お披露目パーティー 昼の部
いつもご覧下さりありがとうございます。
今回の話、一部BL表現を含みます。苦手な方は回避を。
あとがきにて、纏めを記載しておきます。
宜しくお願いいたします。
昼は、園庭で軽食を取りながらのカジュアルなパーティーだった。
主催者である、公爵家の面々とアイヴィーは、代わる代わるやってくる親類縁者に挨拶をし、気持ち程度のやり取りを交わしていく。
予め、資料として渡された名前と婚約祝いの品の情報、本人の特徴を覚えていたアイヴィーでも、流石に五十人前後の人と一度に介し、会話をすると少し疲れてしまうようで、気持ち頬が引き攣っている。
(つ、つかれた。何もしていないし、殆ど動いてないのに、何でしょう!この疲労感は。
人間は一瞬の内に大量の情報を処理しているというけれど、正にそれですね!
私、CPUには自信がないのです。
あくまでもメモリーの容量が、莫大という。そのおかげで多少処理速度が速い様に見えますが、お情け程度の副産物なのです。
そのメモリーも基本は前世記憶が占領してるので、あまり頭の回転が良いとか出来る女子感が薄いでございます。
・・・何故だろう。
そもそも!そもそもですよ?
私のこの能力は、使用者である、私に依存してるので、その私が、感情に揺り動かして、すぐにデータ異常を起こすとなれば、この能力すらも微妙に役立たずなわけで!!!
オーノー!
つ、使えない!思っていた以上に使えない!リアルタイムに弱すぎるという最大の弱点を克服しなければ、使えない!)
自身の能力に愕然としているアイヴィー。
それを見た、ヴィルベルトが、耳元にコッソリと話しかけてくる。
「大丈夫かい?もう、殆ど挨拶も終わったから、少しあちらで、ドリンクでも取りにいってこようか?」
と、バリトンボイスでそう言ったヴィルベルトに、アイヴィーはこくりと頷いた。
(魔王様ー!
耳元で、そのバリトンボイスを放ってはなりませんよ!その声は凶器ですから!私の脳を簡単に殺せますから!そのバリトンボイスは、低周波でもって、悩殺ならぬ、脳殺してくれますからね!
ここ、覚えておいてください!!)
と、相変わらず心の中で力説するアイヴィーからヴィルベルトが、離れようとした時、二人の後方から声が飛んできて、二人は声の方を振り返った。
振り返った先にいたのは、栗皮色の髪色をしたタレ目をした優しそうな顔をしたイケメン男性だった。
「やぁ、ヴィルベルト!」
ヴィルベルトの名を気軽に呼ぶ声の主は、手を広げながら近づいて、ヴィルベルトと握手をした後、お互い軽くハグをし、肩を叩きながら、ゆっくりと離れた。
そして、離れた後、ヴィルベルトが嬉しそうな顔をして、タレ目の男性に言った。
(魔王様が、イケメンタレ目男子のハグに嬉しそうな顔するとか!何それ!
これが、正に、と、尊い瞬間というものなの・・・?!!)
