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ヴィルベルト様はアイヴィーが好き

 お洒落なリストランテで昼食を済ませたアイヴィー達は、再びキャリッジに乗り込み移動を始めた。


「これから、何処か行きたい所は有りますか?」

「そうですね・・・行きたい所では有りませんが、少し体を動かしたいです。」

「では、商業区に行きませんか?今、商業区にアクアリウムが有るそうなので、其処に行ってみませんか?」

「アクアリウム・・・ですか?」

「ええ、先日、ホーム・アクアリウムにはまっているという方からオススメされたので、一度見て見ようかと思っていたのです。折角ですから、貴女と見れたら良いだろうな、と思っていたので、どうでしょうか?」


 (アクアリウムって、確か、水族館みたいなものだよね??うわーなんだろう、凄く気になる!この世界に来て、水族館とか見た事無いのですよねぇ!


 港町のヴェツアは有名ですが、彼処はどちらかというと、街自体が芸術品という話ですし、確か、ポルドという大きな街に、立派なアクアリウムが有るという話を聞いた事が有りますが、まだ、お目にかかったことは無いのですよね。


 ここは、是非とも、この世界の魚達を一度堪能させて貰わなくてはいけませんよね!)


「ええ、是非とも拝見したいです。」


 そう言って、アイヴィーは、ニコリと頷いた。



◇◆◇◆◇



 アクアリウムは、水族館、というよりは、水槽がキレイに並べられたペットショップに近かった。

 しかしペットショップと違い、テント内は、魅せる事に注視された作りになっていた。


 オススメされるだけ有り、アクアリウムの中は賑わっていて、順路に沿って人が、列を成している。


 テントの中は薄暗く、その中にライトアップされた様々な色の魚と呼ばれるには多少親しみの無い形の魚や観賞用のエビ等が、水槽毎に泳いでいた。


 その中、ヴィルベルトとアイヴィーは、二人並んで順路を進んでいく。

 流石のヴィルベルトも何が何でも手を離そうとしなかった手を離して、観賞を優先させてくれる。


 「綺麗ですねぇ〜。」


 小声で感嘆の声を漏らすアイヴィー。

 それを受けて、ヴィルベルトも小さな声で返答し、頷いた。


 水槽には、品種と簡単な生態について書かれたものが、表示してある。

 一つ一つ丁寧に読みたいところだが、混んでいる事もあり、サッと流して読むしかない。


 しかし、その釣書を読まずとも、各水槽はどれも幻想的で、黒いキャンパスに綺麗な色の絵の具が次々に模様を描いては、目を楽しませてくれる。


 列を成している、とはいえ、鑑賞方法は様々で、人が一際多いところでは、ゆっくり鑑賞する事が難しい。


 人気の水槽の前では、人にもみくちゃにされるか、まるで見えない水槽に背伸びしたり、体を捻ったりして、なんとか隙間から見える魚を覗ける程度である。


 フラフラと落ち着きなく動くアイヴィーは、人にぶつかりそうに、また、ぶつかられそうになり、その度にヴィルベルトの強くしなやかな腕が、アイヴィーの腰や肩を支えてくれた。


 「ありがとうございます。」


 アイヴィーは、己の幼稚さとヴィルベルトに支えられ、触れられた腕に頬を赤く染めて、恥ずかしい思いにかられつつも、感謝の言葉を伝えた。


 テント内が、薄暗かったおかげで、アイヴィーの表情がわかりにくい事もあり、ヴィルベルトは、 ニコリと微笑むだけで、特に何も言わなかった。

 それの事が、尚更アイヴィーの顔を赤くさせた。


 (もう!!魔王様は!!

 何という、絵にかいたかのような紳士っぷり!!


 その脳内に脊髄反射でもって、レディ・ファーストが染み込んでいるとしか思えません!!


 いつもみたいに嫌味の一つでも言って下されば良いのに!沈黙は是なりとは、よく言ったものですねぇ。本当に。


 いつもより段違いに魔王様が素敵に見える気がします・・・。


 ――――いやいやいや!!、素敵になんて、見えません!


