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迷宮のドールズ  作者: オグリ
四章
83/88

とろおのりんご

「ん、ハーフでもやっぱリザードマンはすごい生命力だなぁ」

「あの人間達、ふもとに運ばなくて大丈夫ですか?」

「ん、もう知らせは走らせたし。ルンルンの首の赤いスカーフを見たら、要救助者がいるって山小屋の管理人さんなら分かっから。すぐ助けも来るよ。やれるだけのことはしたから、あとは動かさないでおこう」

 そう言ったシュンは、全員の怪我を診てくれて、けっこう魔力を使っただろうに、疲労の色は見せない。余裕があるようにさえ見える。

 あの紅子でも、大きな怪我を治すのにはかなりの魔力をつぎ込む。治療の後は疲れきって戦うことも出来なくなるのに。魔力の高い羊亜人フォーンだからというのもあるが、本職の治療士ヒーラーはより多くの者を治療できる術を得ているのだろう。

「こいつは医者に診せるわけにいかないから、しばらくおらが面倒診るよ。歩けるまで回復したら、おらは一緒にここを離れるけど」

 一番大怪我をしていたトロルは横たわり、今は眠っている。キキにいたっては、ぐうぐうとのん気な寝息を立てていた。

「あ、はい……」

「その女の子は、もう大丈夫だから。リザードマンは毒耐性が高いし、あとなんかすごい生命力を感じるし、それ以外のものもありそうな……」

「ああ……なんか先祖が百人くらい見守ってるらしくて……」

 ハイジがそんなこと言っていたような気がする。

「……て、仲間のシャーマンが」

「そうかい。豪運なんだろね。そのおかげで、こいつも助かったんかもね。ありがとう」

 さっきよりは傷の癒えたトロルの体に触れながら、シュンがぺこりと頭を下げた。

「なんでお礼を?」

「そら、同じ森に住む仲間だかんね。同じ森に暮らして、同じ恩恵を受けてる。隣人みたいなもんだよ。女の子、病院には連れてってやってな」

「はい。あの、ありがとうございました」

 シオンが頭を下げたとき、横たわっていたキキが身じろぎをした。

「グギャ……」

「キキ?」

「ギギギ……?」

 とろんとした目を開いたキキの顔を、シオンは覗き込んだ。

「お前、意識戻ったのか? 大丈夫か? 気分は?」

「気分……? いや別に……なんか大量のりんご飴を棒ごと食べた夢見ちゃった……」

「その棒、砕いた骨のメタファーなんじゃない?」

 透哉があははと笑いながら言った。キキが眉をひそめる。

「砕いた骨? うーん、キキは一体何を……」

「キキ、お前、一体何食ったんだ?」

 シオンは尋ねた。ずっと心配していたので、声が少し上ずってしまい、キキが怪訝そうな顔で見返す。

「拾い食いとかしたのか?」

「は? プリンセスが拾い食いなんてするわけ……貰ったりんご食べたけど、拾い食いに入る?」

「りんご?」

「あっ! そうだ! 毒入りりんごだ! 思い出したぁ! くっそー! キキちゃんちょっとイケると思って食ってしまった……リザード舌だから……あっ、とろお! とろおは!?」

「とろお?」

「いい奴だけどのろまなトロルのとろお! 人間共にとろおがやられて、でもキキが毒入りりんごで動けなくって! とろおが死にそうになって、そんで、そんで……!」

「落ち着け」

「落ち着いていられるかぁ!」

 シオンの胸倉を掴み、ガクガクと揺すぶる。キキの大声が耳にキーンと響いた。

「……落ち着けって……酷い怪我はしてたけど、いま治してくれてる」

「ほんと!? とろお助かった!?」

 ばっとキキは顔を上げた。とろおは巨体を横たえ、目を閉じている。

「死んでるじゃん!? とっ、とろおー!」

「いまは寝てるだけだって……」

「ほんとっ!? とろお! とろおー!」

「とろおって……」

 ガクガクガクとずっと頭を揺さぶられていたのを、ぱっと離され、シオンはグラグラする頭を抑えた。

「うおおおおおお! とろおおおおお!」

 キキはとろおの腹にしがみつき、わーわーと泣いた。

 とろおは顔や腕にありったけの包帯を巻かれている。シオンも巻くのを手伝った。なにせ巨体なので、犬達が持っていた救急箱やシオン達の手持ちも全部使い果たしてしまった。特に潰された目は分厚いガーゼと包帯でグルグル巻きになっている。

