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変化した呼び名

何時もより文字数多いです。



 ビクトリアからパーティーについて聞いた日、アイヴィーは、帰宅後早々に、ヴィルベルト宛に筆をとり、ビクトリアから教えてもらったパーティーに関する事項とイベント商会をお願いしたい旨を手紙に記し、男爵家の執事に手紙を出してくれるように頼んだ。


 そうして、3日後、再び、打ち合わせの日取りがやってくると、アイヴィーは、公爵家を訪れた。


 アイヴィーが訪れると、待ってました! と言わんばかりにメイドに促され、客室に押し込まれる。


 押し込まれた先には、ティーパーティーでお世話になったマダム・プティのアンナ・ジャルティエが待機しており、再び、採寸され、ドレスの打ち合わせに入った。


 ドレスの打ち合わせになり、やっと会話する機会を与えられた、アイヴィーは、「何故こんな事になっているのでしょうか?」という最もらしい疑問をなげかけた。

 しかし、期待していた答えは、得られず、そのまま、アンナからは、デザイン案について尋ねられるだけだった。


 ドレスの打ち合わせが終わると、やっとサンルームに案内されると、そこには、待ちわびていたかのような顔をしたヴィルベルトが声をかけてきた。


「どうだったかな? ドレスの方は」

「……お待たせしてしまった様で、申し訳ありません。ドレスの方は、つつがなく済みそうです。それと、パーティー用に私に新しいドレスを用意して頂いてありがとうございます」と、お礼を言うと、前回と同じく一人がけのソファに腰をおろした。


 そのタイミングをはかって、アイヴィーの目の前に紅茶の用意がなされた。


「特許の件も大分進んできたからね、この資料について少し調べたかったので、丁度良かったよ。それに、ドレスは、貴女が主役のパーティーの為だから、これくらいは、婚約者として、当然の事として受け取ってくれて良いからね。」

「……ありがとうございます。」


 ニコニコと、手元にある資料をテーブルに置き、足を組んだヴィルベルトは、アイヴィーにそういった。


 (いつも、そうやって、女を誑かせると思うな、魔王様! 眼鏡をかけてない貴方なぞ、私の敵ではないのです!!

 強制武装解除(めがね)がなければ、ただの魔王! ただの魔王に、私は負けない!)


 アイヴィーが目の前のヴィルベルトに対し、何時も何かと思い通りに行かない自分を鼓舞しながら、ヴィルベルトに微笑んでいた。


「では、早速だけど、詰めの打ち合わせにしても構わないかな?」


 そう言うと、ヴィルベルトは、テーブルの上の資料の上に無造作に置かれていた眼鏡をかけ、用意していた資料を手に持ったのだった。


 (ぬぅあーーーー!!!!

 何でですか! 魔王様! 何で速攻で、眼鏡かけなさるのですか!!! ど、どんなプロテクトが発動したら、そうなるのですか!)


 アイヴィーは、思いがけないヴィルベルトの行動に一瞬眉を顰めたが、すぐさま常時の表情を取り戻すように努めて返答した。


「ええ、問題ありません。」

「大丈夫かな? ―――やはり、ドレスの打ち合わせが終わったばかりだし、まず、先にお茶にしようか。」


 アイヴィーが、眼鏡をかけた事で、動揺してる事など、知らないヴィルベルトは、アイヴィーの顔色が優れないのを見て、ひとまず休憩を提案し、手に持っていた資料を端に置き、アイヴィーに、姿勢を楽にする様に促した。


 楽な姿勢、と言われても、眼鏡男子の前で武装解除ができても、緊張は解けなもので。

 背筋を正したまま、アイヴィーは言った。


「ありがとうございます。それで、あの、魔お―――次期公爵様にお伺いしたい事が御座います。」


 (魔王様、その、眼鏡、外せますよね? だったら、外しましょう? 是非とも外して下さいませ?)


 その言葉を受けて、ヴィルベルトは、紅茶を飲みながら、視線だけアイヴィーに向けた後、静かに答えた。


「パーティーの事かな?」


 眼鏡から均整の取れた蒼い瞳が、チラリと動いたその動作に、武装解除済みのアイヴィーの心に動揺が走った。


 (な、何という危険な視線を!! 今、私の胸がキュッと締付けられました! 恐るべし、眼鏡男子!!!

 最近、色々あり過ぎて忘却の彼方に追いやられていますが、私は、平穏無事に婚約破棄をしたいのです!

