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公爵家にて打ち合わせ

 とうとう、レベニスク公爵家と正式に婚約が成立してしまいました。

 流石に日にちが過ぎていくにつれ、現実を受け入れざる得ないので、考え方を改めました!魔王様が隣国へ赴くまで、平穏無事に過ごし、魔王の毒牙にかかって、心臓が溶ける前に、婚約破棄を成就させる!と。

 私は、いつだって、婚約破棄受付中でございます!

 こんにちは。アイヴィー・オルウェンです。


 姉上様と真逆な私を作り上げて、本日は、次期公爵様もとい、魔王様と特許出願について打ち合わせに三度目の訪問となる、公爵家にやって来ました!

 打ち合わせと言っても、内容を考えると一日で終わる内容でもないので、次期公爵様のお休みを縫って、暫く公爵家に通う羽目になりそうです。

 ・・・なんだか、逢引に見えなくもない状況が、とっても不服です。くぅ!!!


 そして、相変わらず、美味しい紅茶を出して頂いて、本日は、公爵家の立派なサンルームにお邪魔しております。

 このサンルーム、この前のティーパーティーで見かけたお花が、とても良く見えるのです! 

 初めてお見合いのときお会いした、ロマンスグレーが素敵な執事さん曰く、晴れていれば、サンルーム目の前にある小川から噴水がとてもキレイに見るえそうです!!

 しかし、本日は、雨ではありますが、サンルームからは、とっても詩的な風景が広がっていて、癒やされます。

 それこそ、雨だれとかド定番なクラシックが流れていたら、どこぞの隠れオシャレ喫茶ですか。って言いたくなる程、心踊らされるサンルームなのです。


 しかも、このソファ!わりとクラシックな造りの猫脚一人がけソファなのですが、座り心地がたまらない!程よい弾力と、体を包み込むのに丁度よい弧を描いて、包み込まれるかのような背もたれ。後ろから抱き込まれているかのような、安心感のある座り心地の良いソファなのです!

 こんな素敵な空間で、こんな素敵なソファに座って、テンションが上がらないわけないじゃないですか!

 決して、私の妄想が、炸裂している訳ではありませからね?


 その上、相変わらず香りと渋みが私好みの紅茶!美味しい!!!そして、相変わらず、素敵なケーキスタンド。

 本日も、順番も気にせず、一番上のマカロンからいただかせていただきます!!!


 え?魔王様は何処かって?


 魔王様は、あいもかわらず、遅れていらっしゃるそうです。

 お仕事お忙しいみたいですね!お陰で、こうやって、一人お茶を楽しむ事が出来るというわけであります!


 ビシ!と心の中で、額に手を添えて、敬礼するアイヴィーは、完全に有頂天である。


 そして、アイヴィーは、また、前後左右をキョロキョロと確認した後、ケーキスタンド上部の黄色のマカロンに手を伸ばし、一口、口に含んだ。


 んーっ!!!なんという美味しさ!!口にふくんだマカロンのガナッシュクリームが、レモンの爽やかな香りを載せて鼻を抜け、ホロリともサクリともとれる食感が、舌の上に甘さを載せてやってきました!!ああ、至福っ!!


 アイヴィーが、マカロンの美味しさに浸っていると、例のごとく遅れてやって来たヴィルベルトと目があった。

 ヴィルベルトは、アイヴィーがマカロンを食べる様子を終始見てから姿を表したようで、口元を拳で隠しながら、目元が弧を描いて、ゆっくりとこちらに向かい歩いている。


「お待たせしてしまって、すみません。・・・マカロン、お好きなのですか?」


 そういって、ヴィルベルトは、アイヴィーの左斜め向かいの3人掛けのソファに腰を下ろした。

 ヴィルベルトの登場に驚いた、アイヴィーは、手元にある残りのマカロンを行儀悪く、一口で片付けると、モグモグと咀嚼しながら、コクコクと頷いた。


 ま、また、この人は、私がモグモグしてるところに突撃に来るって、どういう事ですか!何故に、魔王様は、いつも気を抜いている時ばかり狙ってくるかなぁ!!


