ヴィルベルトは、準備を始めました
アイヴィーと祝賀会の約束をした翌日、ヴィルベルトは、王宮内管理棟にある外務省の一室にやってきていた。
中に入ると人がまばらに働いており、その中の一つの机に向かって、ヴィルベルトは歩みを進めていく。
「やぁ、デビッド。」
「ああ、ヴィルベルト。突然こんなところにやって来るなんて、何かあったか?」
デビッドと言われた青年は、ヴィルベルトと同じ歳の位で、ブラウンの短髪にグリーンの瞳が印象的な爽やかな青年だった。
「今、少しいいか?」
ヴィルベルトがそう言うと、チラリと入口の方に目をやる。
「ああ、分かった。ちょっと先、行っててくれ。今、この最後を書き終えたら行くから。いつもの場所で良いんだよな?」
「ああ。すまないな。」
「いや、構わないさ。それより、お前がそんなふうに謝る方が気味が悪い。まさかとんでもない話しなんじゃないだろうな?」
デビッドは、片眉を器用に持ち上げて、ヴィルベルトにそう尋ねると、ヴィルベルトは、ただ笑うだけで、「そんな話しではないさ。」と答え、外務省を後にした。
◇◆◇◆◇
王宮内には、王族が住まう城とは別に職員が働く管理棟がある。
そこからすぐ近くの通用門を出たところには、ちょっとした軽食やカフェ等が立ち並ぶレストラン街だった。
そこに並ぶカフェバールで、飲み物を注文してから、早速、デビッドがヴィルベルトに話を切り出した。
「それで・・・・どうしたんだ?」
「・・・なぁ、デビッド。今度、パーティーをするから、お前、そのパーティーに来てくれないか。」
「あ、ああ。構わないが・・・。そんな事のためにわざわざ呼び出したのか??」
デビッドは、ヴィルベルトの返答に目を瞬いてから、眉を寄せて返答する。
「いや?違うよ。」
「じゃあ、何だって言うんだ?」
「非常に言い出しにくいのだが・・・・・」
ヴィルベルトは顔の前で、指を組、組んだ状態のまま、親指をおでこに当てながらたっぷりと間を置いて答えた。
「どうやら、私は、嫉妬していたらしい。」
「・・・・ん?」
ヴィルベルトの突然の言葉に、デビッドは一瞬自分が何を聞いたのか理解出来なかった。
「悪い、ヴィルベルト、もう一度言ってくれないか、良く聞き取れなかった。」
デビッドがそう言うと、ヴィルベルトはチラリとデビッドを見たあと、深い溜め息をついて、再び言った。
「私は、嫉妬していたらしい。」
「・・・ん?やはり、ヴィルベルト、今日は風が強いのか、よく聞き取れなかった。申し訳ないが「お前、わざと言っているのか?」」
ヴィルベルトが、顔を持ち上げて、眉を寄せ、不機嫌そうな表情のまま、デビッドの言葉を最後まで聞かずに答えた。
すると、デビッドは、両手を上げて、降参のポーズをとりながら、ヴィルベルトに、いったのである。
「とんでもない。ただ、ヴィルベルトの口から・・・嫉妬だなんて、理解の範囲を超えるような言葉を言うから思考が追いつかなかっただけさ。」
「ちゃんと、聞き取れているなら、そう言え。」
何度も自身の感情を言葉にさせられて、不機嫌なヴィルベルトは、つっけんどんにそう言うと、不機嫌そうな顔のまま左を向いて顔をそらして、腕組みをした。
「まぁまぁ、そう、怒るなって。それで、お相手は、いつもの様に何某さん?」
「その言い方はやめろ。今までの女性達とは違うのだから。」
「っは!!まさか、ヴィルベルト、お前・・・本当に嫉妬したっていうのか??」
「そうだと、言っているだろう?何回言わせる気だ。」
デビッドは、ヴィルベルトの言葉を聞いて、目を見張りながら、ヴィルベルトに尋ねると、面白くなさそうな表情をしたヴィルベルトが、テーブルのフチに手を添えて、指をトントンと動かしながら、再びデビッドを見て、答えた。
「それで、お相手は、もしかして、この前お披露目パーティーした時のお相手か??」
「そうだ。」
「はぁっー!!!そりゃ、僥倖な事だな!!おい!」
デビッドは楽しそうにヴィルベルトの肩をバシバシと叩いて、そう言うと、言葉を続けた。
「俺はまだその婚約者様にお会いしてないが、噂に聞くと爽やかで妖艶な美少女らしいじゃないか!!」
「なぁ、聞いていいか?その、爽やかと妖艶は2つ同時に成立する言葉なのか??」
「お会いした事すらない俺が、そんな事知るわけないだろ?会ったやつらの話しを総合すると、爽やかで明るい美少女か妖艶て儚げな美少女と二極化するから、爽やかで、妖艶な美少女という事に俺がした。それに、真偽に関してはお前が一番良く知っているだろう?」
なぁ、どうなんだ??と、デビッドは、野次馬根性を、出して楽しそうにヴィルベルトに質問してくる。
その様があまりにも毒気を抜かれる表情だったので、ヴィルベルトは、溜め息を落とすと、不機嫌な表情を解いて答えた。
「確かに、明るく活発で、笑顔が可愛くはある、しかし、艶やかで、儚げでもある・・・な。」
「・・・つまり?」
