012
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冷たい感覚、雨が水滴が身体に降りかかる感覚と共に感じられる頭の下の暖かさ、それを感じながら俺は目を開ける。
「あ、ケルンさん、良かった……意識がもどったんですね」
目を開けた先にはリーゼのほっとした様子で微笑む姿が見える。
何が――――。
「っ! リーゼ、ぐぅ!?」
「あっ! ま、まだ激しく動いたら駄目ですよ、傷は何とか治りましたけど完全じゃないんですから」
気を失う前の出来事を思い出しバッと身体を起き上がらせようとして強い痛みを感じる。
背中が引きつる様な痛みを、身体の内側が刺すような痛みを。
辛うじてよろめきながらもそれでも起き上がり、周囲を見る。
そこには首に剥ぎ取りナイフが突き刺され息絶える男の姿と、雨に濡れそぼりながら俺に膝枕でもしていたのか座り込んでいるリーゼの姿が見えた。
「っ、リーゼは、大丈夫だったのか」
「はい、何とか……ケルンさんにあれも集中していたみたいだったので運が良くて、咄嗟に剥ぎ取りナイフを取り出したらあれが向かってきて抵抗したら偶然ああなって助かりました」
「そう、か。悪かった、守る何て言って置いてこのありさまで」
完全に油断しきっていた、普通に人通りの在る道でも危険はある、ましてやこんな路地裏であればなおさらであった。
なのに俺は何の注意も払わずに呑気に歩いていただけだ、馬鹿だっ!
「そんな、そんな事ありません! ケルンさんは何時も私を守ってくれます、ケルンさんがいたから今もこうして私は無事だったんです! だからそんな事言わないでください」
「あ、ああ?」
自分の情けなさと馬鹿さ加減に嫌になりながら、そう呟いた俺にリーゼがこっちが驚く程の勢いでそうまくしたてて来る。
その表情は真剣で、まじめに言っているのが解る。
解るのだが、あれ、リーゼはこんな子だっただろうか?
「ケルンさん、取りあえず帰りましょう? 今のままだと風邪を引いてしまいます」
「あ、ああ、そうだな」
さぁという様子で手を伸ばすリーゼ、頭が回らず伸ばされた手を取り、引き上げた。
立ち上がるとよろめくように俺にしなだれかかる。
「あっ、ふふ、ありがとうございます」
「あっ、いや、ん?」
「ケルンさんも冷たくなっちゃってますね、早く帰りましょう」
何だ? 何かおかしい気がする。
リーゼが俺の手を引いて、俺が何かを考える前に歩き出す。
色んなことがあり、情けなさと自分の力の無さが改めて解った事でもともと頭が回らなかった中、良く解らない感覚と感情が合わさりもう意味が解らなくなっていた。
取りあえず、俺はそのままリーゼに言われるまま手を引かれ宿まで戻り、部屋の中に入るまで混乱したままだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
俺は悪くない!
これは、俺は悪くない! と、思うんだが、思うんだが……どうだろう?
ベッドの隣、俺の胸に抱き付きながら裸のリーゼが寝息を立てている。
時折小さく俺の名を呼びながら、嬉しそうな寝顔をさらしている。
俺は悪くない。
あれから、俺とリーゼは部屋へと戻り風邪を引く前にと衣服を脱いで身体を拭いていく事になったのだが―――――。
「ケルンさんはまだ傷が治ったばかりで大変ですよね? 私がお拭きします」
「い、いや! 大丈夫、大丈夫だ! 確かにまだ痛みはあるが自分で」「駄目です」
有無を言わせない様な笑みを浮かべてリーゼがそう言いながら俺に迫ってきた。
「ケルンさんは私が無理をしないで下さいと言ってもきっと明日も迷宮に潜られますよね? 長いと言える程まだ一緒にはいませんが少しはケルンさんの事なら解ります。なら出来る限り無理をせず身体を癒してください、私に出来るのはこの位なんですからこれ位させてください。何も出来なくて、ご迷惑ばかりで、せめて、これくらいやらせてはくれませんか?」
俺の胸にそっと手を添わせ、リーゼは見上げながら儚げな表情でそう続けて言い募る。
さっきまで笑みは何処に行った?
