奴隷市場に殺し屋
馬車で揺らされること三時間、目的の市場にたどり着いた。
様々な露店が開いており、かなり賑っている。
父はここの市長と着いて早々仲良く談笑しており、子供達は早く見て回りたいらしくうずうずとしている。
俺はというと……まぁ、楽しみではある。
市場は結構面白いというのもあるが、あまりこういう場所に連れていって貰えないのがあるせいでもある。
「そうだ!今日は奴隷が入ってんですよ!!どうです?ぜひ、見てみるのは?」
「奴隷市が開くのは珍しいな、後で子供達と見に行こう」
傍目から聞いたらすごいことを言っている気がしないでもないが、この世界では当たり前の会話である。
「奴隷?見に行きたい、行きたい!!」
「わかった、わかった」
ロウ兄が興奮した口調で喚く。
「僕も!僕も!」
リウ兄も便乗する。
「はぁ……しょうがないな、すみませんが案内して貰ってよろしいですか?」
「いいですよ、勿論。スティール卿のお目にかかるのがあればいいのですが」
父の言葉に笑顔で答え、市長に連れられ奴隷市に歩いていく。
母と妹は分かれる向こうは露店を見て回るらしい、正直、そっちのがよかったんだが、仕方がない。
進んでいくと、何というか動物の匂いが濃くなっているきがする。奴隷市が近い証拠だ。
雨の日の犬小屋の匂いに近い気がする。
首輪を付けた男性や女性が奴隷商に連れられ歩いていたり、檻の中に人が入っていたりしている。
昔の仕事で奴隷市場を見たことはあったが、ここまでの規模は正直初めて見た。
「どうです?働きがいがあるのから……いや、これは言うものではないですね」
市長が何と言うかは察しはついたが言わないでおく。
しかし、すごいものだとつくづく思う、これがこの国のあり方なのだから。
日本にいた時と違い、こうもおおっぴろげできるものだとは考えもしなかった。
「お坊ちゃま達に奴隷はいかがです?遊び相手にもボディガードにもどんな目的でも対応してますが」
「ふうむ」
市長の言葉に顎に手をあて考える素振りをみせるが、兄達が騒ぐ。
「欲しい!!俺、奴隷欲しい!!」
「僕も!僕も!!」
騒ぐ兄達に父親は少し考え告げる。
「一人一つまでだぞ」
その言葉で兄達は飛び上がらんばかりに喜ぶ。奴隷という未知への存在の好奇心のせいだろう。
にしても日本にいたら中々聞けない言葉だな、奴隷を一人一つ。
この国ではどこでもやっている事らしいが、改めて聞いてみると驚く。
それも、一応は自分の父の口からなのだから。
「気に入ったのがあれば、お父さんはここにいるから呼びなさい」
元気よく返事をして市場を駆け抜けていく兄達を見送る。
「どうした?ラウ、選ばないのか?」
そう言われても正直困る。
奴隷を買えるといって喜ぶような趣味は持ち合わせてはいないし、必要だとも思わない。
あまり、気分を害さない断り方をしてみるか。
「僕、奴隷が可哀想だからいらない」
こんなかんじでいいだろう。
「そうかお前は優しい子だからな」
そう言われ、頭を強く撫でられる。
そして言葉を続ける。
「けどな、だからこそ買ってあげないといけないんだ。ここで、ラウお前が買わないと奴隷達は動物のエサになってしまうんだ」
「え」
正直、素がでそうになった。まさか、動物の餌になるとは思いもしなかった。
あの成金達だったら、そんな勿体無い……とでも言うだろう。
「どうして?動物さんのご飯になるの?」
「まだ、難しいからよく分からないと思うが……奴隷達はね人だけど人じゃないんだよ、ラウ」
「そうなの?」
すさまじい言葉を聞いた。
元の世界の奴らのがよっぽどか聖人に見える…こともないな。
常識が違うとここまで違うものなのか、難しい。
「だから、我々貴族が責任を持って飼ってあげるんだ。わかったね、ラウ」
「うん!!わかった!!奴隷を買ってくるね」
その言葉に満足そうに微笑み、市場を走ろうとする俺を見送る父。
奴隷に産まれ変わらなくてよかったな、思わずそう思った。
人を殺すのを職業にしてる奴が何を言ってるんだ、と言われるかもしれないが十二年もこの世界に住んでいるのだ。
まさか、今頃になって黒い部分を覗くとは夢にも思わないだろう。
俺が居た組織ですら奴隷は家畜と言い出す奴はいなかった。
借金のカタだったりと色々理由があったのが大半だったが、哀れみや同情の思いは多少なりとも一緒に働いていた奴はあったとは思う。
まさか、犬、猫と同列に人間を扱うとは思いもよらない。
郷に入れば郷に従えというがすさまじいな…だが、馴れるだろう。
あの組織に入ったときも初めは想像を絶したが、何のことはない一週間もすれば何だかんだ馴れた。
神埼さんも言ってたしな、複雑に考えるな馴れろって。
色々とお世話になった上司の言葉を思い出す。
「すぐ馴れるさ、気にすることもない」
一応見て回ったが目ぼしいものはない。
昔、仕事で喋った日本の奴隷商の言葉を反芻する。
「いいですか柴村さん。奴隷は目です。落ち着いた目をしているのは難しい…諦めた目もしくは反抗的な目ををしている方がいいです」
「どうしてだ?諦めたならともかく反抗的だったらやりにくいんじゃないか?落ち着いた目のがいいんじゃないか?」
「いえ、反抗的というのは教え込めばいい。こちらに敵意があるのが分かっている分やること、起こす行動が分かりやすい」
そこで息を吸って吐く。
「落ち着いた目というのは冷静だから困るのです。従順な振りをしている分何が狙いか分かりません」
大げさに頭を振りジェスチャーまで加える。
「なるほど……為になったよ。使う機会はないと思うが」
……まさか使う日がこようとはあの時の俺は思いもよらなかっただろうな。
その奴隷商の言葉通りの奴隷を探しているのが難しい。
まず、冷静な目なのか諦めた目なのかわからない。
諦めた目だと思って冷静だったということありえなくはない。
見分けるのにも長年の蓄積が必要だろう。
結果、反抗的を探そうと思った訳だ、反抗的だと思って冷静だったというのは少ないだろう。
そもそも、反抗的な態度であれば鞭が飛んでくるのだから。
とはいえ反抗的なのは一向に見つからない。