「では、折角ですから、お土産にいくつか用意させましょう。」


とヴィルベルトが言うと、まだマカロンを食べ終わらないアイヴィーが再びコクコクと頷く。


 お土産とな!!それは、ありがたいです!まだ、他のマカロン味見してないのですよー!全種コンプリートは、基本ですよね?

 え?食い意地がはってる?

 ・・・違いますからね!これは、なんというか、コンプリート欲みたいなものなのです!

 決して小デブに向けて前進してるわけではありませんよ?むしろ、発展途上の胸に栄養を蓄える為に行っている事なのです!

 脂肪がなければ、山は作れませんからね!うんうん、豊かな山を作るにはまず、脂肪です。


 お土産に対して頷いているかと思えば、途中から、立派な双丘の作り方に対してうんうん、と頷いているともわかる筈などなく。

 傍目からみたその様は、まるで、あかべこの首振りのような不思議な愛らしさを醸し出していた。

 その様子を見ていた、ヴィルベルトに再び、笑いがやってくると、再び拳を口に添え、こんどは、ゴホンと一度喉を鳴らし、本日の話題を切り出した。


「では、アイヴィー嬢、特許について、話を聞かせて貰って良いかな?」


 おおっと!そうでした!今日はその話をしにやって来たのでした!元々この婚約もそれが故と思えば、痛くないっていう気がやっとしてきたのです!なにより、家族を守れますし!

 私の力ではありませんが、ここは、仕方ないてすよね。そもそも、未成年ですし。

 こうなったのだから、使えるものは、使わせてもらいます。


 やっと口の中が空になったアイヴィーは、紅茶を一口飲んでから、ヴィルベルトの話に答えた。


「はい、先日予め今回の特許したい製品についての資料をお送りさせて貰っていたと思いますが、改て細かく説明してあるものを用意したので、それをご覧戴きながら、簡単に説明させてもらいますね。」


「ああ、お願いするよ。」


 そう答えると、ヴィルベルトは、胸元のポケットに無造作に放り込まれていたメガネに手をかけ、顔にかけると、タイミングを図ったかのように近づいてきた執事から、アイヴィーが予め渡していた資料の束を受け取り、アイヴィーに目を向けた。


 な、な、なんだとー!魔王様は眼鏡男子だったのですか!やばいですよ!やばいですよ!やーばいでーすーよー!

 私、眼鏡男子に激弱なのです。うん、勝手なイメージだとは理解してますけど、眼鏡男子が、長い指で、眼鏡直す時の仕草とか、たまらなく好みなのです!!

 ええ、変態趣味ですよ。理解してますとも。でも、それは、全て眼鏡男子が悪い!!!

 し、しかも、眼鏡男子がこっちを見ている!何その、美味しい状況!変態な方向に、はあはぁ、しちゃうじゃないですか!!

 魔王様、私は、ついさっき、貴方と平穏無事に過ごすと宣言したばかりだっていうのに、なんていう事をしてくれるのですか!

 こ、こんなビクトリアが言う、『好きになれるところ』なんて、望んでいない!

 私は、普通が良いのです!普通が!普通に当たり障りのない人と婚約して、結婚して、子供を生んで、寿命を全うして、死にたいのです!

 だ、だから、簡単に愛されると思うなよ!魔王!・・・くぅっ!!!


「―――っ、今回特許出願したい製品は、綿糸を紡ぐ機械です。」


 そういって、アイヴィーは、顔を背けて、資料に描かれている、殆ど自動の紡績機の図案を指さした。


「これは?」

「あ、はい。これは、紡績糸・・・綿の糸を殆ど自動で紡げる機械です!!」

「そんな事が可能になったのかい??」

「あ、はい。一応、完成していて、運転しています。今、綿といえば、イロア国からの輸入品がとっても人気ですよね。あの上質で頑丈な綿。アレに似たものでですね、ある目的の為に我が国でも大量につくりたいなーと。それで、まず、その綿を再現する為に大量の糸が必要になったので、自動の機械でどうにか出来ないかなー?と。思いまして。」

「それで、この機械が完成したと?」

「はい。従来の手動でおこなう紡績機を参考にして、巨大化させ、車輪を増やしただけのもの、と言えば分かりやすいですかね。日の国の鉄を加工する技能のお陰で、懸念点だった、歯車の強度も克服できました。既に、製糸場に一つ先立って納入してあり、運転も順調だとか。目下の問題点は、機械というより、糸の方ですね。」

