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恋とは何でしょうか?

 (『私は貴女の事が、好きなのだと思います』


 ハニカミながら、魔王様は、そう仰っていました。


 どぅああーーー!!

 何それ!何ソレ!ナニソレ!!


 ちょっと、全然、思考が、追いつかない!魔王様のお言葉がリピートして、全然、気持ちが纏まらない!!)


 アイヴィーは、公爵家から帰宅後、自室のベッドに潜り込み枕と枕に頭を突っ込んで、唸っていた。

 頭隠して尻隠さず。の状態で。


 (うん、落ち着こう?私。落ち着いて、考えよ?

 落ち着いて、今後、私かどうすれば良いか、考えましょう??


 『図々しくお願いして良いなら、私の事を嫌いにならないで下さい。』


 だっーーーー!!


 嫌いにとか、ナニソレ!ナニソレ!ナニソレ!


 もう、私の脳内、静かにして!!!

 魔王様の発言をエンドレス再生するの止めてください!

 まるで、集中出来ないでございます!!!)


 アイヴィーは、そう思うと隠していた頭を枕から出し、今度は、枕の端を掴むと上下にバフバフと叩きつけた。


 (ふぅ、ふぅ、ふぅ。


 図らずしも、いい運動ですね。


 それで、と、とりあえずは、明日ですよね。明日。

 明日は、口頭審問の日ですからね。私が直接出向く訳ではなくても、もともと、公爵家でお待たせさせてもらうという約束ですし。


 何より、さっきの最終確認で、本当に大丈夫だったでしょうか?


 ・・・なんだか、とっても不安になってきました!!


 特許が取れないのは、問題無いとしても、ヴィルベルト様に、無能のレッテルが貼られたりしたら、ど、どうしたら良いのでしょうか!?


 ノッーーー!!


 それは、全て私のせいってことですよね?


 無能というレッテルを貼られた魔王様に何をされるのか!!!考えただけ――――


 『私は、貴女を傷つけるつもりは、有りません。』


 シャーラップ!!!黙って、脳内魔王!


 私情に引きずられて大切な役割を忘れていたなんて大問題です!!


 そ、そうです。私とヴィル――――魔王様は、この特許のお陰で婚約者となれたのだから、最低限、特許に関して、仕事を疎かにしてはいけないですよ!!!そうですよ。


 だから、明日、きちんと公爵家に行って、最低限、しっかり役割を果たさなくては。

 まずは、それです。

 今日の名誉を挽回しなくてはいけません!


 そ、そう。だから、ヴィル――――魔王様のお気持ちに対する返事は、その後考えましょう。


 こ、これが、大人の対応というものなのです。


 今、分からないものは、後で。そう、塩漬けですよ。塩漬け。

 砂糖たっぷりの甘言でも塩漬けなのです。


 いつだって、しょっぱいのが私には、お似合いなのです。


 だって――――    )


 バフバフと叩きつけていた枕をギュッと抱きしめたアイヴィーは、深く息を落とした。


 そのタイミングを図ったかのように、ウェンディが、アイヴィーの部屋の扉をノックし、返事を待たないまま、入室してきた。


「あら、アイヴィー、貴女、まだ、外出着なの?」

「い、今から着替えようと思っていたところですぅ」


 アイヴィーは、口を尖らせて答えると、ベッドの上から降り、自室のクローゼットを開けて、ドレスを脱ごうとする。

 それを見たウェンディは、溜め息をついてアイヴィーに近寄ると、アイヴィーの身体を締め付けていたコルセットの紐を緩めた。


「手伝って差し上げるわ。」

「あ、ありがとう。」


 ウェンディは、手慣れた様で、ドレスの下にあるコルセットの紐を緩め、アイヴィーから、コルセットを外すと、近くに置いてある、ビスチェの紐を締めた。

 それが、終わると、ウェンディは、アイヴィーから離れ、アイヴィーの自室に用意されたシンプルなソファに腰掛けた。


「それで、お姉様、何の用ですか?」


 アイヴィーは、そう尋ねながら、クローゼットの中にあるシンプルな形のシャツワンピースを一つえらび、着ると、ウェンディが座った横に、化粧台から小さな椅子を持ってきて座った。


