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反撃

 

「よし、三人護送っと」

 エレナが弾むような声で端末を操作、他の戦二乗りがバイクに跨ったまま突きつけた拳銃の先で捕虜を装甲車両に進むように促す。

 後ろ手に拘束された蓑虫(みのむし)のような身体でやけくそ紛れで護送車に飛び込んでいく。三人目の捕虜が車内に消えた瞬間、護送車のタラップが跳ね上がりそのまま扉になって収納される。

 事前に運営部が用意した無人のドローン車両。一度車内に入ったら最後、外からでないと解錠出来ない動く監獄だった。


「ようやく落ち着いたね」

 周囲一帯の安全を確保した剣人はヘルメットを脱いで頭を振り回す。摂氏40℃近い気温のせい髪先には(おびただ)しい汗の雫が蓄えられている。それらを一気に払い落とした剣人は大きく息をつく。

 一段落ついたウィルム、ドレイク隊は、先行したワイバーン隊の報告を待ちつつ待機していた。三部隊存在する京都県区の戦闘二輪部隊はこのように先鋒を入れ替えながら戦線を押し上げていく戦術を取っている。

 ひとまずの小休止を満喫する戦二乗り達。剣人達は護送車両の脇にバイクを停め携帯ドリンクを飲み干す。


「しかし、随分と呆気なく降参するなあ」

「所詮は敵も私達と同じ雇われの身分ってことよ。この騒動が済んだら情報供与やらの司法取引でまたどこぞの県区軍に復帰するんでしょうけどね」

 エレナは詰まらなそうに端末を愛機の収納スペースにしまい込むとヘルメットを被る。


「本当の意味で怖いのはここの兵士やドローンよりも、上に居座って顎先一つで物事を動かす連中だって事」

「はーあ。さっさと終わらせて帰ろうぜ、こんな茶番。なあ剣人?」

 軽口紛れで同意を促すリヒターだが剣人は上手く答える事が出来ない。幾ら上の命令とは言ってもこれは殺し合いだ。

 上が殺せと言ったから殺しあえる状況。命令する側に良心の呵責は無いのだろうか? 

