口頭審問の後で
いつもご覧下さる皆様、ありがとうございます。
今回も再び、長くなりそうなので、一度分けて投稿致します。
続きをすぐにでも投稿したいのですが、本日、私用にて、雑務が溜まっておりますので、投稿が遅れると思われます。
遅くとも、明日中には続きを投稿するつもりでおりますので、ご容赦下さい。
ご迷惑おかけしますが、今後とも宜しくお願いいたします。
ごま豆腐
ヴィルベルトは、自信満々に見える態度で、手にした資料を読み上げた。
そして、審問官が頷いて、口を開いた。
「では、今回の審問は、これで終わりになります。何か他に伝えたい事はありますか?」
「いいえ。有りません。」
ヴィルベルトが、ニコリと微笑むと審問官も微笑み、和やかな空気の中、口頭審問は終わった。
◇◆◇◆◇
ヴィルベルトが、帰宅すると、馬車から待ちわびたかのように、エントランス入り口に立っているアイヴィーの姿が見えた。
ヴィルベルトは、嬉しさのあまり、はやる気持ちを抑えつつ、深呼吸をしてから、ゆっくりと馬車を降りる。
馬車を降りると、アイヴィーが、足早に近づいてきて、心配そうに声をかけてきた。
「おかえりなさいませ。ど、どうでしたか?」
「っ。只今帰りました。おかげ様で、何の問題も無く終わる事ができました。後は、知らせを待つのみですね。」
「そうですか!良かった!本当に良かったです!」
そういうと、アイヴィーは心底ホッとしたのか、左手を胸に当てて、ふぅと、息をこぼした。
それを見て、ヴィルベルトが微笑み、アイヴィーに話しかける。
「この後、お時間大丈夫でしたら、少し話しでも―――」
「あ、いえ、あの・・その・・・」
ヴィルベルトの言葉に狼狽えたアイヴィーが、視線を左右に動かして顔を背けた。
その様を見て、ヴィルベルトは、苦笑してから、言った。
「この前の事を忘れてくれとは言えませんが、どうか今は、せっかく口頭審問が終わった事ですから、共同製作者という事で少しだけ気楽に構えて頂けませんか?」
「―――はい。そういう事なら。」
そう言うと、アイヴィーは先に通いなれた、サンルームに案内された。
サンルームに到着すると、まだ、昼を過ぎたあたりということもあり、噴水がジャバジャバと音をたてながら、きれいな弧を描いて、流れていた。
(つい、頷いてしまいましたが、こ、これから今日一番の課題、「騙しててごめんね?」をやらなくてはなら無いと思うと、胃が重くなってきました・・・。うう。
姉上様は、簡単に言うけど、アレは今更ですけど、不可抗力だったのですよぅ・・・。
一体、何て言えば良いのか・・・。
だいたい、いっつも、我が家は、私に面倒事を押し付け過ぎな気がしますよ!ええ。
私、これでも、まだ14歳の幼気な幼女なのですよ!
ぎりぎりR指定かかったいけない本とか読めない年齢なのですよ!
そんな、私に今回も、何という大役を簡単に投げて寄越すのですか!
これこそ、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすというトンでも育児法じゃないですか!!!
そんな、トンデモ育児法を実践しちゃう、我が家の人間は、脳内お花畑としか思えません!!
指図め脳内花畑の・・・花畑牧場ですかね。)
どうやら、アイヴィーの中で偽装の件の解決案は見出されていなかったようで、グッタリした様子で、サンルームのソファの肘掛けに上半身を傾けて、肘掛けに両手で頬杖をついた状態で、まだ物思いにふけるアイヴィー。
(ああ、生キャラメル食べたーい。
キャラメルポップコーン食べたーい!
そういえば、昔、生キャラメルが大流行した時に、わざわざ飛行機に乗って、新千歳空港まで買いに並んだ事がありましたねぇ・・・。
ええ、あのとき、何故、並んだかというと、前世の友に言ってしまったからなのです。
「(架空の)彼氏が北海道土産に生キャラメルを、お土産頼んだの〜。だなら、皆におすそ分けするね!」と。
なんという、しょうもない嘘をついたのでしょうか、私。
そして、その為の往復費用が、更に痛かった。
一日で諭吉さんが、5枚もサヨウナラしましたよ。
その5枚で一体、何が出来るというのか。何が、買えるというのか!!
それにしても、思い返してみれば、私の周りは、私を含め嘘だらけの前世でしたねぇ。
前世の中でもこと恋愛に関しては、愛しているとささやく男は大概、ダメンズか既婚者ばかり。
そう考えると私の男運の無さは、今に始まった事では無いのかもしれません・・・。
ああ!!悲しき哉、人生!