「目はちょっと治るのに時間がかかっかもだけど、トロルは生命力が違うからね。おらが時間をかけて面倒みっから大丈夫だよ」

「……も、森の賢者殿……!?」

「や、ただの森に棲んでる人だけど……」

 キキはシュンの前でばっと土下座をした。

「賢者殿ぉ! 我が友、とろおをよろしく御頼み申します! この妹尾黄々、リザードマンの誇りにかけて、御恩は一生忘れませぬぞぉ!」

「え? あ、ども……」

 キキのこういうところは、完全に祖父の国重そっくりだ。国重にこんなふうに頭下げられたことが、シオンも何度もあった。シュンがぽりぽりと髪に隠れた角のあたりをかき、困ったようにシオンを見た。

「どうしよ……」

「気が済むまではやめないと思う……キキ、シュンさんが困ってるから、もうやめろ」

「うおお、シュン殿……この御恩は一生忘れぬ……!」

「ひいい」

 シュンの足にしがみついて離れないキキが、何故かガチンガチンと歯を鳴らすので、シュンが怯えた声を上げた。

「キキ、そのくらいにしろ」

 ずっと笑っている透哉は止めてくれないので、シオンはキキの体を掴んでシュンから引き剥がそうとした。小さい癖に、ずっしり重たい。どんな体をしているのか不思議だ。

「離せシオン! キキちゃんはシュン殿に恩義が……! あっ、人間共! とろおの仇!」

 はっとキキが倒れている人間達のほうを見た。マズい、とシオンは思ったが、その前に透哉が言った。

「もう全員死んでるよ」

「えっ!?」

 キキが目を剥いた。いや、死んではないが、とシオンは心の中で思ったが、透哉はいけしゃあしゃあと告げた。

「うん。もう全員死んで、報いは受けたよ。多分キキちゃんが噛み殺したんだと思うけど」

「そっかぁ……キキが殺して……えっ!? キキが殺したの!?」

「多分ね」

「キ、キキ捕まっちゃうの!?」

「うーん、殺してしまったからねえ」

「ひぃぃ! 困るよ! そうだ、おじいちゃんに頼んで何とか揉み消せないかな……」

「お前な……」

 キキが深刻な顔で呟く。シオンは呆れた顔をした。とはいえ、怒り狂っている状態より話しやすくはなった。

 彼女の前にしゃがみ込み、シオンは尋ねた。

「キキ、具合はいいのか? もうどこも苦しくないか?」

「なに? さっきからシオン、どしたの、気持ち悪いな……」

 自分が毒を飲んだということなど、キキはさっぱり気にしていないようだ。だが、シオンにしてみれば、仲間に怪我をされるよりずっと恐ろしかった。

「一体何があったんだ?」

「何って……クソ人間がとろおのりんごに毒を入れてて、キキ、リザードマンだし、舌鈍いからさぁ、分かんなくて……」

 ちょっとばつが悪いそうに、キキが目を逸らす。

「体が痺れてきたところに、あいつらがやって来て、とろおをいじめててさ……」

「討伐に来たってことか?」

「んー……思い出すと目の前が真っ赤に……」

「もう死んでるから怒る必要ないよ。キキちゃんが殺したんだよ」

「あああああ……! やべええええ……!」

 透哉の言葉に、思い出し怒りし始めたキキが、頭を抱えてがくっと膝をついた。

「な、なんとか揉み消さなきゃ、キキのリザード生がめちゃくちゃだよお……! そうだ、山に埋めていけば……!」

「こういうとき、人も亜人も本性が出るね」

「キキ、ちゃんと思い出して話したら、オレたちも埋めるの手伝ってやるから」

「え? ほんと?」

「……ほんとだ」

 透哉に乗っかってみたが、嘘は苦手なので、また声が上ずった。

「ほんとにほんと? ちゃんと埋めてよね」

「お前な……」

「バッチリ埋めるから安心して」

「お、おじいちゃんたちには内緒にしといてよ……」

「分かったから」

「でも、そんぐらいしか覚えてないよ。すぐ目の前が真っ赤っかになっちゃったもん……」

「真っ赤っかになる前に、人間達はなんか言ってなかったか?」

「んー……あ、そういやなんか、再生数がどうとかって」

「再生数?」

 シオンは少し考え、立ち上がった。

「どしたの? 早速埋める?」

「いや」

 まとめて置いておいた、人間達の荷物のところに行き、中を漁った。その中で電子機器類を全て取り出す。冒険者がよく使う丈夫な携帯電話、その他にスマートフォンや、タブレット端末、ノートパソコンなどもあった。

「大型モンスターの討伐に来たって感じじゃないねえ」

 透哉が言った。

「色んな冒険者がいるし、探索や研究目的ならこのくらい持ち込むのは、珍しくないけど……討伐なら邪魔だな。それに、冒険者証がない。冒険者おれたちなら絶対に携帯してるはずなのに」