そしてそう言われて、そんな表情で迫られると俺には断る事等出来る訳がない。
「ふふ、ありがとうございます」
俺が声もなく困ったように頷けば、リーゼはまた嬉しそうに笑いながら俺の服を脱がそうとしてくる。
「ふ、服位は脱げる! まて、まって」
「あっ、はい、解りました。ならタオルの用意をしておきますね」
俺が慌てながら離れ、そう言えばリーゼは素直に頷いて背負い袋の中からタオルを取り出していく。
大きめのタオル、リーゼをすっぽり包めるほどの大きさのそれを抱え、服を脱いで――――。
「ちょっと待った待った! リーゼ、お前が何で脱ぐんだ!?」
「え? 私も脱がないと風邪を引いてしまいますので」
「あっ、いや、うんそれはそうだが、な、なら俺より先にリーゼが身体を拭いてってよりも、俺もリーゼも別々に自分で拭けば良いだろう!」
「そんな、ケルンさんは私がやる事に頷いてくれたじゃないですか、大丈夫ですよ、部屋の中は暖かいです、濡れた服さえ脱いでしまえば問題ありません」
「問題しかねぇよ!」
そんなやり取りをしながら、リーゼの手は止まることなく脱ぎ去っていく。
目を反らしたのは完全に脱ぎ去ってその裸体を全部見てからだった。
いや、いやね? 目を反らせなかったんだよ、こう、解るだろう、俺だって男なんだ。
「ふふ、ケルンさんの背中は大きいですね、座ってくれませんか? 頭まで手が届かなくて」
「だ、だから、自分でやらないか? 互いに」
「駄目ですよ、早くケルンさんも脱いでくださいね? 風邪を引いたら明日の迷宮探索も出来なくなりますよ? それとも私が脱がせた方が良いでしょうか?」
「良くない! わ、解った、解ったから」
無き崩し的に、流されるが儘に、俺は濡れた服を脱いでいく。
「下も脱がないと意味がないじゃないですか」
「ちょ、本気で待ってくれ。それは流石に無理だ」
「……そう、ですか? ならケルンさんが風邪を引いちゃう前に拭いてしまいますね」
少し残念だという声音でリーゼが俺の頭をタオルで拭いていく。
「っ!? !?」
俺は今凄く固まって、何も出来ずに息を詰まらせている。
ふにょんと、柔らかくて暖かくて、少し冷たくなっているあれの感覚が直に背中に当たる。
二つの突起の感覚もじかに感じて頭がどうにかなりそうだ。
鼻歌を歌う様に、嬉しそうにリーゼは俺の頭を拭い、それをなお強く背中に押し付けるように抱き付いて前の方も拭いていく。
やめてと声を出そうとするが声が詰まり声が出ない。
ただ微動だにせずに俺は石の様に固まってそれをなすが儘され続けた。
「ケルンさん、下も脱いでくださいね」
「……ああ……じゃねぇっ!? くそがっ! 下は自分で拭く! リーゼも早く自分の身体を拭いて布団にでも入ってあったまれよっ!」
ぼぅっとし始めた俺に耳元でリーゼがそんな事を呟いて来る。
俺は思わずうなずきそうになり、正気に戻って立ち上がる。
痛みが走る、だがそのお蔭で理性が戻ってくる。
逃げるように距離を開け、リーゼにそう言い放つ。
「あっ、そう、ですか? 解りました……」
リーゼはその俺の言葉に残念そうに頷いて、そっと自分の身体を拭き始める。
「っ!?」
そしてリーゼの裸をまじまじと見てしまっていたことに気付き顔を反らし、俺は背負い袋から新しいタオルを取り出してズボンを脱ごうとするが、リーゼが気になり中々すすまない。
チラリとリーゼを見れば視線があった、ニコリと微笑まれる。
いやそうじゃない! 視線を外してほしいんだ。
そして俺が見たら悲鳴でも上げて恥ずかしがってくれ、早く布団の中にでも入ってくれ!
「良いんですよ? ケルンさんなら良いんです」
俺が考えている事が解るのか優しい声音でそんな事を言い募る。
止めてっ!
「と、取りあえず! 拭き終わったんなら早く横になれ、明日も潜るんだ! 風邪を引く前に暖をとってくれよ」
「ふふ、解りました、でも心の底から、保身とかじゃなくて言ってますからね?」
「っっっ!」
リーゼは楽しそうに笑いながらごそごそと布団の中に入っていく音が聞こえる。
俺はちらりと見直し、リーゼがしっかりと布団の中で丸まっているのを見てズボンを脱いで拭いていく。
どうしてこうなった。
何か、何かがおかしくないか?
リーゼとはこんな子だっただろうか?
困惑しながら拭い去り、俺は予備の服に着替えてリーゼと同じく布団の中に入っていく。
ベッドが二つの二人部屋にしておいて良かった、心の底からそう思いながら布団のぬくもりを感じて身体が少しずつ温まるのが解る。
「りっ! りー、ぜ? なにを、してるんだ?」
そんな俺の背中にリーゼが抱き付いて来る。
ふにょんとした感覚と突起の感覚からリーゼは服を着ていないのがはっきりと解る。
俺の声は裏返り、どもりながらそう尋ねた。
「寒いです、だからケルンさんと一緒なら暖かいかなって」
「ふっ、ふくを、着れば良いんじゃないか!」
「ごめんなさい、予備の服も濡れてて……だからケルンさん、温めてください」
「ふぁへ!?」
良く解らない悲鳴が喉から飛び出た。
ぎゅぅっとなお強く抱き付き、服の裏側にその掌を忍ばせはじめ俺の胸をさわさわと触り始める。
「ケルン、さんっ」
リーゼが抱き付きながら俺の足に足を絡ませ足にその付け根の暖かい感覚を感じた。
少し僅かに動きながら熱い吐息と、甘い吐息が俺の背中に降りかかる。
「んっ、けるん、さんっ」
そして――――朝を迎えた。
俺は悪くない。
日が開けた。
隣で裸で眠るリーゼがいて、布団は濡れそぼり、汗のにおいが部屋に満ちている。
俺は……仕方ないじゃないか。
終わった後に互いに水を浴びたりもしていないせいで匂いが籠っている。
はだけた布団の下から赤い染みも見える。
あぁ……。
「けるん、さん?」
俺が茫然としていると、いつの間にか目を覚ましたのかリーゼが俺に抱き付きながら視線を投げかけて来る。
「ふふふ、ケルンさんっ。私、幸せですよ」
そう言って微笑む。
俺は、俺はどうなんだろうね?
答えを返す事も出来ずにただ頭を撫でた。
「んっ、あ、ケルンさんまた……」
生理現象です、朝は男だと皆そうなるんですっ!
そう言おうとしたがリーゼの方が行動は早く、朝からまた少し体力を使う事になったのだった。