何食わぬ顔をしているも、興奮で少し頬を染めたアイヴィーは、二人の続く会話を逃すまいと、必死に見守っていた。
そんなアイヴィーに気付く事無く、二人は、話しを続けている。
「ジョシュア、元気そうじゃないか!」
「お前こそ、健勝のようで何よりだよ!暫く会わないと思っていたら、こんなに綺麗な女性と婚約パーティーだというじゃないか、一体何処でこんな美女と出会うんだよ!」
「何を言ってる、お前には、カトリーナが居るしゃないか。」
「ああ、彼女とは、もう別れたよ。それより、ヴィルベルト、君の大切な婚約者を紹介してくれないのか?」
「ああ、そうだった。ジョシュア、こっちが、婚約者のアイヴィー・オルウェン男爵令嬢。アイヴィー、こちらが、ジョシュア・ローレン・バークス伯爵令息。」
そう、ヴィルベルトが二人に二人を自己紹介すると、ローレンと言われた男が、アイヴィーに右手を胸に添え、左手を腰に回した後、綺麗にお辞儀をして、挨拶をしてくれた。
「お初にお目にかかります。只今、紹介に預かりました、ジョシュア・ローレン・バークスと申します。この度は、ご婚約おめでとうございます。」
そして、今度はアイヴィーが膝を少しおって、腰をかがめ、スカートの裾をもって、お辞儀で答えた。
「ありがとうございます。この度は、パーティーにご参加いただいきありがとうございます。私、アイヴィー・オルウェンと申します。以後お見知りおき下さいませ。」
挨拶を終えたアイヴィーが顔を上げると笑顔のジョシュアが、楽しそうな顔をして、アイヴィーにいった。
「いやぁ、本当に素敵な方だ。一体どうやって知り合ったのか、是非、その経緯を教えていてだきたい!」
その言葉を聞いた、ヴィルベルトは、片眉を上げて、不機嫌な視線をジョシュアに向けて答えた。
「おい、止めろ。彼女とお前は違うんだ。聞くなら、彼女ではなく、私に聞けば良いだろう?」
「ヴィルベルト、何をヤキモチ焼いてるんだ?どうせ、お前に聞いてもまともな答えなんて期待出来ないのは、分かっているから、こうして、彼女に伺っているんじゃないか。」
「・・・アヴィー、こいつは、この様に、薄情で軽薄な男です。だから、今後あまり近づかなくて良いですからね。」
ジョシュアから視線を外し、アイヴィーの方に笑顔を向けて、ヴィルベルトはいった。
「何を言う!俺の何処が、薄情で軽薄だとあうのか!ヴィルベルト、俺とお前の仲だというのに、その様な言い方があるか!?」
「お前の全てが軽薄で薄情なんだ。だいたい、何が『俺とお前の仲』だ。たかだか、一晩世話になっただけではないか。」
「あの一晩が、そんなに軽い扱いとは、俺とお前の関係はそんなものだったのか・・・?それこそ、お前の方が薄情というものでは無いか。」
ジョシュアは口元も隠しながらそう答えると、残念だ。と小さくつぶやいた。
その呟きを聞いたヴィルベルトは、眉を潜めて、答える。
「・・・ジョシュア、お前、いい加減にしろ。一体いつまでその話を引っ張るつもりだ。」
正に、不機嫌という表情が当てはまる。その不機嫌顔を体現したヴィルベルトが、ジョシュアを睨めつけていうと、口元を隠して悲しそうな表情を浮かべていたジョシュアが、パッと楽しそうな顔に変わり、答えた。
「お前が気にしなくなる迄だな。」
そのやりとりを何食わぬ顔で眺めていたアイヴィー。
(一体、二人の間に何が有ったというのー???
めちゃくちゃ気になるのですが。
しかも、この話を魔王様に聞くなんて恐れ多い事出来ないと分かっていて、魔王様は、話題を終わらせようとなさっているじゃないですか!頑張れ!ジョシュア様!
この会話は、全ての腐った乙女、いえ、脳殺されて、腐った乙女があらゆる妄想を掻き立てるフレーズのオンパレードなのでございます!ジョシュア様!貴方の頑張りが、全て私の楽しみになるのでございます!!
そう・・・例えば・・・。
『あの一晩が、そんなに軽い扱いとは、俺とお前の関係はそんなものだったのか・・・?』
人当たりの良さそうな優しい顔をしたジョシュアが、ヴィルベルトを壁際に追いやると、壁のちょうど顔の横の位置に手をついて、獣のような表情をした顔を寄せ、ヴィルベルトに問い詰めていた。
『ち、違うっ!私だって、ジョシュアとの事をそんなふうに考えたくは、ない。・・・考えたくはないが、どうしろと言うのだ?』
ヴィルベルトは、寄せられた顔を頬を赤く染めて、ツイとそらし、答える。
その様子がさらにジョシュアの気持ちに拍車をかけ、もう片方のてを壁についた。
そして、ヴィルベルトは、ジョシュアの視線から逃げられないと悟るとジョシュアの方へ顔を向けた。
ヴィルベルトとジョシュアの視線が重なると、顔を歪めたジョシュアが、切なそうにヴィルベルトに言った。
『・・・分かっている。ヴィルベルト、お前がそんな人間ではないという事は。俺だって辛いんだ。』
そして、二人の視線が重なり絡み合うと――――。
ファーッ!!!