 特に、計画的なモンスター討伐の場合は、強力な武器を持ち込むことがあるので、冒険者証と武具携帯許可証は絶対に携帯をしているはずだ。

 それがなければ、レンジャーに職務質問をされたとき、討伐は許可されず、最悪逮捕される。冒険者だからといって好き放題出来るわけではなく、素行の悪い冒険者を取り締まる者たちもちゃんと存在する。

 レンジャーは冒険者ではなく、自衛隊の指導の許で厳しい訓練を受けた警察官だ。森林レンジャーや、稀少な野生動物やモンスターを守る動物レンジャーなど、様々な者たちがいる。この後駆けつけて来るかもしれない。

「冒険者じゃないのか、正式な依頼じゃないのか、どっちにしても冒険者証も武器の携帯許可証も無い。討伐パーティーじゃない筈だ」

「車に冒険者証を置いてるのかもしれないけど、冒険者じゃないとして、正規ルートじゃないところから入って来たのかもね」

 シオン達がここへ来たのは、センターで正式に受けた採取依頼としてた。冒険者二名と同行者一名で入山前に入山の届け出もしている。事前にセンターからも連絡が入っているのでその照会もし、冒険者証と武器の携帯許可証を見せ、死んでも文句は言わないという旨の書類にサインもした。何重もの許可を得て、仕事をしているのだ。どんな簡単な仕事でも、常にこういった手続きを踏んでいる。適当では務まらないのだ。

「正規の冒険者じゃないかどうかは、調べたらちゃんと分かると思う。あとは何か、他に違法行為をしてないか……モンスターの討伐に許可は要らないし、冒険者じゃなくてもやっていいけど……それは緊急性がある場合で、無害なモンスターをただ傷つけたり、密漁するのは違法行為だ」

「でも、違法行為をしたといっても、トロルが襲ってきたと彼らが証言したら、ちょっと弱いよね。トロルは大型モンスターだし、寄主トロルが人間を襲う事故も珍しくはない。トロル自体のイメージが良くないから」

「冒険者でも、わざとモンスターをいたぶるような討伐をする奴がいる。許可を取っての討伐だから完全に違法ではないけど、ちょっと問題になって……それをわざと動画に撮って、配信して捕まって処分された冒険者が前にいたんだ」

「そういえば、そういうことがあったね。ニュースで観たよ」

「あれを真似する奴もいまだにいるって、知り合いの香坂さんってモンスター研究をしている専門士スカウトが言ってた」

「闇が深いね、冒険者の世界も」

「冒険者じゃない奴が真似することもあって、逆にモンスターに返り討ちに遭ったり、そういう動画がネットにけっこうあるみたいで。違法なんだけど、アップロード出来るサイトがあるらしくて」

「ああ、裏サイトってやつだね」

「なんでそんなことすんのか、分かんねーけど……」

「世の中には色んなマニアがいて、それが良い方向にだけ向いているとは限らないんだよ。残酷なことを喜ぶ者もいる。そういう者を相手に稼ごうという者もいる。なるほど、そういうことか」

「駄目だな、このスマホも鍵がかかってる……」

 シオンは動画を撮っていたかもしれない電子機器を片っ端から触ってみたが、どれもシオンの手では開くことが出来なかった。

「……キ、キキが殺人を犯した映像が、まさかそこに……?」

「かもしれないし、その前にトロルをいたぶってる様子が映ってると思う。それに、キキまで毒の巻き添えを食らったのなら、多分かなりこっちに有利だと思ったんだけど」

「だ、大事にしてよ、その証拠!」

「……出来たら、キキが人間を襲ってるとこだけ、消せないかなと思ったんだけど……無理か、オレ、機械詳しくないし……」

 しゅんと耳が下がる。キキはそんなシオンの様子に、目を丸くした。

「……シオン、どしたの? ほんとに、らしくなくない……? クソがつくほど真面目なのに、揉み消しなんて、いつもは絶対しないじゃん……」

「お前は、無意味に人を襲ったりしない。だけど、やり過ぎたとは思う。でも……それも、お前が悪いわけじゃない。それは、オレもよく分かってるからな……」

「シ、シオン……」

 苦々しげな表情のシオンに、キキは目を潤ませた。

「なのに、刑務所行きなんて……」

「や、やめてよお! やだよお!」

「さすがに情状酌量あると思うよ」

 透哉が口を挟んだ。

 ずっと様子を見ていたシュンも、近づいてきて声をかけた。

「正規ルートじゃない入り口にも、監視カメラはあるよ。おらはレンジャーに顔が利っから、ちゃんと証言するよ。大丈夫、調べたら、毒入りのりんごも見つかると思う。キキちゃんは悪くないよ」