 例え向こうには向こうの思惑があって戦う他無いとしても、こんな世界の在り方に疑問を感じずにはいられない。

 だが、ここはもう戦場。戦場に飛び込んだ以上敵と味方が向かい合う目的は一つ。相手を潰すか潰されるかの選択しかないのだ。


「向かって来られたら殺らなくちゃならないからな……」

 剣人は自分に言い聞かせるように呟くとバリウスのエンジンを始動しようとする。

 その瞬間、


「京都県区派遣軍全隊に告ぐ――」

 突如全部隊に向けた通信が流れた。

 聞き慣れた京都県区軍指揮官、鷲宮円加の声は圧倒的優勢の場において酷く狼狽しているように思えた。


「どうしたんだ?」

 呟く剣人は周りを見る。どの戦闘二輪乗り達もそれまでの談笑を止めて円加の通信に聞き入っている。状況が只事では無いと悟っているようだ。


「敵県機出撃を確認。繰り返す……」

「どうしたんでしょう?」

 エレナは近づいてきたアキに問う。

 小脇に抱えたヘルメットに補給物資の高カロリービスケットのパックを詰め込んでいたアキはそれらを戦闘二輪の収納スペースに詰め込むと、

「休憩は終わりだ。ここから先は県機の戦場になる」

 それだけ吐き捨てるように言って踵を返す。


「――だってさ」

 リヒターはやれやれと手を振っている。


「県機が攻めてくるってのか?」

「違うわ。敵の県機は石川県区の担当エリアにいるって。京都(うち)の県機テンペストが撃破に当たるらしい」

 エレナは戦闘準備をしながら剣人のヘルメットを小突いた。


「アキにばっか気を取られて大事な通信を聞き逃したらダメよ」

「すいません」

 一応大先輩のエレナに剣人は謝る。鹿杜の話ではウィルム隊の中でエレナはアキに次ぐ古参らしい。

 思考直結の手術をしているらしく、数人分の戦力を一手に担う彼女はバイク乗りが枯渇しているウィルムの中で副隊長とも言える存在だ。剣人程度の新人では頭が上がらない。


「京都はケチだから県機は温存してるって聞いたけど出撃かよ。何だよこれつまんねえな」

 リヒターが口笛を吹きながらバイクに跨る。長身のリヒターでは足つきが良すぎるのか、数度地団駄を踏み整地する。そしてヘルメットを被り準備完了の素振りを見せた。


「仕方ないわ。県機は県機でしか倒せないしね」

 その時、通信にノイズが混じり、


「こちらワイバーン隊――ウィルム隊聞こえるか?」

 聞き慣れない若い男の声が割り込んできた。

 ワイバーン隊。先行して敵本拠地の探索に当たっていた戦闘二輪部隊だった。

 息絶え絶えの様子からしていい話じゃないな。剣人は思わず顔をしかめてしまう。


「はいはい、こちらウィルム4。どうかしたの?」

「敵の戦二が打って出てきやがった。県機の攻勢に呼応したらしい。俺達はこのまま後退する……援護を!」

「やれやれ。とんだ貧乏くじだ」

 リヒターがエレナの傍らで茶々を入れる。エレナは通信に聞き入りつつもちょっと黙っててよと言うジェスチャーをリヒターに飛ばし、


「分かったわ。隊長機に伝えておくわ」

「すまん。恩に着る!」

 ワイバーン隊との通信はそこで終了した。


「さて、隊長。どうします? 戦闘二輪の中間形態なら後退しながらの支援も出来るけど」

 エレナは思わせぶりな口調で隊長機――TZFに跨ったアキの方に小首を傾ける。


「嫌ならお前らは下がっていいぞ。俺とドレイク隊で対応できる」

「まさか!」

 エレナはおどけたように笑う。アキは何の感情も示さずに、


「決まりだな」

 愛機TZFのエンジンを始動させる。小気味いい音と共に跨った状態の足が振動でブレる。アキはヘルメットを被りながら通信を飛ばす。


「ドレイク隊。ワイバーン隊に喰い付いてきた敵をこのまま引っ張り出すぞ。戦車部隊の待機する市街地エリアまで後退だ」

 そう言って二度空ぶかしながら青いTZFは猛スピードで走り去っていく。

 それを聞いていた他の面々も次々に愛機を始動させる。その中には共に愛知県区軍と戦ったドレイクリーダー栗生美央の姿もあった。

 愛機GHX1000ブレイドと同じシルバーのライダースーツに身を包んだ長身の女隊長はゆっくりと剣人やエレナ達に横付けしながら、


「貴方達の隊長さん、何とかしてよ。人使い荒すぎ」

 そんな事をぼやきながら出撃していく。


「俺らに言われてもな。ありゃ治んねェって」

 リヒターもぼやきながら発車させる。エレナはドレイク隊に状況を伝えるとドローンを呼び寄せ剣人に手を振り出撃を促す。


「はぁ~」

 県機の出撃の報を聞いて、これで戦闘二輪の出番は終わりだと思っていた剣人は大きな溜息をついた。

 出来ることならさっさと帰りたかったのに。

 しかし、剣人の思惑とは対照的にバリウスのエンジンは十分すぎるほど暖気されていて調子がよさそうだ。


「そりゃお前は待ちに待った本気の戦いができるだろうけど……」

 血気に逸る愛馬をなだめるようにニュートラルから一速に落とすと、剣人も三機に遅れて出撃した。


 ワイバーン隊の要請に応じ出撃したウィルム、ドレイク両隊は住宅地を抜け山間の峠道を進んでいた。

 敵の姿は見えない。しかし、山の彼方から時折散発的な銃声が木霊していた。


「近いのか……?」

 剣人はバリウスのハンドルを握り締めながら独りごちる。

 先頭をひた走るTZFはその銃声に反応するように加速する。甲高い音を立てて青いシルエットがズンと加速した。


「クソッ、またかよ――おい待てアキ!」

 リヒターが怒鳴り散らすがアキは振り返る事無く徐々に剣人やリヒター達後続との差が開いていく。


「本当相変わらずね! 連携なんて出来る訳ないじゃない!」

 栗生美央もぼやくが連携する筈の部隊のリーダーの通信すらアキは反応を示さない。

 総勢十機にも及ぶ戦二部隊はヘアピンカーブを曲がりながら山がちになった地形を上っていく。事前にエレナが飛ばしていた飛行型ドローンの報告ではこの先の病院跡地にワイバーン隊が集結しているらしい。

