謎解きを始めましょう?
暫くキャリッジがガタゴトと揺れ、程よいクッションが聞いた椅子の上で、アイヴィーは、ふと今日の目的について、何も知らされていない事に気付いた。
そして、ヴィルベルトに尋ねようと、再びヴィルベルトの方に顔を向けた。
顔を向けた先のヴィルベルトは、不機嫌な顔をして、窓の外を見ていた筈が、なぜかアイヴィーの方をジッと眺めていた。
顔を向けたアイヴィーとヴィルベルトの視線が合うと、アイヴィーがヴィルベルトに尋ねるよりも早く、ヴィルベルトが、アイヴィーに尋ねた。
「どうかしましたか?」
ヴィルベルトが、すっかり不機嫌オーラを無くして、何事も無かったかのような顔をして、問いかけてきたので、アイヴィーは、一瞬慌てたものの、先程気付いた件について、ヴィルベルトに尋ねた。
「今日は何方に行く予定かお聞きして無かったので、お聞きしようかと。」
「ああ、そうでしたね。今日は、これから、図書館に。」と、表情を特に変えることなくヴィルベルトが答えると、それを聞いたアイヴィーが、目を見開いて、パシパシと瞬きさせ、ヴィルベルトに尋ねた。
「図書館ですか?」
「ええ、図書館です。」
「何か、お調べに成りたいものでもあるのですか?」
「いえ、特には。」
「では、何故でしょうか?」
「行けばわかります。」
そう言うと、不機嫌を仕舞い込んたはずのヴィルベルトが、再び、窓の外に、顔を向けた。
(・・・知っていましたか、魔王様、サプライズは大概失敗するのが、定石なのですよ!!
いつぞやに流行ったフラッシュモブ・・・、あれを私、友人の頼みで参加させられましたけどね、ぶっちゃけ、あれ、完全にやる側の自己満足てしたからね!!!
成功したとき、誰よりもテンション上がったのは、プロポーズされた花嫁さんではなく、フラッシュモブを成功させられた、我々の方でしたからね?
その後聞いた時の、プロポーズされた側の悲壮感・・・・。
ごめんなさい!と後日、土下座したくなりました。以来、仲間内でのフラッシュモブは厳禁になりました。
それくらいサプライズは、無駄、無意味、無反応という三重無を兼ね備えた恐ろしい所業なのですよ!
魔王様、ここで、お知らせしておきますが、私、女優業は現在廃業中なのです。
ですから、今すぐその案は、キャンセルしましょう?
私の為であり、魔王様のプライドの為にも!!)
アイヴィーが、そう決意すると窓の外を見ているヴィルベルトに勇気を絞って話しかけた。
「ヴィルベルト様・・・大変申し訳ないのですが、私女優業は只今、廃業中なのです。」
「・・・貴女は、どうしてそう、話がいつも突飛なのでしょうか?」
「突飛なのではなく、私は、お互いの為に申しているのてす。」
「お互いの・・・?」
「はい、ヴィルベルト様は、行けば分かると仰られましたが、それは、所謂サプライズという事ですよね?
その場合、私は、貴方様の気持ちを汲んで、驚いたり、喜んだり、もしくは、感動しなくてはいけません。
でなければ、折角考えてくださったヴィルベルト様の行為に対して、失礼だと思うからです。
ですが、私、本当に喜んだり驚いたりする様な事がない限り、そんな簡単に喜びや驚きを表現する事が出来ません。ですから、女優業は廃業中と、お伝えしたのです。」
アイヴィーが、誠心誠意、できるだけ失礼にならない様、細心の注意をはらいながら、ヴィルベルトにそう伝えると、ヴィルベルトは、特に表情を変えることなく、真顔で、
「・・・貴女の言いたい事は、わかりました。ですが、心配は無用です。」と、答え、再び窓の外をみやった。
(んー???魔王様、やっぱり、機嫌が悪いのでしょうか??さっきから態度が冷たくありませんか??
も、もしや!もうすでに、ミステリーツアーが開催されている、という事でしょうか??
いやいやいや!流石にそれは、まだ、早すぎますよー!!