「シュン殿ぉ……」

 キキが尊敬の眼差しでシュンを見上げる。

狂戦士バーサーカー症だったら、命の危機に正当防衛でやり過ぎてしまっても、無理からぬことだかんね」

「五人も殺してるけど、大丈夫かなあ……うう、妹尾家から人間喰いマンイーターを出してしまった……お、おばあちゃんに殺されるかも……」

 人間喰いマンイーターは人間を襲って喰った魔物モンスターのことである。

「大丈夫、生きてるから」

 シオンはキキの肩をぽんぽんと叩いて言った。キキがぴょんと跳び上がる。

「えっ! 生きてんの!?」

「ああ」

「よ、よかった……! 地獄送りにしてやれなくて残念だけど、これでキキのリザード生が……!」

 はああ、とキキが息をついた。しかし、すぐに顔を上げた。

「でも、こいつらまたとろおをいじめに来ないかな!?」

「そんなことはさせないから、大丈夫。馴染みのレンジャーにもよく話しておくから」

 シュンが優しく告げた。

「そういえば、毒入りりんごがまだ落ちてたら、他の動物やモンスターも危ないんじゃないかな」

 透哉の言葉に、シオンはワーラットのことを思い出した。ここよりもっと離れた場所にいたし、警戒心の強い種族だから大丈夫だろうが、この山には友好的なトロルの他にも神秘的な生き物がいるのは間違いない。

 シオンも普段はモンスターを討伐するばかりだが、そればかりが冒険者の仕事ではない。

「レンジャーがなんとかしてくれるだろうけど」

 シュンの言葉に、シオンは立ち上がった。

「オレ、探してきます。オレにやれることは無いし、こうやって待ってても、なんか気になるから」

「ああ、そうだね。犬達にも探してもらおう」

「あっ、キキ、とろおにりんご貰ったとこ覚えてるよ!」

「お前は安静にしてろ」

「ぜんぜん大丈夫! げんきげんき!」

 キキが立ち上がり、拳で自分の胸をバンバンと叩いた。

「とろお、りんごぼろぼろ落としてたからさぁ! これは緊急ミッションだよ! おっきいとろおや最強のキキちゃんが倒れちゃうような毒だからね!」

「そうだけど……」

「とろお、川にりんご落としてたよ?」

「そ、それはまずいね」

 さっきまで落ち着いていたシュンが、流石に慌てる。

 透哉が言った。

「この場には僕が残るから、行っておいで。川の水に毒が流れたら大変なことになる」

「透哉さん、大丈夫ですか?」

「うん。人間達が起きても、眠らせるくらいの魔法は使えるよ。まあ彼らにそんな体力ないと思うけど。救助が来ても上手く話すし、とろおのこともちゃんと話すから」

 たしかに、この場で透哉以上に口が回る人はいないし、頼りになる。紅子ほどでなくても魔法も使える。

「それじゃ、お願いします」

「ほら、早くいこ! キキが案内するから!」

 キキの具合が悪くなっても、こちらにはシュンが一緒なら大丈夫だろう。

「じゃあ案内してくれ。シュンさん、行こう」

「ん。頼むよ」

「透哉さん、あとお願いします」

「うん。行っておいで」

 透哉がにこやかに、ひらひらと手を振る。それから、あ、とキキに声をかけた。

「これ、忘れてたよ」

「おおお、おじいちゃん!」

 リュックの紐を付けられ、背負えるようになったおじいちゃん人形を、どうやら透哉はずっと背負っていたらしい。キキを探すのに焦っていて全然気づかなった……とシオンは顔を引きつらせた。

「ごめんね、リュックの紐緩めちゃった」

「置いてってごめんよぉ……おじいちゃん……」

 透哉に手渡されたおじいちゃん人形をぎゅうとキキが抱き締めると、中に内蔵させている機械に当たったのか、『キキちゃん、がんばるんじゃー』と声が出た。

「気が済んだか?」

「落ち着く……」

「じゃあ行こう。もっと川の上流のほうでいいのか?」

「うん……」

「こっちだな」

 人形に顔を埋めている間に、シオンがさっさと先を歩いてしまった。キキはおじいちゃん人形を片手に抱え、慌ててついて走った。更に二人の後をシュンが木の杖を突きながら歩いて来る。

