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初出撃 ~旧新宿テラリウム開発跡地~

 再び戻ってきた灰色と土の戦場。

 荒廃した二色のコントラストに蔦葉が生い茂り、程よく緑色がアクセントされている。


 第三次大戦中に起こった地球規模の大災害(カタストロフィ)

 予言のラッパを彷彿とさせる度重なる未曾有の大災害で各国は争いを途中で終わらせる事を余儀なくされた。遺された急務は人類が生き残る為の効率的なシステムの構築だった。

 その為に殆どの街は放棄された。


 そんな人類文明の跡地に剣人は立っている。

 目の前に広がる摩天楼はかつて新宿と呼ばれた街の名残だ。

 中空で折れた先の無いビル。どこの県区派遣軍か分からないが砲撃で滅茶苦茶に船体を歪ませた戦艦が横たわっている。

 今のルールで陸上艦の参戦は認められていない。つまりこの陸上戦艦は最低でも十年以上前からこの地に眠っている事になる。


 剣人はちらりと後ろを振り向く。剣人達京都県区軍の母艦ジャガーノート。旧大戦時の旗艦を務めた陸上戦艦だ。

 第三次大戦の遺物とも言える数々の巨艦は今はこうして派遣軍の母船としてのみ運用されている。その中の下部カタパルトから出撃してここまで来た。

 

「頼むぜ、相棒」


 グローブ越しにハンドルをぎゅっと握り締める。

 幾度かの調整走行を経てAI――ジーニアスシステムは安定してきたが、それは走行での話。実戦でこの鉄馬がどう動いてくれるかは未知数だ。


 だけど、やるしかない。


 戦闘経験は無いが、剣人はバイクの操縦には慣れている。VRシミュレータで実戦兵器の展開、使用訓練も積んできた。

 今はその小さな自信だけを頼りに戦うしかない。初戦で生き残れば次の戦闘への自信となる。まずバリウスと共に初戦を生き残る事だけが剣人の目標だった。


「敵はどこにいるんだ?」


 リヒターが通信機越しに呟く。少し離れた所にいるので本人の声も若干重なって聞こえる。


「愛知県区軍は東側、反対から旧新宿に突入する。ブリーフィングで聞かなかったの?」


 リヒターより少し後ろ、黄色いSSに跨った少女がそれに応える。

 確かエレナ・レナヴィク。旧ロシアの出身でドローン使いだと聞いている。

 彼女のバイクの周りには灰色の頭の無い四足歩行のドローンが四機。クーガーと呼ばれる自律AI搭載型の無人機だった。

 ヘッド部が省略(オミット)されているので犬型とは言い難いが、バイクの周りを囲む四足機械群は、さながら中世の貴族と猟犬の構図に似ていた。

 この面子と有人の二○式戦車一両。更に隊長機――ずっと背中を見せたまま微動だにしない久澄秋鷹機を加えた面子がウィルムの隊の陣容だ。


「どうして戦車が一両だけなんだ? この前の時はドローン含めて結構な数でドンパチしてたみたいだけど」

「今回は指揮官機を全て撃破すれば勝ちだからね。陣地を広げて制圧率とポイントを稼ぐこの前の郊外戦争とはルールが違うのよ」


 インジケーター脇の通信ディスプレイ。申し訳程度に小さく表示された円加が答える。


「それに今回投入する小型ドローンは高機動。ビル街での索敵に向いているの。歩行型――サベージは火力と陣地維持には使えるけど小回りが効かないのよ」

「へぇー」


 間の抜けた返事をしたところで側面を見るともう一つの部隊、ドレイク隊のメンバーが見える。剣人の所属するウィルム隊のように戦車は無いが、代わりに全てが高機動型ドローンと戦二で構成されている。


「ああ、ドレイク隊は前衛だからね。彼らが突撃して相手の陣容を把握してから頭を取りに行くの」

「随分とごり押しなんだな」

「向こうの方が古参が多いからね。君もそれは良く知ってるでしょ?」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべる赤縁眼鏡の美女。あの食堂での騒ぎは彼女の耳にも入っているらしい。

 剣人は窺うようにドレイク隊の戦闘二輪の乗り手を見据える。

 ちらりと目が合った灰色のネイキッドに跨った乗り手。ゴーグルをしているので一瞬分からなかったが良く見ると食堂で剣人に絡んできた一人だった。

 カッと衝動が巻き起こり、この前の出来事がフラッシュバックする。


「こちらドレイクリーダー。司令部へ」


 毅然とした女の声。通信ウインドウの円加に呼びかけている。


「予定時刻になったので出撃する。よろしく頼むわ」


 そう言って手振り一つで合図。彼女の乗る異形のネイキッドが唸りを上げ飛び出した。

 妙に高い位置に張り出した四角いヘッドライト。攻撃的な鋭いデザイン。銀色の半カウルのボディ。


「ヒビキエレクトロニクス社製、GHX1000ブレイドか……」


 バイク乗りなら誰でも知っている奇抜なデザインのバイクを模した戦闘二輪に剣人が感心したように一人頷く。

 まさか戦場であのような奇抜なモデルの戦闘二輪を見るとは思わなかった。


「でも、俺たちだって負けないぞ。なあ相棒」


 タンクを撫で戦闘開始をバリウスに伝える。


「今回は私が貴方とバリウスをサポートする。安心して戦いに集中してね」


 円加の言葉も心強い。

 そこまで言った所で、今度は青いTZFに跨る秋鷹が抑揚の無い調子で声を上げる。


「ウィルム隊も出るぞ。ウィルム4、エレナ機は戦車の護衛だ。いいな」


 そして一際甲高い音を響かせTZFが発進した。

 剣人とリヒター、そして数機のクーガーもそれに続く。



「ドローンの操作は俺に任せろBC250君!」

「見てろリヒター」


 負けじとスロットルをぶん回すとバリウスが一気に加速する。

 良く通る心地よい爆音。背中が飛びそうな加速感に耐えつつ前方を見ると、


「嘘だろ……」


 剣人はメット内で絶句した。

 前を走るTZFはそれを増すスピードで見る見る引き離していく。どれだけの速度が今出ているのだろうか。


「まあアキは何時もの事だから。剣人君はリヒター機とツーマンセルで行動! アキが漏らしたドローンを確実に潰して」

「アキ……?」


 一瞬円加が発した名前が誰の事か分からなかったが頭の中で久澄秋鷹――オムライス男の顔と名前が合致する。


「円加は隊長と昔から組んでるんだぜ。確か前は群馬県区派遣軍だっけ?」

「おしゃべりはやめて。反応多数、こちらで確認したわ。向こうの高機動型ドローン、TYPEヴォルクよ」

「だってよ剣人。ついてきな」


 いつの間にか剣人のバリウスに併走していたリヒターのG750が加速する。

 呼応するように剣人もトップギアに蹴り上げた。


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