 決して、眼鏡男子(魔王様)と甘酸っぱい恋愛を始めたいわけではないのです!


 私の夢は普通に、少し強引で優しい人と婚約して、結婚する事なのですから!

 だから、魔王様というハイスペック男子との恋愛なんて、御免こうむりますよ! 全力で!)


 アイヴィーはヴィルベルトの返答を受けて、おずおずと言った。

 あくまでも、保身の為に。


「あ、あの・・・次期公爵様、暫く資料は読みませんし、眼鏡をお外しになっても、大丈夫ですよ?眼鏡、邪魔になりませんか??」

「ああ。ありがとう。でも、大丈夫だよ。元々少し乱視が入っているだけで、視力に問題があるというわけでは無いんだ。――ところで、アイヴィー嬢。貴女は、また呼び方が、戻っているようだね?」


 ヴィルベルトの疑問よりも、自身の希望が叶わなかった事に、思わず、ガックリ、とアイヴィーは肩を落とした。


 (お願いですから、誰か、私の迷子の女子力を補うスーパーでスターな、ウィザードで、エトワールな、魔法を授けてくれる賢者を寄越してくださぁあいっ!!!


 しかも、私の前に大賢者が現れる前に魔王様は触れてはいけないところに触れてきましたよ! 

 ですから、私は、華麗にスルースキルを発動します。もう、眼鏡男子だから、とか甘い事言っていられないのです!

 私の未来がかかっているのですから!)


 ヴィルベルトの疑問に対し、再び己の心のを鼓舞したアイヴィーは、落ち込みもそこそこに、華麗にスルーを発動し、満面の笑みで答えた。


「……えーっと、それで、パーティーの事なのですけど。」

「アイヴィー嬢、私の話を聞いていたかな?」


 アイヴィーの発言に対して、端正な顔立ちのヴィルベルトが、笑顔で返事をした。


「……先日お手紙でもお伝えしたと思うのですが、友人からの勧めもあって「――アイヴィー??」」

「なっ!!!!」


 ヴィルベルトの返答を一切聞き入れない失礼な態度を理解したヴィルベルトが、笑顔のまま、アイヴィーが話終わる前に、その名前を呼ぶと、アイヴィーは、いきなりの出来事に、目を見開いて、思わず変な言葉を発したのだった。


 (魔王様、俺様系男子の強引さは、惚れてる時のみ有効だという事を理解してくださいっ!

 そして、私は、惚れてなどいませんからね!

 ええ! 眼鏡な男子に萌えては居ますけどね!

 一体、誰得な発言なのですか!

 眼鏡男子に、よ、呼び捨てされるとか!!!ヤヴァい!鼻血出るわ!

 眼鏡男子のスーツとか、ベストとか、何それ!

 あぁ、どうしましょう!? いよいよ、次回から、私と眼鏡男子の恋物語という妄想が始まってしまいます……)


 驚きのあまり声を失い、固まっているアイヴィーを見て、ソファに体を預けて、赤みのないグラデーションカラーが美しい金髪をした、ヴィルベルトは、その頭を傾け、楽しそうに口元を歪めて言葉を発した。


「どうしたのかな?アイヴィー??さあ、続きを話てくれて構わないからね?」

「な、名前、なんで、いきなり呼び捨てなんですか!!」

「ああ・・・てっきり、君だけに名前を呼ばせた事に腹を立てたのかと思ってね。私もこれからは、きちんと名前で呼ばせてもらうよ。それともアヴィーと、愛称で呼んだ方が良かったかな?」と、ヴィルベルトは楽しそうにアイヴィーに問いかけたのだった。



 (【夕闇の中、部屋には二人だけだった。


『もう、お前は直ぐに怒る上に我儘なんだな』と、均整の取れた顔をしている男は、彼女の頭部にコツンと拳を触る程度に拳を当てた。

 そして、彼女は、触れた、頭部を両の掌で抑えながら、身長の高い整った顔をした男の顔を上目遣いに睨めつけると、文句を言った。

『ち、違うってば!』

 彼女の怒りを受け取った男が、フッと、楽しそうにわらって答えると、その高い身長を活かし、彼女を後ろから抱きしめ、耳元で囁いたのだった。

『・・知ってる。でも、俺はそんなお前の気持ちも我儘も唯一聞いてあげられる男って知ってたか?』】


 っていう、バカップルなやりとりが脳内で妄想(さいせい)されました。


 何という! 何という! 非道か!!

