エピローグ2
なるべく姿を見られないよう早々に歩き会社に戻る途中、会社に通じる寂れてシャッター店だらけとなっている商店街を通り抜けようとすると声をかけられた。
「そこのお兄さん」
「……俺か?」
「はい、お兄さんです」
声の主は老婆であった、目の前に水晶がおいてある。
……占い師か。よく、こんな人が来ない場所でやっているな。
「一つどうです占い?」
「いや、いい。遠慮しておく、あまり信じてないんだ、そういうの」
そのまま通り過ぎようとすると老婆が口を開く。
「今日の仕事で思うことが一つあった…どうです?」
「……あったな」
一瞬、内心を当てられ驚いたがすぐに考え直す。
占い師ってのはそれっぽいことをいうのが仕事だからな。驚くほどでもない、仕事をやっていれば思うことの一つ二つあって当然だ。
「でしょ」
にんまりと笑い、言葉を続ける。
「一回どうです?」
「ああ、分かったよ。そんなにお金は持ってないから安いので頼む」
相手をして平穏に帰ったほうがいいと判断し、占い師の目の前に座る。
「ほっほっほ、料金はいらないですよ……代わりに人生なんてどうです?」
「面白いことをいうな」
笑って返すが少しだけ信じてしまいそうになった。
目の前に座って思ったのだが、何ともいい難い独特の雰囲気をこの老婆は持っている。
占い師というより魔女のほうがしっくりくるな、昔、読んだ絵本に出てくる鷲鼻のだな。
「では、占わせていただきます」
そういうと水晶をじっと見つめる。
「あなたは悩んでいることがある」
「あるな」
悩みのない人など皆無だろうが。
「それは、仕事の悩みですね」
「ああ」
「それも血なまぐさい」
「あ、ああ」
返事につまり咄嗟に頷いてしまった。
「そうでしょ、そうでしょ」
「……」
嬉しそうに、にやにやする。
薄気味が悪いな……もしかして上の連中の試験か何かか?こんな試験聞いたこともないぞ。
「だから、替えたい。辞めたい。違います」
「…あってるな」
否定しようと思ったが本音が口に出ていた。
そして、その言葉にこれ以上にないぐらいにんまりと笑う。
「でしょ。でしょでしょでしょ」
「あ、ああ」
流石に異変を感じ、席を立とうとするが体が動かない。
何だ?これは。この占い師がやったのか?
老婆は柴村を気にせずに言葉を続ける。
「だから…返るチャンスがあるんですよ、人生を心機一転するんです。この世界のことを捨てるんです!全て!!全部!!」
捲くし立てるように喋り、目の前の水晶を指差す。
「これを見てください……見えるでしょ?」
見えるって何がだ?ただの水晶だろ、まったく体が動かん。何をされてるんだ俺は!?
そんな柴村の心を読んだかのように言う。
「よぉーく、見てください。よぉーくですよ、ほら、目を凝らして。見つめるんですじっくりと」
言葉を発しようとするが声がでない、自然と視線が水晶に目にいく。
何も写ってはいない、透明なままだ。
何を言ってるんだこの老婆は!?
「落ち着いて見るのです、落ち着いて」
この状況で落ち着けるはずがないだろ!!
ただ、水晶から目が離せない。そのことに嫌な予感しかなかった。
今、何か映った気が…?
一瞬何か町のようなものが水晶に映った気がした。
「今!見えましたね!!それです!そこです!!」
興奮して大声を張り上げる、占い師。
頭で占い師の声が響きそれと同時に水晶の中の映像が徐々に変わっていく、城、村、洞窟、塔、様々なものが映る。
「全てを捨てるのです!!そう、全てを!!この世界の痕跡を!!」
水晶の映像がコマ送りで変わっていく。
すべ…て……?
「はい、全てです」
その言葉を最後に体が水晶に吸い込まれる気がし、意識をなくした。
しばらくして、その場には老婆の姿だけが残った。
「お代は確かに頂きましたよ」
老婆は笑みを絶やさずそう呟いた