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龍神湖のStorry 2

奈々子の7月29日はいつものように蝉の鳴き声で起きた


目覚ましは7時にセットしてあったが目覚ましの鳴る音よりも早く蝉の声で目をさました。時計を見ると6時30分だった。

この時期は蝉の鳴き声で目を覚ますことが多い。蝉は夜明けとともに鳴き出す。菜々子が窓から外を見ると蝉の姿が数匹見えた。まだ6時半だというのに外はもう30度に近い暑さだった。


奈々子は今年で25になる。この町に来てもうすぐ一年になる。去年の7月にこの町を土石流が襲った。幸い死者はいなかったが民家の中まで土で埋まり その後片付けのボランティアを募集しているNPOのポスターが目に止まり8月の夏休みを利用してこの町にボランティアとして来た。ボランティアの活動は8時から16時までだった。


菜々子は近くの民宿に泊まってボランティアに参加した。


最初の日、活動を終わってから時間がまだ早いので、民宿で聞いたみどり湖に来た。湖の畔の小道を歩いた。湖から吹いてくる風は少し冷たくて爽やかだった。ゆっくりと歩いた。菜々子は湖面に浮かぶように見える建物を見つけた。この建物がいまバイトしているカフェ湖畔の椅子だった。


奈々子はそのカフェの湖のほとりの樹木がその建物を隠して少し覗く建物が湖に浮いているように見える佇まいに惹かれ勇気を出して中に入った。


白い髭を蓄えた男性がカウンターの中にいた。湖に近い席に座った。髭の男性がオーダーを取りに来た。奈々子はアイスカフェオーレを頼んだ。しばらくすると髭の男性がアイスカフェオーレを運んできた。奈々子はストローを刺すと一口飲んだ。ミルクの味が濃くてコーヒーが

少し酸味が効いていてその酸味が口の中で広がり奈々子は美味しいと思った。


カフェの窓から湖の水面に目をやると昨日民宿の女性から聞いた話を思い出した。


その話は江戸時代に長い期間この辺り一帯が大雨に襲われた。村人は湖の龍神様の怒りだと騒いだ。その怒りを鎮めるために生贄を差し出さなくてはいけない。その生贄として村一番の器量の良いおけいという15歳の少女が犠牲になったという悲しい話だった。


この湖は以前は龍神湖と呼ばれていたと聞いた。今でもお年寄りは龍神湖と云う人が多いと聞いた。湖の周りを歩いて一周できる歩道を整備したとき、龍神湖と云う名称だと暗いと云うことで名称を公募して湖面の深いみどりから、みどり湖という名称に変更したという。


奈々子はボランティアの三日間、活動が終わるとここに来てアイスカフェオーレを頼んで湖を眺た。

髭の男性はこの店のマスターで大野といった。いつもアイロンのきいた黒のスラックスと木綿のワイシャツを着ていて背筋がシャキッとしてて姿勢のいいのが特徴的だった。


奈々子は三日目に、店内にアルバイト募集と控えめに貼られた紙を見つけた。奈々子は勘定をするときマスターの大野に


「まだアルバイトは募集してますか?」 と尋ねた。


大野は 「まだ決まってないですよ」 と答えた。



奈々子がこの町に引っ越してきたのはそれから一ヶ月後の9月の中頃だった。カフェ湖畔の椅子 が奈々子のバイト先になった。大野が 奈々子になんでこの町に住もうと思ったの? と聞くと


「奈々子は 湖のあるこの町が好きだから」 と答えた。


あれからもうすぐ一年になる。


奈々子は湖の駐車場に車を駐めて少し傾斜のきつい道をカフェへと向かっていた。

通い慣れてる湖までの景色がいつもと違うように見えた。

なにかが起こる 奈々子はそんな胸騒ぎがした。



カフェ湖畔の椅子のランチサービスは11時半から14時までである。

ランチタイムが終わった頃、その青年が店に入ってきた。奈々子は 青年の姿を見て一瞬、目を疑った。


あの人だ と心の中で叫んだ。


二年前に交通事故で亡くなった奈々子の恋人の悟にそっくりだった。

奈々子がこの町にきたのは亡くなった悟との思い出のある場所を離れるためだった。

悟のことを思い出してしまう 海、港、公園、祭り、そんな場所から離れたくてとくに悟との思い出が多い海のないこの町を選んだ。



奈々子は青年にオーダーを聞きに行った。


「アイスカフェオーレを下さい」


オーダー聞いて奈々子は偶然でない何かを感じた。


その青年は悟の好きだったアイスカフェオーレを頼んだ。

奈々子は注文のアイスカフェオーレを作るときいつもより多めにミルクをいれた。

悟に作るときにそうしたように無意識のうちに多めに入れた。


青年にカフェオーレを出すときに奈々子の目にはかすかに涙がたまっていた。

テーブルが涙で少し曇ってみえた。カフェオーレを置くときに奈々子の手と

青年の指が触れた。


カフェオーレを出したあと奈々子はトイレで泣いた。

悟を忘れよとしてこの町に来た。思い出さないように努力もしてきた。しかし、青年の指と手が触れた時、悟のことが鮮明に蘇ってきた。

涙が止まらなかった。

化粧をなおしてトイレから戻ると大野が


「どうかしたの?」 と聞いてきた。


奈々子は 「いえなにもないです。すみません」と短く応えた。



その青年は一時間半くらいいて店を出た。

テーブルの上に車のキーがあった。奈々子は慌ててその青年を追いかけた。

その青年を呼び止めると青年の口から思わぬ言葉が飛び出した


「僕は 生まれる前からあなたを探してました」


「僕は、生まれる前からあなたを愛してました。」


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