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次期公爵様の願いと対価

ティーパーティ終わります。前半、説明とシリアスな内容です。

『これでも私はね、君よりは、物の使い方を知っているつもりだよ。』


 アイヴィーは、促された椅子にすわり、誰も居なかったはずの東屋で、知らない間に、目の前にカップとソーサーが置かれ、中にはきれいな丹色(にいろ)の紅茶が注がれて置いてあった。


「それで、先ほどのお話は、どういうおつもりでしょうか?」


 そう、過去の新製品の特許出願である。どういうつもりなんだ、魔王様!

 今更、何故、私が過去に特許出願した事を知っているか、なんて事はもう聞きません。

 だって、魔王様だもの。お抱えの諜報部員が居ても不思議じゃないよっ!

 その諜報部員だって、コウモリだとか、カラスとか言って、知らない間に他人の秘密を探す事に興奮を覚える変態に違いない!


 そうそう!!それで、特許出願について、少しお話ししたいと思います。


 大分前に皆様に、前世記憶なんて、現状なんの役にも立たない知識ばかり。と言ってましたが、アレ、半分本当で、半分嘘なのです。


 半分嘘というのは、私が前世記憶を使って作れる製品があるという点。


 私が知っているのは、殆どが、完成した状態のものばかりで、基本的な構造は不明。だけど、結果だけは知っている。

 そして、この世界には、まだ、私の知っている結果を齎していない中途半端なものがいくつかあったのです。

 それを利用して、改良し、理想に近い結果を齎した事が過去に有ります。だから、前世記憶が全く使えない、というわけではないのです。結果を知っているからこそ、出来る事だったので。


 半分本当というのは、先程、魔王様が言っていた新製品に関する特許に関係があります。


 少しややこしいので、よーく、聞いてください。


 まず、この国では、新製品は研究所もしくは、研究所と共同で開発するのが一般的です。ほぼ、例外はありません。稀に商人が新製品を販売しますが、詳細については、不明なので、ここでは省略します。

 

 この新製品ですが、誰が作っても新製品であると認められた場合、製品全てに特許使用料が課せられ、特許使用料を含んだ状態の金額で販売されます。この、特許使用料は一律ではなく、その製品の利便性など考慮され、その都度どれくらいかかるかなど詳細は、都度変わってきます。

 その特許使用料の内訳が、研究所に居る研究者とそれ以外の人とでは、その内訳に、大きく差があるのです。

 研究所の研究者の場合、研究所に40%の利益還元をする事が義務づけられています。それ以外にも、王国に、30%の収入税を払わなくてはいけません。ですから、研究所の研究者は、特許使用料の半分以上は国に持っていかれるという。


 反対に、研究所に属していない人は、新製品で得た収入に対して、王国に30%の収入税を払うだけ。


 これも、収入税に関しては、最大値なのだけど、あくまでも、新製品にだけかけられる収入税だから、それ以外の収入にはこれが当たらない。しかも、こちらの場合は、ある程度、税金対策取れるから、割合としては、30%も払わなくて済む訳なのだけど。手続きが面倒ということ以外は、研究所の研究者と比べて、とっても良心的。


 ここまで聞くと、単純に不公平な感じしません?


 しますよねー。一応言っておきますが、普通は、新製品なんて、簡単に開発出来ないのですよ。だから、わざわざ国がお金かけて、研究所を設けているのです。

 そこに、右も左も分からない男爵家の子供が次から次へと新製品の特許出願を申請したら、疑問に思うのは当然でして。その疑問が疑惑になり、やがて、貴族社会で抹殺されかかったのは想像に難くないとおもいます。

 無知が祟って、大変な目にあいました。


 そして、魔王様のお話です。


「うん、単刀直入に言わせて貰うけれど、今まで君が特許をとり損ねたものの特許をいくつか、再申請して、特許を取り付けてあげよう。そのかわり、私のお願いも聞いてもらいたい。」


「お願いですか・・・?折角のお話ですが、私が、過去に申請したもののほとんどが、もう二度と特許の申請ができないように契約を交わしてしまっています。」


 元々、幼少期に出願したものは、今から見れば、その完成度の低さが露呈しかねない。ので、あえて、再出願したいものでは無い。


 あの時、一度失敗した事で、新製品における特許出願の条項を読み漁って、分かった事だけど、あれ、面白いくらいに、研究所に有利に働く様に書かれている。

 つまり、あれは、研究所という国営企業の為の法律と言っても過言ではない!だから、学園と研究所は、国営なのか。と納得したくらい、王国の財源を賄っている。内部詳細までは流石にわからないけど。


 過去に一発当てたという商人についても調べたけれど、あまり有益な情報は出てこなかった。それこそ、きな臭いというものである。


 そこまで理解して、次こそは!と意気込んだ先で、今度は、何処から情報が漏れたのか、似たようなものを特許出願されて、採用されてしまった。

 これも、特許出願に関する条項に詳しく書いてあるのだけど、製品の類似点が、30%を超える場合は、同じものとして扱うという。

 しかも、同じ製品なのだから、使用料払いなさいって、訴えられかけて、我が家の父は顔面蒼白になったのは言うまででもない。

 このとき結んだのが、同じ製品として認め、私が作ったものは、相手(研究所)に全て譲渡し、この製品に関しては、類似品等で、二度と特許出願をしないという契約をして、使用料を払う事を回避出来た。