「待ってよお! こっちは病み上がりだぞ! 薄情ものがぁ!」

「急いでるんだよ。元気なんだろ? 早く来い」

 振り返ったシオンが、キキに右手を差し出した。キキはきょとんとした。シオンは大抵、武器を握る利き手を自分から塞ぐことはしない。冒険中にとろい紅子を支えたりはするけど、なるべく左手でやるか、ほんの短い時間だけだ。何があっても咄嗟に武器を抜けるように。

 逆に言えば、初対面の人に右手を差し出すのは、敵意が無いということで、冒険者のサインの一つでもある。ローカルルールみたいなもので、左利きの人でもそうする。

 シオンの意図は分からなかったが、足を緩めてくれている間に急いで追いつき、キキはシオンの手を握った。

「……ごめんな」

「え? なにが?」

 キキが首を傾げると、シオンは少し驚いた顔をしたが、ふいと前を向いた。キキと手を繋いだまま、また急いで進み始めた。

(……あ、そっか。あたし、シオンに怒ってたんだった)

 すっかり忘れていた。なのに、謝られてラッキー、と思った。

(しゃーない、特別に許してやるか)

 いっぱい探して、心配したみたいだし、しょんぼりしたシオンが見られたから、よしとしてやろう。とろおも助かったし。怒ったキキを抑えてくれたのは、きっとシオンだ。ちょっと遅めだったけど、駆けつけてくれた。

「歩けるか?」

「うん」

「……どこも痛くないのか?」

「ぜんぜんへーき!」

 キキはにっと笑い、ぎゅっとシオンの手を握った。

「いってえ!」

 そこまで力を込めたつもりはなかったが、シオンが悲痛な声を上げた。か弱いワーキャットなのを忘れていた。




 シオンらが去った後も、傷ついたトロルと人間達は大人しく眠っていた。

 比較的傷の浅そうな人間の一人の傍に、透哉は屈み込んだ。

「……これは夢の続きだ。そこは苦痛なき世界、目覚める必要はない。君はただそこで、この声を聴いているだけ。そう、何の咎も無い、罰は下らない、この言葉に従うだけでいい。少しだけ、動けるかい?」

 透哉は男の手に、スマートフォンを握らせた。男はうっすら目を開いたが、その瞳はどんよりと濁っている。僅かに覚醒したことで痛みを感じるのか、顔をしかめ、うう、と苦痛の呻きを上げた。

「……た、……たすけ……」

「そうだね、死ぬかと思った。恐ろしかったんだね。でも、もう大丈夫。罰は下ったから」

 精神魔法に適した声音、リズム、話し方、それを透哉は熟知している。

「でも、少しだけ足りない。怪物はまだ君達に怒っている。だから、罪を完全に拭おう。大丈夫、僕も一緒に考えてあげる。そうだな、怪物の姿を、人目に触れさせてはいけない。彼女の怒りに触れるから」

「……う……」

「ロックを解除してもらっていい? うん、いい子だね。僕がなんとかしてあげる」

 男はスマートフォンを操作し、透哉に渡した。透哉は記録した動画を再生し、その後半部分を消した。キキが暴れている姿だ。

 キキの起こした傷害を隠蔽するというよりは、彼女が珍しいリザードマンハーフであるということは、なるべく知られないほうがいいだろう。

「さて、他の機械も見せてもらおうかな」

 協力してもらって悪いが、再び眠らせる前に、精神に干渉し、キツめの悪夢を見せておこう。他の者達にも、心の奥深く刻まれた死の恐怖と相まって、生涯彼らの心を蝕むだろう。まあ、そのほうが彼らの為だ。世の中には、触れてはいけないこと、侵してはないない場所がある。

(……この山は、きっとそういうところなんだろうな)

 以前は多かった登山客も、近年はずいぶん減ったらしい。それはダンジョンとモンスターが増えたからだというが、いずれかのダンジョンが、魔素が濃く深いダンジョンに繋がっているのかもしれない。

 人に探索出来ない小さな穴で繋がっていたり、それ以上は進めないような場所の更に先や下に、広大な天然の迷宮が存在していることもある。

 ほんの少しの懐かしさと、嫌悪感を覚え、透哉は目を細めた。蝉の声が遠くに聴こえる。まだ暑い季節なのに、この山はずいぶん涼しい。ふと、風の流れを感じて、森のほうを見た。さっきまで無風だったが。 

 誰かに見られている気がした。非常に稀有だが、そういう魔法もある。というより、超能力とも呼ばれるような、個人の特殊能力に近い。母の茶和さわが、〈遠視ヴィジョン〉という特殊な能力を持っている。彼女の一族に、時折現れる才だ。ただ茶和は自分でその能力を自制出来ず、〈嫌なもの〉を視てしまった。以来、人格が変わり、意識は正気と狂気の間を彷徨い、最近では寝たきりだ。