「用という程の事でもないけれど、明日、口頭審問でしょ?だから、その前に、アイヴィーに聞いておきたい事があって。」

「聞いておきたい事ですか?」

「そうよ。貴女、次期公爵様に、きちんと本当の事は告げているの?」


 そう、ウェンディがアイヴィーに尋ねると、アイヴィーは眉を寄せて、何のこと?とでも言いたい顔を作って、首を傾げた。


「貴女、初めの頃、私と偽って、公爵様とお会いしていたでしょう?私、貴女の恋を応援するのに、すっかり失念していたわ。

 ごめんなさい。

 結局、あの後、お父様も謝罪していない状態ですし―――ですから、まず、明日の口頭審問が終わったら、次期公爵様にしっかり謝罪して、本当の事を話なさいませね?」


 笑顔でウェンディがそう言うと、アイヴィーは、狼狽えながら、答えた。


「な、なんで?もう、今更―――」


「アイヴィー。恋に嘘は禁物よ。

 ここまで時間が経ってしまったのだもの、次期公爵様の信頼を裏切る事になってしまうでしょうけど、貴女の口から本当の事を告げなくては、ここまで築き上げた貴女たちの恋は、いずれ終わってしまうわ。」


「だから、お姉様、私、恋なんて、してな「アイヴィー、貴女まだそんな巫山戯た事を言って誤魔化そうとしているの?あの素敵なドレスや宝石を送るのが、たかだか婚約者という役割の女性に送る品だとでも思いたいの?」」


 相変わらず、アイヴィーの話を聞く気はほとんど無いらしいウェンディは、アイヴィーの否定の言葉に被せて、確認する様に尋ねた。


「あれは、お披露目パーティーだから・・・」


 そう、アイヴィーが尻すぼみに声が小さくなりながら、答えると、ウェンディは、溜め息をつき、アイヴィーの頭から溢れる髪の毛を耳にかけながら言った。


「いい事?贈る品ものに価値があるとしたら、値段ではなく、その品に込められた想いよ。貴女、次期公爵様からあれだけ日に日に増える品を見ても全く何も感じないの?――もしそうだとしたら、とんだ間抜けで頓珍漢な阿呆という事がハッキリするわね。」

「お姉様、それは言い過ぎでは・・・」


 アイヴィーが片目を細くして、疑わしげな表情をすると、ウェンディは、ニコリと微笑みながら、答えた。


「言い過ぎなわけ有りませんでしょう?貴女、物を贈るって事にどれだけ労力がかかっていると思っているの?

 例えば、毎日贈られてくる、この花一つとっても、相当な労力なのよ?その労力をしてでも、貴女の事を想ってくださっている事が分からないの?」


「そんな事思うなんて、お姉様だけでは・・・?」


「まぁ、口の減らない阿呆な妹ね?

 貴女、次期公爵様の事好いていらっしゃるのでしょう?

 こんなに大切に想われているのに、どうして、そこまで、失礼な発想が出来るのかしら?謙遜も行き過ぎると失礼でしてよ。

 一体、この頭には、何が詰まっていらっしゃるのか、是非とも教えて下さりませんこと?」

「・・・・脂肪とタンパク質です」


 ウェンディの言葉に、アイヴィーは、首を横にむけて、顔を背けてそう言い切ると、ウェンディは、ニコリと笑顔を強めると、よくお聞きなさい。と、前おきして言った。


「考えてもご覧なさい。品ものを贈るのに必要な事を。

 金銭は当然ですわね。

 では、この花はどうやって選ぶのかしら?花は香りや色、種類にまで様々な意味が込められる代名詞よ?


 その花をこうも毎日贈ってくる理由を何だと思っていらっしゃるの?


 それに、毎回、お土産を頂いて帰ってくるでしょう?それだって、次期公爵様のお心遣いの表れではないの?


 このドレスだって、規制品の高いものをそれなりに手直しすれば、楽だし、費用も抑えられるのに、わざわざ貴女に似合う意匠のものを贈って下さったのでしょう??


 貴女、これが次期公爵様から貴女への恋心がなせる技で無いというのなら、なんだというの?


 それこそ、義務感等という巫山戯た答えを出そうものなら、貴女、将来は、修道院行きですわよ!!」


「そ、それはちょっと・・・」


 ウェンディの勢いに若干及び腰になるアイヴィー。


「でしたら、何をしなくてはいけないかお分かりですわね?」

「・・・・。」

「お 分 か り で す わ ね?」

「・・・わ、わかりました。」


 アイヴィーとウェンディは、恋の話となると、いつもこのパターンである。


 アイヴィーの返事を聞いたウェンディは、ニコリと微笑んで、頷くと、

 「では、お話はそれだけですから、これで、失礼しますわ。」と言って、部屋から出て行った。


 さて、部屋に一人残されたアイヴィーはというと・・・


 (ど、どうしましょう??・・・姉上様のせいで、さらなる問題が追加されてしまいました・・・)


 がっくりと、肩と頭を落として、落胆していた。

 

ご覧下さる皆様、いつも、ありがとうございます。


補足ですが、アイヴィーは、いつも色々揶揄っていましたが、ウェンディの事が大好きです。


今後とも皆様に、少しでも楽しんで、読んで頂けるよう精進して参ります。宜しくお願いいたします。


ごま豆腐

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