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次期公爵様はとってもいい人でした

 

 「まことに、長い時間お待たせしてもうしわけありませんんんん!!!!」


 平伏ってこういう状態を言うんだと思う。

 素敵なロマンスグレーの執事が背中と首筋しか見えない。


 すごいね!!!年上の男性に頭さげられてしまったよ!!!


 「お気になさらないでください。えっと、待ってる間も美味しい紅茶を楽しませていただきましたから―――。」


 「そのような事をおっしゃっていただかなくとも、こちらの不手際であったのはたしかでございます。大変申し訳なく、私への「――おい、もういいだろう。」ございます。」

 

 あ、見事にかぶってる。

 うん、とりあえず、次期公爵様は、見た目年齢よりも若干子供っぽいという事がわかりました。


 「それで?お前が今回、お爺様がよこした見合い相手か。確か、男爵家の令嬢だとか。一体お爺様に何をして、この見合いまでこぎつけたんだ?」


 執事がこれ以上言葉を続ける前に次期公爵様は、いぶかしがりながら、目の目のソファに体をあずけ、マネキンもビックリというほど均整のとれた長い足を組んだ状態で、偉そうにのたもうた。


 いや、えらいんだけどさ。なんか、違うんじゃないか?って思ってしまう私の狭量を許してください。


 「―――(わたくし)も、どうしてこんな事になったのか不思議ですの。」


 まったくだ、私も不思議でしかたない。


 誰か教えてくれ。


 この場合、前公爵様しか、事の顛末を知らないんだよなぁ。

 我が家の姉上様の記憶は抹消されているし。

 とりあえず、新しく注いでもらった、紅茶を一口いただく。さすが公爵家、おいしーい。おもわず、ほほも緩むってものですよね。


 あ、せっかくだから、なんでこんな事になったのか、ぜひお聞きしておこう。どうせ、お見合いは失敗におわるのだし、これくらい野次馬根性だしても、誰にとがめられるわけないしね!!!


 なんといっても、私は、今、姉上様なのだから!!


 「――よろしければ、どうしてこんな事になったのか、(わたくし)にもお教えいただいても?」にっこりほほえんで、次期公爵様にたずねてみる。


 姉上様いわく、男の人と話すときは、とにかく高めの声で話して、笑っていろって話でした。

 そして、言葉遣いは、姉上様のまねっこですよ。


 にこにこ・・・・。


 いい加減何か言ってくれないかな?ほほの筋肉が、最大限頑張ってるけれど、そろそろつらいよぉ。


 それにしても、次期公爵様は、元暴走族か何かなのでしょうか?いわゆるメンチきるってのが、この状態なのでしょうか?


 うん、さっきからずっと、睨んで、がん見ですね。


 ・・・・はっ!!!これは、もしや、目をそらしたほうが負けと、そういう対決なのでしょうか?


 誰が、ただで教えてやるか、と。

 そういうことなのでしょうか?では、私は負けませんよ。


 ただでさえ、長時間暇してたわけなんで、それくらいうまみがなければ。


 うまみという言葉に、ちらりと、先ほどのいただいたクロテッドクリームの事を思い出し、つい、目線をそらし、中身が一新したと思われるケーキスタンドに視線をうつす。


 それと同時に、深いため息が聞こえたので、視線を次期公爵様のほうに戻す。


 「――悪かった。お爺様が勝手にした事とはいえ、何時間もこの屋敷に拘束させることになってしまって。」


 って、それ、絶対悪いって思ってないでしょ!!


 明らかに態度が。


 何故ソファの背にひじついて頬杖ついた状態で謝るんですか!!!!


 まぁ、別に私は、間者みたいなものなので、謝られようが何されようが関係ないのです。

 このお見合いさえ亡き者にできれば。

 というか、次期公爵様もなんで姉上様とお見合いさせられたのかは、知らないのかな・・・?


 「いいえ、そのようなことはまったくありませんわ。こうして、レベニスク次期公爵様がいらして、素敵な御言葉をかけてくださったのですから。レベニスク次期公爵様も、その、――大変ですわね。」


 『何が』大変とは言わない。


 言明しないのが、姉上様いわく、大人の駆け引きらしいから。


 そして、早くお見合いにいたった経緯を説明してくれないかなー?

 それに、ある意味では本当にありがたいと思っています。だって、そちらから、お見合いお断りしてくれると確約してくれるのだから!!!


 『サンキュウ。』と、声高に叫びたいほどですよ。『サンキュウ』が通じないのは、分かりきっていますが。


 しかし、改めて、先ほどの話を考えてみると、どうもこのお見合いは、前公爵様の独断みたいです。

 どこの家にもそういう振り回す人間って一人は居るものなんですかね。


 おかげで、こっちも飛び火して大変だったわけですが。


 先ほどの確約発言のおかげで、それすらも無かったことに出来ますし!!

