ギャフンと言わせる作戦らしい
(こんにちは、アイヴィー・オルウェンです。
あれから、2週間程たち、明日、特許出願の口頭審問が行われるにあたり、最終確認の為にお披露目パーティー以来となる、公爵家にお邪魔しております。
季節はすっかり初夏から夏本番に差し掛かろうとしております。
そんな、日差しの中、避暑を求めて、公爵家庭園内部にある東屋にて、魔王様と本日お茶を頂いております。
ええ、あれから、私、心身共に鍛錬すべく、運動を始めました!!
2週間で、どれほどのものかと思いますよね?
大した事無いだろうと。
ですから、私の長い人生経験の粋を集めて敢行いたしました!
食事の炭水化物を大幅にカットして、もちろん、お菓子は厳禁で、キッツい筋トレを敢行いたしました!
基本は乗馬と体幹トレーニングに単純に食事制限ですね!!うん。食事制限がめちゃくちゃしんどかったよ!不摂生でないけれど、口寂しくなるダイエット・・・。欲望との戦い。
そんな、トレーニングと・・・食事制限・・・な日々を過ごしておりました。学園に通いながら。
たかが、2週間、されど2週間。
・・・もう、こんな過酷な日々は、思い出したくもない、自分がどれほど煩悩に塗れているのか、理解できましたよ。
そして、数々の苦労を乗り越え、本日に至ります。
おかげで、みっともないと、幼児体型だと言っていた、この体にくびれが自然に出来て、腕も首もホッソリ?してきたとおもわれます。
そして、この2週間、美容の鬼の姉上様に弟子入りして、セルフマッサージ等、出来る事は全て頑張りました!!
公爵家だとメイドさんがフルコースやってくれていたのを今更ながら、この時、ものっそい感謝しました。
おかげでみてください!この肌!胸!髪!ツヤツヤでぷるぷるでございます!
ふふふ!ここまで、可能な限り完璧に仕上げてきたのです!今日は、なんとしても、魔王様の驚き慌てる姿をこの目に焼き付けますよ!!
お覚悟を!魔王様!!)
何故だか、ヴィルベルトに対して、冤罪を着せ、完全に逆恨みしているアイヴィー。
そんな事になっているとは知らないヴィルベルトは、いつも通りの笑顔でもって、アイヴィーに話しかけた。
「いつも来て貰ってありがとう。アヴィー。」
「いえ、お世話になっているのは、私の方ですから、何も気に為さらないで下さい。」
「本題に入る前に――――この前の宿題の答え、教えてもらおうかな?」
そういうと、ヴィルベルトは、紅茶の入っているカップを置いた。
「ええ、ヴィルベルト様が、どうなさりたいのか、というお話で間違いありませんか?」
「ええ、まぁ、そうですね。」
ヴィルベルトのその言葉を聞いた、アイヴィーは、一度目を閉じ、間をあけてから、再び瞼をもちあげ、アイスランドブルーの瞳で、ヴィルベルトを見つめて、笑顔で答えた。
「では、一言、今日の私・・・どうですか?」
「・・・・どうとは?」
「どうとは、そのままの意味ですわ!今日ヴィルベルト様にお会いする、この日の為に私、頑張りましたの。少しはヴィルベルト様・・・いえ、公爵家の婚約者として見れる様に成りました??」
「・・・貴女の言いたい事を理解出来ません。」
笑顔のまま、ヴィルベルトは答え続けると、アイヴィーが、少し前のめりになって、言葉を続けた。
「で す か ら!私、今日の為に前から準備して、装いもそうですけど、ちゃんと少しでもヴィルベルト様に見合う様に、頑張って、綺麗にしてきたのです!ですから、きちんとすみからすみまで、見てくださいませ!」
「・・・・。」
どうだ!とでも言いたげな表情で、ヴィルベルトを見ているアイヴィー。
しかし、アイヴィーは、自分の発言を理解しきれていなかった。
ヴィルベルトには、どんなに、心の中で、違うだろう。期待するな。と思っていても、『貴方に見合う為に綺麗にしてきたのよ』という風にしか聞こえない。
実際、アイヴィーの言葉は、どう見てもそうとしか聞き取れなかった。
「・・・まさか、貴女も私と同じ気持ちだったのか・・・??」
ヴィルベルトは、そう、少し照れて、頬を緩めて、己の口元を手のひらで隠して呟いた。
(は???何ですか、それは!
自分が醜いって自覚が有ったんだー、へぇ?とか言いたいのでしょうか。この魔王様は!
何処まで人をコケにしたら気が済むのかしら!キーッ!!
悔しい!!この2週間の努力が!別の方向に嫌味として帰ってしまいました!!
・・・なんという、屈辱。
もう、私、魔王様にどうやって勝てるのか、わかりません!
