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祝賀会の準備は・・・

 デートから10日ほどたち、ヴィルベルトとアイヴィーが工場視察を終え、公爵家にて、今後の事に向けて、話し合いをしようと、邸に戻ると、執事のモーリスが、待ちわびていたかのようにかけよって来て、王宮からの手紙をヴィルベルトに渡した。


 手紙には、今回の特許について、正式に受理する旨がかかれており、アイヴィーとヴィルベルトは目を合わせた。


 そして、感極まった、アイヴィーが、嬉しさのあまり思わず、ヴィルベルトに抱きつくと、ヴィルベルトは、初め驚いていたものの、嬉しそうに頬を緩め、そのままアイヴィーを強く抱きしめた。


 そうして、暫く喜びを分かち合うように抱き合う二人。


 感動の波が去ると、アイヴィーは、ヴィルベルトと抱き合っているという事実に気付き、離れるタイミングを伺った。

 しかし、そのタイミングをはかれずに居ると、ヴィルベルトの背中に回していた手でトントンと叩いて、声をかけた。


 「・・・・ヴィルベルト様。」

 「なんでしょうか?」

 「そろそろ離れてくれませんか?」

 「嫌です。今日初めて、貴女が初めて私の腕の中に飛び込んできてくださいました。その上、私は今、アヴィー、貴女と体を合わせる事で、人生の喜びを体感しているところですから。」

 「・・・なんですか、その言い方は。」

 「・・・アヴィーは、私と喜びを分かち合う為に抱きついてきて下さったのでは無いですか?」


 アイヴィーの背中に、手を回したまま抱きしめた状態で、腰を折ったヴィルベルトが、アイヴィーの肩に顔を埋めて少し辛そうな声でそういった。


 (み、耳!!耳に!息が!!バリトンボイスが!!


 よ、喜びを分かち合うって、どういう事ですか!!魔王様!


 私、脳内で、一瞬、一気にいけない大人の階段駆け上がりそうになりましたよ!!


 ティーンエイジャーに何、色気を振りまいているのですか!


 ちょっと、この前のデートが終わって隣国から戻って来られてから魔王様の色気の色が増えたと思いませんか?私の気のせいですか?


 私が15歳ということは、まだ、未成年なのですよ?


 しかも、私はぎりぎり15歳なのではなく、15歳成り立てホヤホヤで、フィフティーン歴10日ほどのフィフティーンなのですよ??そこのところ、分かっていますか??


 それとも、分かってて、そういう雰囲気なのですか?


 何ですか、このピンクなオーラ全開な男子は。


 いえ、ただの男子なんて生易しいものではありませんでした。相手は、魔王でしたね。


 そして、魔王様は、肉食系男子の狡猾なオーラを常に発していらっしゃいました。はい。


 も、もしや、こ、これが、世に聞く覇気という技・・・・!!!

 って、違いますよね。ただの色ボケオーラですね。


 だいたい、特許取得の喜びを分かち合うハグをしただけなのに、魔王様は、何故そんな艶めかしい言い方なさるのですか!!


 艶めかしい・・・艶めかしくないですね、ただ、紛らわしいだけでしたねー!


 ・・・はい。紛らわしいだけです。次、行ってみよー!!)


 自身の想像に色々突っ込んでいるアイヴィーが、ヴィルベルトの肩に寄りかかって、「うう」だの、「くぅっ」だの怪しく唸っていると、ゴホンと執事のモーリスから咳払いが入り、声をかけてきた。


 「ヴィルベルト様、そろそろ、アイヴィー嬢を離してさし上げてください。」


 そう執事のモーリスが言うと、ヴィルベルトは面白く無さそうな顔をして、モーリスにいった。


 「モーリス、ここは空気を読むところだと思わないかな?」

 「空気を読んで、進言したのです。」

 「・・・お祖父様も孫の顔が早くみたいと言っていたと思ったが?」

 「女性に気を使え無くなっては、その願いすら何も叶わないかと。」


 二人はそう言い合うと、しばらく笑顔でお互いの顔を見合った後、諦めたかのようにヴィルベルトが溜め息をつき、アイヴィーの肩に預けていた顔を離した。

 そして、姿勢を正し、今度は、背中に回していた両手を腰に回した。


 腰に両手を回されたアイヴィーが、笑顔で、再びヴィルベルトに声をかけた。


 「ヴィルベルト様?」

 「なんでしょうか?」

 「そろそろ離れませんか、私達。」

 「・・・・嫌です。」

 「どうしてですか!!!」

 「今、『別れませんか。』と聞こえたので、嫌です、とお答えしました。」

 「は??」


 (いやいやいや、確かに、『別れませんか』と『離れませんか』は、『わか』と『はな』で、似ていますけど!


