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行き違う言葉と二人の行方

 ウェンディに励まされた翌日、アイヴィーは、手紙を書いていた。


 あの後、ウェンディに励まされてから、ヴィルベルトに何と伝えるべきか、一日中悩み、出した結論が手紙であった。


 手紙であれば、余計な感情を挟まずにヴィルベルトに必要な事を伝えられると結論付けたからである。


 しかし、いざ筆をとっても、自身の言葉を文にすればするほど、話が逸れていくか、もしくは、必要のない感情が言葉となって、用紙の上に走っていく。


 それを何度も、何度も、読んでは捨て、書き直しては読み、という作業を繰り返し、ようやく納得いくものが出来たのは、日も傾き始めた夕方だった。


 手紙を書き始めたのは、朝食後すぐだと言うのに、気づけば、外の日差しは、茜色に染まり、一日の終わりを迎えようとしていた。


 アイヴィーは、自室から出て、使用人を探し歩いていると、男爵家の執事が、手紙を持って現れた。

 それは、昼間、失意のまま、ヴィルベルトが書いた手紙であった。


 アイヴィーが執事に書いた手紙を渡す前に、その手紙を渡されると、アイヴィーはすぐさまその手紙を開け、見慣れたヴィルベルトの筆跡で、今朝、勅書が届き、隣国行きが決定した事だけ書かれてあり、最後に一言謝罪の文が書かれていた。


 それを読んだアイヴィーは、驚き、目を開いたあと、最後のヴィルベルトの謝罪の文に悲しみがやってくる。


 何に対しての謝罪などアイヴィーには、考えなくてもすぐさま理解できた。


 それは、この婚約を終わらせるという謝罪なのだと。

 だから、直接言葉にしないで、手紙で終わらせようとしているのだと、理解できた。


 元々この婚約は、特許取得の為であり、ヴィルベルトの次々とやってくるお見合いを断る体のいい関係であったという事を、アイヴィーはいつも理解していた。


 理解した上で、好きにならないように努力していた、努力した上で、ヴィルベルトの事を好きになってしまっていた。


 そして、ようやく自分の気持ちを受け入れる事ができたばかりだというのに、またしても、アイヴィーが好きになったと自身が認められた人は、アイヴィーから離れていこうとしているのである。


 そして、アイヴィーは、自嘲気味に笑み浮かべて思う。


 (やっぱり、因果応報ですね。

 神様か何かが、私には、ヴィルベルト様と結ばれる未来なんて、来てはいけないと言っているのですね。


 ええ、分かっていました。だから、悲しくなんて――――)


 アイヴィーが、そう思うと、自分の目尻から、一滴の涙が溢れた。


 「あれ? あれ?」


 アイヴィーは、その涙に驚きの言葉を発するが、自身の目から溢れては流れる涙は止まる事なく、次々と目から溢れると、アイヴィーの服を、止めようと抑える手を濡らしていった。


 それを見た執事が、静かにハンカチを差し出すと、何も言わずにその場を離れた。


 その場で一人、アイヴィーは、ヴィルベルトへの気持ちを認めた手紙を握りしめ、その涙と共に流すように、肩を震わせながら、声もなく泣ていた。


◇◆◇◆◇


 アイヴィーによって、ヴィルベルトの隣国行きの話が男爵家の家族一同に伝わると、姉のウェンディは、アイヴィーに詰め寄るように言った。


 「貴女、このまま、はい、わかりました。サヨウナラ。となさるおつもりなの?」


 眉を寄せて、ウェンディがそう尋ねると、アイヴィーは、俯いて答えた。


 「……それ以外他に何があるのですか?」

 「貴女、それは、嫌なのでしょう? でしたら、今すぐ結婚なさいな」

 「な、な、何言ってるの?! お姉様!!」


 ウェンディの言葉に顔をもちあげ、驚きに目を見開いてアイヴィーはそう答えると、ニコリと笑みを浮かべたウェンディが楽しそうに答えた。


 「あら、何もおかしい事は有りませんでしょう? 貴女達は婚約しているのだから、結婚の予定が少し早まっただけですわ」

 「私は未成年です!」

 「でも、15でしょう? お父様とお母様が了承さえすれば、難しい事では無いわ。ね? お父様、お母様、良いですわよね?」

 と、確認の言葉を男爵と男爵夫人に向けると、男爵夫人は口に手を添えて驚いた表情をしていたものの、頷いて、言葉を続けた。


 「私は、アイヴィーの幸せが一番ですわ。アイヴィーがそうする事が一番の幸せだというのなら、協力を惜しみませんよ」


 そして、難しい顔をしていた、男爵が、夫人の言葉を聞いて、溜め息をついて、アイヴィーに言った。


 「私も、そうだな……、アイヴィーが幸せだというなら、そうして構わない。元より私達には過ぎる子供達だ。いつか、こういう日が来ると分かっていた。」

 「まぁ、お父様ったら、もう二度と会えないみたいなお言葉は止めてくださいまし。私は、まだ、家におりますのよ?」


 ウェンディが、ふてくされるたようにそう言うと、男爵は苦笑いをして、そうだなと頷いた。


 アイヴィーは、その様子を聞いて、目に涙をためていた。


 「でも、もう……駄目かもしれません」

 「あら?アイヴィー、ここで、頑張らなくてどうすると言うの?さぁ、そうと決まれば、早速、次期公爵様にお会いに行きなさいまし! ここで女を見せるところですわ!!」


 そういって、なきそうになっているアイヴィーを、無理矢理、立たせると、ウェンディは、アイヴィーを部屋に連れて行き、外出着に着換えさせ、1頭立てのキャリッジに乗せて、言った。


