デートは手を繋ぐ約束だそうで
いつもご覧下さる皆様、ありがとうございます。
デート回長くなりそうです。
とりあえず、分けて2話投稿いたします。
宜しくお願いいたします。
ごま豆腐
アイヴィーは、ヴィルベルトと約束していたデート当日を迎えていた。
あの後、やけ食いをしたアイヴィーの元にヴィルベルトからデートの日程についての連絡があり、アイヴィーが断われない事もあり、難なく、決まったデートである。
そして、アイヴィーは、相変わらずな化粧をし、白地にブルーが鮮やかな花柄が描かれているプリンセスラインのシャツワンピースを着用し、手に透け感のあるレースで編まれたショートグローブを着用して、自室のソファにより掛かった状態で、頭を垂れていた。
(なんだか、最近、魔王様に口の皮膚接触をされてから、胸焼けがいっそう酷くなった気がします。
何より、魔王様が突然、キ・・皮膚接触をしてくるから、私の胸焼けが酷くなったのですよ!
どうしてくれるのですか!!
許すまじ!魔王!私の、私の物理的ファーストキスがぁ!!
乙女の祈りよりも尊い、物理的な乙女の口づけを奪うとかどういう事ですか!
それ、最終奥義の全回復魔法を封じ込めに入ったパターンじゃないですか!
そんな状態で、これから先、私は、どうやって戦えと?
いや、戦うなってこと?
はっ!!!まさか、戦わずして、勝て・・と?
孫氏の『曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。』
こ、これを行えと・・・?
で、でも、どうやって???
曰く、『上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。其の次は兵を伐つ。其の下は城を攻む。城を攻むるの法は已むを得ざるが為なり。』
と、孫氏が、仰られているという事はですよ?
まず、魔王様の策略を読む事が第一という事ですね。
魔王様の策略といえば、思いつくのは・・・・。
『どうしたら、貴女のその自由意思を私の方に向ける事が出来ますか?』
『貴女に私を好きになってもらいたいからです。』
ぬぅあっ・・・・・!!!
む、胸が・・焼け・・・心臓が・・・溶け・・・・。
お、落ち着くのよ、私!しっかり、私!
まだ戦いは始まっていないのよ!
・・・・危うく、魔王様のお言葉という毒にやられかけました!!
ということは、ま、正にコレですね!ええ。コレしかありませんね!!言葉の残骸だけで、こうもえぐって来ますからね!!!
ついでとばかりに、私に、その言葉の残骸で、毒を盛ろうと狙っていたに違いありません!!
コレが、魔王様の策略だっ!!
・・・――はて、策略って、こんなに簡単に分かるものなのでしょうか??
逆に何かの罠な気がしますねぇ・・・。
推理小説だと、これは有り体な罠で、実は、裏で悪行が行われて、主人公が出し抜かれるという、初動パターンのあるあるに良く似ていませんか?これ。
―――という事は、これは、罠に違いない!!!
では、魔王様は、今日、このデートで、何か悪行を行う予定でいる、と言う事ですね!
ははーん!わかりましたよー。
私には、その悪行の為の罠に私を引っ掛け、見事策略にハマらせようっていう、その考えが!
残念ながら、既に貴方の策略を見破っている私には、親愛なるワドソン君はおりませんが、ポームズ宜しく、今日のデートでは、名探偵として、活躍させてもらいますからねっ!!
そして、小さな名探偵みたく、指を指して、『真実はいつも一つ!』って言うのです!
たっはー!!夢みたい!何これ、ナニコレ楽しいよ!!
気が重いだけのデートがまさか、ミステリーツアーになるとは!
楽しみ過ぎて、ついつい、窓から、魔王様のお姿確認しちゃいますよ??)