 でも、だからといって、抱き合ってる意味が分からない!意味が分かりませんよ!魔王様!!


 しかも、ちゃんと聞き取れてるじゃないですか!!)


 アイヴィーが一人心の中で、ツッコミをしていると、ヴィルベルトは突然、思いついたかのようにアイヴィーに話しをふってきた。


 「アヴィー、特許も取得出来た事ですし、お祝いのパーティーを開かなくてはいけませんね。」

 「そうですね。とりあえず、離れましょう?」


 それどころではないアイヴィーは、笑顔で自身を抱いて離さないヴィルベルトの前腕をなんとか体から離そうと、自分の手に力を込める。


 しかし、細見ながらも鍛えられている腕が、アイヴィーの力如きで、そう簡単に離れてくれるはずもなく、ぎゅうぎゅうと、押される腕を気にしたフリもなくヴィルベルトがアイヴィーに、尋ねた。


 「どうしてですか?デートの時は、貴女に触れていても嫌がりませんでしたよ?」

 「だっ!あれは、そういうお約束でしたから!!」


 アイヴィーが腕を押すのを止めて、そう答えると、ヴィルベルトは、暫く眉を寄せてから、諦めたのか、名残惜しそうに、腰に回していた両手を離して、アイヴィーを開放した。


 やっと、開放されたアイヴィーは、ほっとして、ヴィルベルトを見て、笑顔でお礼を言うと、何とも言えない複雑な顔をして、

 「それは、卑怯というものではないでしょうか?」と言った。


 ヴィルベルトの発言に全く心当たりの無いアイヴィーは、頭にクエスチョンマークを浮かべて、頭をかしげると、二人のやり取りを見ていたモーリスが、サンルームに移動を促した。



◇◆◇◆◇



 サンルームに着き、何の違和感もなく、アイヴィーの隣に座り、ひと悶着有った後、二人は、一息入れ、そして、やっとヴィルベルトがお祝いパーティーについて話題を切り出してきた。


 「それで、まずは、祝賀会について先に話しを。」


 そう言って、前回のお披露目パーティーの時と打って変わって、ヴィルベルトがパーティーについての必要事項を論ってくる。

 それに驚いたアイヴィーは、目を丸くして、ヴィルベルトを凝視していると、その視線に気付いた、ヴィルベルトが訝しげな顔をして、アイヴィーに尋ねてきた。


 「何か問題でもありますか?」

 「あ、いえ、前回と違って、随分積極的と言いますか・・・、協力的と言いますか・・・。」

 「ああ、今回は、アヴィーの将来がかかっていますから、先々の事を考えて、盛大にやったほうが何かと都合が良いと思いまして。それに、私にも利益がある話しですからね。」


 (と言うことは、やはり、前回のお披露目パーティーは、やる気が無くて、私に丸投げしたと、今、白状してますからね!魔王様!!


 さぁ、どうやって、魔王様を凝らしめましょうか!)


 そう息巻いて、アイヴィーは、ヴィルベルトに質問した。


 「という事は、前回はあまり気乗りなさらなかったのでしょうか?」

 「そうですね。」


 (キ・キ・キ・キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!)


 アイヴィーが心の中で大はしゃぎしているとは知らないヴィルベルトが、再び言葉を発した。


 「前回は、貴女をあまりひと目に触れさたく無かったので、派手にしたく無かったのです。」

 「それは、どうしてですか??」


 アイヴィーが眉を上げて驚いた表情をして尋ねると、苦笑しながら、ヴィルベルトが答えた。


 「まだ、貴女と出会って日も浅かったですから、他の男性が貴女に言い寄って、貴女の心を奪わないとも言い切れませんから。」


 (ファッー!!


 な、なんという方向からボールを投げてくださるのか。

 今、私が避けなければ確実に、デッドボールですからね??


