これは、魔王様のいたずらですか・・・?
一体何回目の訪問か、最近はすっかり公爵家にお邪魔するのがアイヴィーにとって、日常の一部になり始めていた。
あの日以来、魔王様は、ちょっと暇や隙が出来ると、ちょこちょこと色仕か……ではなく、私をからかっておちょくってきます。
その度に何かしら防御魔法を唱えたり、攻撃魔法を仕掛けているのですが、何故か姉上様の様に上手くいきません。
何故でしょうか。
おそらく、肉食系女子の手練手管と書いて女子力と読み、その女子力は、そのまま魔力、いや、攻撃力なのだと、推測しております。
そして、私には、女子力が皆無……圧倒的に低いという事が、身を持って痛感しているところであります。
どなたかご存知ありませんか?
私の中の女子力……どこ行った???
そんな阿保な思考のアイヴィーは、いまだに、ヴィルベルトの前で、常にバトルフィールド継続中の模様。
二人の関係に、甘酸っぱい恋の予感がしたのは、一瞬だった。
どうやら、私は、イケメンハイスペック男子には、萌えない派のようです。
贅沢?知っていますが、好みだけは、変えられません。
でも、眼鏡男子には、尋常じゃない程、萌えますが。
あの時の魔王様の攻撃だけは、如何様にも受け入れて、ついつい乙女な反応をしてしまう私の節操の無さ!!泣きたい・・・!!!
もうね、今後、私の中にかぎり、眼鏡男子と書いて、強制武装解除と読む事にしたい。
そして、今の私は、相変わらず、強制武装解除中であります!!
くぅっ!!眼鏡男子っ!!!眼鏡一つあるだけで、存在がいきなりエロ過ぎる!
そのアイテムだけで、簡単に私を虜にしてくれるのです!
と、心の中で、両手両膝をつき、倒れ込みながらも、悶ている変態。
そんな変態は、現在、庭園の巨木の木陰で、パラソルと円テーブルを広げ、ヴィルベルトと特許出願についての追い込みが一区切りしたところで、休憩を挟んでいたところである。
変態の内情など一切知らないヴィルベルトは、今だに頬を赤く染めるアイヴィーに、微笑みを浮かべて話題をふった。
「そういえば、お披露目パーティーの件、アイヴィー嬢は、何かしたい事があるかな?」
「お披露目パーティー???」
パシパシと髪の色と同じ色素の睫毛とアイヴィーのまぶたが上下し、ブルーの瞳が、怜悧な印象のアーモンドアイを愛らしく見せる。
なんでしたかね、それ。あー確かお手紙で、婚約が決まったら、『身内だけの簡単な婚約者のお披露目をしたい。』と書いて有った気がするような・・・。
「それは、確か前に頂いた、お手紙に書いてあった事でしょうか?」
「そうだよ。それで、折角だから、アイヴィー嬢、貴女がやりたい事をしてみたらどうかと、思ってね。」
ファッーーーー!!!!
な、何が、折角なんですか!
私は知っていますよ!14歳の幼気な少女なら知らない本当の事実を!
それ、体のいい、押し付け文句じゃないですか!
知ってますか!! パーティーの準備って、頗る面倒なのですよ!!?
……なんで知ってるかって? 一体、私が前世で、何年社会人やっていたと思っているのですか!
飲み会の幹事にはじまり、友人の結婚式等、年相応に色んなパーティーに参加者側だけでなく、進行側で駆り出されてきたからですよ!!
会場抑えたり、設営の準備だとか、ゲーム用意したり、予算に合わせて、景品準備したり。
あと、大変なのが、紙類の手配!招待状なんか、印刷、配送、返送とか考えると圧倒的に時間無かったりするし、当日も進行表や名札等の準備も数が多いと地味に大変だし!!
そんな、社会人経験が今、警鐘を鳴らしている!
これは、所謂、レベニスク公爵家直々の婚約者品評会だと。
幼気な少女に何させてくれるのよ、レベニスク公爵家。
そのパーティーで、扇を広げて、私の目の前で、嫌味たーっぷりに『やっぱり、若い子の企画するものは、違うわねぇ。こんな可愛らしい(幼稚)なパーティー初めてですわ?』とか、テンプレートないびりが待っているのでしょう??
そのパーティーならぬ、品評会で、私の失敗を楽しみにハイエナがウヨウヨやって来るのでしょう?