 これから先お見合いを無かったものにするために頑張らなくていいと分かっていると、なにもかも気らくですよね。


 「貴女に、私の苦労など、わかるまい。」

 うん、だから、何がとは言ってないじゃないか。

 それにしても、そのふてくされた態度はいけ好かないけど。


 イケメンじゃなかったら、注意してた。

 前世年齢だけでも年上だから、今この場で注意しても、なんの問題も・・・あるけどさ。

 問題あるけど、イケメンに負けたみたいでくやしぃ。


 それに、一般的に考えても、初対面の人間の苦労なんてわからない。わかるわけないよ。

 ただでさえ、非モテの人生をを歩んでいるわたしに次々とお見合い話が流れ込んでくるリア充の苦労なんて分かるわけがない。


 だから、『リア銃爆発しろ!!!』と思わず呪いの言葉を発しそうになった事は許してほしい。


 しかし、悲しきかな。イケメンのリア充の苦労は分からないけれど、家族に振り回される大変さはわかってしまう。

 私が、今まさにそうだから。


 だから、ちょっとイラっっとして、ついつい言い返してしまったのである。


 「――・・・そうですわね。それこそ、レベニスク次期公爵様の事を私が何も知らないのと同じ様に、私の事を何も知らないレベニスク次期公爵様に、私の苦労がわかりまして?」


 言い終わったあと、『喧嘩うって(やって)しまったー!』と、焦って、せめてものフォローとして、笑顔でごまかしてみるが、後の祭りでなのは、理解できました。


 前言は撤回できない。先人は偉大な御言葉を常に残していってくれるのですね。


 内心アワアワしていると、ふっと笑みをこぼして、先ほどのふてくされた態度を解いて、紅茶を一口のみ、その美しいご尊顔を最大限に生かした微笑でもって問いかけてくるのである。


 「それもそう、だな。では、貴女の言う苦労とやらをひとつ聞かせてくれないか?」


 にこにこ。


 なんだ、無駄に金髪碧眼のイケメンが愛想よく微笑むとか、なに考えてるんだ。


 しかも、いきなり、態度も言葉も軟化させてきて、先ほどの態度を知らなかったら、私、この世に御伽噺に出てくる王子様は存在する、という迷いごとを完全に信じるところだった。


 あ、あぶなー。イケメンの顔力はんぱない。


 「そ、そうですわね。その前にレベニスク次期公爵様の苦労を是非お聞かせねがえませんか?先ほどのように、暴挙においでになられたのも、その、『苦労』が原因だからでは、ございませんの?」


 君子危うきには近寄らず、ってね。


 私の苦労を話したら私が姉上様ではないってばれちゃうからね。

 いえない。いえないのですよ。


 とりあえず、質問に質問で返すなあーっ!


 ってかの有名な御言葉でもって、怒られてから謝罪する。

 うん、まず返ってこない事は分かりきっているけれど。


 「ははは。参ったな。貴女の察する通りだよ。―――そういうわけだから、私も毎回苦労していてね。」口元をかくして、笑っている次期公爵。


 何が面白い。


 話題丸投げして様子を伺ったつもりが、まさかの好転とは!!予想では、気分を害されるか、黙んまりかなー?って思ってたのに、笑っていらっしゃる、これ如何に。


 「まぁ、期待されている方は大変ですわねぇ。」微笑んで、アイヴィーは、再び『様子見』を選択した!!!


 「いや、そんな事はない。貴女には、本当に迷惑をかけた上に、貴重な時間もつぶさせてしまって申し訳ない。」


 ぺこり。


 と、両手をひざに置いて、ひじを直角にたてたまま、軽く頭をさげてくれる次期公爵様。


 「そんな、ご謙遜を。それに、そんなに度々お謝りいただかなくても、大丈夫ですわ。(わたくし)、ここでお茶をいただけただけで十分楽しい思いをさせていただいたので、それだけで十分ですわ。」


 ついでに、新しくやってきたケーキスタンドの中身を味見(チェック)させてくれば、言うことない。


 しかし、何故だろう話題を丸投げしたはずなのに、遠回しにモテ自慢に聞こえる不思議。


 思わず、イケメンは、何を言っても許されるのか。!?と、再び、あの禁断の呪いを発動してしまいそうになったわ!!

 まぁ、謝ってくれたから、さっきのいけ好かない態度の事は許してあげよう。って、私は、何様か、女王様か。


 「そうか。そういってもらえると、非礼を働いてしまったこちらとしては、すくわれるよ。ありがとう。」


 それに関しては、こちらは何も悪いと思ってないから、そもそも、次期公爵様の謝り損なんですけどね。


 そんなこと、怖くていえませんけどね。むしろ、お見合いお断りしてくれるらしいし、それだけで、私としては、十分なんですよねー。って、それは、次期公爵様は知らないから仕方ないけど。


 やっーーーーと、これで、過去最大級の姉上様の爆弾が回避出来るわけで、それを思うとそれだけで、気分爽快!!家に帰ってこのことを報告できると思うと、この状況も楽しくなってくるわ!!!


 「ふふふ、では、わたくし、そろそろ、お暇したいと思いますの。申し訳ないのですが、馬車を呼んでいただいてもよろしいでしょうか?」

 「――っああ。今、用意させよう。」


 そういうと次期公爵様は、目をみひらいて、驚いた顔をされた後に、執事を呼んで、馬車の用意を頼んでくださったのでした。


 最後に、せめてものお礼といわれて、公爵家の馬車に乗って帰宅したのでした。


 ふっかふかの椅子に感動しつつ、先程、短い時間会話した、次期公爵様の事を思いだして、ふとおもった。


 世の中広いとはいえ、次期公爵様も大変だねぇ。家族に振り回されるなんて。

 私も大概酷い目にあってきたとは思っていたけど、婚約とか軽く残りの人生をかけて振り回されているなんて程では無かったもの。

 そう考えると、今回の事、最初はどうなることかと思ったけど、最終的には、なんとかなったし、私のほうが気楽でツイてるのかもなぁ・・・・。


 なんて、帰りの馬車で考えていたあの時の自分を怒鳴りたい。本気で頭冷やせ!と怒鳴りつけたい。

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