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デート翌日のヴィルベルト

いつもご覧下さりありがとうございます。


ヴィルベルト視点です。

デート翌日の朝です。


短めです。

 『アヴィー、一日早いですが、15歳の誕生日おめでとうございます。』そう言って、ヴィルベルトがアイヴィーのおでこにキスをしたのが、昨夜の事。


 本日は、アイヴィーの誕生日当日である。

 しかし、当のアイヴィーの誕生日パーティーにヴィルベルトは出席できないでいた。


 理由は明白で、仕事という名の王命である。


 というのも、デートに行った魔術図書館への根回しのツケの代償を払う為に勅使として隣国へ赴かなくてはならないのである。


 ヴィシュアル国は、西側の殆どが海に面しており、左から南西にべイン国、そして、海を挟んで東にアシュラン国、北東にステルラ国、北にマケニア国、マケニア国とヴィシュアル国との間を挟まれた、北西にブルーニュ公国の5つの隣国に囲まれている。


 中でもアシュラン国とは現在、友好関係として、外交を行っており、その影響で、物流や人の流れも互いに頻繁に行われていた。


 そのアシュラン国に勅使として、お手紙のお届けが今回の任である。


 ヴィルベルトは溜め息をつきながら、まだ朝日の登らない空を眺めて溜め息をついた。


 (今日から数日、またアヴィーに会えないのか・・・。


 彼女とのデートの為とはいえ、誕生日当日に彼女に直接、祝いの言葉を言えないのは、思いの外、心苦しいな。)


 ヴィルベルトは、そう思いながら、自身のベッドから出て、出かける準備をする為に浴室に向かった。


 浴室には、シャワーが併設されており、ヴィルベルトは、艶のある着心地の良さそうなネイビーのパジャマを脱ぐと蛇口を回して水を浴びた。


 (折角二人きりだったのだから、もう少し彼女と触れておきたかったと、思うのは、欲深いだろうか・・・。)


 シャワーを浴びながら、ヴィルベルトは、昨日のデートの事を思い出して、自分の手のひらをじっと眺める。


 (アヴィーに突然口づけをされた時はどうなる事かと思ったが、終わってみれば、思い出すのは、彼女のコロコロと変わる愛らしい表情だというのだから、おかしなものだ。


 他にも沢山思い出せる事はあるというのに。


 これが人を好きになると言うものなのか。)


 ヴィルベルトは、デート中次々に表情を変えるアイヴィーに心踊らされていた。


 そして、気付けば、いつも彼女を目で追っていた。


 しかし、目で追うだけでは、ヴィルベルトの心は、あっという間に物足りなくなり、手と手が触れるだけで満足できる筈だった己の心は、時間を追う毎にアイヴィーに触れたいと、ヴィルベルトの心を渇望させた。


 そして、アイヴィーが、文句を言わない事を良しと捉えて、アイヴィーの誕生日祝いだというのに、己の欲望を優先させたのである。


 (女性に触れた機会は数あれど、アヴィーに触れるのは、一段と感慨深いものがある。


 アクアリウムで見せる彼女の明るい表情や楽しそうな態度からは想像つかない線の細い体に随分驚かされたな―――。

 女性の体とは、こんなにも細く、弱く脆そうであっただろうかと、何度も彼女の体に触れる度に不安にさせられただろうか。)


 そして、シャワーから出るとガウンを羽織り、慣れた様で、寝室の隣にあるウォークインクローゼットへ向かい、王宮に向かう為の準備を始める。


 そして、買い物をした時のアイヴィーの言葉を思い出して、一人笑みをこぼした。


 (全く、アヴィーは、相変わらず、男というものを理解していない。


 男が物を送る理由を何だと思っているのだ。


 大概は、それを纏った貴女を脱がしたいからだというのに――。)


 着換えが殆ど終わり、手首の近くにあるカフリンクスを止めると、ウォークインクローゼットを出て、ダイニングに向かった。


 ダイニングには、丁寧にアイロンのかけられた新聞が、3つおいてあった。

 ヴィルベルトは、目の前に新聞がくる位置の椅子に腰を下ろすと、新聞を一つ選んで開いて読み始めた。

 ヴィルベルトが新聞を読み始めると、すぐに執事のモーリスが現れ、モーニングコーヒーを置いて、壁に下がった。


 コーヒーを一口飲み、再び新聞に視線を戻しながら、再び昨日のデートの事を考え始める。


 (そういえば、アヴィーは、コーヒーが好きなのだろうか?それならば、次に我が家にいらしたときに、伺ってみよう。


 それにしても、カフェにいた男は滑稽だったな。

 自身の婚約者だけ見ておけば良いものを。


 アヴィーをその目に執拗に見つめた上に女性らしくないと蔑むなど、愚かにも程がある。


 あんなに美しく賢い女性は見たこと無いというのに。


 私は、彼女が婚約者として、側に居てくれる事に奇跡のような幸運に恵まれていると、思いたくなるというのに。


 ―――そういう意味では、私もあの男と同じようなものだな。)


 自分の気持ちを改めて再認識したヴィルベルトは、自嘲気味に笑った。


 そして、殆ど読んでいない新聞を1ページ巡り、再び、アイヴィーの事を考え始めた。


 (しかし、不思議なものだな、側に居て笑ってくれれば、それで良いと思うのに、それが叶えば、触れたくなる。


 触れれば、彼女の弱さに守ってあげたくなり、守って上げれば、彼女が欲しくなる。


 そして、あのきれいなアイスランドブルーの瞳に己のみを映してほしくなる。


 それが叶えば、彼女の艶のあるコーラルピンクの唇に触れ、己の名前だけを呼ばせてみたくなる。

 そして、あの細くキレイな肌をなぞってみたくなる。


 肌をなぞれば、彼女の色づく声を聞きたくなる。


 ―――なんと、私は、愚かな男だろう。)


 ヴィルベルトは、次々と己の中に渦巻いた欲望思い出し、溜め息をついた。


 (彼女を喜ばせる為とはいえ、あんな薄暗い場所に二人きりになったのは、失策だったな。


 あれ以上、あのような妖艶な彼女に近づいて触れたりしたら、自分を抑えられないと、何故気付けなかったのか。)


 ヴィルベルトは、あの時、月明かりに照らされるアイヴィーを目の前にして、自身の欲望と戦っていた。


 つまり、アイヴィーの予感は、半分当たっていた。


 そして、ヴィルベルトの理性が少しだけ勝っただけである。


 (しかし、愛のなせる技について、殿下が仰られていた時は、腹を抱えるほど笑いたくなったが、存外なってみると分からないでも無いな。


 ――『男は守る人を得て、己の中に渦巻く肉欲にも耐えうる程強くなれるのだ。』―――


 まさか、本当にその日がやって来るとは。) 


 そして、ヴィルベルトは、再びコーヒーを一口のんで、席を立った。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


デート最終話の夜、ヴィルベルトの理性は相当頑張っていました。というお話でした。

だから、デコチューだったんだよ。っていう言い訳みたいな話しですが・・・(笑)


R15指定どうなの?と、悩んだのですが、キスがオッケーなら、これくらいは平気かな・・・?と、思いましたので、投稿しました。


次話は通常通りの二人のやり取りに戻ります。


ここまで、お付き合い下さりありがとうございました。また、今後ともお付き頂けると嬉しく思います。


ごま豆腐

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