ん?でも待ってください。
ミステリーツアーでは、案外、最初のこのどうでも良い様な流れの時に、事件の謎を解くヒントが散らばっていたりするのですよ!
と、いう事は!
もう既に、私の預かり知らないところで、事件は動き出している、という事ですね!!
ははーん。さては、この魔王様のいつもと違う態度、それに加え、これから行く図書館で何か大きな仕掛けがしてある、という事ですね??
では、図書館の仕掛けは、後で考えるとして、魔王様、貴方の態度は、何を隠しているのでしょうか??
うーん、まず、ミステリーの定番は、観察するところですよね。
廃屋もまず、探検から物語がスタートするのです。調べずして、ミステリーはやってこない!
というわけで、魔王様を観察てす!!)
アイヴィーの勘違いミステリーツアーが今、始まった。
アイヴィーが、ヴィルベルトをひたすらジーッと穴が開くくらい睨み・・・見詰めていると、流石のヴィルベルトも窓越しに写るアイヴィーのその視線に気付き、窓の外を見ていた顔をチラリとアイヴィーの方に向け、尋ねる。
「他にも何かご用がありますか?」
「・・・・」
どうやら、アイヴィーは、集中すると人の言葉が届きにくいようで、ひたすらヴィルベルトを見詰め・・・観察していた。
この状態のアイヴィーに何を言っても無駄と知らないヴィルベルトは、空いていた方の右手で、アイヴィーの目の前て手を振り、
「アヴィー、聞こえていますかー?」と言って声をかけた。
流石にそこまでされれば、ヴィルベルトを観察しているアイヴィーも気付く訳で。
手を振られたアイヴィーは、ヴィルベルトの問いかけに、ハッとして、答えた。
「き、聞こえています。大丈夫です!」
「アヴィー、私にご用が・・・?」
「い、いいえ?用なんて有りませんよ。」
あれだけジッと見詰めていたにも関わらず、アイヴィーはケロリとそう答えた。
その様があまりにも不自然だったので、ヴィルベルトが、疑わしげな視線を向け、
「本当ですか?何故そんなにこちらを見ていたのてすか?」と、アイヴィーに確認をとった。
「な、なんで???なんででしょう??」
思わず、アイヴィーは、動揺して、言葉を噛んでしまう。それを逃すまいと、ヴィルベルトがアイヴィーに詰め寄った。
これでは、まるで、名探偵アイヴィーどころか、追い詰められた犯人の様である。
「・・・何か隠して居ますね?言ってください。」
「な!!言えるわけないじゃないですか!だ、だいたい何か隠しているのは、ヴィルベルト様だと、私は、分かっておりますよ!!」
アイヴィーが、慌てながらも、これ以上、責められて、犯人のように扱われてはなるものか!と、名探偵アイヴィーを取り戻すべく、ヴィルベルトの常と違う異変について指摘した。
アイヴィーの言葉に溜め息をついて、ヴィルベルトが、
「・・そうですね、流石に失礼でした。反省します。」と、素直に謝罪してくると、虚を疲れたアイヴィーが、慌てて言葉を発した。
「え?もう??いくら何でも投降するのが早くありませんか?」
驚くアイヴィーに、ヴィルベルトが、苦笑して
「・・貴女にはお見通しなのに、いつまでもこのような態度を取っているのは、恥ずかしいですよ。」と答えると、アイヴィーは首をかしげて更に尋ねる。
「恥ずかしい??ヴィルベルト様が??」
「私だって、子供のように不貞腐れることだってあります。」
「・・・それが、動機という事ですか?」
「動機?動機といえば、そうですね。」
「では・・・これで事件は解決ですか??」
アイヴィーが、ミステリーよろしく、定型句を発すると、ヴィルベルトが、それに頷く。
ミステリーツアーはどこいった。山場も何もあったものではない。
まさか、ものの数分で事件が解決すると思っていないアイヴィーは、ショックのあまり、顔から力が抜けていく。
それを見ていたヴィルベルトが、
「・・・はい、ご迷惑おかけしました。」と答えると、あまりの事態を受け入れる事が出来ないアイヴィーが、ヴィルベルトに、
「ダメです!ご迷惑かけてて良いですから、さっきみたいにしててください!流石に早すぎます!」と、怒って、文句を言ってきた。
「・・・期待を裏切った事は申し訳無いのですが、貴女に気付かれているのに、これ以上不貞腐れている訳には行きません。」
「どうしてですか!?私何を間違えましたか?教えてください!そしたら、次からは、失敗しませんから!もう一度、再挑戦させてください!」と、アイヴィーが懇願すると、ヴィルベルトが、溜め息をついて、渋々といった体でつぶやくように答えた。
「・・・貴女が、『大丈夫』というから・・・。」
そう小さく答えると、ヴィルベルトは、空いた方の右手で右半分の顔を覆い、窓枠の方を見て、耳まで赤くなっている顔を背けた。
その様を見ても気に止める事なく、アイヴィーは、ミステリーツアー再挑戦にかけて、思考を始める。
(『大丈夫』??私そんな事言いましたかね?