そう思いながら、アイヴィーは、着替えを済ませ、ヴィルベルトの到着を待っていた自室の窓に近寄り、窓から、門の方を見た。
アイヴィーが門の方を確認すると、ちょうどタイミングを図ったかのように、レベニスク公爵家の紋が入った2頭立てのキャリッジがアイヴィーの家の門を通り過ぎたところだった。
楽しさのあまり、アイヴィーは、メイドに呼ばれるまででもなく、扉をあけて、足取り軽くエントランスに向かった。
アイヴィーがエントランスに到着すると、ヴィルベルトも到着して、エントランスで目があい、アイヴィーは、待ってましたー!と言わんばかりに、楽しそうにニコリと笑顔で、微笑んだ。
その様に驚くべきは、ヴィルベルトのはずだが、ヴィルベルトは何事も無かったかのように、微笑み返して、アイヴィーに声をかけた。
「ご機嫌麗しゅう、アヴィー。今日の貴女も美しく、素敵なワンピースだね。」
「お蔭で様で!今日が、凄く楽しみになりましたわ!ヴィルベルト様は、如何ですか?」
「・・・・・。」
アイヴィーの、予想外の上機嫌にヴィルベルトは、やはり驚いていたようで、微笑んだまま、次の言葉が出てこない。
その様を見てアイヴィーが声をかけた。
「ヴィルベルト様??お加減、優れませんか・・?」
「いえ、そういう事では・・・ただ、怒っているかと思っていたので、少しだけ驚いています。」
「まぁ!どうしてですか?」
「・・・謝るつもりはありませんが、先日、貴女に、私が突然した事を怒っていないのですか?」
「それは、口に皮膚接触があった事でしょうか?」
アイヴィーが、何でも有りません、とでも言いたいかの様にそう言って、微笑むと、ヴィルベルトは、笑みを強めて、アイヴィーに言った。
「皮膚、接触ですか・・・?」
「ええ、そうです。こう、手と手が触れる様にたまたま、口と口が接触しただけの事です。私、ちゃんと、わかりましたから、もう大丈夫です。」
(そうなのです!大丈夫!
私は、やれば出来る娘!過去は振り替えらないのです!
魔王様のスキンシップなんて、接触なんて、慣れっこです!だから、大丈夫!!大丈夫!
そもそも、私は、あれをファーストキスとカウントしない!
例え物理的に乙女の口づけが封じられようとしていたとしても、私のファーストキスは、好きな人と想いが重なったその時に初めて成就されると、私が今、決めたのです!
ですから、こーんな、風に気にしていないのです!
それにですね、これでも私は一応前世で、享年アラサー年なので、皮膚接触如きで、ピーピー騒いだりしないのです。
そして、そんな大人な私にできる、水に流す。という忘却術を行使してみせるのです!!)
さっきまで、ピーピー騒いでいた事実をスッカリ忘れ、ミステリーツアーに向けて、大丈夫、と何回も心の中で唱えながら、アイヴィーは、笑顔を崩さずそう告げた。
すると、笑顔のはずのヴィルベルトの表情に凄みがまし、アイヴィーは一瞬たじろんだ。
そして、その顔のまま、ヴィルベルトが、
「・・わかりました。大丈夫というのなら、それは、良かった。では、行きましょうか。」と言い、アイヴィーの左手を取り、キャリッジに押し込む様に連れこんで、再び、アイヴィーの右手を繋いだ。
「あ、あの・・・」
「どうかしましたか?」
動き出したキャリッジの中、不機嫌さを顕にし、窓枠に頬杖をついたヴィルベルトが、アイヴィーの方を向き言うと、アイヴィーは、しずしずと、視線を彷徨わせて、ヴィルベルトに言った。
「コレは、どういう事でしょうか?」
コレ、とアイヴィーが視線で示したのは、自身の右手である。
その右手は、男性用のショートグローブの上からも分かる、ヴィルベルトの大きく骨ばった手で覆われ、強過ぎはし無いが、決して逃れられない程度の強さで握られていた。
「コレが何か?」
「・・・どうして、手を繋いでいるのでしょう?」
「・・・約束ですから。」
お忘れですか?と、不機嫌な雰囲気を隠しもせず、ヴィルベルトが微笑んで、言うと、アイヴィーは、暫く考えた後、
「ああ!!」と一言答え、深い溜め息を落として、諦めたかのように、窓の外に視線をやった。
二人、キャリッジの中で揺られながら、沈黙が続く中、アイヴィーは、
(ま、魔王様、なんか怖いのですが・・・!!!)
と、心の中で悲痛な思いをしていても、その声は誰にも届く訳もなく、手を繋ぎ、沈黙のまま揺られる二人のデートは、今始まったばかりである。




