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アイヴィーの嘘と秘密の行方

ご覧下さりありがとうございます。


アイヴィーの独白が長いです。一部心情に触れるに当たって不快な表現が出てくるかもしれません。


アイヴィーの心情に関わる際、外せない表現ですので、ご理解頂けますよう、お願い申し上げま

す。



 パシンと響いた部屋に、アイヴィーが、恐怖を顕にし、ヴィルベルトの頬を叩いた右手を左手で包み込むように握っていた。


 「ごめん……なさい……」

 「あ、ああ、こちらこそ、すまない」


 ヴィルベルトは、ソファから身体を起こして、アイヴィーから距離をとった。


 そして、何か言おうと苦しそな顔をしたあと、顔をあげて、アイヴィーを見るが、次の言葉が出てこず、再び顔を苦しそうに顰めて、己の拳を強く握りしめた。


 アイヴィーは、ヴィルベルトがアイヴィーから離れると、自分の力で身体をおこして、顔を伏せていた。


 暫く、気まずい沈黙が流れる。


 すると、着換えのドレスを持ったメイドが、来たので、ヴィルベルトは、アイヴィーを少し見たあと、申し訳なさそうに眉を下げて、なにも言わずに退室していった。


 アイヴィーは、ヴィルベルトが去ると、何も知らないメイドに手伝ってもらいながら、新しく持ってきてもらった、変えのドレスに着替え、急いで、会場に戻った。


 会場に戻ると、会場には人がまばらになっており、パーティーはすっかりお開きムードになっていた。


 そして、アイヴィーが会場に戻ってきたのを一目見て確認したヴィルベルトが、パーティー終了の口上を述べて、すぐさまパーティーは終了になった。


 会場に残っていた参加者全員をエントランスで見送ったアイヴィーとヴィルベルトは、気まずい雰囲気のまま、お互い会話をしようとしない。


 そして、アイヴィーは、その後すぐに、執事のモーリスに帰宅する旨を伝えると、それ以上何も言わずに公爵邸を後にした。


◇◆◇◆◇


 パーティーから翌日、自室にて、ソファに座りクッションをお腹に抱えながら、あのときの事を冷静になって、考えているアイヴィー。


 (やはり、あの時は動揺して、気にしていませんでしたが、あの飲み物は、お酒……でしたよね??

 だから、こう、頭がカーってなったり、ヴィルベルト――魔王様が離れていく事に無償に悲しくなったり、その言葉に、簡単に嬉しくなったり、他にも色々したのですよね??


 でも、お酒なんか関係なっても、今、ヴィルベルト様が、隣国に行くかもしれないって考えると、少し寂しい気がします……ね。

 だから、というわけではないですけど、行かないって約束してくれた時は凄く嬉しかったかも……??


 そもそも、私のこの恋愛への苦手意識は、前世での元カレが原因と分かっているのですよね。


 長く付き合った男性の浮気に始まり、男運は無い方でしたが、前世で付き合ったとある男性が、最低だったのだ……と思います。


 そのとある男性もお付き合いするまでは、ヴィルベルト様ほどでは無いですけれど、格好良くて、優しくて、社交的な素敵な男性だったのです。


 ですが、付き合い始めて暫くすると、その本性とでも言うのでしょうか……その質が表れてきまして。


 所謂、典型的なDV男性だったのです。


 そして、質の悪い事に、怒ると無理矢理、事をしないと怒りが収まらない質の人でした。


 でも、そんな弱いあの人を、私は、放っておけなかったのですよね。


 外では、完璧な彼でも、所詮は人間だし、何処かに欠点があるものだと……。

 それが、彼の場合、私を傷つけたり、無理矢理、事を為す事だったのですから――。


 だから、そんな彼を守ってあげなくちゃ、助けてあげなくちゃって、思ってしまったのですよね。

 傷つけるのは、私だけなのだから、私が我慢していれば、きっと、大丈夫って。


 でも、傷つけられる内に身体は、恐怖を覚えていって、何が彼を怒らせるのか分からなくて、そのせいで、人間不信に陥って――。


 ……――その彼とは、友人の協力のもと、なんとか別れる事が出来ましたが、お陰で、彼と別れたあと、一切、恋愛とかその類が、苦手になってしまったのでした……よね。


 なんと言うか、心に大きな穴が開いた、といいますか。

 男性に触れられるだけで、無意識に身体が、恐怖に反応してしまって……。


 そういえば、その後の恋愛も最低でしたね。


 そのトラウマに気遣ってくれたのが、同じ部署の部長で、彼は既婚者だったのですが、いけないと分かっていても、元彼に傷つけられた気持ちを塞いでくれる部長に甘えてしまったのですよね……。


