恋愛経験値が足りないようです。
あとがきにて、少し補足説明あります。
目が覚めると、すべて夢だったと・・・・思いたかった!!!
昨日の例の会話の後、有無を言わせない姉上様によって、その日の内に強引に正式な書面にて署名させられました。そして、本日、姉上様に念押しされた魔王様が、お仕事ついでに提出してきてくれるそう・・・。
姉上様、手際良すぎませんか・・・。
これ、夢でいいよね?いいよね?いいですよね????
なんで、どうして、姉上様の婚約者候補が私の婚約者になるのか・・・。
うん、そうだ、特許だ、特許出願のせいなんだ!!
どうやら、我が家は、特許というものに呪われているに違いない。そうでなければ、なぜに14歳という、うら若きお年頃の私が魔王様と婚約しなくてはならないのか!!!
人身御供か。
そういうアニミズムな考え方とか、霊的な存在とか、私、信じませんからね!!
たとえ、魔法が有る世界であっても!!魔王退治の定石は、勇者パーティーを集めるところからじゃないのか。これでは、そもそも、魔王退治が始まらないじゃないですか!
あれか!やたら美麗なCG使って物語のオープニングで、魔王に囚われる姫か。私の役どころは、姫なのか!
・・・ごめんなさい。大幅に調子に乗りました。ごめんなさい。
姫って、流石に盛りすぎですよね。蝶よ花よと育てられたとしても、いや、そもそも、育てられていませんが、姫にはほど遠かったです。
じゃあ、私の役どころはなんなのか、って話ですよ。
魔王に囚われた囚人A?いや、ちょっと、それ当てはまりそう過ぎて泣きたい!何その悲しい役どころ。完全に、当て馬にすら成れないってどーゆー事ですか。
何故私ばかり、こんな非道な目に合わなければならないのか。神様のイタズラにしては、酷すぎる!!!
そして、昨日までの不満から始まったアイヴィーの一人舞台は、アイヴィーの感情をさらに憂鬱にさせ、学園到着早々に、目の前にビクトリア・アディントン侯爵令嬢が笑顔を向けて話しかけてくるという状態になって、やっと終わりを迎えた。
門をこえてすぐの所で、胸を張ったビクトリアが、腰に手を当て仁王立ちをした状態で、悠然と構えて待っていた。
「ごきげんよう。アイヴィー、私に何か話さなくてはいけないことはなくて??私たちお友達ですから、朝一番に、聞きにきてさしあげましたわ!」
「ごきげんよう。話さなくちゃ行けないこと?・・・・そ、そんなの沢山ありすぎて・・・どうしたらいいのー???」
というと、朝から、いや、昨日からやって来た様々な緊張と不満が一気に爆発したアイヴィーは、ビクトリアを目の前にして、突然、咳を切ったかのようにウォンウォンと泣き始めたのだった。
「それで・・・少しは落ち着いて???」
そういうと、ビクトリアは、アイヴィーにハンカチを渡した。ハンカチを受け取りながら、アイヴィーは、鼻をすすり、答えた。
「うん・・・・。ごめんなさい、授業欠席させちゃって・・・。」
まさか、ビクトリアの顔を見て泣くなんて、自分でも自分が信じられません。私、情緒不安定なのでしょうか。
「仕方ないわ。あのまま、教室でなかれてるほうが皆様にご迷惑だもの。」
「そうだよね。迷惑だよね・・・。」
「まぁ、何が有ったか、聞きませんけれど、あまり溜め込むのは宜しくなくってよ?」
「ありがとう・・・。折角だから、ビクトリア、聞いて欲しい事が有るの。・・・聞いてくれる?」
「ええ、私で良ければいつでも。」
ビクトリアがニコリと微笑んで答えるとアイヴィーは、昨日起こった婚約までに至る一連の流れを一通り話した。
話を聞き終わったビクトリアは、驚き目を瞬かせながらも、アイヴィーに言った。
「まぁ、アイヴィー、貴女のお姉様・・・凄いやり手なのね?」
「違うでしょ!そこじゃないでしょ?!」
期待していた反応と違った反応をされ、アイヴィーは思わず、突っ込みを入れてしまった。
「では、良かったわね!アイヴィー!婚約おめでとう!!かしら?」
「・・・ねぇ、それ、ワザと言ってる?これでも一応傷心の身なのですけど。」
目を据わらせ、じっと、疑いの視線を向けて、ビクトリアのほうを見た。ビクトリアは、そんなアイヴィーの様子もどこ吹く風で、アイヴィーに言うのだった。
「あら、ごめんなさい?でも、一体何処に貴女が、傷心になる必要がありまして?」
「どこって、今の話の流れで分かるでしょ?」
ビクトリア様!!恐ろしいほどの鋭さを持った貴女の観察眼は何処に行きなさったのでしょうか!?今、ここで、発揮するところですよ。むしろ、発揮しなくても、分かるはずだと、思ってた私は、傲慢なのでしょうか・・・。
