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ジョシュアの秘密

すみません!完全に時系列間違えて投稿しておりました!


今回の話、「月日は流れる」のすぐ後の話です。


仮面舞踏会の前です。


ご理解頂いてから、お読み頂けますようお願い申し上げます。


ごま豆腐

 初めてジョシュアがアイヴィーに会ったのは、ヴィルベルトとアイヴィーの婚約お披露目のパーティーだった。


 その時のアイヴィーは、まだ14歳という幼い年齢ながらも、どこか大人のような色香が漂う不思議な少女だった。

 

 お披露目パーティーの時のヴィルベルトの様子はいつに無く、不躾で、まるでジョシュアからアイヴィーを守っているようだった。

 ヴィルベルトのそんな様子をジョシュアは一度だって見た事が無かった。

 あの、ヴィルベルトが、これ程までに心酔していると思われる様に興味を引かれたのだ。


 ジョシュアとヴィルベルトは血縁関係ながら、その血筋は遠かった。


 ヴィルベルトの祖母である侯爵令嬢の妹の子供がジョシュアの母であった。その母が、ローレン・バークス伯爵家に嫁いで生まれたのが、ジョシュアであった。


 遠縁とはいえ、ヴィルベルトとジョシュアは年が近い事もあり、何かにつけて関わる事が多かった。

 その度にジョシュアは、母に言われていたのである。


 馬に初めて乗れば、

『ヴィルベルト様は、もう遠乗りに行かれるそうよ』


 剣で初めて入賞すれば、

 『ヴィルベルト様は、もう騎士団へのお声が、かかっているそうよ』


 そう言って、ジョシュアの母は、何かにつけ、ヴィルベルトとジョシュアを比べてきたのである。

 比べられてきたジョシュアはたまったものではない。

 だが、それが自身の母であれば、知らず内に逃れられない呪縛となって、ジョシュアを縛り付けた。


 暫くすると、ジョシュアの母の意思とは関係なく、ジョシュアの中で、何が何でもヴィルベルトに勝ちたいという気持ちが芽生えるようになっていた。


 そこに現れたのが、アイヴィーであった。


 パーティー以来、ジョシュアは、ヴィルベルトに声をかけては、その心酔っぷりに驚かされた。


 そして、その心酔っぷりを見て、アイヴィーを自分のものに出来たならば、初めてヴィルベルトに勝てた事になるのではないか?と悪魔の声が囁いたのである。


 そうして、初めてジョシュアは、アイヴィーという少女について調べる事にした。

 アイヴィーの何がそんなにヴィルベルトの心を奪っているのか理解出来なかったからである。

 調べてみれば、驚く事に、男爵家ながら、アイヴィー自身がいくつか特許を所得しているという、非常に稀有な存在で有る事が分かった。

 そして、納得したのである。

 だから、ヴィルベルトが婚約したのか、と。


 内実は、そんな事はなく、ただ、アイヴィーの姉であるウェンディに上手い事、動揺させられ、言質を取られて外堀を埋められただけである。


 ジョシュアにとってヴィルベルトは、越えられない山であった。

 だからこそ、この機会を逃すまいと、少しずつ、少しずつ二人に接触して機会を伺っていたのである。


 そして、その機会は思わぬ所でやってきた。


 大使として隣国に赴く事が決まったヴィルベルトに祝いの言葉を伝えにヴィルベルトの元を訪れると、お祝いムードとは遠く、随分疲れて元気の無いヴィルベルトが居たのである。