 私……本当に、本当に、最低ですよ。


 傷つけられる悲しみを知っていて、人を傷つけていたのですから……。

 自分の不幸せを、他人が、不幸せになる事で満たそうとしていたのですから――。


 ……そのせいで、前世は終わりを迎えたのです。

 人生は、笑ってしまう程、因果応報ですよね。


 だから、現世で生まれ変わっても、その手の事は出来るだけ避けていたし、重箱の隅をつつくように、男性の駄目なところを探して探して、男性には、出来るだけ関わらないようにしていたのです。


 うっかりときめいて、好きになっても、その分、出来るだけ近づかないようにして、気持ちが冷めるのを待たりしていたのです。


 カルバート次期伯爵様だって、すごく素敵で、優しい男性だったのです。


 そんな優しくて、素敵な男性は、私なんかの最低女より、もっと素敵な女性とお付きして欲しかったし、それが、叶ったその時はとても嬉しかったのに……。


 どうして……どうして、ヴィルベルト様は、ただ、離れるだけ、と考えるだけで、こんなに悲しくなるのでしょうか……。


 『私は、貴女を傷つけるつもりは、有りません』


 そう言ってくれた、あの言葉……。


 『私は貴女の事が、好きなのだと思います』


 そう言った真摯な態度も――


 コーヒーを飲む私を受け入れてくれた優しさも――


 その後、『私は、貴女に嘘をつきませんよ』と言ってくれたあの誠実さも――


 『何時でも、貴女が良い時に』そう言ってくれるあの笑顔も――


 『美しい君の為に』そういって贈ってくださったその気持ちも――


 誕生日に繋いだあの大きな手も――


 こんなにも思い出して幸せな気持ちになるのは……私、ヴィルベルト様の事を――好き……なのですよね。


 隣国に行かないって約束させて……離れたくないと想う程度には、ヴィルベルト様の事、好きになっているのですよね。


 なのに、――彼とヴィルベルト様は、全然似てないのに、あの時、どうして、彼のあの愉悦した顔がチラついてしまったのでしょうか……。


 私、これからどうしたら良いのでしょう?


 カルバート次期伯爵様の時みたいに、このまま、距離を置いて忘れるべきなのでしょうか……??


 ううん。そんな簡単じゃない。そんな簡単に忘れられない。


 こんなに……こんなに、好きにならない様に頑張ったのに、好きになってしまったヴィルベルト様を、簡単になんて、忘れられないよ――。)