 そんな苦い経験のおかげで、新製品に関する特許出願は、もう、我が家では禁句に近い。


 唯一、外での関わりが薄かった私のせいで、その時の被害は、私本人でなく、家族に行っていた。きっと家族は、貴族という言葉すらもおこがましいと思えるほど、惨めな気分になっていたと思う。


 あの陽気なお母様が私に内緒で泣いていたり、姉上様は、何日かに一回教材を買い替えてた。お父様は、ふっかけられていた、莫大な使用料を払うために毎日、駆けずり回っていた。


 その中で、私だけが何も知らないで、新製品への熱い想いを成就させようと努力してたのだ。

 そのせいで、大切な家族がどんなに辛い目に有っていた気付きもせずに。


 だから、この前世記憶を使ってチート無双するのを止めたのだ。


 出る杭は打たれる。打つ力が強ければ、釘は折れるし、打つつもりの無かった木材まで傷つける事になる、とその時、初めてしったのだ。


 個人が王国に勝つには、その新製品以上にあらゆる方面で、賢くないとやっていけないのだ、と。


「それに関しては、無理やりかわされた契約だという事を証明さえしてしまえば、簡単にその契約を破棄できる。その方法も実に簡単だから、君は心配しなくても大丈夫だ。それに、私はこれでも一応宰相補佐をしていてね。その手の事には他の人よりもやや得意なんだ。」

「大変ありがたいお話なのですが、そのせいで家族に再び迷惑がかかるのではないでしょうか?」

「確かに、それについては、なんともいえないけれど、もし、君が私のお願いを聞いてくれれば、公爵家が前面的に協力すると約束しよう。そうすれば、表立って何かしてくる輩は激減するのじゃないかい?」


 たしかに、レベニスク公爵家の協力が得られれば、今までのようなやり方はしてこないとは思う。けど、それって、レベニスク公爵家と懇意にしてる事があからさますぎるし、なにより、婚約への足がかりとして、男爵家の足場を固めてるようにも見えなくないよね???


 それに、一番たちが悪いのは、表立って何かしてこない人たちの方だって、相場が決まっている。実際特許出願のときは表立って対立していたところと全く関係の無いところまで、我が家の家族は、苦しまされたわけだし。


「・・・問題は、表立って何かしてこない人たちのほうです。」

「確かに、そういう輩のほうが面倒なのは確かだけど、表立って何かしてこないということは、やりようは山ほどあるって事だよ。」

 にっこり微笑んで、ヴィルベルトは、紅茶を一口のんだ。その動作を眺めながら、アイヴィーは、ヴィルベルトに質問した。


「・・・というと?」

「それを教えても良いけれど、今、ここで、私の願いを聞いてくれると約束してくれれば、そんな面倒なことを君が気にしなくて済むようにできると約束しよう。」


 確かに、悪くない。悪くないけれど、これで、もし、このお願いとやら、婚約に関する事だった場合のリスクと、自分が苦労して作り上げたものを誇示する事、どちらがより大切か、という話になる。


 そりゃ、もちろん、どう考えても、婚約に関する事だった場合のリスクの方を回避したい。


 ・・・したいけど、どうせなら、再出願なのてはなく、諦めてた、新製品の特許、取り付けてくれないかなーって、ちょっと思ってしまった。うん、ちょっとだけ。ミジンコ程度のちょっと。ほんのミリ単位。

 いや、決して拝金主義にはしっているとか、そういう事なのではなくてですね??これには深ーい、考えがあっての事だといっておきますからね!


 えぇ、私の名誉のために!!


「では、その『次期公爵様のお願い』とは何でしょうか?」

「あぁ、私の願いは、とても簡単だ。アイヴィー嬢、ぜひ、このティーパーティが終わったら、ウェンディ嬢に婚約を申し込む際の力添えをしてくれないだろうか?」

「力添えですか・・・?」

「そう、できれば、妹の君から、婚約するように説得してもらいたのだ。」そういうと、ヴィルベルトは、過去最大のいい笑顔を向けてアイヴィーのほうをむいた。


 笑顔でさらっとなんということをおっしゃるのか。このイケメン魔王様は。


「どうしてそこまでしてお姉様と婚約したいのですか?」


 そ、そこ。それ、まず、はっきりさせよ?うん。

 孫子も言っていましたし。彼を知り己を知れば百戦殆からずって。

 今までの私は、攻撃をただ返すだけで、計画性にかけていましたからね、まず、魔王様という存在を知ろうと努力する次第であります。

 それに、既に色々してもらっているから、せめて、何かしないと良心が、私の良心が押しつぶされてしまいそうなのです。


 さっきまですっかり忘れていましたが。


 何事も基本は、ギブandテイクですよね。そして、できれば、ウィンーウィンな関係を築いていけたら一番ですよね。そう、世の中は、話し合いで解決できるって、信じていますからね!私。


 散々、脳内で魔法ぶっ放してきましたけど。


「申し訳ないけれど、それは、まだ、ウェンディ嬢にも言っていない事だから、いくら協力を申し込むとはいえ、君にはまだいえないな。」

「・・・・・・」


 期待させておいて、なんだそれは!


