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魔術図書館での告白

 公爵家の2頭立てのキャリッジが、国立公園内に入ると、窓の外にうつる景色が一変し始める。


 公園とは名ばかりの、その巨大な庭園は、平民街の区画まるまる跨いで3区画もつかった広さがあり、その中には、庭園やテニスコート、教会、そして目的の図書館が併設してある場所だった。

 その公園内、緑に囲まれたきれいに整えられた道をキャリッジはガタゴトと進む。


 キャリッジ内の二人は、アイヴィーのミステリーツアーの再挑戦の発言を叩きつけた後、顔を赤くしたヴィルベルトは一切言葉発する事が無く。

 そして、アイヴィーは、次こそは、謎を逃してなるものか、と顔を赤くし、可能な限り顔を背け、うつむかせていた、ヴィルベルトをずっと観察していたのだった。


 一体、どんな、拷問か。


 そして、公園内に入り、暫くの後、御者によって、ゆっくりとキャリッジが停止した。


 そのタイミングを待っていました、とばかりに、ヴィルベルトが顔を上げて、ホッと一息つくと、アイヴィーの方に顔を向けて声をかけた。


「着きましたね。」

「・・・ええ。」


 そう言うと、ヴィルベルトは先に降り、手を指し出して、アイヴィーがキャリッジから降りるのを支えた。


 ヴィルベルトは、キャリッジの中で、相当な羞恥に晒されたにも、かかわらず、何がなんでも、最低限手を離す気は、ないようで、必ずアイヴィーの手を握ろうとしていた。


 アイヴィーが、ヴィルベルトに支えられ、キャリッジから降りて、目の前を見ると、生成りの小ぢんまりした堅固な建物が目に入ってきた。

 その建物の広くとられた階段には、3点に等間隔で、何かの動物を模したかのようなオブジェが並んでおり、その先には、人が五人は縦に並んでも通り抜けられそうな高さの重厚な扉が、石造りの柱が門となって、扉を護っていた。


「ここ、公立図書館とは、違いますよね?」


 アイヴィーが、目の前の図書館に目を向けながら、ヴィルベルトに尋ねた。


「ええ、ここは、騎士団の魔術図書館です。」

「ま、魔術図書館??」


 (な、なんという、ファンタジーで素敵な響き!というか、こんなところに図書館があるなんて、全く知りませんでしたー!


 うわー!流石、魔王様!良いセンスしてますねぇ!)


 アイヴィーが、感動のあまり絶句して、ただ、呆然と眺めていると、ヴィルベルトが、アイヴィーの手を引きよせて、階段に足を進めながら、アイヴィーに声をかけた。


「行きましょうか。」


 ヴィルベルトとアイヴィーは、ヴィルベルトに手を引かれながら、目の前の図書館に入っていく。


 中に入ると、魔術図書館とその名に相応しく、重厚で緻密な模様が描かれた本棚の中に大小様々な本が、両脇に隙間なく並んでいた。


 その圧巻とも思える書籍の数よりもアイヴィーの目を引くのは、魔術書や重厚な本棚ではなく、中央に鎮座しているアンティーク調の通常時間とは違う時間を刻んで動いている謎の時計や、機械仕掛けの地球儀、水晶に包まれた謎の霧等、見た事も聞いた事も無い変わった品の数々だった。


「・・・ここは、一体、なんですか?」

「ここは、騎士団に所属している魔術師が使用を許されている図書館です。」


 アイヴィーは、思わず感嘆の声と共に、この図書館についてヴィルベルトに尋ねると、ヴィルベルトは、シラッと、何でもない事の様に、そう答えた。


「そ、それは・・・・」


 ヴィルベルトの発言を受けて、続く言葉が出てこないアイヴィーは、口元を引き攣らせて、目の前にある様々な表情の顔が描かれている羅針盤を目の前にして、触れようとしていた手をピタリと止め、ヴィルベルトの方を見た。


「許可は頂いていますのでご安心下さい。」


 ニコリとヴィルベルトが、微笑んでそう答えると、アイヴィーは、安心して息をはき、目の前の触れようとしていた羅針盤から手を引いた。


「実は、今日は、この図書館の資料室に用があって連れて来たのです。」

「用、ですか?」

「ええ、資料室は、2階に有りますので、着いてきてくださいね。」


 有無を言わせず、ヴィルベルトはアイヴィーと繋いだ手を引き、二階に続く階段に慣れた様子で向かっていく。


 (魔王様、今の私は、どんな用でも受け入れてみせましょう!


