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折り合わぬ鉄馬

 剣人がバリウスを加速させたと同時に、インジケータ上のレーダーに反応する光点(ブリップ)があった。


「敵機……!」

「来るぞ、散開!」


 傍らのリヒターの指示に従いながら、ハンドル脇のスイッチを押し込む。

 ヘッドライト両脇に搭載された小口径機銃が火を噴く。牽制と小型ドローン相手なら十分通用する火力だ。

 高速走行のバイク形態で唯一使用可能な武装。しかし、接近する黒い影はパッと二手に分かれる。

 それに呼応するように剣人の横の獣型ドローンのクーガーが飛び出す。

 操作しているのはリヒター、バイクを乗りながらのドローン操作なんてよくやれるなと感心してしまう。


「まだだ、来るぞ!」


 敵の黒い獣型ドローン――ヴォルクは四機。その内の後衛二機が剣人目掛け飛び掛る。

 餓えた狼の群れが獲物に喰らいつくように距離を詰めてくる。


「何て機動性だ!」


 すかさず展開した変形機構でバリウスのボディが持ち上がり、そこにヴォルクが激突した。


「ぐっ!」


 激しい衝撃に振り落とされまいとハンドルを握り締める。


「ウィルム6、エンゲージ!」


 リヒター機が変形。そのままサイドに現れたライフルでヴォルクの黒い身体を撃ち抜く。

 鋼を打ち破る貫通音と共に鉄の狼が弾け飛ぶ。


「ありがとう。助かった!」


 すかさず剣人もそのまま変形を続行、武装を展開しオートで撃ちまくる。重機関銃の鈍い発砲音が断続的に響く。

 が、当たらない。射線を交わしたヴォルクが剣人目掛けて飛び掛る。味方のクーガー二機はそれぞれ組み合っていてこちらに回れない。


「くそっ」


 剣人はすかさず白兵戦に持ち込むため人型に変形しようとするのだが、


「――ダメだ。受け付けない!」


 悲痛な叫びを上げる剣人。

 バリウスの操作画面にはエラーの赤文字が画面いっぱいに点滅するのみ。変形機構がかみ合わないまま立ち尽くす。

 迫る黒狼。

 やられる。そう思った瞬間――


「剣人!」


 リヒター機が人型に変形。ライフルの銃剣でヴォルクを叩き斬る。

 残りのヴォルクも自軍のクーガーが無力化したようだ。とりあえずこの局面は切り抜けた。

 それなのに剣人の心は休まらない。

 顔中を流れる脂汗の不快感など気にもせず、インジケータを睨みつける。


「なんだってんだよ……クソ」


 画面は至って平常を現す緑一色。先程までモニター全面を染め上げていた赤色は嘘のように消えている。


「剣人君大丈夫?」

「円加。バリウスのAIは調整しといてくれたんだよな?」

「ええ、できる最善はしたつもりよ」


 左上のウインドウには円加の心配そうな面持ち。この刹那に剣人とバリウスの間に何が起こったか、彼女は全て把握していた。

 しかし、事情を知らないリヒターは機体を横付けしながらバリウスのインジケーターを覗き込む。


「一体どうしたんだよ?」

「こいつ、よりによって一番ヤバイ時に変形を拒みやがった……!」

「それは……」


 押し黙る円加。

 あの局面でもしリヒターが援護に入ってくれなければ……剣人の背筋を冷たい物が通り過ぎる。

 恐らくはあのままヴォルクの鋼鉄製の白兵戦用装備でライダースーツごと貫かれていただろう。

 もしくはバリウスから落とされもがく剣人を対人用の機銃が蜂の巣にしていたのは言うまでも無い。

 それを知っていてバリウスが変形を拒絶した事実――それはまるで乗り手である剣人の死を望んでいるかのようだった。

 