 剣人も負けじとバリウスを加速させる。思いの外すんなりと従うバリウス。


「やはり、こいつぶん回せば回すほど……」

 剣人はタコメーターに併設されたバリウスの出力計を確認。スピードを上げながら蛇行する坂道を上っていく。

 幾つかのカーブを過ぎアキの背中を捉えかけた瞬間、地形が開け、廃病院の白い建造物が見えてきた。丘の上に聳える巨大な建造物の頂点は崩落しているが、看板の断片からはかろうじて病院という文字が読み取れる。


「司令部へ、ワイバーン隊を確認!」

 ドレイク1――栗生美央が叫び、円加に指示を仰ぐ。

 少しの間を置いてジャガーノートから敵機のマーキング付きのマップが転送されてくる。


「なかなかに多いな」

 リヒターの言う通り、廃病院は敷地内に点在するワイバーン隊を表す青い光点を遥かに上回る数の赤い光点――敵の軍勢が取り囲んでいた。更に反対側からも増援らしき敵機が接近しつつあるようだ。


「恐らくは全て戦闘二輪ね。こちらからの詳細はドローンでは把握しきれないわ。ドレイク、ウィルム両隊長に現場の指揮は任せます」

 廃病院に近づくにつれ、徐々にその戦場の有様が明らかになってくる。

 正面エントランスを望むロータリー。その脇の地下駐車場の入り口はさながら防空壕の入り口、或いは洞穴のように倒壊しかけている。その中でワイバーン隊の損傷した戦闘二輪が待機しているのが見えた。

 数機が中間形態で病院のコンクリートの壁越しに応戦しているのが見える。

 彼方には敵の複数の戦闘二輪が対峙していて銃撃を浴びせていた。

 先程まで交戦してきた敵戦闘二輪の多くが古い車種だった。しかし、今回の敵は多くが現行の主力モデルだ。ワイバーン隊が苦戦するのも頷ける。


「さっきまでやりあってた奴らとはまるで違う。練度も装備の充実ぶりも――」

「嘘だろ、ここが連中の本隊かよ」

「私にとっちゃ大当たり!」

 うろたえる剣人を余所にエレナは大喜びで無人機クーガーを散開、突撃させる。

 四足獣を模した無数のドローンが大地を踏み荒らしながら、敵機に殺到していく。

 安定した射撃戦に長けた中間形態の敵機は反応しきれずに混乱していた。


「味方の援軍か!」

 歓喜の声を上げながらワイバーン隊が後退の準備に入った。

 中間形態を解除、バイクで方向転換する内に剣人達が駆けつける。

 エレナ、リヒター、それにドレイク隊の各機がワイバーン機と入れ替わるように次々と中間形態に変形する。

 剣人も前に習って中間形態に可変。思い切り前輪を浮かせるように座席の上で引っ張り上げると、その動きに促されるようにバリウスが割れた後輪を足にして立ち上がる。


「よし!」

 今度は操作に追従してくれた。嬉しさに剣人の頬が思わず綻ぶ。

 黄緑色の構成テクスチャの燐光が迸り、ボディ両翼にアサルトライフルが具現化する。

 火力安全装置を解除――


「全機、一斉射!」

 美央の一声で敵の射撃に応戦する各機。

 上手く廃病院の柱に隠れ、移動しながら銃撃を続ける。

 戦闘二輪に量子化して積載する際の兵装は各人の自由なので、アサルトライフルタイプの武器や、グレネードランチャーなど様々だ。

 発砲音、連射音に時折爆発音が混じり、たちまちの内に戦場は混沌の坩堝と化す。


「後退だ!」

 ある程度の手ごたえを感じ、ワイバーン隊の撤退も確認したアキは信号弾を発した。

 煙幕が展開され、後退の合図。

 剣人もそれに従いバリウスの機首を元来た方角に向けた。



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