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夢の中で  作者: 殻豆
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憂鬱の中で

拙い文章ですが、楽しんで読んでください。

コメントをいただくと異常なほど喜びます。

 小説を書いていた。それは、私が望んでいたことだった。その作業は長く続けられるはずだったし、長く続けるつもりだった。だが、小説は二、三行書いたところで筆が止まってしまった。珍しいことではなかった。どんなに好きなことでも、気分が乗らないことぐらいありうる。だが、そのころの私は、計り知れないほどの憂鬱にとらわれていた。体調を崩し、蒸し暑さに完全にやられていた。

 もう、九月だというのに・・・。

 私は、小説家志望の高校生だ。だが、これといった才能はない。しかも、執筆する気力が出ないときすらある。小説をたくさん書きたくても書けないのだ。しかも、趣味が流行とかけ離れている。趣味を共有できる人は少なく、その中で交わったことのある人はさらに少ない。さらに学校生活が、私にさらに暗い影を落としていた。小学校ではいじめられ、多少良い生活をした中学校の同級生とは別れて久しく、高校受験に失敗し、嫌々入った高校で文句ばかり聞かされる。そんな生活をしていた。その結果、私はおかしくなってしまったような気がする。民俗学の本を読んでは、あたかも神話が真理であるようにとらえたり、小学校の頃の悪夢がよみがえるような錯覚をした。エスカレーターに逆行しかけることもあった。

 猛烈に本を読みたい衝動に駆られてはいるが、かといって読みたい本もない。家には、親の持ち物である本が本棚にびっしり埋まっているが、どれも好みの本ではなかった。本屋に行って純文学の小説でも買ってこようかと思ったが、その気力もとうとう出なかった。床に横たわり、過去のことを思い出した。

 もう少しで改築が必要になるような木造建築の小学校。音楽室の別室、楽器部屋で、同級生と隔離され、外を眺めている私がいた。泣きじゃくり、絶望の中に身を沈めていた。そんなことはそのころの私にとって、日常的なことだった。授業をまともに受けようとしない悪童どもにふりまわされ、私の意見とプライドを粉々にされ、傷ついた心をいやすために長時間ゲームをし、コーラを口から流し込む。そんな生活を送っていた。酒があったらアルコールにおぼれていたかもしれない。それほど過酷な生活だった。筆箱を取り上げられ、ボールのように遊ばれたこともある。授業中、歌っている奴に注意したら逆切れされたこともある。私の意見はことごとく踏みにじられていった。そのせいか、私は自分の考えを全然言わなくなったのだった。

 そんなことを思い出していたら、自分に冷水をぶっかけたいような気持ちになった。なぜ憂鬱なことばかり思い出してしまうのだろう。過去は過ぎ去った。考えても無意味なのだと哲学書で読んだ。だが、そんなことを言われても、考えないことなど私にはできないだろう。なぜなら、今の状態もそれに似たりよったりなのだから。

 私は、国語に力を入れている高校に入りたかった。そのために受験勉強もした。精一杯の努力をした。だが、結果は不合格だった。私はやむなく誰でも入れるような高校に進学した。だが、そこでは、やる気のない連中がわめいてばかりいた。

「この学校マジクソだ」

「うるさいんだよ、死ねよ」

「宿題わすれました~ふふっ」

今の同級生どもが言っていたことを二、三個思い出したところで、今度こそ過ぎたことを思い返すのをやめた。憂鬱な気分を押し殺すにはこれくらいしか私にできることはなかったからだ。

 昼寝をした。最近昼寝をすると、二、三十分くらい寝るつもりでいても、一、二時間寝てしまう。時計には寝始めてからおおよそ二時間後の時刻が表示されていた。だが、普段それだけ寝たときは、それだけ寝たような気分になっていた。だが、今回は全然寝ていないような気がするのだ。

 ボーっとしながらそんなことを考えていると、玄関のインターホンがなった。私は玄関に向かい、扉を開けると、そこには大体同年代くらいの、しかし華奢な体をした少女がいた。「こんにちは」声もきれいだ。私のタイプの女性だった。だが、不自然なまでにタイプだった。「これは・・・夢?」私は思わず訪ねてしまった。「夢だと言えば夢ですし、夢でないと言えば夢ではありません」彼女の返しは意味深だった。だが、私がその真意を問いただす前に彼女はどこかへと行ってしまった。私は無論、追いかけることにした。彼女を追いかけながら、私は不思議な感覚に襲われた。彼女を追いかけているのか、昔を思い返しているのか、それとも夢想をしているのか、分からなくなった。しかも、彼女はそれほど速く動いていないはずなのに、彼女に追いつけないのだ。

 やがて彼女は、古びた公園でその足を止めた。そこで私も彼女に追いつくことができた。彼女は古びた公園の、古びたジャングルジムを見つめていた。そこには二人の少年がジャングルジムで遊んでいた。片方は、理由は分からないが体が成長していなかったかつての知り合いにそっくりだった。そしてもう一人は、あろうことか私にそっくりだった。

 そこで彼女は私に言った。「この世界には様々な不幸に見舞われた人がいる。だからといって、その人たちはそれを受け入れたうえで強く生きている。あなたが人生に絶望するのは、浅はかな考えじゃない?」私は何も言い返すことが出来なかった。彼女の言うとおりだったからだ。そして、彼女は続けた。「でも、だからといって人は生きる力を得ることはできない。・・・ああ、もっと話したかったけど、続きはまた今度ね」すると、彼女は公園を離れて行ってしまった。やはり彼女は早い。

「待って、君は何者なんだ?」私の声は虚しく町に響いた。


 目が覚めた。不思議な夢を見た。少女に、不幸に対して絶望することはエゴにすぎないと諭される。そんな夢だった。だが、私はすぐにそれが夢であるとは気付けなかった。時計を見たとき、今の時間が夢の中では過ぎ去っているはずの時間であることを知った時、私は、あれが夢であると気が付いた。



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