誰か、この不甲斐ない私に、魔王の攻略法を伝授してください!)
そう思いながら、アイヴィーは、目元をうるませて、ヴィルベルト本人につい愚痴をこぼした。
「・・・ヴィルベルト様は、意地が悪いですね。」
「何故そうなるですのですか?」
「だって、私の事お嫌いなのでしょう?だから、そうやっていつも意地悪ばかりなさるのでしょう?」
「・・・貴女は、いつも私の言葉を何か、勘違いしていますね。この際ですから、ハッキリと申し上げますが・・・・―――――」
そこまで、ヴィルベルトが言葉にして、言葉に詰まった。
ヴィルベルトの続く言葉が気になるアイヴィーは、首を傾げて、ヴィルベルトに続きを促すように、言った。
「・・どうしました?是非ハッキリ仰っしゃって下さい。私、もうこれ以上傷ついたりいたしませんから。」
(ええ、本気で、何十回貴方に挑んでいると思うのですか。
毎回、毎回、状態異常系の魔法使ってくると思いきや、普通に物理攻撃もしてくるし!
しかも、必殺アイテム、矯正武装解除をいつでも繰り出してきますしね。
これ、パーティー組んで倒す敵だから!って、何回思ったか!
毎回、魔王様の対応が、口から吐く程の砂糖なんですけど、攻撃力が塩過ぎて、本当にソロプレイヤー向きじゃないから!)
アイヴィーがそう言うと、ヴィルベルトは、少し間を置いてから、姿勢を正して、できるだけ誠実に見えるように答えた。
「まず、私は、貴女を傷つけるつもりは、有りません。」
「・・・そうでしょうか?」
そう、アイヴィーがムスっと、不満顔をしていると、ヴィルベルトは、息を一つついて、笑みを強めて、答えた。
「自分でも信じられませんが、私は、貴女の事が、どんな時も、どうしようもなく気になるのです。おそらく、この今の状態が、恋しているという事なのだと、推測していますが―――私は貴女の事が、好きなのだと思います。」
「―――・・・ヴィルベルト様が、私を、好、き???な、なんで???」
アイヴィーは、驚きのあまり、目を見開いて、独り言のように、そう呟いた。
「何で、と聞かれると難しいですね。気付いていたら、としか答え様がありませね。」
ヴィルベルトは、少し恥ずかしそうに頬をかいてそう答えた。
(ま、ま、まさかの告白がっ!!!
こ、これが、いつぞやの『気付いたら、それはもう恋に落ちている』という中2病的な状態という事じゃないですか!!!
え???!!いや、無理、ムリムリムリムリムリムリ!!
こんな顔面偏差値と高い人と恋人なんて、出来る訳がない!
恋人になったら、あーんな恥ずかしい姿やこーんな恥ずかしい姿を晒さなくてはいけないのですよ??ムリムリムリムリ!!!)
アイヴィーは、首を横にブンブンとふりながら、否の態度を示した。
それを見たヴィルベルトが苦笑混じりに言葉を続ける。
「貴女が、私をそういう対象として見ていないのは、この前のパーティーで、理解しています。ですから、今すぐどうこう成りたいと考えている訳ではないのです。ただ、貴女に対して私が思う気持ちに誤りが無いよう、伝えたかっただけなのです。」
そう、ヴィルベルトが答えると、アイヴィーは、ガタリと椅子から立ち上がって、ヴィルベルトに向いて口を開いた。
「あ、あの、私・・・」
「お願いてす、お返事は、また、にして頂けませんか。今、答えないで下さい。もともと、今日貴女に告白するつもりなんて無かったのですから。」
ヴィルベルトは、少し慌てたように顔を背け、テーブルに左肘をつき、その肘をついた手で、顔を半分隠し、目をそむけると、右手で、止の合図をしめした。
「で、でも・・・」
アイヴィーが俯きがちに、そう答えると、ヴィルベルトは、ため息をついて、苦笑し、再び答えた。
「貴女のお気持ちが今すぐどうにかなるとは思っていません。―――ただ、そうですね、図々しくお願いして良いなら、私の事を嫌いにならないで下さい。」
そういうヴィルベルトの表情は、今までみたヴィルベルトからは、想像もつかない、なんとも辛そうに顔を歪めた表情だったので、アイヴィーは、それ以上何も言えず、再び椅子に座って、頷くだけだった。
その後の話し合いは、いわずものがな。
ヴィルベルトが、確認事項を話しかけ、アイヴィーが頷くだけ、というなんとも気まずい雰囲気の中行われ、いくつか確認が終わると、ヴィルベルトが、今日はお終いにしましょうといって、その日は、解散となった。
結局、アイヴィーのギャフンと言わせる作戦は不発に終わり、アイヴィーは、何も考える事が出来ないまま、明日、口頭審問を控え、帰宅した。