「美少女という事だな。」
ニコリと微笑んでヴィルベルトはそう答えた。
「はっ!!それじゃあ、俺はこれを飲んだら帰らせて貰うよ。」
そしてデビッドは、信じられない!とでもいうように、手を広げ、眉をよせてそう答えた。
デビッドがそう、答えたタイミングで、二人が頼んだ飲み物が運ばれてくる。
ヴィルベルトはアイスカフェ・オ・レを。そして、デビッドは、アイスティーが目の前にサーブされると、デビッドが勢い良くシロップが入っているシュガーポットの中身を全てアイスティーに注ぎ、ぐるぐると入れたシロップを回してから、一口飲み頷いて、ヴィルベルトを見た。
「相変わらず、だな。」
「甘いものが、女性だけという先入観は、是非とも今後改善する余地があると思わないか?」
「いいや、思わないな。」
「なんだ、ヴィルベルト、今日は偉く乗り気じゃないな。」
そう、デビッドが答えると、ヴィルベルトは、目を細めてデビッドを睨めつけた。
「わかったよ。そこまで言うなら、話しを聞くよ。それで、その婚約者様にヴィルベルトが嫉妬した。うん、分かった。そりゃあ、良い経験が出来たな。おめでとう。このまま、是非幸せを噛み締めていってくれ。あ、今後その手の報告は、俺に婚約者が出来た時にでも、まとめて頼むよ。」
デビッドが、一気にまくしたて、そう言い終わると、再び、甘くなったアイスティーをごくごくと飲んだ。
「問題は、そこではない。」
「んじゃあ、何が、問題だって言うんだよ?」
アイスティーを飲み終わったデビッドはガリガリと氷を噛みながら、面倒くさそうにヴィルベルトを見て尋ねると、腕組みしたヴィルベルトの肩が、深い溜め息とともに落ちて、伏せ目がちに答えた。
「・・・アヴィーに好きな人がいた事だ。」
「おまっ。そりゃっ・・・まぁ、婚約者なんてそんなもんだろ。気にすんな!将来の伴侶はお前なんだから、な!!!」
「お前に慰められても嬉しくない。」
ヴィルベルトがつまらなさそうに答える。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ。」
デビッドが不服だ、と言わんばかりに腕組みをすると、急に表情を笑顔に変えたヴィルベルトが答えた。
「お前、その外交手腕を活かしたくはないか?」
「というと?」
「さっき誘ったパーティーにお前のお得意先を何人か呼んてほしい。」
ヴィルベルトがそう言うと、眉を寄せて、暫く考えていたデビッドが、疑わしげな表情をしてヴィルベルトに尋ねた。
「一体どんなパーティーだって言うんだ?」
「ん?特許のお披露目パーティーさ。」
「ああ、そう言えば、お前、全く使えないという紡績機を特許申請していたんだったな。」
「ああ、その紡績機の特許が降りたから、お披露目しようと思ってな。」
「そりゃあ、いくらでも披露して構わないが、俺のお得意先は、おもちゃ如きには関わらせられないからな。」
デビッドは片眉を器用に上げて、ヴィルベルトに確認の意味も込めてそう言うと、ヴィルベルトは、無表情のまま、汗をかいているグラスを手に持ち、カフェ・オ・レを一口飲んだ。
「大丈夫だ、安心しろ。この国にも金になる話しだからな。」
「というと?」
「我が国の輸出に関する関税を見直しておけよ。」
「はっ!!そりゃあ、また大きな話しじゃないか。」
デビッドは驚きのあまり、目を見開くと、身を乗り出してヴィルベルトに続きを促した。
「だから、言っただろう?」
「ああ、それは、とんでも無い話しに成りそうだな。だが、どうしてその特許がこの国の益になるっていうんだ?」
「それは・・・まぁ、当日のお楽しみ、というしかないな。」
「ここまできて、それだけか。」
「ああ、お前がまだ暇だと言うのなら、いくらでも話すよ。私の対抗策について。」
ニヤリと楽しそうな笑顔を向けてヴィルベルトが答えると、眉を寄せたデビッドがヴィルベルトに尋ねた。
「ん?そりゃあ、特許とどういう関係が?」
「ああ、特許というより、アヴィーだな。関係があるのは。」
「そ、それは、また今度で頼むよ。あ!そうだ!上司に急ぎの用を頼まれていたのだった!すまないヴィルベルト、俺はこれで失礼するよ。」
「ああ、残念だが、またゆっくり時間があるときにでも話そうか。」
そう言って、ヴィルベルトは、去っていくデビッドにヒラヒラと手をふった。
何時も閲覧下さり、また、ブックマーク、評価等して下さりありがとうございます。
ヴィルベルトが、本当に仕事している・・・。って、書いてた本人が驚きました。
デビッドは、侯爵子息の次男坊で、ヴィルベルトと同じ歳です。幼なじみというよりは、学園で仲良くなり、その後何かと腐れ縁が続いてる間柄です。
今後、出てくるか分からないので、一応簡単な説明を書いてみました。
日々己の力量不足に頭を悩ませておりますが、これからもお付き合い頂けたら、嬉しく思います。
ごま豆腐