 いきなり、呼び捨てして、心臓掴んできたと思ったら、その理由が、私を宥める為にやりましたって、そんな、気遣い聞いたことないわ!!

 だいたい、愛称云々とか、そういう気の使い方とか、私求めてないよ!!


 それに、名前呼ばないだけで、腹を立てる彼女とのやり取りとか、私達、どんだけバカップルなんですか!

 私、魔王様に対して、馬でも鹿でも、はたまた、カップルにもなった覚えないのですが!!


 くぅっ・・・!! しかし、なんという約得か!! 眼鏡男子に呼び捨てされてしまって浮かれている自分がいる!!

 両手を上げて、受け入れる節操の無さなのです!)


 アイヴィーの忙しない思考の為、暫く沈黙した後、アイヴィーは、目線を合わせないまま、ヴィルベルトに答えた。


「……お任せいたします。」

「では、これで、貴女もヴィルベルトと、名前で呼んでくれるよね?」

「鋭意努力いたします」

「うん?……――では、その、努力に婚約者として、お付き合いさせてもらおうかな?」


 そういうと、ヴィルベルトは、ソファから体を離し、アイヴィーの体に覆い被さるように前かがみなると、いとも簡単にアイヴィーをお姫様抱っこをして、持ち上げ、先程ヴィルベルトが座っていた、三人がけのソファにアイヴィーをおろし、アイヴィーが逃げる間もなく、アイヴィーの右隣にヴィルベルトも腰をおろした。


「なっ!!!」

「――――貴女がいけないんだよ?素直に名前を呼べば済んだ話なのに、こうして、煩わせようとするのだから。何事も先ずは、形から、というだろう?」


 全く悪気の無さそうな顔をむけ、普段からそうしているとでも言いたげな程、寛いた姿勢をアイヴィーの隣で晒しているヴィルベルト。

 その姿勢も、アイヴィーに触れる程近く、ソファの背もたれに左手でこめかみを支えながら、アイヴィーが逃げられないように、右手でアイヴィーの腰に腕を回している。


 (な、なん、なんじゃー!それは!!止めて!お願いてすから、そんな眼鏡男子姿で私にときめき発言しないでください!

 名前なんて、如何様にもお呼びしますからあああ!!それに、腰に、腰に手が、手がぁぁあ!

 煩わせた結果、形からってどういう事ですか!?こういう事ですか?

 私の心臓を溶かそうっていう、そういう罰を与えようとしていると言うのですか、魔王様ぁぁあああ!!!

 今、今すぐに名前を呼ばせて頂きますから、お願いですから、これを解除してくださいぃぃぃ!!)


 心の声が顔に現れていた。アイヴィーは、涙目になりながら、ヴィルベルトに言うのである。


「ヴィ、ヴィル・・・ベルト・・様・・・・お願いです、少し離れてください。顔がとっても近いです。」と、ふるふると羞恥に耐えながら、今のアイヴィーに出来る最大限の声でヴィルベルトの名前を呼び、抗議するアイヴィー。


 しかし、予想以上に発した声は小さく、ところどころ聞き漏らしそうな程小さな声で発したアイヴィーの声をヴィルベルトが正確に聞き取れるわけもなく。

 ヴィルベルトは、不可抗力にも、顔を更に近づけ、アイヴィーに確認したのだった。


「うん?ごめんね?なんて言ったのか聞こえなかったから、もう一度言ってくれるかな?」

 そう言うと、ヴィルベルトは更にアイヴィーに距離を詰め、次こそは、聞き漏らさないように、アイヴィーの顔を自身の眼前に捉えた。


「ヴィルベルト様!お願いです!!離れてください!!」


 ズズイと、迫りくる均整の取れた顔に驚き目を反らしながら、自分の手で小さく、ヴィルベルトとの間に壁をつくる。

 その壁も、ヴィルベルトの鍛えられた、肉体が触れると、その力強さに押され、何の意味も無くなり、どんどんとヴィルベルトが目の前近づくのを止める手助けにすらならない。

 ヴィルベルトは、上半身をどんどん後ろに引いていくアイヴィーに対して、だんだんとその距離を詰めていく。


 気づけば、アイヴィーはヴィルベルトに押し倒され、ソファに後頭部をつけていた。

 そして、アイヴィーの視界に、ヴィルベルトの肩から上までしか映らないところまでヴィルベルトの顔が迫ると、ニコリとその均整の取れた美しい顔で、微笑みながら、アイヴィーに言った。