 「言ったでしょう? 未来は、動いた者にしか変える事は出来ないのよ。泣いて居ないで、約束を取り付けてきなさい。どんな結果になっても、私は貴女の姉のままだし、家族皆で貴女を応援しているのだから、それだけは、安心しなさい」


 最後に、ウェンディが、ニコリと微笑んで、アイヴィーの頭部に口づけを落とすと、キャリッジから離れ、それと同時にキャリッジが動き出した。


 ウェンディと家族に応援されて、すっかり涙の引いたアイヴィーは、一人、思っていた。


 (姉上様は、格好良過ぎます!! やっぱり、私は、恋愛至上主義の肉食系女子には、成れそうにありません……。)


◇◆◇◆◇


 ヴィルベルトは、失意の中、宰相室の隣にある執務室の中、仕事をしていた。


 そして、来る人、来る人に声をかけられ、おめでとう、頑張って、と言われる度に、悪態を付きたくなる気持ちを必死で堪えていた。


 傍目から見て、ヴィルベルトの隣国行きは、重要なポストへの登竜門だと考えるのが普通である。

 そして、傍目からは、ヴィルベルトの行いは同年代の仲間から頭一つ飛び出して目立っていた。

 正に順風満帆、そのものであると。


 しかし、ヴィルベルト本人にとっては、隣国行きは、全力で拒否していた最悪の出来事であり、抗ってもこえられない、人生最大の壁であった。


 結局、アイヴィーの気持ちを確かめられないまま、どんどん悪くなる状況に、ヴィルベルトは、物事をどんどん悪い方へ悪い方へと考えてしまっていた。


 そして、パーティーから3日立ち、ヴィルベルトにしては、珍しく、既に何もかも諦めかけていた。


 (何が、『最愛の人を得る時は、何もかも上手く行く』だ……。)


 いつだったか、ヴィルベルトの同僚で友人であった人物が、結婚式前日の独身サヨナラパーティーで言っていた一言が、ヴィルベルトの脳裏を過った。


 ヴィルベルトにとって、最愛と感じているのは、アイヴィーである。


 そのアイヴィーが今、まさに、ヴィルベルトの手を離れるかもしれない状況に陥っているというのに、ヴィルベルトは何も手を出す事も抗う事も出来ずにいた。


 こんなにも何もかも、上手く行かなかった事は、ヴィルベルトにとって初めてであった。


 ヴィルベルトは、溜め息をつき、目の前の用紙を眺めていると、ジョシュアが、やってきて、声をかけてくる。


 「やぁ、ヴィルベルト、大使任命、おめでとう。偉く早い出世だと、俺の周りからも言われて、俺も鼻高々……って、どうした?? なんだか、疲れていないか?」

 「ああ、ジョシュアか。何でもない。大丈夫だ」

 「大丈夫っていう風には見えないけどな……。そんなに引継ぎが大変なのか?? 俺で出来る事が有れば手伝うが……」

 「ああ、ありがとう。だが、大丈夫だ」

 「そうか? そういえば、隣国行きには、彼女を連れて行くのだろう? 式はいつ挙げるのだ?」

 「いや、式は挙げる予定はないよ。彼女は……おそらく、この国に残る事になるだろうな」


 ヴィルベルトが溜め息混じりに嘲笑うかのような笑みを浮かべてそう答えると、ジョシュアは、眉を上げて、驚いた顔をして、答えた。


 「おいおい、あれだけ惚れていたのに、置いて行くっていうのか?」

 「いや、置いて行くわけではない。だが、彼女は、一緒には行ってくれないだろうな……。」


 ヴィルベルトがそう言うと、ジョシュアは眉を寄せて、尋ねてくる。


 「まさか、別れるのか?」

 「さあ、どうなるだろうな。彼女次第だが、期待はしないでおいた方が、良いのかもしれない。」


 ヴィルベルトがそう言って、顔を伏せ、目の前の用紙に視線を落とした。

 ヴィルベルトの打って変わった態度に言葉も出ないジョシュアは、肩を叩いて、ヴィルベルトにいった。


 「――そうか。大変だな。だか、俺に出来る事が何かあれば、協力するよ。何時でも言ってくれ。悪いな、仕事の邪魔をして。」

 「いや、いいさ。お祝いを言いに来てくれたのだろう? 気持ちは有り難く受け取っておくよ。ありがとう」


 そう言って、ヴィルベルトは、苦笑いを零した。


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