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お祝いパーティー 後編

 「アイヴィー、こんな所にいらしたの?」


 そういって、ビクトリアがアイヴィーに声をかけてきた。


 「あ、ビクトリア……様」


 と、アイヴィーが声を発すると、ジョシュアが、笑顔のビクトリアに軽く挨拶をして、その場から去って行った。


 それを見送った後、ビクトリアがアイヴィーの腕に手を絡めて、顔を近づけ、小声で言ってきた。


 「アイヴィー、貴女、何を為さっていたの??」

 「何って、お話だけど?」

 「まぁ!貴女、あれはお話ではなく、口説かれていると言うのよ!」

 「はあ??」


 ビクトリアの予想もして無かった発言に、アイヴィーが素っ頓狂な声を出して答えた。

 そして、空いている方の手でぶんぶんと振って否定しながら言葉を続けた。


 「ないない! それはあり得ない! ……でございます」


 笑顔でアイヴィーにしっかりと注意を促してくるビクトリアは、アイヴィーの否定の言葉にこう言った。


 「貴女がいくら否定しても、この世界で男性が有ったといえば、それが真実になりますのよ?」


 それくらいご存知ですわよね?と、ビクトリアが続けて言うと、アイヴィーは、口を真一文字に引き結び押し黙るしか無かった。


 (ここに、お姉様はいらっしゃらない筈なのに!!


 何故、こんな日にも淑女教育を受けなければ成らないのでしょうか??


 公爵家の淑女教育は、あの後、有耶無耶にして、逃げていたツケがこんな所で返ってこようとは……!!


 不覚でごさった……。いえ、失態でございましたわ!! )


 「アイヴィー、いくらお祝いで浮かれていても、貴女の婚約者はレベニスク次期公爵様ですのよ。その事を忘れてはいけないわ。」

 「わかりした……。お姉……ビクトリア様」


 アイヴィーが、うつむいて、そう答えると、笑顔で頷いたビクトリアが、絡ませた手を解いて、アイヴィーを上から下までマジマジと見た後、感心したかのように、言葉を続けて言った。


 「それにしても、アイヴィー。貴女今日は一段と素敵ね! 気のせいか、雰囲気も何もかも別人みたいよ?」

 「……少しは、ヴィルベルト様に似合うようにしようかと思って」


 真実を言えず、瞳を左右に動かした後、思わず、心にもない事を言って誤魔化すアイヴィー。

 それを聞いたビクトリアが、大きな目をさらに広げて、嬉しそうにアイヴィーに言った。


 「まぁ! すっかり、淑女らしくなったのね! 安心したわ! これなら、私も貴女が隣国に旅立たれても、心配せずに送り出せるわ」

 「え? ……何の話?」


 驚いて眉を上げたアイヴィーがそう尋ねると、ビクトリアが眉を寄せて、ばつの悪そうな表情をし、口元を隠しながら、答えた。


 「……あら? まだ次期公爵様は、お伝え為さっていないのかしら??」

 「ねぇ、ビクトリア、それ、一体どういう事か教えてくれない?」


 アイヴィーがズイっと、近寄って、ビクトリアにそう言うと、ビクトリアは、目をそらせて、言いにくそうに答えた。


 「ええ、構わないけれど……こういう事は、私から聞くより、直接次期公爵様からお聞きした方が宜しいのでは無くて?」

 「いいから!! 教えて!!」


 アイヴィーが、そう強い口調で言うと、ビクトリアは、溜め息を落として、ゆっくりと言葉を選びながら、アイヴィーに話をしてくれた。


 そして、話を聞き終わったアイヴィーは、ビクトリアの側を当てもなく離れ、手に持っていたすっかりぬるくなった飲み物を一気に飲み干した。


 (つまり、ヴィルベルト様は、隣国へ行かれるって事よね?


 でも、婚約破棄はしないって言ってたし、それに、魔法だってまだ教えて貰っていないのに……。


 私、このままヴィルベルト様と結婚して隣国に行っちゃうの??


 そんなの、無理に決まってるよ!!)