どうせなら、ついでに、その類似タイトルの映画でもって、キャラメルポップコーンをほうばりながら、キャプラン監督の作品を見て、我が人生について省みたいです。
前世記憶が有るより、映画みたいに、守護天使とかそういうファンタジーな生き物が、現れて、こう、上手いこと手助けしてくれないかなー。
私、こう言ってはなんですが、結構人の役に立っていると思うのですよ。うん。
・・・・便利な発明したりね?)
そんな取り留めもない事を考え、本来の目的を完全に忘れているアイヴィー。
アイヴィーが、楽すぎる姿勢で、ヴィルベルトを待っている間に長方形のローテーブルには、ティーセットが用意されていた。
そして、着替えを済ませたヴィルベルトが、やってきて、アイヴィーに声をかけた。
しかし、アイヴィーは、無反応を示すばかりだったので、
「ふむ。」と、1人納得したヴィルベルトは、アイヴィーの隣に静かに腰掛け、用意された紅茶を1人楽しんでいた。
ヴィルベルトが隣に座っているとは思ってもいないアイヴィーは、目の前に用意されたティーセットにめの端で見やってから、溜め息まじりに呟く。
「・・・魔王様は、まだですかね。」
「・・・魔王とは・・・私の事ですか?」
瞬間、アイヴィーは固まって、血の気が引く思いをしながら、ゆっくりと体を正し、ゆっくりと首を横に向け、笑顔を取り繕い、ヴィルベルトに尋ねた。
「・・い、いつの間にそちらに?」
「今しがたですね。お声おかけしたのですが、お気づきになられ無いので、頂いていました。」
そういって、ニッコリと微笑むヴィルベルトの手には、ティーカップがあり、そのカップを優雅に持つと一口紅茶を飲んだ。
「い、今の聞いて・・・?」
「私の事を魔王、と呼んだ事ですか?」
「・・・・。」
ヴィルベルトは、平然とした顔をして、手に持ったカップをテーブルの上のソーサーに戻すと、足を組、アイヴィーの方を見て、笑顔で言った。
「恋情を抱かれていないというのは理解出来ていましたが、まさか、魔王とは。私は、厄災でしょうか?」
「・・・・ど、」
「ど?」
「どうか、お許し下さいー!!」
アイヴィーは、ソファから、飛び跳ね、淑女らしさもなく、平伏した。
土下座である。
それを見た、ヴィルベルトが、こぼすように笑い声を漏らす。
そして、ごほんと一つ咳払いをすると、アイヴィーに向かい、質問した。
「どうして魔王なのかお聞きしても良いでしょうか?」
「・・・・。」
(え、そんなの、言えないよ!
なんという、何という、質問をなさるのですか!
だから、魔王なのですよ!私にとって、貴方は、常に厄災なのです!
いくら、こちらがね、防御シールド張ろうと、眼鏡で、簡単に打ち破ってきたり、接近してきたり、トンデモ魔法で、私を魅了しようとしたり為さっていたじゃないですか!
そのお蔭で、私の心の平穏は、遠ざかったのですよ?
それを魔王と言わず、なんと呼べと??
厄災でしょ?!どう考えても、私にとっての厄災ですよ!貴方は!
だから、魔王なのです。
だいたいね、そんな、中2病的な事、説明出来るわけないじゃないですか!分かってますか?!どんな羞恥プレイなのですか!それは!
その上、私が魔王様にトキメ・・・胸をドキ・・・心臓を溶かされそうになった過去を素直にお話する訳にもいきませんよね!!
そんな事したら、魔王様が、確実に、今の状況だと、勘違いされて、とんでもない大魔法繰り出してきそうですし!!
ええ、この発想が、確実に高飛車な発想だとしても、大魔法繰り出される可能性を考えたら、選択肢は一つしかないのです!
ここは、回避するのみ!)
「そんなに話せない事ですか?」
「・・・理由については、ご容赦下さいませんか?」
そう言って、アイヴィーは、ヴィルベルトに顔を少し伏せてそらした状態で、口元を隠した。
ヴィルベルトは、組んだ膝の上に両手を乗せて組むと、アイヴィーに重ねて、尋ねた。
「何か、話せない理由が?」
「これ以上は何も言えません・・・。」
「そうですか・・・では、話さなくて良い代わりに何か一つ、私の願いを聞いていただけませんか?」
そう言われた、アイヴィーは、顔を上げて、眉を寄せて、不機嫌そうな顔をして答えた。
しかし、アイヴィーに何か理由を話さないで済む様にする事が出来るはずもなく。
ヴィルベルトの提案に嫌嫌ながら、受け入れるしかなかった。
「・・・わかりした。私に出来る事なら。」
(くっ!!!流石魔王様ですね。この好機をのがさないとでも言いたい様ですね。
いえ、言ってらっしゃるのですね!!