 その上、何という事を心配してくれているのですか!


 それ、絶対、魔王様がパーティーの準備面倒でそれを私に悟られたく無いだけの言い訳ですよね?そうですよね??


 それとも、何ですか、そのバリトンボイスで、『奴はとんでもないものを盗んでいきました。貴女の心です。』っていう名作の名ゼリフの前フリか、何かですか!!


 私の心は、魔王様にも泥棒にも奪わせませんが!!


 って、魔王様がそんな事言うわけ無いですね。

 この魔王様は、好きと言ってる人の心が奪われると思ったら―――・・・


 うわぁあ!!!もう!

 別に魔王様が私を好きとかそういうのを認めた訳じゃないのだからねっ!!!)


 アイヴィーが、最後にツンデレ定型句を発すると、ヴィルベルトに、向かって言葉をなげかけた。


 「私がそんなに移り気に見えますか?」

 「いいえ。移り気には見えないですね。そもそも移る気すら元々芽生えてない様に見えます。」

 「・・・それはどういう意味ですか。」

 「言葉のままですが。」

 「私にだって、人を好きになった事くらいあります!!」


 アイヴィーが負け惜しみのようにそう言うと、ヴィルベルトが、ニコリとその表情を変えずに尋ねてきた。


 「・・・その、アヴィーが好きになられた方とは、どなたですか?」

 「えぇっと・・それは、貴方には関係の無い事なので、お教えできません!!」


 少し目が泳ぎ明後日の方を視線が追うと、ヴィルベルトがアイヴィーの顔に迫る勢いで、隙間があまりなかったソファの間の距離を詰めてくる。


 「アヴィー、私達は婚約者同士で、特許に関しては、国に共同制作者として認められた仲ですよ?その私に、関係が、無い、と??」


 笑顔のままのヴィルベルトにそういい詰められると、アイヴィーも、何か悪い事をしている様な気になり、目を上に向けておよがせ、更に逃げようと思案した。


 しかし、思案しても、名案がそう簡単に思いつくはずもなく。


 溜め息をついて、アイヴィーは、迫られて押し倒されそうになっていた体勢から、ヴィルベルトの胸を軽く押し返し、姿勢を正してヴィルベルトを再び見据えると、なんとか無理矢理言葉を紡ぐ。


 「・・・言いたくありません。」

 「――嘘だからですか?」

 「違います、嘘ではありません!ちゃんと好きな人がいました!!」

 「では、教えてください。どなたですか。」


 笑顔のまま、一切の攻撃の手を緩めないヴィルベルトを前に、アイヴィーは、観念したかのように、眉を下げると、俯いて小さくな声でつぶやいた。


 「・・・カルバート次期伯爵様です。」

 「・・・カルバート次期伯爵というと、あなたと同学年のご子息ですか?」


 ヴィルベルトがそう言うと、アイヴィーは、赤くしたその顔を手で隠し、コクリと頷いて、それ以上話そうとしなかった。


 「―――教えて頂いて、ありがとうございます。アヴィー、貴女の()()とはいえ、思い人を教えて頂いた変わりに、今回の祝賀会の準備は、私一人でさせて下さい。」


 ヴィルベルトが、『過去』の部分をやたらと強調し、表情を変えずに言ってくると、隠していた顔を持ち上げて、驚いた表情をしたアイヴィーが答えた。


 「良いのですか?」

 「ええ。」


 (魔王様どうしていきなり、そんな事を??


 願ってもないお話だけど、なんだか、魔王様が優しいと裏が有りそうな気がしてしまう私は、おかしいのでしょうか??)


 アイヴィーが、暫く考え込んで、疑わしげな表情をして、再び声を発した。


 「・・・何を企んでいるのですか?」

 「いいえ、何も企んでなどおりませんよ。純粋に、貴女の過去をお聞きした事を申し訳ないと思っているだけです。」

 「本当ですか?」

 「ええ、本当です。」


 アイヴィーは、暫くヴィルベルトを疑わしげな視線で上から下まで見たあと、訝しりがりながらも、ヴィルベルトに準備をお願いすると、笑顔で頷いたヴィルベルトと、本来の目的であった、機械の本格的な実用化に向けて話しあった。


 (やっぱり、何か怪しい気がします・・・・。)

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