 そして、アイヴィーは事態を受け入れられないまま、フラフラと歩いた先にあった、目の前にあるドリンクを再び、一気に飲み干した。


 アイヴィーが飲み干したグラスを置いたタイミングで、

 「きゃあ!」と周りから声が上がった。


 振り返って見てみると、エントランスで、挨拶を交わしたローゲンバーク公爵のご令嬢が、空のグラスを持って、したり顔をして立っていた。


 そして、辺りをキョロキョロと確認すると、何人かの令嬢が、手を頬に当てたり、口元に手を当てたりして驚いた表情をしていた。


 どうやら、声の主は、この令嬢の誰かである。


 そして、目の前にしたり顔をしたローゲンバーク公爵令嬢は、グラスを急いでやってきたフットマンに渡して、その場を下がらせると、口元を隠しながら、言ったのである。


 「あら、ごめんなさいませ? 折角の美しいドレスが、台無しになってしまいましたわね?」

 「はあ……」


 あまりのテンプレートな出来事にアイヴィーは、気の抜けた言葉を返すしかなかったようである。

 アイヴィーの間抜けな返答に片眉をピクリと動かしたローゲンバーク公爵令嬢は、更に言葉を続けた。


 「まあ、それしか言えませんの?」

 「……では、何と言えば良いでしょう?」


 落ち着いていた筈のアイヴィーも、先程飲んだドリンクの影響か、だんだんと身体が火照ってきて、気分も高揚し始め、言葉尻がキツくなってくる。


 「あら、私には分かりませんわ。でも、そうね――どうせなら、どうやったら、たかが、男爵令嬢如きが、ヴィルベルト様とご婚約できたのか、その下賤な方法をお教え願えまして?」


 そう言ったローゲンバーク公爵令嬢は、ニコリと笑っていた。


 その笑みはまるで、『言えるものなら、言ってみなさい』と挑発している様に見える。


 そして、アイヴィーは、どんどんと身体が熱くなるのを感じて、その挑発を受け取ってしまったのである。


 火照ってくる身体に、一気に感情がこみ上げてくると、強い口調でアイヴィーは言い返した。


 「そんなの! こっちが聞きたいですわ!!」


 (そうだよ! そもそもなんで、私、ヴィルベルト様と婚約なんかしちゃってるの?


 しかも、キスされたり、抱きしめられたり、こっちは、セクハラ被害者なのに、なんで、こんな風にテンプレートないじめに合わなくちゃいけないわけ?


 ドレスだって、いつもヴィルベルト様が贈ってくれるものは全部とっても可愛くて……、その上、いつもこっちが恥ずかしくなるくらい褒めてくれて……。


 私が……私が、嬉しくなる事ばかり沢山してくれるのに――


 なのに、いきなり何処か行っちゃうなんて……


 そんなの、わけわからないですよ!!)


 頬を赤く染め、涙目になっているアイヴィーを見た、公爵令嬢が、あざ笑うかのように、アイヴィーの言葉に返答した。


 「あら? それが貴女のお得意の手練手管なのかしら?」


 そう、ローゲンバーク公爵令嬢が言うと、騒ぎに気づいてヴィルベルトがやってきた。


 そして、アイヴィーのドレスとうつむいているアイヴィーを確認すると、状況を察したヴィルベルトが、アイヴィーを囲んで、周りにいる招待客に向かい言った。


 「このままでは、皆様にご迷惑になってしまうので、着替えの為に失礼させてもらうよ」


 そう言うと、アイヴィーを横抱きに抱え、颯爽とその場を去っていった。


 (なんで、こんなところまで、テンプレートにかっこいいのですか!


 私の前から居なくなりそうになっているのに、これ以上惚れさせて、()()()()()()()()()()()()()()()()のですか!!)


 火照る身体を思考がどんどんと感情的になるアイヴィーは、ヴィルベルトに抱かれながら、その思いを強めていった。



◇◆◇◆◇


 客室に入り、ヴィルベルトは、アイヴィーを近くのソファに下ろすと、メイドに予備のドレスを出して来る様に言った。

 そして、アイヴィーを見て、言葉を発した。


 「大丈夫ですか?」


 そう言われたアイヴィーはコクリと首を動かして頷いた。


 (お願いですから、気遣うフリなんかしないで下さい。)


 「何処か怪我等はありませんか?」


 そして、アイヴィーは首を、左右に振って否と答える。


 (私、好き成らないって、好きになっちゃいけないって、そう決めていたのに、いつもそうやって私を気遣うヴィルベルト様のそういう優しいところに、懐柔されてしまったのですよ!?)


