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食事の後に

 ガタゴトと揺れるキャリッジが、目的地に到着すると、ヴィルベルトが心底残念だという様に溜め息を落として、アイヴィーに声をかけた。


 「アヴィー、着きましたよ。起きて下さい。」

 「ん・・・・」


 朧げな意識の中、アイヴィーのアイスランドブルーの瞳が開かれ、アイヴィーの視界がハッキリしてくる。

 目を開けたアイヴィーは、ヴィルベルトに寄りかかっていた、体を起こし、キャリッジの壁を暫く眺めた後、再び、力を抜いて

、ヴィルベルトに寄りかかった。

 それを見たヴィルベルトが、優しくアイヴィーに声をかけた。


 「起きられましたか?」


 ヴィルベルトの方へアイヴィーが顔を向けると、目の前にキラキラと満足げな表情のヴィルベルト。

 それを見て、朧げな意識を目覚めさせるかのように、瞼をパシパシと上下させ、その長いまつ毛を動かした。


 「なっ・・・!!!すみません!!私、ずっと・・・??」

 「やはり、お疲れだったのですね。少しは、元気になられましたか??」


 ヴィルベルトは、驚いたアイヴィーを見て、くすりと笑みをこぼしてそう言うと、アイヴィーは、言葉もなく、上下に首を動かした。


 (何という失態を侵してしまったのか!!!


 疲れていたとはいえ、魔王様に、魔王様に寄りかかって、グースカ寝ていたなんてー!!


 オーマイグッネス!!!


 疲れていた・・・それが全ての敗因だと、自覚しております。てすが、魔王様相手に、失態を晒す私は阿呆なのでしょうか。


 何という弱みを!この世界にセルフーとかインスタとかはたまたツッターとか無くて本当に良かった!!!

 あ、危うく無断で、取り返しのつかない、既成事実を作り上げられてしまう所でした!!


 え??既成事実は、女の子の私が頑張れって??

 何をお母様のような事を言ってらっしゃるのか。


 皆様、相手は、牙を持った肉食動物ですよ?

 私のような幼気な少女を喰らう事なんて、息をするように簡単に出来る相手に、私が頑張ってしまったら、糸も簡単に既成事実が出来上がってしまうではないてすか!!


 私、これでも、明日誕生日なのですよ!

 15歳なのです!フィフティーンですよ!フィフティーン!

 まだ、ティーンエイジャーなわけです。


 そんな私に何を求めているというのか!!!


 え??中身は・・・・享年アラサーでしたよ!!

 ええ!結婚のけの字も忘れたアラサーでした!だから、何だっていうのですか!!


 人間ねぇ、肉体年齢と精神年齢がイコールしない人も存在するのです!


 あーもう、脳内の人が今日はうるさいですね!


 この前、魔王様に口に皮膚接触されてから、なんだか、脳内か騒がしい気がします。)


 アイヴィーが一人脳内で会話・・・完全にイタイ娘をやっている間に目の前は、見慣れた公爵家の中、リビングに案内される。


 「今晩は、我が家で食事を。何処か外で食事を済ませも良いのですが、夜は、どんなに気をつけても困った輩というものが、出てきてしまいますからね。」


 そうヴィルベルトが言うと、さほど待たずに、ダイニングに案内され、二人分の食事が運ばれてくる。


 「あの、公爵・・・お義母様は??」

 「ああ、母は、今日父とオペラを鑑賞に行っていますよ。」

 「オペラですか・・・?」

 「ええ、今朝から何やら、義母として役に立ちそうな、演目だからと、張り切って準備しておりましたね。」

 「そ、そうですか。」


 (なんという危険な発言が飛びたしてきましたよ!


 これは、ヤブ蛇になる前に回避を!回避です!


 私、最近、魔王様のおかげで、速さのステータスが上がったような気がします!!ヒャッホーイ!!


 え??さっきのは、回避出来てない??なんの事??


 !!!!


 そーでした!良かったという不用意な発言・・・。

 確かに回避出来ていませんでした。うう。


 私のこの良く滑る口!!どうしてくれよう!!