そんなの嫌だ!!! こちとら、絶賛婚約破棄受付中だけど、婚約者いびりなんてされたくない! だって、婚約はしたけど、結婚はしないし!する予定すらないですし!!
これは、全力で、婚約者いびりを回避しなくては、いけませんよね!そうですよね!!
お、なんか、今のこれ、婚約破棄もののセリフっぽいですね!! 感動!!
……現世で貴族に生まれ変わっても、ついつい、前世の二次元制作物の名言とか言いたくなってしまうのは、病気ですか?
ん? ……そうですか。オタクで中2病ですか。
……どぅぁれが、中2か!!!! こちとら、14年間、現世でも必死に生きているんやでぇ?? 私の何処にオタク要素を感じるっていうのかぁ!!
え?? 全部??
魔法発動して、一人ごっこ遊びしているのは、痛すぎだって??? それに・・・ごめんなさい、前世で、見ても14歳は、中2でした。
エセ関西弁で粋がって大人ぶりました。ごめんなさい。
と、相変わらず何故かいつも威厳も何もない、中身が残念女子なアイヴィー。
そんな巫山戯た脳内でも、一応、会話は健常者を演じ、ヴィルベルトにパーティーについて質問した。
「ありがとうございます。お披露目パーティーというと、どういった方々がいらっしゃる予定かお聞きしても良いですか?」
「そうだね、基本的には、我が公爵家縁のある方々しか呼ぶつもりは無いよ。母の実家と父の弟の叔父叔母、従兄弟姉妹に―――詳しくは、モーリスにでも書面で準備させるよ。」
そういうと、ヴィルベルトは、白い磁器のカップに手を伸ばした。
あ、いま、魔王様、面倒になったよね。考えるの面倒になって、執事のモーリスさんに丸投げしたよね。
私、分かりますよ? そーゆー雑な投げ方。
そして、パーティーの準備も私に丸投げしようって魂胆なのでしょう?
『可愛い婚約者の願いを聞いた優しい自分』っていうものを演出しておけば、パーティーの内容は何でも良いとかそういうふざけた考えなのでしょう???
私、分かってますからね! 眼鏡……眼鏡男子であろうと、貴方の本性は魔王だという事を!! ……くぅっ!!! 眼鏡男子……!!!
「ありがとうございます。では―――、少し考えるお時間頂いても良いですか?」
「ああ、構わないよ。まだ、アイヴィー嬢と正式に婚約して、二週間程しか経ってないからね。親類縁者もそこ迄急かしは、しないさ。」
そう言うと、ヴィルベルトは、カップから紅茶を一口飲み込み、カップを置き、椅子の背もたれに肘をつき、こめかみに手をあてて頭を預けると、長い足を組んで、アイヴィーの方を全身で向いて、笑顔を強めた。
「そうですか。・・・なんで、改まってこちらを向くのですか。」
そう言うと、アイヴィーは、片眉を上げて、ヴィルベルトに疑いの視線を向けた後、カップに視線を戻した。
「うん? そうだなぁ、君の事を全身組まなく愛でたいから、という理由では、いけないかな?」
「い、いけないに決まってます!」
「どうしてかな? 僕らは婚約者同士だろう?」
「そ、それは、目的を達成するのに、たまたま、婚約という偽装が丁度よかったというだけで、次期公爵様は、私の事―――「ヴィルベルト」」
アイヴィーが、好きでもないでしょ。と言い終える前に、ヴィルベルトの言葉がかぶさり、アイヴィーは、驚き目を広げ、再び、ヴィルベルトへ顔を向けながら、疑問の声を上げた。
「え? 今、なんて―――?」
「アイヴィー嬢、私達婚約して二週間経つという事はご存知と思うのだけどね? そろそろ名前を呼んで貰えないだろうか? 婚約したのに、名前で呼ばれないなんて、それこそ、お披露目パーティーで、この婚約について呼ばなくても良い疑いを呼んでしまうよ?」
その発言を聞いたアイヴィーは、今度は、カップに視線を戻す事なく、目の前のテーブルの縁を両手で掴み、頭を垂れて、視線を足元に移した。
頭、テーブルにガンガンするところだった! ガンガンするところだった!!!
はぁはぁはぁ!! 眼鏡男子の、眼鏡男子の!! 首傾げる仕草で、名前呼びイベントとか!!!
