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県機破壊作戦

 数日後、剣人達は再びブリーフィングルームに集合した。

 反体制勢力撃滅作戦後、初めての会議となる。

 青森県区に鬼斬の撃破こそ掠め取られたものの、敵指揮官機ザンザスを始めとする多くの敵戦力を討ち取った京都県区軍はそれなりの報酬を得ていた。


「ふわぁ~あ」

 剣人とは打って変わり、リヒターは暢気なもので大きく伸びをしながら入室する。痩せぎすの背中を見ながら剣人も仄暗い空間に足を踏み入れる。

 相変わらず陰気臭い会議室だった。いささか冷たすぎる空調が行き渡った室内は暗く、長机に座った皆が肩を落とし会議の始まりを待っていた。


「皆揃ったようね」

 最前列に立つのは先日のブリーフィングと同じく鷲宮円加だが、今回はジャガーノートの見慣れた顔しかいない。

 やたらと傲慢っぷりを見せつけてくる運営の上層部と顔を合わせないだけでも大分気が楽になる。

 一方で、場を支配するピリピリした空気にも気づいた。


「空席が多いな」

「それだけ先日の作戦での損耗は大きかったということだろう」

 リヒターが答える。今回は何時にも増して出席していない顔見知りも多かった。

 それはつまり……彼らはもう……


「ではブリーフィングを始めます」

 そこから先に至る思考をシャットダウンするように、円加がブリーフィングの開始を宣言する。

 背面の巨大ディスプレイが電子音と共に切り替わった。


「では現在の戦況だけど――」

 CGで形作られた京都県区のエンブレムが反転し、郊外戦争の各県の戦績などのグラフが表示される。

 北海道から始まり沖縄で終わる都道府県リストにはところどころ暗転して抜けている県もある。それは、既に今回の郊外戦争から退いた事を意味しているのだろうと剣人は瞬時に理解した。

 剣人にとって郊外戦争の定時フリーフィングは初めての出席だ。順番に切り替わっていく画面表示が何を意味しているのかさっぱり分からない。

 しばらく戦績グラフや数値だらけの表示が続き、担当官の説明は漸く終わった。


「で、情報共有が終わったところで早速なんだけど本題ね、私達京都県区の次の対戦相手が決まったわ」

 一同に緊張が走る。対する円加は涼しげな顔で右手一つで合図、傍らの補佐官がタブレットを操作、画面には見慣れないエンブレムが表示された。

 雪の結晶のような複雑な意匠。

 これは――


「当初の予定通り、今度の相手は青森県区軍です」

 あちらこちらで囁き合う面々。青森県区と言う名前が意味するものを皆で確認しているのだろう。


「アヴァランシェか……」

 剣人は噛み締めるようにその名を紡ぐ。

 前に座るアキの後姿を見るが、その表情を窺い知る事は出来ない。

 仇敵たるアヴァランシェに対して何か思う節はある筈だ。しかし、前の戦場で見せた時のような激情に駆られた危うさは見えなかった。

 ほっとしたように一息つく剣人。ここで一悶着やられては堪ったものではない。


「青森県区軍は人員コストを極限まで切り詰めた――ドローン主体の戦略を取っているわ。有人戦力はドローンを操作する戦闘二輪や歩行機械だけど割合は全戦力の一割にも満たない。残り九割の戦力を占めるドローンの役割は只一つ。敵戦力の漸減では無く、アヴァランシェで攻撃する為の囮よ」

 またどよめきが巻き起こる。

 これまで戦ってきた敵はどれもが有人戦力にドローンを絡めた混成部隊だった。

 敵機撃墜などは有人機が行い、ドローンは戦力の水増しの囮や援護役だ。

 だが、円加の話では青森県区軍は県機一機に大きく拠っている戦略なのだと言う。


「つまり、アヴァランシェが一方的に敵戦力を狙い撃ちにしていく訳だな? ドローンは最初から捨て駒、少ない有人機ですら戦力外でドローン操作の為に戦場に置いているだけと?」

「そうよ」

 鹿杜の発言に円加が頷く。


「ドローンも撹乱を目的とした四足タイプばかり。それらで陽動して射線に出てきた敵機をアヴァランシェが重粒子砲で文字通り『消滅』させていくスタイルよ。対戦した県区軍は殆どが熟達した人員ごと消されて大きく戦力を落としているわ」