 さっきまでの真面目な雰囲気返して!


 少しカッコイイ私な感じ返して!!

 

いきなり、砂糖菓子ぶちまけて、『あちゃー、やっちゃったね!!』って笑顔で雑巾渡されたときみたいなしょっぱさがやってきたよ。砂糖ぶちまけたのに、しょっぱいってどういう事ですか!!


「それで、返事はどうだろう?」


 うん、返事ね、返事。いま、砂糖掃除してるから、ちょっとまって。

 誰とは言いませんが、私の隣に平気で砂糖をまき散らかす大馬鹿野郎がいらっしゃるのです。力士もビックリの塩撒きならぬ、砂糖撒きしてくれるお方がいるのです。

 誰とは言いませんが。

 私だって好きで砂糖掃除してるわけではないのですよ?そこ、ちょっと、分かってくださいね?本当に。

 誰とは言いませんが。


「・・・特許の再申請に関してでしたら、お断りします。そのかわり、新製品の特許申請をしていただきたいのです。」

「では、私の願いを聞いてくれるということでよいのかな?」

「いえ、この新製品の共同開発者として、レベニスク次期公爵様のお名前を連名にしていただければ、それで十分です。」

「・・・それでは、対価とはいえないのではないかい?」


 ん?今、ちょっと、魔王様ちょっと、固まったかな?固まったよね?え、もしかして、私知らない間に氷魔法使ってしまった??

 やっほーい!!さすが、孫子様の御言葉は偉大ですね!!!

 相手を知ろうとした成果がこんなに早く帰ってくるとは思いもしていませんでした!!


「私の対価のために家族を巻き込みたくはないのです。かといって、折角のチャンスを無碍にもしたくありません。それに、私に協力してもらうからには、何かお返しするのが、常道です。かといって、お姉様との婚約の手助けは受け入れられないません。となると、私のお返しできるものという範囲になりますので、この特許使用料に関する権利を半分レベニスク次期公爵様に差し上げるくらいしかありません。」


 これは、賭けなのです。私は、魔王様の提案を打ち破ります!!そもそも、私が魔王様の提案に対してYESオアNOのみの返答しかもって居ないわけではないのですよ!!私は、姉上様や魔王様を見習って、今回は、両方手に入れてみせます!!


 特許の申請と、姉上様の婚約回避!!


「ははは、まさか、そうくるとはなぁ。」


「それで、お返事はいかがでしょうか?」


 背筋をピンっと伸ばして、私は、気丈にふるまった。昔何かで見た海外ドラマの契約シーンをおもいだしたから。契約を結ぶまでは、相手に隙をみせてはいけないらしいのです。


「うん、いいよ。そうしよう。きっと婚約に協力した方が、君のためにもなると思うけどね。」

 顔をそらしながら、魔王様はそういうので、私は、フンッと鼻をならして、胸を張って答えた。


「次期公爵様ともあろうお方が最後まで、悪あがきですか?婚約に関する事は姉が決めることですから、私に、関わらせようとしても無駄ですよ。」

「悪あがきに見えるかい?まぁ、君がそういなら、そうなんだろうね。」

 そういうと、そらしていた魔王様は、こちらをむきながら、目じりに浮かんだ涙を人差し指で拭う動作をして、私に笑顔を向けてきた。

「・・・・・」

 その一連の動作を見て、私の顔が熱くなるのを感じて思った。


 もう、やだー!!この人。ちょっと魔法が成功すると、その何倍も強い魔法でもって攻撃してくるよ!!なんですか、笑いすぎて涙目ですか。そんな、私の魔法が微妙に成功した代償が、何倍も大きな影響を出すなんて、数分前の私は、考えませんでしたよ!!


 これが、バタフライ効果か!!


 初動の真面目な私を返して!ちょっとカッコイイ私、というタイトルにしたかったのに、私がカッコイイ瞬間は一瞬か。そして、魔王様がカッコイイ瞬間は永劫か!!!


 どうしてこうなった!!

いつも閲覧してくださりありがとうございます。また、ブックマーク、ポイント評価してくださる方々にも感謝申し上げます。


作中に関しまして、特許の事が出てきていますが、数値等、現実世界とは一切関係がありませんので、ご理解の程よろしくお願いいたします。


また、完結後、ティーパーティーで入れなかった閑話を入れたいと考えてます。

まだまだ、未熟な部分が多大にあると思いますが、これからも暖かく見守っていただけたら、幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。


ごま豆腐

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