 かつては優しかった叔母に懐いていた紅子は、精神を病んだ彼女に嫌がられるようになっても、未だに慕っている。でも紅子が近づこうとすればするほど、彼女は紅子を恐れるのだ。

 紅子は、ただの人間ではない。あんなでたらめな能力を持った魔道士が、ただの人間なわけがない。彼女に自覚が無いだけで、よくあるような平凡な魔道士の一族に生まれた、少し魔力が強いくらいの人間だと思っている。まあ、そういう育て方はした。上手くいったと思う。そうでなければ、あんな素直な娘には育たなかっただろう。

 視ていることを隠そうともしない、さっきよりはっきりとした視線を感じながら、そこに敵意は感じなかった。茶和が無意識に〈遠視ヴィジョン〉で自分を見ているのかもしれない。そう思ったが、違う可能性も頭をよぎった。

「……そうだな、どこでお前に視られていても、不思議じゃないな」

 誰かに語りかけるように、透哉は呟いた。自分を見つめる瞳まで脳裏に浮かぶようだった。その瞳は嫌になるほど、幼い頃の紅子のものによく似ていた。




 シオンたちがりんごを回収しているうちに、通報を受けた地元警察のパトカー、消防車、救急車が次々山に入って来た。

 森林フォレストレンジャーもやって来た。


 森林、ダンジョン、野生動物――様々な環境や生態系を保護する為に、各地に配置されているレンジャー隊は、冒険者とは違う、公的な組織だ。自衛隊や警察の機動隊で訓練を受けた者が配属されたり、優秀な冒険者からヘッドハンティングされることもある。いずれも戦闘訓練を受け、高い専門技術を身に着けた者が所属している。

 千葉では、後から駆け付けて残りのモンスターを掃討してくれたり、怪我人を沿岸警備隊コーストガードに、シー・レンジャー部隊も含まれていたはずだ。

 優秀な人材しかレンジャーにはなれないため、その数は冒険者ほどには多くない。対してダンジョンや危険モンスターの数は増えている。彼らだけでは討伐や調査まで手が回らないので、冒険者も必要な存在である。


 人間達は警察に引き渡し、彼らはいったん病院に運ばれることになった。

 とろおは、駆けつけた地元の山小屋管理人や自警団が、『りんごトロル』の名で親しまれている害のないモンスターだと証言してくれた。シュンはレンジャー達にも顔が利くらしく、引き続き治療をすると説明してくれたようだ。

 押収したスマートフォンから、男達が残酷な動画を撮る目的でとろおを襲う様子が映っていることも確認された。とろおへの暴行よりも、強力な毒入りのりんごを使ったことが罪になりそうだ。

 キキはその場では連行されず、後日、保護者と一緒に警察に話をしに行くことになった。

「お、おばあちゃんに殺される……!」

 今日一番青褪めた顔をしていた。

「オレも一緒に川崎行って説明するから。お前を預かってるのはオレだし」

「ほ、ほんと……? おばあちゃんのメガトン平手がキキのお尻に決まる前に頼むよ……尻尾が取れちゃうよ……」

「分かったよ」

 祖父の国重には連絡した。妹尾組が後で迎えに来るという。

 トロル用の毒を飲んだことを伝え、シオンは自分の監督不行き届きを詫びたが、普段孫バカな国重は取り乱すこともなく、

〈そうですかい。ま、後でうちの馴染みの医者に診せますんで。ご迷惑おかけしました。なーに死にゃしません、リザードなんで〉

 とあっさり答えが返ってきた。リザードだから……そうなのか……と種族が違うと感覚が分からん、とシオンは思った。が、国重が大丈夫というのなら大丈夫だろう。

「動画観てたけど、キキ大丈夫かなぁ……」

「特に何も言われなかったな……あんまり映ってなかったのかもしれないし、映っててもまあ……大丈夫だろ……あっちが悪いんだし」

「ええー……適当言ってない?」

「きっとキキちゃんのおじいちゃんが、良い弁護士さん付けてくれるから大丈夫だよ」

 透哉の言葉に、キキはぐぬぬ、と呻いた。

「大丈夫かなあ……」

「大丈夫、大丈夫」

 あっけらかんと笑う透哉を、胡散臭そうな目でキキは見た。

「軽いんだよなぁ、兄ちゃん……キキのリザード生がかかってんだよ?」

「あはは」

「仕事だった採取任務だけど、さっき依頼主と、センターにも一応連絡した。採取は出来た分だけでいいって。けっこう進んでたから良かったな。その代わり、また来週同じ仕事をすることになった」