 円加が後ろのディスプレイを振り返る。

 そこに表示されているのは郊外戦争の各都道府県別のランクだった。現在継戦能力を喪失し参戦不能となっている県。その多くの最終戦積の相手が……


「こいつら皆青森県区――アヴァランシェにやられたってのか」

 剣人の隣に座っていたワイバーン隊の男が呟いた。

 単機で県区軍を丸ごと相手に出来る圧倒的戦力が県機。剣人はそう聞いていた。

 それにしてもこの戦績には薄ら寒ささえ覚える。

 こいつとだけはやりたくない。こいつのいる戦場には出撃したくない。そう考えている戦二乗り達は多いだろう。ブリーフィングルーム全体に重苦しい空気が流れる。


「でも、こっちに勝機が無いって訳じゃないだろう?」

 その陰気臭い空気を払拭するよう声を上げる女の声。皆の首が動いた先にはドレイク隊長栗生美央の横顔があった。


「全てはアヴァランシェの為に、それが青森県区軍の戦略のコンセプトだと聞いている。県区が持つ郊外戦争の整備や戦力維持の軍事予算の殆どがアヴァランシェ一機に偏っていると。アヴァランシェの他は雑魚ばかり。つまりは――」

 県機アヴァランシェ一機さえ倒せばいい。至極明快な答えだ。

 だが、

「ちょっと待ってくれ」

 再び手を挙げたのは鹿杜だった。


「アヴァランシェを倒せば戦闘は終わる。それは分かったがヤツの重粒子砲を避けきって接近できる者がどれだけいる? 少なくとも鈍足な戦車じゃ只の的だ」

 鹿杜の周囲に散らばっていた戦車乗りや整備士もそれに同調する。


「そうね。接近は戦闘二輪部隊で行うとして。一番の問題を解決する必要があるわ。皆分かりきっていると思うけど重粒子砲。その対処法なんだけど――」

「こいつには決定的な弱点がある」

 決心した剣人はおもむろに立ち上がり円加の話を遮った。周りの者達が一様に驚きの表情を浮かべながら剣人――新入りの戦闘二輪乗りを見上げている。

 だが、この新入りの戦闘二輪乗りは初戦を生き残りアキと激闘を繰り広げ、あまつさえ前の反体制勢力との戦いでは敵の指揮官機を撃破しているのだ。

 その実績は周りから飛ぶだろう野次を抑止するには十分だった。

 いきなりの剣人の発言に皆が言葉を失う中、円加だけは頭上で黒い糸くずを浮かべたような表情だった。


「で、その弱点って何なのか教えてもらえるかしら?」

 円加の嫌味混じりの言葉にも剣人は素直に頷く。


「この重粒子砲は確かに強力だ。直撃を受けたらまずどんな重装甲でも融解するし、並みの兵器なら当たったら最期だ。でも、この砲はバカスカと連射できない。砲撃中も常に冷却し続けながらでなければ砲身が先に焼け落ちるという弱点がある」

 剣人の熱弁の下で、傍らに座り頬杖をつきながら聞いていたエレナが『へぇ』と小さく息を漏らす。


「勿論交換用バレルは何本も携帯している筈だ。撃ちまくっていれば幾ら冷却していても何時かはイカれるからな。けど、砲身の交換には若干のタイムロスがある。そこを狙えばいい。しかも冷却用の回路は砲身に沿う形でめぐらされている。砲身を叩けば冷却装置まで浸透して砲そのものが使い物にならなくなる。替えが幾ら残っていても冷却できなければ……もう粒子砲は使えない」

「つまり、砲身一本さえ破壊すれば粒子砲そのものが使い物にならなくなると?」

「そうだ」

 鹿杜の問いに剣人は体の向きを変えながら首肯する。


「アヴァランシェの弱点は冷却タンクと直結したライフルの構造上の欠陥にあるんだ。砲身内部目掛けて強力な攻撃をぶち込めば内部から崩壊する。口径は皆も見た通り大人一人が隠れられる程デカい。戦闘二輪からの射撃で当てるのも不可能な話じゃない」