「いいえ?全くわかりませんわ。嬉しくて気分が高揚するというのなら、分かりますが、何処に傷心になるところがありまして?」
「全部です!全部!」
「アイヴィー、貴女・・・、もしかして・・・学問だけしかできない、お馬鹿さんなの?」
嫌だわっと、続けた後、ビクトリアは、ため息をついて、口元を手のひらで抑えた。
その言葉に、アイヴィーは、眉を寄せて、腕を組ながら、ビクトリアに訪ねた。
「どうして、そうなるの??」
「アイヴィー、貴女ご存知とおもうけど、良家の令嬢ほどより良い家柄の相手と結婚したがるものなのですわよ?しかも、この学園に通っているご令嬢方のほとんどは、卒業後、一部のご令嬢を除き、社交界にデビューする方がほとんどでしてよ?社交界での一番の目的はより良い婚姻ですわ。」
「そんなの、いまさら言われなくても、知ってるよ。」
だって、まさに姉上様は、社交界で婚活真っ最中。
そういえば、オイラー伯爵とはどうなったのだろう?って、今、私はそれどころではないのですけどね。
もともと、私は婚約したかったわけではなくて、本来は、魔王様との縁を切りたかったわけなのだ。それが何故か、離れたいのに、全然はなれられなくて苦しんでいるというのに、何処に喜ばしい要素があるというのか!!!
それに魔王様は、顔面偏差値とても高いけれど、私の理想とは遠いと思う。
魔王様の中身なんて良く分からないけど。
そもそも、魔王様の攻撃について考察したことはあっても、魔王様自身について考察なんて一切したことなかった!!
まさかの盲点!!だから、私は、魔王戦で、防戦一方だったのか!!!
魔王様の中身について、唯一わかる事といえば、緑の血が流れていないことだけだよ。うん。たぶん血は赤い。
「だったら、どうしてお分かりにならないの???」
『では、ここで問題です!!ビクトリア様は一体私に何を言いたいのでしょう?』
ピンポン
『はい、アイヴィーさん!!』
『卒業後の進路が確定したことが言いたいのだと思います!!』
ブッブー
『残念!!魔王様とは、既に円満な婚約破棄が確定しております。』
ピンポン
『はい、アイヴィーさん!!』
『そもそもより良い婚姻の目的とは何でしょう?』
『そうだ!そうだ!!より良い婚姻なんてあいまいな表現では、恋愛経験値が低いアイヴィーに分かるわけありません!!』
『そうです!!つまり、この問題は、捨てて次の問題に移る事で時間無駄を省くべきであります!!』
『そうだ、そうだ!!この問題は、現時点では棚上げして置くべき事案であります!!』
『そうですね・・・・。では、結論がでたところで、この問題について時間を割くことを終了します。お疲れ様でしたーーー!!!』
『『『『おつかれっした!解ーー散』』』』
今、私の脳内でこの問題について考えることをほうきする方向にまとまりました。
「・・・さっぱりビクトリアの言いたい事がわからないです!!」
アイヴィーの様子を見ていたビクトリアは、はぁーっと長いため息のあと、諭すように指を三本たてて、言った。
「いいですこと?貴女が今回のお話で手に入れたものは、客観的にみて三つ。ひとつめは、新製品の特許出願、ふたつめは、公爵家の後ろだて。そして、三つ目は、将来の婚姻相手。これを聞いてもまだ、分からないっていうつもり?」
確かに、婚姻活動しなくて済むと考えれば、ありがたい話だし、相手は、あの、レベニスク次期公爵様。いくら魔王といえど、超優良物件ということに変わりはないわけで。私が何も知らない赤の他人だったら、まるで御伽噺のよう!!と思ったりしたかもしれない。
実際は、光源氏になれ、と、とんでも発言に動揺した魔王様が、ミスをおかして、姉上様に男に二言は許さない、と半分強制的に言質とられて、瀕死の状態で、止むを得ず決められたなんとも微妙な話なわけですよね・・・・。もともとの魔王様の意向も軽く無視されているわけだし。
それに、特許出願に関しては、単純に美味しい話ではありますよね。婚約する、しないは置いておくとしても、公爵家の後ろだてはありがたいし。
「・・・・。わかった。わかったけど、私は婚約なんてしたくなかった。」
「あら、どうして??私は、すばらしい婚約相手だと思うけれど。」
「どうしてって、家格も離れすぎてるから、きっと価値観だって合わないよ。なにより、私、初恋もまだなのよ?」
そう、私、恥ずかしい話、初恋もまだ済ませていないのです。現世では。
前世で済ませているから問題ないって?