 素敵なのではなく、攻撃力が、上がっているように見えます!!

 そう、間違えてはいけませんよ!皆様!攻撃力です!攻撃力!)


 間違えたのは、アイヴィーである。


 アイヴィーは、自分の思考によって、ムスリと不機嫌な顔になり、目の前の人垣を眺めていた。


 薄暗いテントでも、ヴィルベルトにそれは伝わったようで、腰を支えたヴィルベルトが、小さな声でアイヴィーに話しかけてきた。


 「疲れましたか?そろそろ出ましょうか?」


 アイヴィーは、ヴィルベルトの顔を見る為に顔をあげて、首を振る。


 「そうですか。では、あちらに、少し座りませんか?」


 視線でヴィルベルトが促した先には、木枠で囲まれた二人掛けのソファが置いてあり、アイヴィーが答える前に、流れるようにアイヴィーを連れてソファに座らせた。


 アイヴィーが座ると、その隣にヴィルベルトま足を組んで座る。


 目の前は、古代魚のコーナーの一角で、アクアリウムの中で一番大きな水槽の中に古代魚と思われている魚が一匹、雄大に泳いでいた。

 それを囲むように似たようなソファが点在してあり、このアクアリウムの中のメインコーナーで有ることが、そこから伺えた。

 目の前の雄大に泳ぐ魚をただ、眺めているアイヴィー。

 そして、魚を眺めているアイヴィーを眺めているヴィルベルト。


 アイヴィーが、ヴィルベルトの視線に気付くと、横目でチラリと視線を送り、アイヴィーを見ているヴィルベルトに言った。


 「ヴィルベルト様、私ではなく、魚をご覧下さいな。」

 「魚はさっき見ました。今は、魚を眺める貴女を見たいので、邪魔しないで下さい。」


 笑顔で、ヴィルベルトがそう答えると、アイヴィーは、口を尖らせて、片眉を上げて、抗議の表情で、ヴィルベルトに言った。


 「ここは、魚を見る所ですよ?」

 「そういう楽しみ方も有りますね。」


 笑顔でそう答えるヴィルベルトに、アイヴィーは、眉を寄せて更に言った


 「他に、一体どういう楽しみ方が有るのですか??」


 アイヴィーの言葉に、『見ての通り』とでも言いたげに、ニコリと微笑むヴィルベルト。


 (くっ・・・・!!


 魔王様、薄闇の中で、貴方の攻撃力は増したと思って良いですか?そうですか。


 眼鏡男子でない魔王様なのに、何故こんなにも息苦しいのでしょうか。

 やはり、薄闇で瘴気が強く成っているのでしょうか??


 こ、このままでは、私、このアクアリウムで命尽き果ててしまいます!!


 今日は、回復アイテム持って無いのですよぅ!

 早く、一刻も早くこの場から立ち去らなくては!


 ぬぅっ・・・!!


 なんで、さっき、私、出ようって言われた時に頷かなかったのか。

 今すぐ出たいって、言い出しにくいではないですかぁ!!!


 ああああ!!私の馬鹿!馬ぁ!鹿ぁ!!)


 アイヴィーが馬だの鹿だのと己を罵っていると、ヴィルベルトが、アイヴィーに向かって話しかけてきた。


 「とはいえ、魚を観賞するのも楽しいですけどね。貴女があまりにも楽しそうに見ているから、つい、貴女に目が行ってしまっただけです。」


 アイヴィーは、ヴィルベルトの発言を受けても尚、その表情を和らげる事なく、眉を寄せたまま、

 「ソウデスカ。」と、答えた。


 (今は、そういう角砂糖は受付られません。


 時間外営業です。他、当たって下さい。)


 「おや、貴女は楽しく有りませんか?」

 「アクアリウムは楽しいですが、ヴィルベルト様の不用意な発言は楽しく有りません。」


 アイヴィーが、そう答えると、ヴィルベルトば、喉を鳴らして笑いを堪え、アイヴィーに言った。


 「私が、貴女に何か不用意な発言をしていましたか?」

 「ええ、ヴィルベルト様は、割といつも不用意な発言をしております。」

 「例えば、どのような?」

 「例えば、今みたいに私をみてきたり、いきなり口に接触してきたり、そういう事です。」

 「それの何処が不用意な発言なのでしょう??」


 はた、と気付いて、アイヴィーは思考を巡らした。


 (確かに、不用意な発言ではないですね。


 どう考えても、発言ではないですものね。うん。

 あーれー?おかしいな。


 でも、待って下さいね?