恋愛ものの定石、キターーーーー!!!! ヤバイ、ヤバイ、ヤーバーイ!!!
リアルで、名前呼びイベント発動するとか、軽く死ぬっ!!
いや、死ねないけど。この先を見ずして、死ねないけどーー!!!
絶対クリアしたるわっ!
って、違うでしょ! これは、眼鏡をかけた魔王様なのよ?!
現実なのよ!
今ここで、甘酸っぱい恋を始めてはいけないわ!! 落ち着くのよ!
そう、先ずは深呼吸。
吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー。スーハー、スーハー。
……落ち着いてきたけれど、現実問題、関係性を考えたら、名前呼びは、確かに必須……。
ここは、仕方ないけど、名前をよばなくてはいけませんよね!! うん、なんとまぁ、オイシイ展開!!
ええ、呼びますよ! 名前っ! 仕方ないですからね!
そう、仕方ないのです。人間、時に、諦めも重要なのです。
そして、ここで、明言しておきますが、決して、魔王に負けたわけではなく、私が負けるのは、眼鏡男子のみ。
そして、これは、眼鏡男子の名前イベントという胸キュンイベントというオイシイ……仕方ない、避けられようのない展開!!
そう、決して、眼鏡男子の名前呼びイベントの誘惑に負けたわけではなく、仕方ない事なので、諦めて受け入れるという大人な対応をするだけなのです!!
そして、アイヴィーは、顔を上げて、姿勢を正すと、ヴィルベルトを正面に据えて、言葉をはっした。
「……――――ヴィル…………ベル……ト……様?」
名前を呼ぼうと決意したものの、目の前に眼鏡をかけたヴィルベルトを見据えて、いざ名前を呼ぶために声を発すると、予想を遥かに超えた緊張と羞恥のあまり、アイヴィーは、声を発する度に、視線を右へ左へと彷徨わせ、持ち上げた顔がだんだんとうつむきがちになっていく。
とうとう最後には、恥ずかしさのあまり目元が潤んだ状態で、上目遣いに伺うような視線をヴィルベルトになげた。
ったっはぁー!!!!
こ、これ予想以上に恥ずかしいイベントだった!
恋愛ものでは、初期にやって来る名前呼び。
私の感覚では、こんなに、恥ずかしくなるハズじゃなかったのに!
なんという、なんという!!
その視線を受けても微動だにしない様に見えたヴィルベルトだったが、一瞬、動きを完全に止め、言葉をつまらせた。
「・・・何かな?」
「・・・お願いです、今ので、今ので、許して下さいませっ!!!!」
ガタリと椅子から離れていうと、顔を赤くしたアイヴィーは、席をたち、きっと睨み、その場から離れ離れようとした。
それを見て、ヴィルベルトは、思わずアイヴィーの手を掴み、アイヴィーと視線を合わせる。
ヴィルベルトに手を取られ、アイヴィーは、わなわなと震え、その場から動けなくなったところにヴィルベルトが声を発した。
「どちらに?」
「と、」
「と?」
「トワレットにございますぅうう!!!」
そう言うと、アイヴィーは、取られた手を振りほどき、脱兎の如くその場を離れた。
その場に残された、ヴィルベルトは頭をかきながら、ため息をついて、言った。
「ちょっと仕返しし過ぎたな・・・。」と。
いつもご覧下さる皆様、また、ブックマークや評価をつけて下さる皆様、ありがとうございます。
文頭で、毎回、公爵家にという話をしておりますが、毎回公爵家にアイヴィーが行くのには、理由があります。
一応?ヴィルベルトは、姉ウェンディに振られた形になっているので、ヴィルベルトに配慮した為、また、ウェンディ本人との二人の対面を避ける為、ウェンディとの対面が増える事で、初期の頃の嘘がバレないようにするため、後は、一応、未婚の女性(ウェンディの事です)が居る家に長時間お邪魔する事が、社会的に憚られる為です。
作中で説明不足や表現不足等、力及ばず書ききれていないところが有ると思いますが、完結した後、その点も含めて、随時修正していこうと考えております。
修正後は、活動報告にて、報告する予定ですので、ご了承下さい。
今後とも、何かと至らずご迷惑おかけしてしまうかもしれませんが、暖かく見守って頂ければ、幸いにございます。
2018/7/24 一部修正しました。
ごま豆腐