 とりあえず、食事中くらいは、黙っていましょう。そうしましょう。)


 そして、アイヴィーは、その後できるだけ話さないように気をつけながら、食事を楽しんだ。


 食事が終わると『解ー散』となるかと思いきや、再び、ヴィルベルトが、有無を言わさず、無理矢理手を引いて、公爵家の階段を上へ上へと登っていき、一つの部屋にアイヴィーを連れてきた。


 その部屋は、灯り一つ無く、入ってくるのは、月が照らす灯りのみである。

 その部屋の窓から指す光に照らされて、目に入ってきたものは、シングルベッドにして大き過ぎる立派なベッドだった。


 ヴィルベルトは、部屋に入ると、そのまま手を繋いだ状態で、ベッドの方へ歩みを進めていく。


 (ちょっ!ちょっ!ちょっと!!魔王様??


 な、何事ですか!?


 既成事実は要りませんよ!

 これから先は流石に、R18指定ですよ!!!)


 動揺のあまり目を見開くばかりで、無理矢理手を離す事も声を出す事も出来無いアイヴィーを他所に、ヴィルベルトはベッドの側の窓にアイヴィーを連れてきて、目の前の望遠鏡を覗きこんだ。


 望遠鏡を覗きこんだ。


 (あ、・・あれ?こんな所に望遠鏡有りましたか??


 まるで、タケノココプター♪の様に簡単に目の前に現れましたけど・・・・。


 ・・・・さっきまでこの部屋にはベッドしか無いものだと思っていましたが、よくよく見てみれば、ソファも、ローテーブルもありますね・・・。


 お、思い込みとは、何という恐ろしい事を連想させるのでしょう!?


 何という恐ろしい思い込みを・・・・思い込みを・・・・。


 ・・・―――違いますよ!違います!誤解です!誤解なのです!!


 決して、決して、私は、そんな破廉恥な行為を求めていた、訳では有りません!


 き、きょ、今日はやたらとスキンシップが多かったせいで、その辺の紐が緩くなって、籠絡されよう等とはビタ一文として思っておりません!!!


 カフェで若干恥ずかし過ぎましたが、守ってくれた感じがちょっと格好良くて、嬉しかったけど、嬉しかったけど!!!


 魔王様に籠絡されてなるものか!!


 そう、初志貫徹です!初志貫徹!!!!


 最近、すっかり魔王様に毒されて、色々流されかけていますが、婚約破棄!これが、目標ですから!そう!


 鳴かぬなら鳴かせてみせよう!婚約破棄!)


 再び、恋愛音痴な方へ思考を傾けたアイヴィーは、目の前の望遠鏡を覗くヴィルベルトに声をかけた。


 「ヴィルベルト様、何をなさっているのですか?」

 「えっと、ああ、有りました。見てください。」


 そう言って、ヴィルベルトはアイヴィーに望遠鏡へ寄せて中を覗き込むように言ってきた。

 アイヴィーが望遠鏡の中を覗くと、そこには、楓のような、しかし、楓とは少し違う形をした惑星と思われる星が一つあった。


 「見えましたか?」

 「ええ、これは何という星ですか?」

 「これは、ヘデラという星です。」


 (ヘデラだけに、へぇー。・・・なんつって。ごめんなさい、面白く有りませんでした!)


 「ヘデラ・・・ですか?」

 「ええ、アヴィー、我が国の言葉の起源をご存知ですか?」

 「いいえ、お恥ずかしい話ですが、全く知りません。」

 「はは、そうですか。貴女にも知らない事はあるのですね。学園でも、我がヴィシュアル王国の言葉の他に、天文学では、へジーラ語や生物学の一部には古代マギラ語等、この世界には数々の言葉が今も存在していますよね。」

 「ええ、そう言われれば、そうですね。」

 「我がヴィシュアル王国の言葉の起源は、当時、ヴィヌルという帝国の言葉だと考えられています。隣国のアシュランとも意味も発音も類似する言葉がいくつか確認されていますが、その帝国の言葉の名残ではないか、と言われています。」