 そもそも、私が不用意な発言と勘違いさせるような行動に問題が有るのでは無いでしょうか??!


 うん、そう。そうだから!


 魔王様が不用意な発言をしてなかったとしても、魔王様が不用意な行動をしているのは確かですから!うん、そう!


 そのせいで、私が勘違いしてしまっただけで!

 だから、私は悪くない!)


 アイヴィーが再び、ヴィルベルトに冤罪を着せて、悪役をあてがおうと結論を出し、声を発した。


 「確かに、そうですね。勘違いしてました。すみません。ですが、私に勘違いを起こさせるような行動に問題が有るのでは無いですか?」


 ツンっと素っ気無く返したアイヴィーは再び目の前の水槽に顔を向ける。

 それを眺めていた、ヴィルベルトは、アイヴィーに向かって困った様に眉を下げて答えた。


 「何か勘違いさせるような事をした覚えは有りませんが。」

 「そんなはず無いです!だって、この前、いきなりき、キスしてきたり、いきなり好きって言って来たり、私を勘違いさせて、籠絡しようとなさっているでは無いですか!」

 「そう仰るのなら、是非ともそのまま勘違いして、早く籠絡されてください。」


 そして、早く慣れて、私の事を好きになって下さい。と、最後に付け加えてヴィルベルトは、溜め息まじりに言うと、アイヴィーの腰に手を回して、寄り添うように、近づいて、目の前の水槽に顔を向けた。


 腰に手を回されたアイヴィーは、少し頬を赤くして、不細工な顔をしてジーっと、ヴィルベルトの横顔を睨めつける。


 そして、その視線に耐えられなくなったヴィルベルトが、横目でチラリとアイヴィーを見て、再び水槽に視線を戻すと、

 「私に惚れてくれましたか?」と、シラっと言った。


 「な、ほ、惚れてなど、おりません!」

 「では、何故そんなに見つめてくるのですか?」

 「み、見つめてなどおりません!」

 「では、何か?」

 「私は、怒っているのです!」


 アイヴィーがそう言い切ると、魚を見ていたヴィルベルトがアイヴィーの方を向いて、息をついて、微笑みながら言った。


 「そうですか。それは、それは、困りましたね。私に何か出来る事はありますか?」

 「ヴィルベルト様は、どうしてそう、意地悪なのですか!!!」

 「意地悪でしょうか?もし、私の発言で、意地悪と思われるのなら、それは、貴女が私に意地悪をさせてしまいたくなるほど、愛おしい事をなさる貴女のせい、という事になりますね。」

 「っ―――――!!!」


 ヴィルベルトがそう言うと、顔を真っ赤にして、めが潤んだアイヴィーが、声にならない声を上げて、ソファを離れると、順路に沿って、足早に進んで行った。

 ヴィルベルトは、その後を難なく追いついて、アイヴィーてを引くとその腰に手を回した。

 そして、アイヴィーは、いとも簡単にエスコートされてしまう。

 順路を早足に進むアイヴィーは、ヴィルベルトから顔を背けて、思った。


 (この、あっという間に詰められてしまう歩幅の差が憎い!!)

ご覧下さりありがとうございます。


バカップルですね。はい。リア充爆発しろっ!って周りから声が聞こえてきそうです。


頑張ってデート回進めて行く予定ですので、もうしばらく牛歩な二人のデートを見守って頂けると嬉しく思います。


ごま豆腐

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