「なるほどね。それで、糸になんの問題があるのだい?」

「あー、はい。この機械、一部に強度を上げる為、鉄の部品を使って動いているのですけど、―――力が強すぎるので、綿の強度もある程度上げないと、途中で糸が途切れてしまうのです。とはいえ、その方法については、私の知識の範囲外になってしまうので、資料に書いてある製糸場の方々の努力になりますね。」

「それでは、自動にした意味が無いのでは?」

「そうなんですけど、この製糸場の工場長が、この機械を特許出願した方が良い・・・と言ってくるので、できる物なら、してみようかと。もし、特許が取れたら、変わりに優先的に紡績した糸で作った綿を格安で譲ってくれるそうですし。元々、特許出願する気持ちはそんなに無かったのですけど、まぁ、パッと見、失敗作の自動紡績機械なので、上手くすれば、簡単に特許が降りるかなー、と思いまして。それに、私は大量に綿の生地を格安で手に入れる事さえ出来れば、後は、費用さえ回収出来れば、何でも良いといいますか。」

「なるほどね。工場長と貴女は相当お人好しなんだね。こんな機械を作っておいて、二人共、随分欲の無い事を言っているのだから。では、その、糸の方が上手くいけば、この機械、でどれくらいの糸が紡げる予定なのだだろう?」

「えーっと、確か、資料にも書いてあると思いますが、あくまでも、計算上ですけど、手動紡績機が1時間で紡ぐ量の8〜10倍ですね。今でも、一日あたり、1、5倍くらいは紡げてるみたいです。あと、この糸が完成すれば、確実に、イロア国の綿より丈夫で柔らかな綿が出来る筈です。」

「―――それは、かなりな収益を産みそうな話だね。」


 はた、と気付くと、アイヴィーは、背けていた姿勢が、ヴィルベルトと自身の資料を交互に見やり、知らない間にヴィルベルトの顔にアイヴィーの顔を近づけていた。


 ぬぁっ!!!ぬぁんで、こんなところに魔王様のお顔がぁ!!!ち、近い!近いけど、ここで、焦って離れたら、私が魔王様の事、意識してるみたいじゃないてすかぁ!

 私は、あくまでも、平穏無事に過ごして、婚約破棄を受付る!それが、目標なのです!

 こんなところで、甘い雰囲気になって、婚約破棄が成されないリスクを上げたくはない!

 ここは、平穏無事に、過ごす為に、さりげ無く離れましょう。さりげなーく。さりげなーく。


「ええ、ですから・・・面倒な事になる前に特許を取っておきたいのです。」

「そうだね。だいたいの話はわかったよ。この追加の資料も後で読ませてもらう。出願に関する準備の作成はこちらでやっておくから、次に来た時に確認してくれるかな。」

「はい、わかりました。」

「では、切のいいところで、少し休憩しようか。」

 親指と曲げた人差し指で顎を掴みながら、資料に気を取られていたヴィルベルトは、さり気なく離れていくアイヴィーに視線を向け、ふうと一つ息をこぼし、姿勢を楽にして、アイヴィーにいった。

 ヴィルベルトの言葉に合わせ、すっかり冷めきったはずの紅茶の変わりに、新しく紅茶の入っているカップが、アイヴィーの前に置かれた。


 眼鏡男子の微笑みとか最強すぎる件。


 もしかしなくても、私はこの打ち合わせの度にこの眼鏡男子と顔を突合さなければならないのでしょうか。そうなのでしょうか。


 平穏無事に過ごしたいのに、既に心臓が溶けそうです。


 お願いです、魔王様、私なんかに魔王様の手練手管を発揮しなくて良いんですよ。

 私達、ただ、目的が同じだけの仲間じゃないですか?そんな仲間に手練手管なんて必要ありませんからね?