・・・まことに、まことに申し訳ございません!魔王様、ジョシュア様!!!)
一体、何を想像したのか。
アイヴィーが、心の中で妄想した内容に謝罪しながらも、二人の会話に耳を傾け続けている。
そうとは知らないヴィルベルトとジョシュアの二人は、会話を続けていく。
「ジョシュア、そうやって私をからかって楽しいか?」
「ああ、楽しいな。ヴィルベルト一人が、独り身の寂しさから開放されたと思うと羨ましくも、腹立たしいからな。少しくらい辛酸を舐めさせてやりたくなるというものだ。」
ジョシュアは、笑顔でそう答えた後、アイヴィーの方に顔を向けてウィンクした。
ウィンクされた、アイヴィーは、驚いた顔をしたものの、直ぐにニコリと満面の笑みで答えて、頷いた。
(わかります!わかりますよ!その気持ち!!
正に、『リア充爆発しろ!』の一言に込める気持ちと一緒ですよね!
己の心の寂しさと切なさを紛らわす魔法の言葉!
ああ、叶う事ならこの素敵な呪いを教えて差し上げたい!)
アイヴィーが肯定的な対応をした事に驚き目を見開いたジョシュアが、アイヴィーに再び話しかけた。
「ヴィルベルト、君の婚約者のアイヴィー嬢は、俺の気持ちを理解して受け入れてくれるそうだよ。ねぇ?アイヴィー嬢」
「え、あ、ええ。お気持ち、お察しいたしますわ。」
「ほら見たことか。アイヴィー嬢は、ヴィルベルトなどと違ってとても理解のあるお優しい方だ。」
それを聞いたヴィルベルトは、そっとアイヴィーの側によると、右手で、アイヴィーの腰に手を回して、アイヴィーを引き寄せ、見せびらかすように、アイヴィーの頭部に軽くキスを落として言った。
「私とアヴィーが違うのは当然だろう?自分と同じ人間と婚姻してと何も面白くないではないか。だいたい、今アヴィーが言ったのは、社交辞令だ。」
「分かっているさ。ああ、面白くない。少しは、焦った顔をしてみろよ。」
「ジョシュアの前だけでは絶対に無いだろうな。」
平然とした顔で、ヴィルベルトはのたまった。
「と、ヴィルベルトは、いうのだけど、アイヴィー嬢は、そういうヴィルベルトの顔を見たことがあるかい?」
と、ジョシュアは、腰に手を回されたアイヴィーにたずねる。すると、アイヴィーは、顔やや上に向け、ヴィルベルトと上目遣いで見た後、ジョシュアに顔をむけて、頬を赤く染めた状態で、楽しそうに答えた。
「どうでしょうか?私の前では、ヴィルベルト様は、いつも素敵な男性ですので。ジョシュア様、お二人の姿を見ると、私よりは、おそらくジョシュア様の方がヴィルベルト様のそういう姿を見る機会があると思いますの。ですから、その時は是非、私にもお教えくださいませ。」
(うん、近頃は、殆ど、眼鏡男子だったからね。
眼鏡という最強アイテムを使った魔王様は、基本、素敵な眼鏡男子なのです。だから、素敵でない眼鏡男子の方がレアなのですよね!!
その眼鏡男子が焦るとか!何その鼻血な瞬間!!!一体、何が起こったら、そうなるの??!ナニソレ!見たい!凄い見たい!!是非とも拝見させていただきたい!
ジョシュア様、貴方のお力次第でございますよ!
あの、壁ドンをこえるパフォーマンスをば!!!キャー!!
何いっているのよ、私ったら!いけないわ!はしたないわ!破廉恥よ!キャー!!!)
