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夢の中で  作者: 殻豆
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暗い書斎

 気が付くと私は、この間夢の中で出くわした少女とともに、ある作家の家にいた。一向に書けぬ小説についての相談と、希望の見えない人生について相談に来たのだった。だが、肝心の作家は机に向かってばかりいて、こちらがいくら呼びかけても振り向いてはくれない。「もしかしたら、一度も机から離れたことがないのかも」と、少女は冗談交じりに言った。私は、それが冗談でないように思えた。なぜなら、当の作家は顔こそ見せないものの、返答自体は快活そのもので

あり、何かどうしようもない問題を抱えているようには見えなかったからである。

 「君は何か私に用かい?」作家がこちらに問いかけてきた。「いろいろと悩んでいるんです」私はあいまいさを残した声でそう応じた。「まあ人生はいろいろあるものだ。私の家でもうろついて休むといい」そう作家が言うので、私はそうすることにした。

 作家の家は、異常な作りだった。複雑に入り組んでいて通路だと思った先が行き止まりだったり、妙なところに扉があったりした。何より奇怪なのが、壁の色だった。赤色や黒色、青色などの濃い色が壁一面に塗られているのだ。しかも、傷や汚れも全くない。とても人のいるとは思えない空間だった。

 作家の家をうろつくといっても、目的があるわけではない。しかし、目的のないことは決まって長続きしないものだ。そこで私は出口を探してみることにした。しかし、出口すら見つからない。私は作家と少女と共に密室にとらえられたのだ。私は急に不安に襲われた。「どうかしたの」少女が聞いてきた。「何か探しているようだけど」「いや、あったらいいなって位のもので、大したものではない。」私の本心は、その言葉とは裏腹に異常なほどおびえていた。私は何かに追われるように出口を探し始めた。

 何かありそうな扉から、何もないような気がする扉まで、作家の家の中のありとあらゆる扉を調べた。扉には、部屋につながっているものから開けても壁があるだけのもの、ドアノブが外れていたり、あっても動かないもの、鍵のかかっている物、さらにはだまし絵まであった。

 ある扉の先には、食堂があった。洋風の、高級レストランのような所だった。そこでは、数名の男女が幸せそうに食事を取っていた。扉の一番近く、つまり、私の一番近くのテーブルには、大きなナイフがあった。明らかに食用ではない。軍事知識に欠ける私にさえ戦闘用だと分かるナイフだ。それを見つけた後、食堂にいる人の声が、変わったような気がした。顔を上げると、食堂にいる人たちが、昔から今に至るまでの私が嫌う人々であることに気が付いた。その憎い人々が幸せそうに食事をとっている。私は怒りにかられ、大きなナイフを手に取ろうとした。すると、少女がナイフを取ろうとした私の手を止めた。

「いくら憎くても、奴らの手に乗っちゃダメ」少女は冷淡にそう言った。私ははっとして手を自分の体に寄せた。気が付くと、食堂の人々は消え失せていた。

 しばらく出口を探していると、今度は物置を見つけた。作家の家の一階に見える場所だった。物置には、灯油とマッチや、チェーンソー、ドリルなど、家を破壊するのに使えそうなものが置いてあった。私はその中から、ドリルを取り出して手ごろな壁の所まで持って行った。ドリルを動かすのは、予想以上に簡単だった。ボタンを押すだけだった。ドリルは轟音をあげながら回転していた。壁の色はオレンジだった。そのオレンジの壁にドリルを突き刺せば、念願の出口にありつける。しかし、私はドリルをしばらく持ち続けた後、ドリルを止めて、床に置いてしまった。オレンジ色の壁を見ていると、不思議とこの壁を壊してはいけないような気持ちになったからだった。

 完全に手の詰まった私は、疲れ果てて作家のもとへと戻っていった。作家は相変わらず机に顔を向けたままだった。私は作家に呼びかけた。「すいません、この家の出口はどこでしょうか」すると作家は「何故、出口を探すのかい?」と返した。私はほとんど反射的に「ここにいるのが不安だからです」と言い返した。作家は一瞬黙ったのち、再び私に聞いてきた。「君は、今の人生、すなわち絶望から一刻も早く抜け出したいそうだね」私はその質問に驚き、黙り込んでしまった。作家は畳み掛けるように続けた。「でも、人生はどうなるか分からない。私はてっきり君がすぐ戻ってくるものだと思っていたよ。でも君は物置を見つけた。ドリルを手に取った。しかし、壁は壊さなかった。君は本当に面白い。

君は希望を探している。しかし、言っておくが希望は出口よりも見つけにくい。それでも私は君は希望を見つけられると信じているし、また、それを願っている。」


 作家の言葉が途切れたところで私は夢から覚めた。私は、作家が夢の中で言った言葉を信じることが出来なかった。私はこの絶望の中から抜け出すことが本当に出来るのだろうか。そして、作家の言葉を吟味している内に、私は少女の正体を聞き忘れたことに気が付いた。

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