 アイヴィーが、出された紅茶を一口飲み、様々な余韻に浸っていると、ヴィルベルトがアイヴィーに声をかけた。


「アイヴィー嬢、特許出願の件、大変な事もあるかもしれないが、私が隣国へ赴く前に必ず、申請が降りるようにするつもりだから、安心してくれていいよ。」

「え、あ、ありがとうございます。」

「それで―――、遅くなってしまったけど、あの時、勢いみたいに婚約になってしまって、その、アイヴィー嬢は――」


 そこまでヴィルベルトがいうと、アイヴィーが言葉の最後を聞く前に手で、制して、言葉を発した。


「あれは、お姉様が無理矢理させたみたいなもので、次期公爵様にこれ以上何か言って頂く必要はありません。むしろ、こちらこそ、謝罪申し上げます。申し訳ありません。こんな子供な私が婚約者になってしまって、本来でしたら、魔お―――次期公爵様は、お姉様と婚約したかった筈なのに。」

「あ、いや、これもきっと何かの運命(さだめ)なのだと思うよ。」

 苦笑まじりにヴィルベルトがそう答える顔を見て、アイヴィーの胸にズキンと何か刺さったような、苦しさを覚えた。

「そ、そうですか。そう言っていただけると、こちらとしても、胸の仕えがおります。」

「まぁ、折角だから、私も婚約者がいる身分というものを楽しもうと思っているところだよ。」

「・・・次期公爵様でも、その様な事をお気になさるのですか?」


 何の根拠も無いけど、リア充爆発しろ!とか絶対思わないと思ってた!顔面偏差値が高いから女の人には困らないのかと。

 だから、婚約とかそーゆーものに興味無いと思ってましたよ。

 いや、女性に興味ないまでは行ってないと思うけど、女性なんて、煩わしい!とか思ってそうというか。何というか。


「貴女は、私を何だと思っているんだい?私は、貴女が思っているほどモテはしないよ。だから、貴女の姉上に振られているだろう?」

「は、はぁ・・・・」

 片眉をもちあげ、疑いの眼差しでアイヴィーを見てくるヴィルベルト。しかし、アイヴィーは、生返事をしたのみで、他に何も言わなかった。


 いやー、それ、とっても嘘くさいですよ。

 そして、もう、その話自虐ネタに使うとか。ツッコミ難いのですが。とっても。ネタが新鮮過ぎます。私には食べれそうにありません。

 新鮮なのに、食べたら、食あたりしそうな気がするのです。

 これはきっと、きのせいではない。


「そうだな―――婚約したてで、そんなに、疑われるのもしゃくだから、君に誓って何か行動で捧げようとしようか。折角、婚約したのだしね。」

 ニコリと微笑みながら、かけていた眼鏡を外し、胸ポケットに再びしまういながら、ヴィルベルトは、アイヴィーの方に膝を詰めてきた。

 ソファとソファに間隔はあるものの、ヴィルベルトの長い足をアイヴィーのソファに寄せれば、その差はあっという間に詰まり、膝と膝がぶつかりそうな程二人の距離は近づく。


 それに動揺したアイヴィーの顔は真っ赤になり、持っていたカップを少し乱暴に置くとヴィルベルトに向かい、顔を背けつつも言った。


「そ、そんな事は、求めておりません!!!」

「そうかい?では、どうしたら、私が言っている事を理解してくれるかな?」

 ヴィルベルトはそういうと、ソファの肘掛けに肘を、ついて、こめかみにてを添えて、頭を軽く傾げた。ヴィルベルトが頭を傾げると、きれいな金髪が、さらりと揺れ落ちた。その一連の動作が、なんとも魅惑的で、アイヴィーは言葉に成らない声をあげながら、無理矢理言葉を発した。


「――――そ、そのままで大丈夫です!」

「・・・――そのまま??」

「え、ええ。そのまま、ありのまま、あるがままで大丈夫です。私は、それで十分貴方のおっしゃられてる事を理解できますので!行動は、不要ですので!!!!」

 アイヴィーは、両手を広げて胴体の前に突き出して静止をうながす動きをして、精一杯、これ以上ヴィルベルトにドキドキさせられないように努力し、答えた。


「ははは、冗談だよ。でも、ありがとう。」

 そういって、ヴィルベルトは、口元を手のひらで抑えながら、再び、ソファに背を預けて、笑っていた。


 焦りと動揺で、耳の奥でずっとドキドキと鼓動を打っていた音がヴィルベルトの様子を見て、遠のいていく。

 そして、一言、「冗談が過ぎます。」と小さな声で講義すると、訳も分からず、一緒に笑ったのだった。

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