「ほんとぉ? 良かったー」

「それはオレだけでやる。お前はもういいから、病院で診てもらってしばらく休めよ。残りはオレだけでやるから」

「えー! 大丈夫だよぉ。キキもやるってば。子供じゃないんだから」

「子供だろ」

「明日からでも動けるくらい元気!」

「でも警察にも行かないと」

「う……そ、それは……」

 シオンも行くことになっているのだが。

「僕も手伝うよ」

「えっ、いや、それは流石に悪いです……」

「こっこも最近は魔法の勉強で休日忙しいし、代わりに手伝うよ。車も出すし。車あると便利でしょ?」

「う……」

「車ならキキんちからも出せるもん!」

 ぴょんぴょんとキキが跳び上がる。すっかり元気みたいだが、ちゃんと病院に連れて行くまではシオンも安心出来ない。

「もう拾い食いはやめろよ」

「う……とろおに貰ったんだよぉ……」

 言って、キキは横たわったままのとろおを見た。

 鎮静魔法で深く眠っているが、自然に目を醒ますだろうとシュンが言っていた。トロルを運ぶのは難しいので、このままレンジャーが様子を見て、後々巣穴まで誘導するらしい。

 シュンが毎日治療してくれると、キキに約束していた。

「本当に、世話になりました」

「ん、こちらこそ」

 シオンが頭を下げると、シュンもゆっくりと頭を下げた。

「また来たときに、訪ねてくれたら嬉しいな」

「はい」

「ここらもダンジョンが増えたから、登山客以外がよく来るようになったかんね。魔素濃度が上がると、生態系にも影響が出て、管理も繊細になる。ダンジョンが出来るのも自然ではあるけど、そのへんのバランスは多少こっちで管理してやんないと、絶えていく生き物や、外来種が蔓延したりするかんね」

 シュンがいてくれて助かった。地元の人達にも顔が利いて、話もずいぶんすんなり進んだ。とろおのことも、シュンがいなかったらキキがまた暴れていたかもしれない。

「本当に、ありがとうございます」

「とっ、とろおをお願いいたしますっ!」

 もう一度、シオンは深々と頭を下げた。隣でキキも慌てて下げた。




 シオン達が帰った後、フォレスト・レンジャー隊の一人が、シュンに声をかけた。 

「毛利、せっかく休暇だったのに、災難だったな」

「はぁ……隊長」

 シュンはやって来た壮年の男に向かって、しまらない敬礼をした。長身だからか、いまいち背筋が伸びていない。ついでとばかりに、ボリボリと切り落とした角のあたりを掻く。

「まぁ休暇でも、やってること変わんないんで……やっぱ、森好きなんで……特に、ここらは故郷の山に似てるんで、落ち着くっていうか……ダンジョンいっぺえあって、魔素が濃いし……」

「魔素が濃いと落ち着くってのは、フォーンならではだな。ここらの山は昔に比べたら、どっか空気の重い薄気味悪い山になっちまったけどな。ま、ここだけじゃない。今じゃあちこちこんな感じだが」

「はぁ……」

「そのほうが、動物やモンスターにとってはいいのかもしれないけどな。まだ休暇残ってんだろ。後は任せて、トロルと仲良く森で英気を養え」

「ども」

 ぺこっと頭を下げると、隊長と呼ばれた人間の男が、パンパンと背中を叩いた。

「……そいや、隊長。アサバって、聞いたことあります?」

「地名か?」

「いや、人の。なんか引っかかっちゃって……」

「お前が引っかかるなら、魔道士系か? アサバ……あー、十年以上前に、禁忌ダンジョンで死んだ魔道士の親子が、アサバだよ。父親がダンジョン内で行方不明になって――死んで遺体が残らなかったんだろうが、大怪我を負って戻ってきた息子も後に死亡届が出された。知識欲のある魔道士はよくそういう死に方するからな……珍しい事故でもなかったから、ほとんどニュースにもならなかったな。祖父がちょっと知られた魔道士だったから、覚えてるな」

「ああ……それだ、浅羽式だ。すごく使いにくい術式」

 すっきりした、とシュンは言って、口許に笑みを浮かべた。

「あの人、魔力はからっきしだったけど、治癒術の上手い人だったなぁ」

「ああ、ワーキャットの子供に同行してた、民間人の」

「少ない魔力で、ちゃんと血止めして、消毒して。何度も実践してないと、ああは出来ないから、医者か看護師だと思ったけど。会社員って言ってたなぁ」

「へー。お前から見てそんなに上手いんなら、民間人にしとくのは勿体無いな」

「魔力が強い人はいても、扱いが上手い人ってのはあんましいないですよ。ヘッドハンティングにどうかなって……ほら、魔道士、足りてないって隊長ゆってたから」

「優秀な魔道士は、いつでも足りてないからな。というかレンジャーが全体的に足りん。地道に働いても、公務員への世間の風当たりは最近強いから、税金ドロボーとか言われるしな」