 機械の癖に、AIの癖に……

 思わず、インジケータ上のコンソールを叩きつけようと拳が上がる。


「それだけはダメ!」


 円加の声に反応した拳はぷるぷると震えたまま、動きを止めた。


「ダメよ。絶対にそれだけは――」


 円加の表情は一転厳しくなっていた。

 剣人に対する憐憫と、変形を拒んだバリウスに対する何らかの思いが複雑に交じり合った複雑な表情。


「バリウスのAI、ジーニアスシステムは生きている。それ以上進んだら貴方との信頼関係は完全に壊れるわ」

「何だって。こいつは俺を見殺しにしようと……」


 そこまで言いかけたところで前方のビル群から巨大な足音。

 物陰から姿を現したのは歩行型無人兵器サベージだった。


「おいでなすった!」


 リヒターは人型を形作る量子装甲を解除し中間形態に移行、火器を両サイドに顕現させ発砲の構えを取る。


 直後、こちらに照準を向けたサベージが轟音と共に崩れ去る。

 礫を吹き飛ばす灰色の煙が瞬く間に迫り、思わずメット越しの顔を手で覆う二人。


「待たせたな」


 後方から小気味良い駆動音。履帯をたわませながら二○式戦車が到着した。

 その傍らには低速走行の黄色いSS――エレナ機と護衛のクーガー二機。

 二○式の脇をエレナの乗るSSが掠めていく。


「リヒター。クーガーの操作をこちらに全部まわして」

「え、どういう」

「早く!」


 急かすようにエレナが叫ぶ。

 言うが早いか崩れ去ったサベージをすり抜けるように敵のヴォルクの群れが姿を現す。数はさっきの倍だ。


「こいつらこんなに……!」

「大丈夫。向こうは完全自律制御よ。私には勝てない」


 バリウスを中間形態にして迎撃の構えを取る剣人にエレナが自信たっぷりに答える。


「よし、優先権移管完了――!」

「いっけええ!」


 リヒターの合図を皮切りにクーガー四機のセンサーアイが緑色から赤色に変わり飛び出した。

 それとエレナのSSも突撃。

 肉食獣の群れ同士がぶつかり合うように総勢十二機の無人機が交戦状態に入った。

 ヴォルクの群れは防御を度外視した攻めを見せるが、エレナによるバックアップを受けたクーガーはそれぞれが上手く交わしては連携を取り挟み込みながら機銃を浴びせる。訓練された猟犬のように統率の取れた動きで追い詰めていく。

 その余りにひしめき合った乱闘とも言うべき光景に剣人は援護射撃する事すら出来ない。


「普通の人間ならドローンの統率はどうやっても二機までが限界だ……けど、エレナはそれを同時に六機もコントロール出来る」

「嘘だろ。更に操れるっていうのか。それにこの動きは――」


 灰色の無人機の群れはヴォルクの数を確実に減らしていく。

 エレナ自身も愛機を巧妙に変形させながら確実にドローンを潰していく。紛れも無くこの群れのリーダーはエレナ・レナヴィクだった。


「剣人君、リヒター。ここはエレナ達に任せて。すぐにドレイク隊と合流して頂戴」

「どうしたんだ?」


 管制室が慌しくなった様子が画面越しからも分かる。しかし、円加は決して焦る事無く、指揮官としてできる最良の判断を常に選択する事を心がけているようだ。むしろ今までより落ち着いている。


「ドレイク隊が敵と交戦を開始。アキの方は⁉」


 しばらくの間沈黙が流れた。

 程無くして先行した隊長機――久澄秋鷹の回線が開き、


「こちらウィルム1。敵指揮官を一機落とした。残り一機だ」


 そのまま一方的に通信が閉ざされる。


「嘘だろ……もう落としたのかよ」


 余りにも呆気無く達成された戦果にリヒターが呆然と呟いた。


「分かったわ……それではもう一隊の隊長機を撃破します」


 円加は既に閉ざされた回線に向け口を開く。


「――剣人君とリヒターはドレイク隊に合流して。その戦区はエレナ分隊に任せて。恐らくは敵の本隊の殆どがドレイクリーダーに殺到するわ。彼女を守って」

「「了解!」」


 剣人とリヒター。二人の返事が重なり二機の戦闘二輪は再び進軍を開始した。




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