んー?これが、再びミステリーを始める、謎解きのきっかけなのに、『大丈夫』というワードが思い当たらない!!
どこだ!何処で私は言った??この大切な事件を始めるキーワードを!!
もしや、このキャリッジから事件が、スタートしていたと思っていましたが、その前から既に事件はスタートしていた・・・と、言う事でしょうか??
ならば、キャリッジに乗り込む前の魔王様との会話にその謎が??
・・・―――!!!思い出しましたー!!
確かに、私大丈夫と言っていましたよ!
魔王様が皮膚接触について触れて来たときに!!
うん。それとコレにどんな関係が―――?
皮膚接触、大丈夫という言葉、不貞腐れる魔王様・・・・分かりました!!分かりましたよ、魔王様!!!
事件は既に解決していますが、この謎が今、解けました!
魔王様は私に、再び皮膚接触をご所望という事ですね!!)
ジャジャーン♪と、軽快な管楽器の音がアイヴィーの脳内で響いた。
(・・・・って、気付きたくなかったー!!!
うあーん!ミステリーツアーのバカぁ!!!
なんで、何で再び皮膚接触なんですか、魔王様は、破廉恥でビッチなのですか!!
でも、でも、これを始めれば、再びミステリーツアーを再開してくれると仰られていましたよね・・・・??
ど、どうする私!今、目の前に3枚のカードが並んでいますよ。)
と、昔懐かしいCMネタを引っ張りだして、この局面について考えこむアイヴィー。
そして、少し落ち着いたヴィルベルトが、横目でチラリとアイヴィーを見ると、そこには、見当違いな答えを出して、顔面から血の気が引いているアイヴィーの姿が有った。
それを見たヴィルベルトが、
「大丈夫ですか?」と、尋ねて、空いた右手で起用にアイヴィーの腰に手を巻き付けて引き寄せると、ヴィルベルトの額にアイヴィーの額を当てて、アイヴィーの熱の有無を確かめた。
触れた額から高熱を感じ取れなかったうは、
「熱はないですね。」といって、アイヴィーから自身の顔を離す。
そんな事をされても、珍しく、黙って何も言わないアイヴィーは、昔懐かしいCMネタを引用し、ヴィルベルトの言った『大丈夫』が、再びミステリーツアーへ誘う合図だと、勘違いを起こして、意を決した。
アイヴィーは、目の前のヴィルベルトの顔の位置を確認してから、目を強くギュッとつぶり、少し離れたヴィルベルトの顔にある唇めがけて・・・キスをした。
目をつむったアイヴィーの口は、目測を少し外れ、ヴィルベルトの口の端に一瞬触れて離れる。
そして、アイヴィーの柔らかな唇が触れた事にヴィルベルトが、言葉も無く、目を丸くして、驚いていた。
それを、見ながらアイヴィーが達成感と共に、胸を張ってドヤ顔で、
「これで、また、スタートですからね!!」とヴィルベルトに告げる。
そして、ヴィルベルトは、再び顔を赤く染めて、口を隠すと、こくりと頷いた。




