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龍神湖のStorry  9

朝は、蝉の鳴き声で目を覚ました。時計を見ると6時半だった。外はもう暑い日差しがさしていた。


今日も暑い日になりそうだ。顔を洗って食堂に行くと田中はもう来ていて朝食を食べていた。


「おはよう 徹くん」


田中は徹の顔を見ると挨拶をした。


「おはようございます 今日よろしくお願いします」


徹は田中と同じテーブルに座った。


「お寺まで30分くらいだから8時半にでようか?」


「はい その時間に駐車場で待ってます」


「今日も暑くなりそうだから 帽子を用意しておくといいよ あっ それとタオルね」


と言うと席を立って部屋に戻っていった。

携帯を見ると菜々子からメールが入っていた。


今日 よろしくお願いします。バイトが16時に終わるので終わったら民宿まで行きます


と書いてあった。


わかりました。よろしくお願いします。


と徹は返事を入れた。

食事を食べてそのまましばらくテレビを見ていた。全国ニュースが終わりローカルニュースに変わった。ニュースではもうすぐみどり湖の祭りが始まる。そして今年は6年に一度の大祭に当たる年で、みどり湖に周辺の湖の龍神様が集まる節目になる年になるとアナウンサーが説明をしていた。その祭りのニュースを見てから徹は部屋に戻った。


8時半なる少し前に徹は駐車場に着いた。田中はもう来ていて車のエンジンがかかっていた。


「お願いします」というと徹は車の助手席に座った。エアコンは全開で冷たい風を車内に送っていたがまだエンジンをかけたばかりの車内は暑かった。

田中は


「忘れ物はないかな」


と聞いた、徹が 「大丈夫です」と返事をすると車を出発させた。

お寺はみどり湖と龍神様の隠れ家の途中から右手に入った方にあった。山の中腹にありお寺からみどり湖と街が一望できた。お寺の本堂は古く武田信玄のゆかりのものが建てたという言い伝えが残ってた。

本堂に着くと住職が2人並んでお経を唱えてた。しばらく待って至るとお経が終わった。田中と徹に気づくと1人の住職が


「おはようございます この前は ご苦労様です 今日は父もいますので」


と話しかけてきた。

田中は先日のお礼を言うと 父親らしきもう1人の住職に挨拶をした。

若い息子の方は30代前半 父親の方は60代くらいに見えた。どちらも真面目そうな住職だった。

山の中腹にある本堂はいくらか凌ぎやすく扇風機が回っていたが、扇風機の風だけで充分に涼しかった。

田中は住職に名刺を出した。


「K短大で地方にある龍神伝説と現代の住民と江戸時代の住民の生活実態を研究している、田中です よろしくお願いします」


「息子からお話は聞いております 協力をしますよ 過去帳をみますか?」


「はい 天保の飢饉の前後の過去帳を見せてもらえますか? それと基金の年に生贄になった おけいのことについて書き記した帳面があると聞いてますが、それも見せていただけると助かります」


「はい それも用意できております しばらくお待ちください」


というと住職は奥の部屋に消えていった。


本堂の扉は全開になっていて 本堂から眼下に町が見えていた。少し別世界に足を踏み入れた感覚になっていた。


しばらくして住職はいかにも古い帳面を何冊かもってきてくれた。確認すると過去帳と悲しき覚書帳という帳面が一冊あった。

田中がその覚書帳に目を通し始めた。


そこには当時の住職の筆で現代の言葉にすると、こう書いてあった。


天保6年の夏 この村の為にその身を龍神様に捧げた おけいさんの供養と 私たちの子孫に 私たちの為に命を落とした女性がいたことを忘れないように この覚書を書きました。


という 出だしで始まっていた。


おけい 文政3年に村の小作人 呉作とお富の間に長女として生まれる。龍神様に身を捧げた年は天保6年で数えで15の年である。


おけいとはじめて会ったのは身を捧げる3日前の6月5日であった。小柄で器量の良い子で会った。

最初の1日は私とは挨拶をかわす程度であとは怯えたように黙っていた。

次の日には今までの自分の人生をはなしてくれました。その内容はこの帳面の大部分を使って書いてある通りです。


3日目に自分と将来を約束した男性がいるということを話してくれました。その内容は おけいのことをよく思ってくれている男性が2人いてその2人は平助と太助の双子の兄弟だということだった。おけいは 弟の太助の方を好んでいるようだった。そのようなことがこの帳面には書かれていた。


そして3日目の朝 龍神様の隠れ家でお経を唱えると おけいを残して寺に戻ってきたということであった。


その夜に枕元におけいがやってきて住職にこう話したという。太助が私をきっと後の世に探し出して生まれ変わった 私と結ばれる その日まで 私は待っています。それは おけいがを捧げた年がちょうど 周辺の龍神様が この湖に集まる6年に一度の年に当たるが おけいと太助が 再び 後世で結ばれるのは6年に一度の龍神湖に周辺の龍神様が集まるその年に結ばれる。この湖のほとりで。 と告げて帰って行ったということが書かれていた。翌日 太助は湖に身を投げた。そのような内容のことが書かれていた。


徹は朝のテレビでキャスターが話していた、龍神湖の祭りは今年は6年に一度の大祭であるという言葉を思い出した。


読み終わって田中と徹は顔を見合わせた。

最大の謎だった悟と徹の謎が解けた。おけいのことを思ってたのは平助と太助の双子の兄弟が思っていて太助とおけいは相思相愛だったので 生まれ変わって先に菜々子と出会った悟は菜々子と付き合ったのだが おけいの気持ちが強く 徹と出会うために悟は交通事故で死んだ、そして天保6年から29回目の大祭の年に当たる2009年の今年に徹と菜々子は龍神湖で再会した。ということになる。


「徹君、謎が溶けだね」


「はい そのようです」


徹はその帳面に書かれた太助という文字を見て この太助が生まれ変わる前の自分なのか としばらく複雑な思いで眺めていた。

そして住職の案内で寺の墓地に周りおけいと平助、太助の3人の墓を参った。太陽が高いところから容赦なく照りつけ、蝉の鳴き声が響いていた。暫く時間が止まっているかのようだった。



お寺からの帰りの車の中で徹が田中に尋ねた


「輪廻天性て実際にあるんですか?」


「僕は信じてはなかったよ 今までは。しかし、今日見たお寺の帳面に書かれてたことが、まさに目の前で起こっている。間違いなく江戸時代に書かれたことが。信じるしかないだろう」


「そうですよね。否定する要素はどこにもないですね」


車が民宿の駐車場に着いた。午後からは 田中が1人ので行くから民宿で休んでてくれていいとのことであった。

徹はこの事実と直面して、菜々子を好きなのは 徹自身なのか それとも徹の中の太助なのか ますますわからなくなった。太助の生まれ変わりが徹なのだから太助が好きなら徹が好きなことであると考えればいいのだが、そこに徹の意思が働いてないようで、徹が決めたことではなく、太助が決めたことに従っているだけに思えた。

そんなことを考えていたら15時になっていた。少し前に菜々子からメールが入ってた。徹は、そのあと菜々子に会った。会って今日 お寺でわかったことを話した。

そして こう告げた。


「僕の未来は僕が決めたいんだ。僕が生まれる前から決まっていたレールの上を歩んで行くことは、できないんだ」


菜々子は黙って頷いた。

蝉の鳴き声が響いていた。


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