「どうしてかな? 私は、アヴィーの努力に付き合っているだけだよ?」

「ヴィル―――様! これ以上は、本当にいけません・・・!! お願いです!!」


 そう言うと、アイヴィーは、目をきつく閉じ、あらゆる可能性を覚悟した後、口をきつく結び、無意識の内に息を止めた。

 そして、アイヴィーが息を止めた後、一瞬の間を置いて、アイヴィーの唇に柔らかな物がふれた。


 恐る恐る、目を開けると、さっきまで息もかかりそうな距離に有ったヴィルベルトの顔はなく、アイヴィーの口には、目の前にあったケーキスタンドの焼き菓子が、触れていた。


 声を発しようと口を開くと、ヴィルベルトによって、グイっとお菓子を放り込まれる。

 声を発せないまま、仕方なく、モグモグとお菓子をいただき、ゴックンと飲み込んだところで、姿勢を元に戻し、ヴィルベルトに向けて、キッと睨みつけて、抗議した。


「あんまりじゃありませんか?!」

「何が、かな?」


 アイヴィーの真横に足を組んだ状態で、ソファの背もたれに左腕で頬杖をついたヴィルベルトは、相変わらず、楽しそうに微笑み、そうこたえた。


「こんなやり方、おかしいです!! 普通じゃありません!」

「アヴィー、では私からも一つ聞かせてもらっても良いかな? 貴女は、普通が分かるほど、私以外の男性とお付き合いの経験があるのかな?」

「な、無いですけど!!」

「では、おかしいというのは、どういう了見なのだろう?」


 ヴィルベルトにそう言われ、アイヴィーは、手元のスカートを強く握り、目の縁を赤くして、より一層その目を大きく印象的に見せたその瞳で、何か訴えるような目をし、逡巡したのち、諦めたかのように、答えたのだった。


「っ!! もう、私の負けで良いです! おかしくありません! 私が間違ってました!」

「分かったよ。今回は、特別にその間違いを許すからね。アヴィー、次からはきちんとやってくれるよね?」

「・・・許して頂いてありがとうございます。ヴィ、ヴィルベルト様・・・」

「・・・・」

 しどろもどろに名前を呼んでいた、アイヴィーが、少しだけすんなりと名前を呼ぶと、ヴィルベルトが笑みを崩さない状態で、自身の口元を覆い隠すように、手のひらを口に当てた。

 その行動を疑問に思ったアイヴィーが、眉を寄せてハのじをつくると、ヴィルベルトの名前を再び呼んだ。


「ヴィ、ヴィルベルト様??」

「あ、いや、何でもないよ。さて、一息いれたところだし、この特許の最終調整をしようか。」


 ヴィルベルトは、口元を抑えていた、手のひらを外し、パッと、顔を背け、口調まで変えて、席を立ち上がると、別のソファに腰をおろして、資料を手にとった。


 その様子を見て、これ以上何も言えなくなったアイヴィーは、素直に打ち合わせに入ったのだった。

 そして、相変わらず心の中でつぶやいた。


 (さっき食べたフィナンシェ美味しいかったなぁ・・・。甘いものは、いとも簡単に、緊張とか、嫌な事を忘れさせてくれますね。神的にガリガリと削られた心が復活してきましたよ! どうせなら、これ、お土産に欲しいなぁ!)


 と、図々しく、お土産の事を考えているアイヴィー。

 あんな事があっても、食い気だけは、グイグイの様である。

 久しぶりにときめきマジックを発動し、行方不明の女子力のおかげで、眼鏡以外に全くときめきを解さない残念女子アイヴィーが居るだけだった。

いつもご覧下さる皆様、ありがとうございます。

また、何時もより文字数が多いところを読んで頂きありがとうございます。


今回、ヴィルベルトは、ドSでオレオレな悪い男です。そして、そんな悪い男の行動を理解出来ないアイヴィーは、押され気味に見えてドSなヴィルベルトを手玉にとってる悪い女なのでした。という回だったのですが、伝わっておりますでしょうか?


文章力が至らず、伝わっていないかもしれないと思い、あとがきにて記させていただきました。


今後とも、表現不足等、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、今までと変わらず、暖かく見守っていただければ、幸いにございます。


ごま豆腐

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