 話を聞いてみれば、アイヴィーとは、上手く行ってないという。


 これは、ジョシュアにとっては願ってもない朗報だった。


 そして、企んだのである。


 二人が別れるように。


 少しずつ事実を隠して。


 アイヴィーに伝言を頼まれ、アイヴィーの必死さを隠し多少歪曲して伝えた。


 ヴィルベルトにアイヴィーの所に行くまで、相手をしてもらえないだろうか? と頼まれれば、相手をする事なく、準備をしたのだ。


 ジョシュアにとって最大の賭けの準備を。


 ジョシュアは、まず、店が閉まるまで待った。

 そして、店が閉まる頃を見計らって、金を渡せば、何でもやる。という男に彼女との距離を縮めたいから、協力して欲しい旨を伝えて、男達を準備して貰った。


 その先は、ジョシュアが予定しているよりも上手く事が運んでいった。

 そして、ヴィルベルトはアイヴィーの元から離れ、アイヴィーはジョシュアの胸で泣いていたのである。


 そうして、ジョシュアは二人を別れさせる事に成功したのである。

 後は、アイヴィーと仲を深めるだけであった。


 幼く儚げな少女は、初めいつも涙を流していた。


 ジョシュアとアイヴィーを繋ぐものは、その時はヴィルベルトだけであった。

 だからだと、ジョシュアは考えて、いつでも彼女が笑える様に色々な話をして、そして、色々な話を聞いた。


 聞けば、アイヴィーという少女はとても変わっていた。

 魔力が無くとも魔法に憧れ、己に何かを変える力が無くとも、何か生み出せると、常に前向きであった。

 そんな彼女をジョシュアは次第に心の底から惹かれて、好きになって行った。


 そして、ジョシュアがアイヴィーに心惹かれる度に、ヴィルベルトと別れさせる為に画策した事が心の錘になっていった。


 振り返れば、四年という歳月が過ぎようとしたとき、ジョシュアは決めたのである。


 アイヴィーに本当の事を伝えて、プロポーズしようと。


◇◆◇◆◇


 プロポーズ当日、ジョシュアは、いつに無く緊張していた。



 研究所へアイヴィーを迎えに行き、壁ドンのやり取りをしたその後、二人は、キャリッジに乗り込み、ジョシュアが予め予定していたレストランにやってきていた。


 そこは、城下街を少し出た先にあり、店のテラスから星がきれいに見えると噂の小高い丘の上にある小さなレストランだった。


 アイヴィーが16歳の成人を迎えた時、「いつか、満点の星の中、告白されたら嬉しいだろうな」と零したのをジョシュアは、覚えていたからである。


 食事を始めて暫くして、デザートが運ばれてくるのを待っている間、いつもの通りに何気ない会話をするアイヴィーとジョシュア。


 「そういえば、先程の『魅惑の香り』は、結局どうするつもりなんだい?」


 ジョシュアはいつもこうして、アイヴィーの中2病で頭の可笑しい発言を嫌がりもせず、楽しそうに話してくれるのである。

 それが、アイヴィーにとってとても嬉しい事であり、ジョシュア自身をとても好ましく思えるきっかけでもあった。


 「ああ、あれは、ジョシュア様の為に作った試作品です」


 アイヴィーが目の前に注がれたワインを一口飲むと、そう答え、ジョシュアが、笑みをうかべたまま、首をかしげたので、アイヴィーは更に言葉を続けた。


 「いつも私の事を助けてくださるので、何かお返しできたらな、と思いまして。折角ですから、ジョシュア様をイメージした香水でも作ってみようかと思いましたの」

 「それは、嬉しいが、アイヴィー、君の専攻は生物学だったかな?」


 ジョシュアは、アイヴィーと同じく、グラスに注がれた白ワインを一口飲み込んで、そう尋ねた。


 「いいえ、違いますわ。でも、専攻が違う事とチャレンジしない事は何も関係ありませんもの。そうでしょう?」

 「アイヴィーはいつも凄いな、私の8つも年下だという事を忘れそうになるよ」


 そうジョシュアが言うと、目の前にデザートのパイ生地で出来たプティガトーがサーブされて、アイヴィーはそれをデザートフォークとナイフを使ってきれいに切り分けると、パクリと、口に運んだ。

 アイヴィーが、美味しさにほほを緩めて目を閉じると、それを見ていたジョシュアは、アイヴィーの言葉に感嘆の声を上げ、グラスをテーブルに置いた。


 「あら、お世辞は結構ですのよ?先程、いつも15歳の私を思い出すと仰られたばかりですわ」

 「あれは、方便だよ」

 「まぁ、よく言うわ。私をいつだって子供扱いなさるのだから」


 アイヴィーが不機嫌にほほを少し膨らませてそう答えると、ジョシュアはクスリと笑みを零して、アイヴィーの垂れていた髪を耳にかけながら言った。


 「そんな事ないよ。僕はいつだって、君を子供だなんて思った事はないよ」


 恥ずかしげもなく、そう言うジョシュアにアイヴィーは、目を丸くして、言葉を発した。


 「それは、本当ですの? 私、そう簡単に魅了の魔法にはかからなくてよ」


 アイヴィーがそう言うと、ジョシュアが、クスリと笑い、そのタレ目を更に優しく歪めて笑った。

 そして、アイヴィーがデザートを食べ終えたのを確認すると、アイヴィーの手を取って、椅子から立ち上がらせ、テラスの方へ移動しながら、

 「ここは、星が降るレストランとして有名なんだそうだ。一度見てみないか?」と尋ねると、アイヴィーは、

 「まぁ! 是非、見てみたいわ!」

 と、手を胸の前で合わせて、キラキラと瞳を輝かせた。


 テラスに出ると、そこには、視界全てを覆うような空とそこに輝く満点の星星が今にも手に触れそうなほど瞬いていた。


 「まるでプラネタリウムね」

 「プラネタリウム?」

 「ええ、プラネタリウムは、星を機械で丸天井に、映して見せる装置の事よ。まるで、天体の探検に行っているみたいなの」

 「では、これは、『星巡りの石』とでもしておこうかな?」


 ニコリと微笑んだジョシュアが小さな箱に入れたイエローダイアモンドの指輪をそっと取り出してアイヴィーの指輪にはめると、テラスにあるベンチにアイヴィーを誘導して、座らせた。

 アイヴィーが不思議そうにジョシュアの顔をうかがっていると、眉を寄せて、苦しそうに顔を歪めたジョシュアが、言葉を切り出したのである。


 「アイヴィー、今日はプロポーズしようと思って、ここに君を連れてきた。だけど、僕は、プロポーズする前に君に話さなければならない事が有る。それを聞いて、僕を許す気になったらその時は、是非僕と結婚してくれないか?」


 ジョシュアの言葉に、アイヴィーが不審に眉を寄せて頷くと、ジョシュアが、謀り事をして二人の仲を割いたこと、ヴィルベルトに対する己の渇望を話した。

 それを聞いたアイヴィーは、驚きに目を丸くして、

 「少し、考える時間を頂けませんか?」と、ジョシュアに伝えた。


 そして、指にはめられたイエローダイアモンドを返そうとすると、ジョシュアが、それを手で制して、

 「これは、君の答えが出た時にどうするか決めよう。それまでは、君の指輪に居座らせて上げてくれ」と言って、ジョシュアは、優しく微笑み言葉を続けた。

 「なんていっても、『星巡りの石』だからね」と最後に器用にウィンクして戯けてみせたのである。


 突然のジョシュアの巫山戯た言葉にアイヴィーは、目元を緩めて小さく笑った。


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