 「なるほど。そうなのですか。」

 「ええ、それで、我が国の言葉の起源が、ヴィヌルという帝国の言葉なのですが・・・・そうですね、長いので、ヴィヌル語とでも言いましょうか。面白い事に天文学は、殆どヴィヌル語の形を残したまま、その言葉が受け継がれているのです。つまり、へジーラ語は、殆どヴィヌル語に近いという事ですね。そこで、貴女の名前は、アイヴィーですよね。これは、蔦という意味ですが、この蔦という意味を表すヴィヌル語をご存知ですか?」

 「・・・すみません。知りません。」


 アイヴィーがすまなそうにそう答えると、ヴィヌルが笑顔で言葉を続ける。


 「ヴィヌル語で、蔦は、ヘデラ、というのです。」


 ニコリと微笑んだ、ヴィルベルトはそう言うと、アイヴィーの胸元に光るネックレスを外し、その上にホロスコープを転写すると、望遠鏡に手を添えて、何か念じたかと思うと、ホロスコープと望遠鏡が内側から発光し、瞬くまに、その光が消えた。


 そして、ヴィルベルトが、アイヴィーにネックレスを返す。


 「折角なので、少し細工してみました。」


 ヴィルベルトにそう返されたネックレスを見ると石の中にキラキラと輝く先程の惑星が見える。


 あまりの事に驚いて、アイヴィーは、望遠鏡を覗くと、そこにも全く同じ惑星が。


 不思議に眉を寄せて、『どういうこと?』と、でもいいたげな顔をヴィルベルトに向けると、ヴィルベルトが、ニコリと微笑んで答えた。


 「魔法で、その石の中に転写したのです。」

 「そんな事が可能に??」

 「ええ、その為に魔術図書館に行ったので。」


 相変わらず、ニコリと何でもない、というような顔をしてそう答えたヴィルベルトに、アイヴィーは開いた口が塞がらない。


 (なるほどー!そうだったのですかー!!!


 って、どんだけやねん!!


 思わず関西弁で突っ込んでしまったじゃないですか!!


 初めて、サプライズで驚かされましたよ!ええ!驚きました!嬉しいとかいう以前に、驚きました!!


 これぞ、まさにサプライズっていう!!魔法使いのチートがなせる技と言う事ですか!!)


 アイヴィーは、開いた口を閉じて、その小さくシンプルな作りのアレキサンドライトをまじまじと眺めてから、ヴィルベルトに丁寧にお礼を言った。


 アイヴィーがお礼を言うと、ヴィルベルトは、楽しそうに微笑んでアイヴィーに近づいてきた。


(はっ!!これが、まさか、まさか、魔王様が初めから企画していたミステリーという事ですか!?


 ぬぅっ!ぬぁっんという!!


 すっかりミステリーは諦めていたというのに、最後の最後で、うまいこと出し抜かれた気分ですよ!


 と、いう事は、このサプライズは、あくまでもフェイクという事ですか?そうですか?


 つまり、この後の裏があると・・・・??)


 そう思い、再びヴィルベルトを見ると、その笑顔に何かを感じとったアイヴィーは、ジリジリと後退し、膝の裏に何かぶつかり、後ろを振り返るとそこには、先程のベッドが。


 「ヴィルベルト様!!これ以上近づいてこないで下さい!!」


 そう、アイヴィーが言たものの、時既に遅し。

 目の前にヴィルベルトが立って、楽しそうに微笑んで、腰を少し折って言った。


 「アヴィー、一日早いですが、15歳の誕生日おめでとうございます。」


 そう言って、ヴィルベルトは、アイヴィーのおでこにキスをした。


 またしても、アイヴィーは、一人勘違いを起こしていたようである。そして、ミステリーツアーは初めから始まっていなかった。


ご覧くださり、ありがとうございます。


長くなりましたが、今回のデート回、これで終わります。


ごま豆腐

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