 このインクと魔術の香りのする空間で、いくらでも楽しむ事が出来ますよ!

 これこそ、まさに、異世界転生!!


 ああ、やっぱり、魔法使いに生まれ変わりたかったよぅー!


 何ですか、この素敵な空間で起こるミステリーツアーとか!魔王様、貴方は、天才ですか!神ですか!


 この前、魔王様を全否定してごめんなさい。

 私が、愚かでございました!!)


 アイヴィーが、魔術図書館の雰囲気に完全に内心浮かれ、同時に行動も浮かれて、キョロキョロと周りを見回し、注意力散漫になっていると、ヴィルベルトが階段に差し掛かる所で、アイヴィーの手を自身左手に持ち替えて、腰に手を回して、アイヴィーに左手斜め後ろに寄り添った。


 驚きのあまり、アイヴィーが、キョロキョロとしていた、首を止め、ヴィルベルトを見上げると、ヴィルベルトがニコリと微笑んで、答えた。


「あまり、あちこち見ていると、足元が危ないですよ。」

「・・・ご迷惑おかけします。」


 アイヴィーは、上目遣いで、ぶーたれ顔をして、文句も言わず答えると、ヴィルベルトが眉を上げ驚いた顔をして、言った。


「今日の貴女はやたらと素直ですね。」

「・・・こんな素敵な場所に連れてきて下さる方に、文句の出る狭量な女ではございません。」


 そう言われたアイヴィーが、いつも通りプイと顔を背けると、ヴィルベルトが、クスリと笑って、先を促した。


 ヴィルベルトにエスコートされて、到着した資料室は、薄暗い部屋の中、古い紙の香りとインクの香り、そして、何故か独特なお香の様な香りが部屋に充満していた。


「資料室は、ここ、ですか?」

「ええ、そうです。」


 そう言うと、ヴィルベルトは何が何でも離そうとしなかった手を離し、資料室の右手に見える引き出しに近づいて、扉を引いた。中には、紙の上に円状に謎の文字が書かれたホロスコープが描かれている。

 アイヴィー、転生後初めてお目にかかれる本物の魔術の瞬間である。


 (!!!!本物ー!!本物ですよー!!


 普段の痛い私の魔術とは大違いの本物のホロスコープ!!


 カッコいいー!スゴイ!)


 興奮のあまり、アイヴィーは、自らヴィルベルトに近づいて、ホロスコープを覗き込む。


「やはり、貴女は、こういうものに興味ありますか?」

「ええ、多少は。」

「そうだと思っていました。私を魔王というくらいですからね。」


 ヴィルベルトが、笑みをうがべ、意地の悪い発言をすると、ムッと眉を寄せたアイヴィーが、ヴィルベルトに向いて言った。


「それとこれは関係ありませんから、勘違いなさらないで下さいね。」

「・・・貴女がそう言うなら、わかりました。」

「ところで、ヴィルベルト様、私、ホロスコープは初めて見るのですが、ヴィルベルト様は、このホロスコープ、読めるのですか?」

「ええ。一応、簡単な魔術くらいなら、使えますから。」


(・・・・マジで?


 いやいやいや、いくら、魔王様と私が愛称をつけていたと言ってもね?

 魔法まで使えると知っていた訳ではないてすからね?


 え、鍛えてるって、前言ってたのは、そういう意味合いも入ってたのですか?


 え?じゃあ、なんで、宰相補佐??


 魔法が使えるなら、普通に騎士団入るのが良くない??


 もしや、これがミステリーツアー初動の事件発生の合図なのでしょうか?


 普通、事件の発生といえば、定型句か、拳銃の音か、悲鳴と相場が決まっているのですが。


 まぁ、今回は、お互い初めてのミステリーてすからね。

 何かと予定調和に行かない事もありますよね。)


 ヴィルベルトの言葉に、目が点になり、真顔になるアイヴィー。

 それを気にした風もなく、ヴィルベルトは、次々とホロスコープが描かれている用紙をめくり、何かを探していた。


 しばらく、用紙をペラペラとめくると、ヴィルベルトが目的としている魔術が描かれたホロスコープを発見した様で、目的の用紙を一枚、かみの束から取り出し、一番上に持ってくる。