仕方有りませんが、背に腹は変えられません。
回避を選択した時点で、タダで済むとは思ってませんでしたし。
可能な限り受け入れましょう!!)
「そうですねぇ・・・では、今度の貴女の誕生日にデートをして、手を繋いで下さい。」
手に指を当て考えるフリをし、暫く間を置くと、ヴィルベルトが笑顔で、そうのたまった。
それを聞いたアイヴィーが眉のシワをさらに深めて答えた。
「・・・図々しくありませんか?」
「どうしてですか?手ぬるいくらいだと思いましたが・・・それとも、貴女は、私に、私の愛称についての理由を教えてくださるのでしょうか?」
それを聞いたアイヴィーが、疑わしげな表情を作ると、ヴィルベルトに尋ねた。
「ヴィルベルト様」
「何でしょうか?」
「・・・貴方様は、本当に私の事が好きなんですか?」
「どうしてその様にお想いに?」
「ヴィルベルト様の言う、手ぬるい、お願いが私にとって、とても手ぬるくありません。」
そう言うと、アイヴィーは、口を尖らせて不満な顔をした。相変わらず、手は床につけた状態で。
「そうですか、私の愛を疑うというのなら、私はいつでも行動で示してあげますよ。試しに、そうですね・・・キスでもしますか?」
ヴィルベルトは、楽しそうに笑顔を向けて答えると、ソファから少し身体をお越して、アイヴィーに近づこうとした。
その瞬間アイヴィーが、身体を後ろにそらし、手をブンブンと振り、ついでとばかりに、首もブンブンと左右に振った。
「け、結構でございます!!!デート、デートで!デートで!」
そう、語尾を強めて答えると、ヴィルベルトが楽しそうに、目元を緩めて、口を覆い、両手をきつく組んで、肩をカタカタと少しゆらして、笑いを堪えていた。
ヴィルベルトの笑いがひとしきり終わると、最高調に不機嫌な顔をしたアイヴィーが、言った。
「・・・楽しかったですか。」
それを聞いたヴィルベルトが、目尻に浮かべた涙を指で払うと、
「ええ。貴女はいつも私を思いがけない感情に連れて行ってくれるので、とても楽しいですね。」と、答えた。
そして、ヴィルベルトは、アイヴィーに手を差し出して更に言う。
「では、これで、決まりということで、貴女も、そろそろソファに座って下さい。」
そう言うと、ヴィルベルトは、手を差し出した状態で、自分の横のソファを軽く叩いて、アイヴィーを見ていた。
それを見たアイヴィーは、眉を寄せて疑わしい視線を向けると、ヴィルベルトに尋ねた。
「・・・本当に怒っていませんか?」
「怒っていません。」
「本当の、本当ですか?」
「本当の本当の本当です」
「これで、手を打ってくださるのですか?後で、この事で何か言ってきたりしませんか?」
「後で何か言ってきたりしません。」
そんな、オウム返しなやり取りを終え、アイヴィーが納得し、手を握って握手を交わした後、元いたソファと違う、一人がけのソファに腰をおろした。
「どうして、そちらに?」
「いけませんか?」
「―――いけませんね。」
「ど、どうして??」
「ああ、傷ついた心が痛むなぁー。」
ヴィルベルトの棒読みも甚だしい。
その言葉を聞いたアイヴィーは、驚き、慌てて、声を発する。
「ヴィルベルト様!!さっき何も言わないって!」
「何も言っていません。ただ、心が痛むと言っただけです。」
そう言うと、ヴィルベルトは、笑顔でアイヴィーを見た。
暫く、笑顔のヴィルベルトと、不貞腐れた顔をしたアイヴィーが見つめ・・・睨み合っていると、諦めたかのように、溜め息をついたアイヴィーが、
「仕方ありません、今日だけですよ?」と言って、ヴィルベルトが座っているソファに腰掛け直した。
そして、ヴィルベルトは、口元を手のひらで覆い隠すと、
「―――貴女が隣に座っているという事が、私にとって、今日一番の幸せですね。」と言って、破顔し、アイヴィーの背もたれに手をかけて、言った。
「そ、そういうのは、ちょっと・・別の人とお願いします。」
アイヴィーは、顔を背け、両手で壁を作って答える。
それを聞いたヴィルベルトは、眉を下げ、苦笑を漏らして、少し悲しそうな顔をして、答えた。
「貴女は、いつも、つれないな。この際だから、是非、貴女の理想の男性というものをお聞きしたい。」
「またですかぁ!???」
アイヴィーは、驚きのあまり、目を見開き、瞬間、言葉を発してしまった。
アイヴィーが、これで、ヴィルベルトに、理想の男性像について聞かれるのは、2回目である。




