの?さぁ、やるわよ、これが、私の今できる最大の防御―――。
アイヴィーは、口元を手のひらで押さえ、こぼれそうになる言葉を飲み込み、引きつる口元をせいいっぱい引き上げて、ヴィルヴェルトに返答した。
「ごめんなさい?今、上手く聞き取れませんでしたの。もう一度仰ってくださいますか?」
アイヴィーは、攻撃魔法をとなえた!!
アイヴィーは、話題を回避した!!
⇒アイヴィーは、堂々と聞こえないフリをした!!
「うん、君に興味があるから、私と付き合って。」
アイヴィーの攻撃は、簡単に回避され、微笑をくずさなかった、魔王は、次の攻撃を繰り出した!
⇒アイヴィーは、攻撃魔法をとなえた!!
アイヴィーは、話題を回避した!!
アイヴィーは、堂々と聞こえないフリをした!!
チュドーーーン。
今、私が、かつてこの世に存在したという最強の魔法使いなら、隕石を落下させたに違いない。
そう、メテオ。メテオをお見舞いしていた。絶対に。
せめてもの情け程度に、直撃を避けるとしても、今すぐに、その言葉とこの空間を亡き者にしていたに違いない。
なんだ、その直接的過ぎる死の宣告は。
まるで、魔王退治して生還したばかりの勇者に、魔王再降臨(第二形態)した上で、先制攻撃に、いきなり死亡フラグ建てられたみたいじゃないか。
一体、どこのファンタジーゲームの最終章か。
そもそも、この前は、明らかに魔王様であらせられる次期公爵様が、確実に手加減してくれていたのとでも言いたいの?
一言に、これほどの攻撃力があるなんて・・・、ご尊顔賜ったときから、『ただし、イケメンに限る!』の特殊効果が常に付与させているのは、わかっていたけれど。
分かっていたけれども!!
先ほど、不覚にも、魅了の魔法にかかって一瞬でもときめいたけれども!!
うぐぅ・・・解せぬ。
しかし、ここで、魔王の本気を前にして、これ以上無残に負けていられない・・・。たとえ、今の状況が、私の浅慮が招いた結果だとしても!!!
・・・・なおさら、このまま負けてなんて居られない!受けてたとうじゃないの!!!
覚悟なさい!魔王!!
意気込み新たに、こぶしに力をこめて、特大の笑顔で、ヴィルベルトを見据え、アイヴィーは言った。
「つ、付き合ってとは、一体ど「何処まで、なんて子供のような返答は要らないよ。そういう付き合い、といういみじゃないのは、貴女も分かってるだろう?」」
ま、魔王!!私の渾身の回避魔法すら、最後まで言わせないなんて、なんて非道!なんて非情!!さすが、魔王の名前は伊達ではないって事なのね!ここまで、私をくるしめるなんて!!
「で、では、どういう意味の付き合ってなのでしょうか?」
アイヴィーは、『様子見』を選択した!!!
⇒アイヴィーは、禁断の魔術を行使した!!
アイヴィーは、爆弾を投下した!!
「それは、ウェンディ嬢、貴女も分かっているはずだ。」
先ほどから、絶えることなく、にこにこと、その美しい笑顔から溢れんばかりのキラキラオーラを余すことなく、発揮してくるヴィルベルト。
魔王、いえ、魔王様、さっきからだんだんと貴方の射抜く弓の強度が上がっているとしか思えないのは気のせいでしょうか。
私の精神にグサグサと突き刺さって、鮮血が流れていますよ。
えぇ。どこをどう切り取っても、今の私は、瀕死の状態ですよ。
一体何が楽しいのか。私はこんなに楽しくないというのに、この魔王様は、さっきから、ずっと笑顔ジャマイカ。
ジャマイカ知らないって、知っているけど、ジャマイカといっちゃうよ?
通じないのは分かっていますけどね、もう、今の私には、さっむい親父ギャグを言う程しか、MPは残されてないのですよ?
それにですね、魔王様、貴方さっきから何なのですか!!意識してなのか無意識なのか知りませんが、まったくご存知ないから、ここでお教えして差し上げますけれどね!!
前世にはさまざまな恋愛術が転がっておりましてね?
その中に、『好意の返報性』というものがございましてね?
誰が提唱したのかは知りませんが、人間は、好意には好意を、飴ちゃんあげるわぁ、って言われたら何かお返ししなくちゃいけなくなる。
そう、無意識に向けられた好意を返してしまう生き物なのです。
ですから!!!私の今の精神状態を考慮するに、これ以上、貴方から悪魔のささやきを受けるわけには行かないのです。これ以上貴方の甘い顔と、甘いささやきを聞いていたら、私は無意識のうちに貴方に好意を返してしまいかねないのです・・・。
そして、知らず知らずのうちに、貴方にこの首を差し出すという恐ろしい結末を迎えかねないのです!!
ですから、覚悟してください。私の残りHPとMPを考えて、これ以上の戦いは難しいです。
さぁ、これで、最後にしましょう。私のすべてをかけて――
――究極魔法を発動します――
「折角のお話、非常にありがたいのですが、私の様な者が、次期公爵様のお傍に侍らせていただくなんて、それこそ恐れ多いですわ。私の様な者は、どこにでもいる、ごく一般的な令嬢でございます。ですから、貴方様には、もっと素敵なお方がいらっしゃると思いますの。どうぞ、他のご令嬢を誘っていただけませんか?」
どうだー!これが、私の究極魔法!!
『ざ・正論』さすが魔王なだけあって、正属性は苦手とみえますね!!言葉も出ないみたいですね!!
一般的に考えて、いくら前公爵様じきじきにお見合いを取り計らってもらった仲とはいえ、公爵家と男爵家では、家格があまりにも釣り合わなすぎるのです!!