 すると、考えるように、顎に手をそえて、暫くホロスコープを眺めた後、一人納得した顔をして、ホロスコープを引き出しの中に戻し、笑顔で、アイヴィーに話しかけ、再びアイヴィーの手を取った。


「お待たせしました。ここでの用は済ましたので、これからは、アヴィーが行きたい所に行きましょうか。」


 ヴィルベルトの魔法使えます、発言を受けてからずっと、一人様々な推測をしていた、アイヴィーは、再びヴィルベルトに引っ張られる様な形で資料室を後にした。


 資料室を出て、再び階段のところに辿り着くと、アイヴィーが、無理矢理自身の手をヴィルベルトの手から離すと、立ち止まり、自分の手を握りヴィルベルトの方を見た。


 (ちょっ!ちょっと!まだ、資料室で何も触れていませんよ!


 まずは、展開を進める為に、資料室に来た理由とか、魔法について、だとか、そういう話をするのが、大事なのではないでしょうか!?


 その話をせずに次に行くなんて、いくら魔法使いな魔王様でも、許されません!

 定番は押さえて貰わないと、折角の、ミステリーツアーが盛り上がらなくなるでは無いですか!!)


 いきなり、アイヴィーの手が離れ、驚いたヴィルベルトは、引かれた手の方を振り返り、アイヴィーを見ると、少し不機嫌そうな顔をしたアイヴィーが、質問してきた。


「どうして、資料室で魔法の事、仰って下さらなかったのですか?」

「どうして、と言われても、今まで聞かれませんでしたから、としか、言いようが有りませんね。」

「では、今から聞いたら教えて下さるのですか?」

「そうですね。内容によりますが、可能な限りは。」


 ヴィルベルトがそう答えると、不貞腐れた顔をしたアイヴィーが、目を下にそらして、暫く考えた後、再び、質問した。


「・・・ヴィルベルト様は生まれつき魔法が使えたのてすよね?」

「そういう事になりますね。」

「・・・うらやましい・・・・。」


 ヴィルベルトの発言を受けて、小さな声で呟いたアイヴィーは、顔をあげて、ヴィルベルトの顔をジッと睨めつけた。


 (くぅ!うらやましい!


 私が、どんなに欲しても手に入れる事の出来ない魔力をお持ちとは!!!


 魔王というのは、名前だけではありませんね。

 って、魔王と名付けたのは、私ですが。


 この人、本当に悪役じゃなかったら、完全に英雄役じゃないてすか。

 なんですか、その完璧チートな役どころは。


 普通、チートといえば、前世記憶のある私の役割のハズなのですがねぇ??

 それを見事に奪うとか、魔王様は、相変わらず、私の存在すら脅かす危険な存在という事ですね。


 そんな事は、まったく、納得出来ませんよ!)


 アイヴィーに睨みつけられていたヴィルベルトは、苦笑をこぼすと、再びアイヴィーの手を握る為にアイヴィーに近寄り、アイヴィーの片手を取り、こしを折ると、有無を言う間も無く、口元まで持ってきて、手の甲に口づけして、言った。


「アヴィー、貴女の手に口づけをした事を許してくれる変わりに、魔法を使わせてあげる事は出来ませんが、理屈なら教える事が出来ます。だから、それで、許して貰えませんか?」

「え・・・・」

「駄目でしょうか?」


 常なら、アイヴィーより身長の高いヴィルベルトの目が、腰を折った事で上目遣いに、アイヴィーを見つめてくる。


 アイヴィーにとっては、願ってもない申し出に、思わず頬が緩むのを必死で堪えながら、不服そうに顔を横に向け、チラリと目の端でヴィルベルトを見ると、ヴィルベルトの提案に答えた。


「・・・・仕方ないから、それで、手をうちます。」

「ありがとうございます。では、今度は、貴女の行きたいところに向かいましょうか。何処に行きたいですか?」


 そう言って、ヴィルベルトが、再びアイヴィーの手を握り、歩き出すと、タイミングを図ったかのように、アイヴィーのお腹が、可愛らしい音を出した。


「まずは、昼食ですね。近くにオススメのリストランテが有るので、よければ、そこに行きませんか?」


 恥ずかしさに耳を赤くしたアイヴィーが、頷いて答えると、再びヴィルベルトに手を引かれ、後ろ髪をひかれながらも魔術図書館を後にして、再びキャリッジに乗り込んだ。

ファンタジーな要素を思い出しました。

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