 言い終わった剣人は皆を見渡した。

 誰もが疑問符と、希望が混じったような釈然としない顔をしているが、中には剣人の言葉を信じ前向きな表情を浮かべ頷く者もいた。

 その中で、


「できるのか」

 唯一真剣な面持ちで腕を組み、終始剣人の説明に傾注していたアキが一言問いかける。

 剣人はアキの双眸を真っ直ぐに見据えながら、


「俺がやる」

 はっきりと言いきった。


「この前の戦いのせいで京都県区のドローンは粗方やられた。少数の戦闘二輪での急襲戦法をやりたいっていうなら勝ち方はこれしかない」

「戦車と残存のクーガーで雑魚の攻撃をひきつける……それならアヴァランシェとの戦闘に集中する事は出来るかもね――でもちょっと待ってよ!」

 隣で一人ぶつぶつと呟いていたエレナ。彼女なりに作戦を考えていたのだろう。だが、言いかけた所で剣人の方向けて顔をがばっと見上げて叫んだ。


「なんでアンタが知ってんのよ⁉」

 他の皆も同じ事を思っているようだ。

 剣人はエレナを見下ろしながら答える。


「こいつは――アヴァランシェは近衛技研が作った県機だ。俺は昔、近衛の技術屋だった……プラントテラリウムで重粒子砲を作っていたんだ」

 明かされる過去に驚きを隠せない面々。近衛技研と言えば今や郊外戦争はおろか世界を裏から牛耳る三大統合企業体の一角だ。

 その一流企業に目の前の青年が属していたという事実にブリーフィングルームはざわめく。

 各企業が製造する多くの兵器の中でも県機関連の物は超が付く程の機密事項の筈だ。それを何故目の前の一介のモジュールアーミーが知っているんだという疑問に誰もが困惑を隠せない。

 そもそも最重要機密事項に関与したプロジェクトに携わっていた者が何故使い捨ての傭兵稼業に身を落としているのか。


「どういうことだよ、こいつ……」

「なんでこんなヒヨッコが」

 周囲の面々が戸惑いながら近隣の者同士問答を始める。最前列で指揮を取る筈の円加でさえ言葉を失っている。

 その中でただ一人、戦車長の鹿杜が口を開く。


「……坊主の話は良く分かった。どんな事情でここに来たかは知らんが、ヤツの装備の製造に携わっていたってのも本当の話なんだろうさ」

 顔を上げながら鹿杜は左眼だけ開き剣人を凝視する。真実を見極めようとする眼差しだった。


「この作戦は非常に危険な賭けだ。確かに重装の本体を倒せずとも砲を倒せば即勝利に繋がる。だが、あまりに分が悪すぎる。リロードを狙うにしても接近するまで何度死地に飛び込めばいい。これは戦闘二輪乗りを捨て駒にした作戦だ」

 そして、言葉の最後に『尤も……』と付け加える鹿杜。


「京都県区軍の司令官として……円加は坊主の作戦どう考える?」

 振られた円加は大きく首を左右に振ってみせる。


「この戦術は考え得る限り最も有効なプランだと思う」

 円加は脚を組み換えながら付け加える。


「彼の言う敵の弱点が本当の話なら……ね」

「なら手筈通り俺が……!」

 身を乗り出しながら円加に懇願の眼差しを向ける剣人。

 が、遅れて顔を上げた円加の目ははっきりと険しい物を秘めていた。


「でも、それは敵の砲撃を避けながら接近できるのが前提での話……私は今回のミッションは京都県区派遣軍指揮官として辞退しようと思います」

 辞退。それが何を意味するか……剣人でも理解できた。言葉として、頭の上では。


「何で⁉ ここまで来て辞退だなんて!」

 激昂する剣人だが、円加は冷え切ったとまで言える程の私情の失せた顔をしていた。


「それ程までに今回のミッションは無謀だってことよ」

 そう言って円加は隣の副官に指示をする。

 タブレットを何度もタップする指の音だけが室内に響く中、円加は告げる。


「アヴァランシェの乗り手は現在郊外戦争に登録されている全ての兵士の中でも最高級の狙撃手よ。彼女の狙撃を避けて作戦遂行可能距離まで接近する事は不可能」

「彼女……?」

 そして、ピッと言う軽い電子音と共に円加の背後の画面が暗転する。

 スツールに脚を組みながら、会議室に集ったメンバーを見据える円加。

 その背後のディスプレイには、


「嘘だろ……何で……」

 剣人は喉を小さく鳴らしながら呟いた。

 腰掛ける円加のシルエット。その背後には巨大な人物像が映し出されていた。

 それも、剣人が良く知る少女の容貌が。

 雪のように明るい白金のブロンド。愛くるしい胡桃のような瞳は青く輝きを帯びている。その顔形は紛れも無く――


「アヴァランシェの搭乗者の名前はフィオナ・ブランシュ。青森県区軍が誇る、今郊外戦争屈指の狙撃手よ」


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