このことは、貴族社会に生まれながらにして育っている貴族だれしもが常識として備わっている事実!!
いくら魔王といえど、無視でき無い自明の理なのです!!
ふふん、これは、魔王といえど、ぐぅの音も出ないはずです!!
やったぁ!!!やりましたよ!!
お父様、お母様、私アイヴィーは、やりました!!!
この長くも短い戦いに、今、終止符を打ちました!!
そして、魔王を再び倒して、今、無事生還いたします!!
いやぁ、一時は本当にどうなることかと思いましたが、まさか、こんなに瀕死の戦いを強いられるなど、夢にも思っていませんでしたから!!
さすが、魔王。その名前は伊達ではないですね!!
さぁさぁ、後は魔王、貴方が『降参』の言葉を言って、この屋敷を出て行くだけです!!
そう、ホクホクと笑顔を維持していたアイヴィーの前にヴィルベルトから帰ってきた答えは、アイヴィーの予想を超えたものだった。
「ウェンディ嬢、貴女は確か、研究所の学生だったよね。」
「え、えぇ、そ、それが何か?」
予想外の返答にただ、是と、うなずく事しかできないアイヴィー。
「研究所に進むことが出来るのは、学園の貴族の中でも半分ほど、その上、進学するもののほとんどが男性だ。さらに、研究所での君の評判も、誰に聞いても『優秀である』というじゃないか。そんな貴女が一般的な令嬢などということは、とても考え難いが?」
「・・・どうして・・・あね・・・私の評判をご存知ですの?」あまりの衝撃に狼狽するアイヴィー。
「――お見合いをする相手の素性を調べるのは当然だろう?」
なんだその、「何か問題でも?」と言っている顔は・・・・。
笑顔なのに、なんという迫力か。
それにねぇ、現世には存在しませんが、前世には、プライバシーという概念があったのですよ!!
次期公爵様、貴方がなさってることはプライバシー侵害じゃないの!?ううん、ここで、プライバシー侵害云々は、問題ではありません!
あからさまに、私の不興をかいかねない、その行いを平気で申告してくる、その神経が問題なのです!
うぅっ!お願ーーい!!
だれか、今すぐ、この男の発言をもって、警邏に引き渡させてください!!
その上で、この話のタイトルを『コノヒトキケンブツにつき!!』に変更しましょう!そうしましょう!!!
そして、この魔王・・・いや、この危険人物が如何に危険であったか、後世にのこしましょう!
これは、すべての乙女、すべての女性のために、二度と、同じように危険な目に合わない為に今すぐ、必要な措置なのです!!
皆様、イケメンに騙されてはいけません!!
先ほどの沈黙の間に私のMPが少し回復していたからよかったものの、危ない所でしたよ!『瀕死魔法』に続き、いきなり、MP吸収魔法唱えて、MP削ってくるなんて!!
恐ろしい子、魔王!!!
ここまできて、相変わらず、一人舞台のアイヴィーは、やっと、あることに気付いた。
――まさか、この人、勝手に人の、姉上様の身辺調査済ませてるわけないでしょうね???
それにやっと、気づいたアイヴィーは、大幅に削られた精神力のまま、再び、魔王――もとい、次期公爵様と対峙したのである。
「―――いったい何処までお調べに?」アイヴィーは、不安におもいながら、できるだけ変わらぬ様子を心がけつつ、ヴィルベルトの様子を伺うように目を細める。
「うん?そうそう、貴女は――、というより、ウィンディ嬢は、現在オイラー伯爵に懸想しているという、不思議な噂も耳にしたのだが、何かの・・・間違いかな?」
やっぱりかー!
やっぱり、それは、知られていたのですね!
うん、薄々、感じて居ましたけどね?これは、白を突き通すしかない!この世にウェンディ・オルウェンが、二人居るかもしれない事実は、もみ消すしかない!
「ま、まぁ、そのような噂が存在していたことすら知りませんでしたわ。一体どうして、そのような話が出てきたのでしょうね?」
アイヴィーは、一瞬、目が泳ぎ、口元を指先で覆い隠しながら、答える。
他人から見て、その動作が、明らかに怪しさ満点であった事など、気付くはずもなく、流される様に、会話を続ける。
「そうか、噂とはあてに成らないものだからね。貴女がそう言うのなら、きっと何かの間違いなのだろう。」
「そうですわね。一体、何処からそんなお話が出てきたのか、不思議ですわね。」
だいたいね、身辺調査とか、どこの貴族の所業か!
あ、貴族最高位の公爵でしたね。つい、魔王が定着して、脳内で、人外派閥に入れ込んでいました。スミマセン、魔王様。
心の中で、勝手に人外扱いしていた事を謝ってみるものの、その謝罪がヴィルベルトに届く事はなく。
アイヴィーに、内心魔王などと呼ばれている事を知らないヴィルベルトは、アイヴィーの言葉を受けて、続けた。
「では、ウェンディ嬢、今貴女に思い人は居ないと思って宜しいかな?それなら、先程の話も何の問題も無いと思うが。性急に事を成すつもりは無いが、これから先の事を是非考えておいてくれるかな?」
「なっ!!!!」
アイヴィーは、あまりの衝撃の為か、パクパク、と口だけを動している。しかし、なかなか、次の言葉が出ない。
その様子を見て、ヴィルベルトは、少しため息をつきながら、アイヴィーに言った。
「・・・話はもう終わったし、今日はもうお暇しよう。ウェンディ嬢、今回の件、色良い返事を期待してるよ。では、また。」
そういって、ヴィルベルトは、何事となかったかの様に颯爽と席を立ち、あっという間に屋敷から、立ち去った。
残されたのは、最後の爆弾を回避出来ず、ゲームオーバーの文字と共に、戦いに破れた、戦士のみである。