アイヴィーの脳内はピンク色で、汚れた大人の大絶叫である。
「アイヴィー嬢は、私の味方だと思っていたのだがなぁ。―――そうだ、素敵な君のヴィルベルト君、ちょっと小耳にはさんだのだが、お前、特許を申請したそうじゃないか」
アイヴィーの返答に、つまらなそうな声を出して、ジョシュアが答えながら、思い出した、と言わんばかりに言葉を続けてヴィルベルトに疑問を投げかけた。
それを聞いたヴィルベルトが、一瞬眉を寄せたあと、ニコリと再び微笑むとジョシュアに言葉を返した。
「・・・何処でそれを?」
「人の口に戸は立てられんものさ。それで、一体何を申請したんだ?」
ジョシュアは、近くを飲み物を持って通り過ぎようとしたフットマンからドリンクを貰うと、一口のんでから、再び二人に人の良さそうな笑顔を向けた。
「そうか。申請したのは、玩具みたいなものさ。」
「宰相補佐のヴィルベルトが玩具なんて作ってる暇が?一体、どんな玩具なんだよ?」
「ただの子供が作った玩具だよ。それに、玩具を作る暇を作れんようでは、婚約者なぞもっと作れんさ。」
「・・・お前、それを婚約者がいる前で言うか?」
「アヴィーは、私の事をよく理解してくれているから、ジョシュア、お前のその心配は不要だよ。」
そういうと、ヴィルベルトは、再び、見せつけるように、アイヴィーの右手をヴィルベルトの左手で手を取り、アイヴィーを自身の肩に顔を向けさせて、手の甲に唇を落とした。
ジョシュアは、二人の絡みを見て、溜め息をつき、両手をあげて、ハンズアップした状態で、言った。
「そうかい。お熱い事で。では、私は、そろそろお暇しようかな。夜は、もっと人数を増やした舞踏会になる予定なんだろう?」
「ああ、その予定だよ。そろそろ、昼のパーティーはお開きだな。」
そう言うと、ジョシュアは、軽く会釈すると、手を振って去っていった。残された、ヴィルベルトは、抱き合った状態を維持したまま、溜め息をついて、アイヴィーに言った。
「もし、今後、ジョシュアの様に、特許について話を振ってこられても、白を切り通して下さい。」
普段の真面目な表情とは少し違い、少し緊張の入った顔でヴィルベルトは、アイヴィーにそう言った。
「え?ええ。でも、ジョシュア様は、赤の他人ではなく、ご血縁ではありませんか?」
「そうですが、人間、金が絡むと何処までも狡猾で残忍になれるものです。貴女もご存知だから、私にこの話を持ってきたのでしょう?」
「え、あ、はい。そうですが、今の話だけで、ジョシュア様がその様にお考えとは思えませんよ?」
「・・・貴女の家族は相当、貴女を大切に育てている様だね。」
アイヴィーのお気楽な声色の返答にヴィルベルトは、溜め息混じりに苦笑して答えた。
「な、確かに、家族には大切に守られているとは思いますが、人を常に疑うなんて、それも、血縁関係のある人なんて、そんなの、私には理解できません!こちらの勘違いで失礼になってしまうかも知れないではないですか。」
「そうだね。だが、この事に関しては、一切、譲る気はないよ。これ以上何も言わず、ただ、守ってくれ。それが、貴女の役割でもある。もう、この話について議論する気はないよ。さぁ、私達も着替えに一度、戻ろうか。」
ヴィルベルトは、そう言って、無理矢理会話を終わらせて、散り散りになったパーティー会場を去ろうと、歩を進める。
その間、アイヴィーは、何か言いたげにヴィルベルトを睨んでいても、ヴィルベルトは、意を介さないと言わんばかりに、腰に手を回し、アイヴィーをエスコートして、邸に連れていった。
今話のまとめ。
ジョシュア伯爵子息登場。ジョシュア、特許について聞いてくる。
ヴィルベルトがアイヴィーに特許の事を今後誰が相手でも特許について聞かれても、知らないにフリをしてくれとお願いする。
アイヴィーは、言わない事は納得出来ても、初めから疑うという事については、納得いかない。