いやいや、待ってください、皆様。私、前世記憶が有りますけど、前世は前世、現世は現世で、ちゃんと別の人生ですからね?素敵な男性と恋して、結婚して、子供が欲しいですからね!
できれば、その相手は、少し強引に引っ張っていってくれて、すっごく優しい人が良いなぁ。なんてくらいには、理想が有るのです。
え?引っ張っていってくれる人は、優しくないって?
・・・そんなのは、聞こえなーい。聞こえないったら、聞こえない!
「アイヴィー、貴女、いいこと?貴族の婚約に、恋だの愛だのと浮ついた気持ちだけの恋愛を持ち込んではいけないわ。もし、相手にそれ相応の愛を望むのなら、まず、貴女が公爵様を愛しなさい。愛は、二人で育ててこそ意味があるのでなくって??」
「ビクトリアまで、お姉様みたいなことを・・・。そもそも、次期公爵様をあ、あ、愛しているとか、そういう風に見たことないよ。だいたい、好きかどうかもわからないのよ?」
「でしたら、これから、そういう対象としてみていけば良いだけの事でしょう?」
「そんな簡単にできたら、こんな事にはなってないよぉ・・・。」
ふぅ、とため息をついたビクトリアは、アイヴィーの頭をなでながら、諭すように言った。
「アイヴィー、貴女、きっと難しく考えすぎなのよ。そうね・・・次お会いしたときにでも、次期公爵様の好きになれそうなところを探してみてはいかが?そうすれば、きっと自然と問題は解消できるはずよ。」
ビクトリアがそういうと、授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響いた。
◇◆◇◆◇
学園からアイヴィーが帰宅すると、ヴィルベルトからという、花束と手紙を執事から受け取った。
手紙を広げると、きれいな筆跡で、丁寧な挨拶と昨日の件を含め、幾つかの質問と報告が書いてあった。
手紙の内容は以下の通りである。
『まず、報告と、連絡をいくつか。今朝、婚約を申し込む書類を提出した。
また、書類が正式に受理されたタイミングで、身内だけの簡単な婚約者のお披露目をしたい。それに関して、後日話し合いの時間を設けたいと考えているので、心にとめておいてもらいたい。
今後の行う予定である特許出願にかんして、打ち合わせをしたいので、これについては、都合のつく日を早急に教えてほしい。
最後になってしまったが、こんな形で婚約することになってしまって、驚いていると思うが、自分が、隣国に行くまでの短い期間で、婚約者としてできることがあれば、可能な限り善処しようと思っている。これから、婚約者としてよろしく。(要約)』
―――今更だけど、変な人。
あ、魔王様だったわ。
魔王様だって昨日の事は、晴天の霹靂だったはず。その上、いきなり失恋したところに、重荷(特許出願)背負わされて、無理矢理婚約させられたのに、なんで、私に気をつかってくれるかな・・・?
もしかしたら、魔王様は、本当は少しだけ、思っていたよりも真面目で、お人よしなのかもしれない。決して、ビクトリアに言われた事のせいではないけれど、魔王様の好きになれそうな中身が、少し垣間見えた気がする。
だからって、愛するとか、そういう事ではないけれど。
そう思うとこの婚約が少しだけ、マシなもののように思えてきたアイヴィーだった。
いつもご覧くださりありがとうございます。
アイヴィーは、恋愛結婚が一般的だった前世の記憶も相まって結婚に多大な夢見ています。貴族としての婚姻の意味ももちろん理解していますが、今までは、それはそれ、これはこれ、とどこか現実味のない話でした。なので、いきなりの展開についていけていません。
力及ばず、そんなアイヴィーのバックグラウンドを書ききれなかったので、あとがきにて補足いたします。申し訳ありません。
なにかと至らないところもございますが、今後とも、よろしくお願いいたします。
ごま豆腐