 そう、アイヴィーが、ヴィルベルトへの気持ちにやっと考え至ったところで、手に持っているクッションを強く抱きしめた。


 アイヴィーが一人、悩んでいると、相変わらず、ノックの音と共にウェンディが、アイヴィーの部屋に入ってきて、声をかける。


 「あら、アイヴィー、そんなところで腐って、どうしたの?」

 「……腐ってません。……考え事をしていたのです」


 アイヴィーは不機嫌そうにウェンディをチラリと睨めつけ、唇を尖らせて、不機嫌そうにそう返事をした。


 「あら、そうなの? ところで、アイヴィー、貴女、次期公爵様に例の話はなさったのでしょうね?」


 ウェンディは、そう言うと、アイヴィーの隣に座って、笑顔で尋ねてきた。


 「例の、話……ですか??」


 目を言葉とともに左右に彷徨わせながら、そう答えると、驚いた顔をした、ウェンディが、口元に手を添えながら言った。


 「あら……もしかして、まだお話してないなんて事は無いですわよね?」

 「え、えーと……」


 アイヴィーがそういって、目を斜め上に泳がせると、溜め息をついてウェンディが口を開いた。


 「嘘、ついていた事、お話、なさい、ね?」

 「そうでしたね。そうですね。はい、分かりました、お姉様」


 とアイヴィーが顔を上下にカクカクと動かすとウェンディが、言葉を続けた。


 「それで、いつ、お伝えするの?」

 「は??」

 「ですから、いつ、お伝えするのか、教えて下さいな」

 「えーっと……?」

 「アイヴィー、貴女、伝える気持ちが有りますの??」

 「いや、有るります。お姉様……」

 「なんですか、その巫山戯た言葉は。貴女、どうしてそんなにお伝えする事を渋るのかしら?」

 「渋るというか……なんというか……そもそも暫くヴィルベルト様にはお会いしたくないので……」

 「あら? 喧嘩でもなさったの?」


 ウェンディがアイヴィーの言葉に目を見開いて、そう、尋ねると、アイヴィーは首を肩の方に反らして答えた。


 「喧嘩といいますか……なんといいますか……」

 「アイヴィー、たまにはこの姉に相談くらいなさい。私達は、二人きりの姉妹なのですよ?」


 そう言われたアイヴィーは、暫く逡巡したのち、恥ずかしそうにポツポツと答えた。


 「……実は、私、ヴィルベルト様の事が好きなのです」

 「それは、知っております」

 「お姉様はご存知無いと思いますけど、私、男性とはお付き合いしたくないのです。その、苦手といいますか……罪滅ぼしといいますか……」

 「ふぅん? そうなの? ……どうしてそんな捻くれた考え方に至ったのか、聞きませんけれど、アイヴィー、貴女に残されているのは、いつだって、今という時間しか有りませんのよ? それは、分かっていて?」


 ウェンディがそう言うと、アイヴィーは首を横に傾げた。


 「確かに、過去は、貴女を形作ってきたかもしれません。でもね、貴女が生きているのは、過去ではなく、今なのよ。今、こう話している間にもやってくる未来を生きているのよ? だから、貴女は、1分1秒だって、過去に戻る事は出来ないの。それこそ、貴女が、大魔法使いでもない限りね。」


 そういって、ウェンディは、アイヴィーの手を優しく取って言葉を続けた。


 「だから、過去は変えられないの。だけど、その反対に未来はいつだって無限の可能性を秘めているのよ? 貴女が男性に対して何を思っていても、そんなの、考えを改めた今すぐにだって、別の人生がやってくる。未来ってそういうものでしょう?」


 ウェンディが、笑顔でそう言うと、アイヴィーが、目を丸くして答えた。


 「お姉様、いくらなんでもそれは、極論というものでは……」

 「あら、極論が何だと言うの? 人生に変えは効かないのよ?貴女がそうやって腐っていく間に、未来を変えようと動いた人によって、可能性はどんどん書き換わっていくものなのよ? 貴女、それをただ、受け入れるだけで良いの? 未来は、動いたものにしか変えられないのよ?」


 貴女、本当にそれで良いの?と、ウェンディが念を押すようにアイヴィーに確認すると、アイヴィーは、力ない声で答えた。


 「でも、ヴィルベルト様からその後、何も言ってこられないし、もしかしたら……」

 「アイヴィー、これは、大切な事だから、教えて差し上げるから、良くお聞きなさい。男性は……、とっても、怖がりなの!」


 ウェンディが胸を張ってそう答えると、アイヴィーは咳を切ったように、笑い始めた。


 「流石、お姉様です! 私、お姉様の妹に生まれて良かったです!!」


 そう笑いながら答えると、ウェンディは当然でしょう。といって、アイヴィーの頭を優しく撫でてくれた。


 「それで、喧嘩の原因は何か分かりませんけれど、きちんと、お会いして、お話なさいね? 喧嘩は、お互いをわかり合う為にするものなのよ。折角、心を通わせられる相手と出会えたのに、喧嘩別れなんて、一番有ってはいけない事だわ」


 そう、最後に付け加えると、ニコリと微笑んで、ウェンディは、アイヴィーの部屋から出ていった。

ご覧いただき、また、ブックマークや評価してくださりありがとうございます。


アイヴィーの過去については、あくまでもアイヴィー本人の個人的な見解です。

また、前世について、不快に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、元々決めていた事ですので、ご理解頂けると嬉しく思います。


話は、もうしばらく続く予定です。


今後とも表現不足等、また数々の至らないところがある事と思いますが、もうしばらくお付き合い頂けたら、嬉しく思います。


ごま豆腐

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