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1〜10

花嫁が真白なドレスを着るのは『あなたの家に入る』という覚悟の色。だから私のこのドレスもそういう覚悟の塊。あなたは知らないでしょう?私のこころと同じ。紅に染まる白いドレス。

愛するあなたへの食事に少量の毒を混ぜ込んで。美味しいでしょう?あなたの裏切りと私の復讐が奏でる味は。



ささくれが引っ掛かった。赤い玉が浮かぶ。限界まで膨らむとそのままぷるぷると震え、美味しそうに見えてくる。思わずかぷりと指先を口に含んだ。とろりと甘い味がした。改めて指先を眺める。少し滲むものの、もう血は溢れて来ない。流れることはないのか。私のこの想いのように。



喧嘩をした。いつものこと。いつものことだからこそ、腹が立つ。あの人はきっといつも通り「悪かったよ」なんて情けない顔で笑いながら、お土産にどっさりと安物のケーキを買ってくるんだろう。なら私だっていつも通り、あの人の苦手なピーマンをたっぷり使って青椒肉絲を作ろうか。



曇った風呂場の鏡に指を走らせる。あい、みす、ゆー、たったそれだけの本心が私をこんなにしてしまったよ。あなたは責任を取れるのかしら。取ってくれるのかしら。あなたを選んだこの道はミスだったと嘆くことになるのかしら。会いたい。声が恋しい。濡れたままの手で電話帳を開く。



愛してくれなくとも良かった。あなたを手に入れる気など更々なかった。それでもあなたの微笑みが誰かに向くことがどうしようもないほど切なくて、胸がどんどん痛んで傷んで。ねぇ。あなたの恋が死ぬ日まで、息を殺して待っているから。だから早く死んでください。愛された誰かさん。



見知らぬ靴下が混じっていた。前から我が家にあったかのような顔で洗濯物の山の中にいたそれを持ち上げると固まった心がちくりと痛んだ。私を騙せると思っているあなたにも、あなたの靴下を全て把握している私にも。知るか。何も見てない。洗濯機の中に悔しさと一緒に放り込んだ。



何処から間違えたのだろう、私達。彼は帰ってこなかった。今まではせめて朝だけでも帰ってきたというのに。昨晩のビーフシチューはとっくに冷めてしまった。晩餐になり損ねた残骸を胃袋に詰め込む為に、私はスプーンを持つ。奮発したワインは排水口へ。缶チューハイの炭酸が弾けた。



あなたのスマートフォンが光る度に、限りなく黒に似た赤の感情に支配される。その画面の向こうにいるのは誰?嘗ては私がそこにいて、ここには見知らぬ誰かがいて。そうね、きっと仕方がないの。歴史は繰り返すものだから。私が奪ったものは幸福でも何でもなく憐れな日常だっただけ。



よそよそしさが胸を叩き割る。あなたの横顔だけを眺める食卓。もうあの頃の憧れも、あの時のときめきも、無意味で。あなたの美しい指先が恨めしい。綺麗に切りそろえられた爪が憎らしい。上手な箸使い、好きだった。心の中で詰ってはあなたの好物を差し出す惨めな女など必要ないね。



とっても高くて希少な部位だというお肉を食べさせてもらった。彼には内緒。罪悪感がにじり寄ってきたけれど、でも、だっておあいこだろう。彼のポケットから出てきた、私が行きたいと言っていたレストランのレシートがくしゅくしゅになって出てきたことを思い出しては溜め息をつく。

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