 「折角貴女にとても良く似合っていたドレスだったのに、残念でしたね」


 ヴィルベルトが、悲しそうな声を発して、微笑むと、俯き気味だったアイヴィーは、ヴィルベルトの方を向く為、顔を上げた。

 そして、言葉を発しようと口を開くものの、言葉が出てこず、再び俯いた。


 (バカ! ヴィルベルト様のバカ! 居なくなるのに、なんで、そんな約束しようとするのですか!?


 居なくなる貴方を想って、一人想い続ける寂しさを知らないのでしょう? それとも、私が、見向きもしなかった、ヴィルベルト様に縛られているのが、そんなに愉快ですか?)


 その様を見て、ヴィルベルトは、しゃがみこみ、両膝をつくと、アイヴィーの両手を包み込むように握り、微笑みながら、言った。


 「また、貴女に似合うドレスを着て、私と何処か出かけましょうか」


 そう言って、俯いているアイヴィーの、垂れていた髪を耳にかけ、そのまま、アイヴィーの頭部を優しく撫でた。


 アイヴィーは、頭を撫でられ、普段とは違うと感じる優しさに、胸が熱くなり、目元を潤ませながら、ヴィルベルトを見上げて、言葉を発した。


 「ヴィルベルト……様……。私、わたし……ヴィルベルト様が、何処か行っちゃうって聞いて、それで……」


 (それで……なんだか、凄く悲しくなって、心臓がギュッて、苦しくなって、私、ヴィルベルト様と離れたくないって……、そばにいたいって――)


 目元を潤ませながら、頬を蒸気させてそう言ったアイヴィーの言葉を聞いたヴィルベルトが苦しそうに、顔を歪めて、答えた。


 「一体誰からそれを……?」

 「ビクトリア……様から……」


 アイヴィーがそう答えると、ヴィルベルトは、溜め息を零して、「殿下か……」と小さく呟いた後、アイヴィーの頬に手を添えて、アイヴィーの顔をヴィルベルトの方に向かせ、真剣な眼差しを向けていった。


 「アイヴィー、良く聞いて下さい。私は、貴女と婚約破棄はしません。そして、隣国行きもなんとか取り消してもらう様に努力します。ですから、貴女は何も心配なさらないで下さい」


 アイヴィーは、ヴィルベルトの瞳を両目で左目を見て、その後右目を見たあと、ゆっくり瞼を閉じて再び瞼を持ち上げて言った。


 「本当に? 何処にも行かないって、誓ってくれますか? また、今までみたいに側にいて、くだらないやり取りをして下さいますか?」

 「貴女がそれをお望みなら、いくらでも」


 真摯な顔のまま、ヴィルベルトがそう答えると、アイヴィーは、ヴィルベルトの首に両手を回して、抱きつき、ヴィルベルトの顔を見て言った。


 「絶対、嘘、つかないで、下さい」

 「ええ、わかりたした」


 そう言って、ヴィルベルトは、笑顔で頷いた。


 そうして、二人の視線が合うと、どちらともなく、アイヴィーの瞼がゆっくりと閉じていき、それに合わせるようにヴィルベルトが、アイヴィーの顔に近づいていき、アイヴィーの唇に自身の唇を重ねた。


 そして、二人は、ゆっくりと、そして、何度も唇を重ねていく。


 気付けば、アイヴィーは汚れたドレスのまま、ソファに倒されて、アイヴィーの体の上に乗るようにヴィルベルトが、ソファの上にひざたちしていた。


 そして、アイヴィーの柔肌にヴィルベルトが触れた瞬間、アイヴィーが声を発し、右手でヴィルベルトの頬をひっぱたいた。


 「いやっ――!!!」


 パシン、と乾いた音が部屋に響いた。


いつもご覧下さり、また、ブックマークや評価をしてくださり、ありがとうございます。


パーティー事態はサクサクと進んでしまった?ので、物足りないと感じた方、非常に申し訳ありません。


テンプレートなやり取りについて、もう少し嫌味とか出したかったのですが、目的がズレてしまうので、早めに切り上げました。


次話、今まで書かなかったアイヴィーの恋愛観、について、書いていく予定です。


上手く伝わるように頑張りますので、もう少しお付き合い下さると嬉しく思います。


宜しくお願いいたします。


ごま豆腐

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