高回転中毒
ビル群に入ったウィルム6及びウィルム7――リヒターと剣人はレーダー上の敵光点が徐々に近づくのを確認していた。
「ここからは速度を落とす。遮蔽物に敵がいるかもしれない」
リヒターの指示に頷きギアを落とす剣人。ディスプレイに映る円加と目が合う。
「大丈夫? 剣人君」
剣人を気遣うように円加が語りかける。
彼女が心配しているのはバリウスと剣人の事だろう。
あの局面で変形を拒んだバリウス。結果的に危うく死に掛けた剣人。
両者の絆は完全に遠い物となったのだ。乗り手と一体になる戦闘二輪においてこれは致命的と言える。
何故、バリウスが剣人をここまで拒むのかは分からない。何が気に入らないのか。
だがここでそれを考えていてもしょうがないと思った剣人は努めて冷静に答えた。
「ああいける。走行自体は問題無いし、人型での戦闘が無理でもなんとかしてみせるよ」
「ならいいけど……」
円加の顔が俯く。その瞬間敵の発見を知らせるアラートがメットの中で鳴り響く。
「あそこだ!」
リヒターが言うが早いか、瓦礫の影からサベージが現れる。
「敵反応は他に無いわ。恐らくはバックアップ無しの戦闘プログラム。待ち伏せ要員ね」
「足止め役だ。ここを突破すれば本隊に辿り着く――俺がやる」
リヒターは武装を展開、ライフルの狙い済ました三点バーストでサベージの足元を狙う。
「追加装甲よ!」
円加が叫ぶ。
見ると、サベージの華奢な脚部をカバーするように、分厚い装甲が張り巡らされている。リヒターの放った銃弾は全てその装甲板に当たり、鈍い金属音と共に火花が上がる。即座にライフルの構えを解除しバイク形態に戻るリヒター。
「ライフルじゃ抜けないぞ。リヒター!」
「なら、このまま接近して白兵形態でいく!」
リヒターはG750のヘッドライト、鼻先のように尖った部分に据えつけられた機銃で撹乱射撃しながら接近を図る。
剣人もすかさず援護の構えを取る。ボディを競り上がらせ量子武装の展開――剣人の操作に今度はバリウスはすんなり反応した。
「中間形態までは問題なくいけるみたいだ。援護する!」
「剣人!」
「ロックオンされてるわ!」
リヒターと円加が同時に叫び、ピピピと言う警告音は一瞬の内にけたたましいブザー音に変わった。
サベージの背中に据えられたミサイルが飛んで来たのだ。
「避けろ――!」
剣人は何とか競り上がりかけた機体を元に戻し疾走する。瓦礫の散らばった複線道路を大きく蛇行しながら回避行動を取る。しかし、サイドミラーに見えるミサイルは尚も追随。
「低速ミサイルだ。エイミングだけはしつこいから引き付けて撃ち落せ!」
リヒターががなり散らす。白煙の尾を引き迫るミサイル。
徐々にサイドミラーに映った弾頭が大きくなり、それと同時に鼓動がどんどん早くなる。
「あのビルディングに突っ込んで。そのまま突破よ」
メット内HUDにポイントがマーキングされる。その建物めがけてバリウスを走らせる。
ガラス扉が四散したエントランスからダイナミックに入店。
元は大企業のオフィスビルだったのだろうか。くすんだ赤のオフィスカーペットと中綿出して転がるソファー。がら空きになったロビーをそのまま突っ走る。
「剣人君、ミサイルは⁉」
「まだだ!」
頼みのリヒターはまだサベージと交戦中のようだった。この局面は自力で何とかするしかない。
「しつこいやつだ……!」
剣人はハンドルを思いきり傾け方向を変える。そのまま動きを止め、中央を走る上り下りの二本のエスカレータ、その間の平坦なスロープにジャンプし、突っ込む。
ミサイルもそれに追従。背中にミサイルの接近を感じながら一気に上りきる剣人。
吹き抜けになった二階に到達、大きく回りこみながら退路を探す。
「あそこか!」
剣人が見る方向。全面張りになったガラスから薄暗い屋内に光が注いでいるのが見えた。
いちかばちか――アクセルを限界まで回すとバリウスが甲高い咆哮を上げGが加圧される。
「南無三!」
ガラスを突き破り廃棄都市の宙空に舞う。
絶景が広がった。
眼下に散らばるビル群。
意外と狭く感じる。遠くには荒野と化した関東平野と茶色くなった丘陵が見えた。
その景色の端々彩るように四散したガラス片が煌いている――綺麗だと思った。
時が止まったような瞬間、背後の轟音と共に熱気が襲い掛かる。
「おおおッ!」
窓辺のどこかにぶつかったミサイルが起爆したのだ。
バリウスにしがみつきながら地を見る。見る見るうちにガレキに覆われた灰色の地表は近づき覚悟を決めた。
そのまま着地。急激な衝撃が剣人とバリウスを襲うが耐え切った。
レーダーを視認しても既にリヒター機とサベージからは離れてしまったようだ。どこまで逃げてきたんだろうと思いつつマップをフリック操作する。
代わりに現れたのは複数の青い光点。友軍の反応だった。
「ドレイク隊を確認! 援護に入る!」
「ちょっと剣人君!」
円加を無視してそのまま再加速。路地裏から表に飛び出した。
幸い他の敵機は見当たらない。
「皆ドレイク隊に集中してるって訳か――ん?」
突如レーダーに波線が走る。通信ウインドウの円加の声も途切れ途切れになって聞きづらくなり、全て映らなくなった。
「ジャミングか……」
これでは戦況のバックアップを円加から受けることは難しい。それでも近距離にいるであろうドレイク隊の位置だけは把握しているので剣人は直進する。
ぐんとアクセルを回す。太ももで挟み込んだエンジンの回転数が増していく。
バリウスは剣人の操作に素直に反応していた。アクセルを回せば回す程、加速すれば加速する程、マフラーからは歓喜の雄叫び地味た排気音が巻き起こる。
こいつ喜んでるのか。
まるで闘争本能だけが先行しているようだった。剣人はそのまま数ブロック先の戦区へと愛機を進めた。




