ゴーストライダーとの戦い
曲がりくねった道を進んだ先、遂に開けた場所に躍り出た。
そこはかつて公園だったらしい。
真ん中には錆びだらけの滑り台が佇み、他の遊具は軒並み半壊していた。
砲撃の煽りを受け毛羽立って避けた樹木。その向こうには団地がそびえている。
その広場で乱戦が繰り広げられていた。互いの背を取り合う戦闘機のドッグファイトのような機動戦が陸上で行われている。
爆音が織り成す協奏曲。戦闘二輪の数は敵味方合わせて十機近くいる。
「ちょっと誰よ。あんた一機だけなの⁉」
女の声。ドレイク隊のリーダーを務めていたGHX1000ブレイドの乗り手だった。戦闘中なのも相まって気が立っている。
「こちらウィルム隊7号機。援護しに来た!」
剣人は通信機に向けて大声で返すが反応は無い。見るとどの機体も高速戦闘の最中だ。
「その声はあのBC250の坊主だな!」
戦闘中の味方の中には数日前に剣人に絡んできた男もいた。
「アンタ食堂の……敵は何機だ⁉ ここにいるやつだけか? ドローンは――」
「ドローンは全部潰した!」
「重戦車もね。ここにいるのは殆どが増援の戦二よ。ドレイク3! 援護を!」
女隊長の声に呼応するように男のネイキッドが変形、具現化させた武装を乱射する。
マシンガンの弾丸がばらまかれている方向からは敵のSSが突撃してくる。極ありふれた250クラスサイズのSS。だが、その有り得ない姿に剣人は思わず声を漏らした。
「なんだ……あれ」
驚くべき事にSSには人が乗っていなかったのだ。
無人のバイクが俊敏で機械的な挙動で走り回っている。
まるで……
「ゴーストライダー……無人AI?」
「そうだ! 敵は無人の戦闘二輪を繰り出してきた」
剣人に横付けしながら別の戦闘二輪乗りが叫んだ。
「だが敵の指揮官を落とせば片付けられる。俺達はコントロールしている奴をつぶすぞ!」
「はい!」
剣人ともう一機が指揮官機目掛け突き進む。敵指揮官らしきバイクは攻撃的なヘッドライトのストリートファイターだった。
しかし、そのバイクを守るように陣取っていた二機の無人SSがこちらに向けて走り出す。
「護衛機だ。来るぞ!」
剣人と先導役のドレイク機が出会い頭に機銃をお見舞いする。
剣人はバリウス前面に六角形の量子シールドを展開させ銃弾を弾く。
しかし、通り過ぎた無人機は恐るべき速さで反転するとこちらの背を取って接近、
「挟まれる! 分かれろ――」
合図で二手に分かれるが、二機の無人機はそのドレイク隊の先導役に殺到。
「ぎゃああああ!」
味方機は呆気なく撃墜された。
高速走行のまま人型形態と化した無人機がもう一機に飛び乗り、搭乗者目掛けて回転ブレードを叩き込んだのだ。
「バイクがバイクに乗るなんて……」
思わず目を背けたくなる流血の惨事。
しかし、人型ロボの乗った無人機が今度は剣人に狙いを変えた。
それと同時に、彼方の隊長機――ストリートファイターが動き出す。
「くっそおおおお!」
横滑りさせながら方向転換。その先にはGHX1000ブレイド。
「こっちだ、ひよっこ!」
気丈な女の声。ヘルメットの裾から栗色のロングヘアが舞っていた。ブレイドは二度空ぶかしすると急発進してこちらにぐんぐん近づく。
「身を低く、私にまかせろ!」
言われるままバリウスにしがみつく。銀色のブレイドと高速ですれ違う瞬間、ブレイドがジャンプ、空中でスピンしながら後ろの無人機に交錯し切り捨てた。
「何て動きだ!」
サイドミラー越しだが剣人にはその瞬間がはっきりと見えた。まるでバイクのタイヤに刃でも付いているかの如く、ブレイドと接触したSSが真っ二つに切れたのだ。無人機に跨っていた人型の無人機もろとも、だ。
恐らくは前輪に量子武装が展開されている。タイヤもしくはホイールから白兵戦用のブレードが展開されれば或いは……
「すげぇ……」
剣人が感心する間もなく、
「まだいるぞ、バカ!」
ドレイク3が前方から接近する別の敵機を喚起させる。
剣人は尚も前方から迫る無人機の攻撃を交わし反転、ブレイド使いのドレイク隊の女隊長を援護するのだが、
「当たらない!」
無人機は統率のとれた気味の悪い動きで剣人の弾道全てを避ける。まるである種の回遊魚の群れのように高速で動き回る。
「止まるな、撃たれるぞ!」
ブレイドの女隊長が叫びながら敵のストリートファイターと撃ち合っている。
ボディを競り上げた中間形態で向き合いながらの走行、朽ち果てた遊具を盾にしながら撃ち合い続けている。
「隊長を守れ! 坊主!」
ドレイク3は無人機の応戦に手一杯だ。食堂でからかってきた件は腹立たしいが無人機複数を相手に一歩も退かない。
なかなかの腕を持っているらしい。
「やるしかない!」
腹を決めた剣人は敵のストリートファイターに突撃をかける。
バリウスの意思は未だ剣人には理解し難い。土壇場で彼の指示に歯向かう可能性もあるので立ち止まって人型には変形できない。
だが、中間形態なら援護だけは出来る筈。
ボディサイドに武装を顕現させる。
「はああああッ!」
一方、GHX1000ブレイドの女は裂帛の叫びを上げながらアサルトライフルを連射し続ける。
障害物の公衆トイレの建屋に孔を空けながら二機は銃撃戦を続けている。
規則的な二つの連射音と薬莢が排出され地に落ちる金属質な音がひっきりなしに響き渡る。そこに突然、冗談のような砲撃音が轟いた。
「⁉」
その場にいた剣人も、ドレイク3も、ブレイド乗りの女も驚愕に目を見開く。
公園に面していた民家。その一階が轟音と共に吹き飛んだ。
中から姿を現した巨体に釘付けになる。
瓦礫を突き崩しながら現れた巨砲。全てを踏み砕きながら進むカーキ色の車体にはそこら中に反応装甲が貼り付けられていた。敵の重戦車だった。
「もう一両いたの⁉」
「いや、別の隊の奴らが追いついたんだ」
会話を続けるドレイク隊の二人を尻目に重戦車の砲塔はゆっくり傾いでいく。
「避けろ、美央!」
ドレイク3の男がブレイド乗りの女の名前を叫んだ次の瞬間、特大の砲弾が放たれた。
噴煙が巻き上げられ彼女の戦二が立っていた公衆トイレは建屋ごと吹き飛ばされる。
空気が震え、剣人の聴覚が遠のいた。
「一体どうなった――⁉」
ようやく土煙が晴れた所でGHX1000ブレイドは人型に変形していた。量子装甲ながら研ぎ澄まされた細身のシルエットは守りを捨てた攻めるデザイン。
真四角のヘッドライトの光の中ではライン状のセンサーアイがより一層強く輝いていた。
「やってくれるじゃない!」
踵を形成する二つのタイヤをローラーのように駆動させ一気に駆け出す。
狙いは重戦車の砲塔だ。反応装甲に包まれている車体はいくら強力な火器でも崩しきれない。
砲塔を先程見せた白兵武器で無力化する腹つもりなのだろう。
ブレイドは単機吶喊する。
だからこそ、剣人は行動を起こせた。
――その絶好の機会に狙い済ました敵機の狙撃を。