「ありゃ……レンジャーって気の毒ですね……」

「お前もだ」




 レンジャーのジープに乗って、ふもとまで降り、駐車場で降ろしてもらった。

 妹尾組に透哉が連絡を取って、落ち合う場所を決めている間、車の傍でキキはさっきまでいた山を見つめた。すっかり日が落ちかけている。

「とろお、もう起きたかなぁ」

「どうだろうな」

「でも、明日もシュン殿がいてくれるから、寂しくないよね。自警団のじいちゃんらも、レンジャーのおっちゃんらも、とろおのことよろしくしてくれたもんね」

「そうだな」

 連なっている山々を眺め、シオンは答えた。真剣にとろおのことを頼んでいたキキと一緒に、シオンも彼らに頭を下げて頼んだ。モンスターにも色々いるように、人間にも色々いる。とろおを傷つけた者たちだけではなく、守ってくれると約束してくれる人たちもいる。

「レンジャーもさぁ、ちょっといいよね。アイドルもいいけど、キキも山とか守ろうかな」

「いいんじゃないか。お前には都会より野生が似合うと思う」

「……それ、褒めてるつもりだったらセンスないよ。まあシオンにそのへん多くを求めてないけどさぁ。これだけはくれぐれも頼んでおくけど、これからトロルを倒すときはさ、いい奴かどうか確かめてからにしてよ? とろおみたいな奴もいるんだからさ」

「分かった」

 あっさりシオンが頷くと、キキはほっとしたように笑みを浮かべ、「よしよし」となんだか偉そうに頷いた。

「シオンって、モンスター見たらすぐ殺すじゃん」

「えっ」

 心外だと言わんばかりの顔で、シオンは目を見開いてキキを見た。

「そんなことないぞ……」

「駆除好きじゃん」

「……いや、別に好きじゃ……」

「心底傷ついたみたいな顔しないでよ。なんかキキちゃんが無下にシオンを傷つけたみたいじゃん。言っとくけど、今日傷つけられたのはキキちゃんだよ? 聞いてる?」

「うん……」

 かなりショックだった。駆除が好きなんて。そんなふうに見られていたのか……。

「オレ……モンスター倒すときに笑ってたりしたか……?」

「そこまでサイコ野郎だとは言ってないよ」

「……気を付ける……」

「あんま気にしないでよ」

 キキがおじいちゃん人形の手を持ち、その手でぽんぽんとシオンの肩を撫でた。そのまま腹のスイッチを押すと、〈キキちゃん、がんばるんじゃー〉と声が出る。

「シオンも、がんばるんじゃよ……?」

「うん……」

「なんで落ち込んでるの?」

 電話が終わってやってきた透哉が、不思議そうに尋ねた。

「あっ! そうだ、来週も来るんなら、りんごいっぱい持ってこよ!」

 キキがぴょんと跳び跳ねた。

「せっかくとろおの大好きなりんごなのに、今日は毒入りのしか食べられなかったもんね。ちゃんとしたりんご食べさせてやんなきゃ!」

「そうだな」

「りんごがトラウマになってないといいけど」

「大丈夫、とろおだから」

「その根拠は一体どこから……?」

「それに、人を嫌いになってるかもしれない。とろおが怯えて近づかなくても、無理に近寄ったりするんじゃないぞ」

「ええー……そんなことないよぉ」

 キキは頬を膨らませた。

「それに、そっちのほうがとろおには幸せかもしれない。ダンジョンやモンスターが増えて、もう仲良くしてた登山客も、来なくなってたんだろ。冒険者や、あんな人間まで山に来るようになってたんじゃ、警戒心があったほうがいい」

「えー、とろお悪くないのに」

 真面目な顔で言うシオンに、キキが頬を膨らませた。

 その背に、透哉がそっと手を当てる。

「小野原くんの言うことも一理あるけど、あの山の人達や、登山客みたいに、とろおみたいなモンスターと上手く共生していた人達も、ちゃんといる。そんなに酷い人間ばかりじゃないよ。でもあの山はこれからも魔素がどんどん濃くなって、本当に普通の人間は入って来なくなるかもしれない。危険なモンスターが増える可能性もある。でも、きちんとダンジョンや森の状態を把握出来れば、魔素の濃度やダンジョンの数をある程度コントロール出来るようにもなる」

 シュンもそういったことを言っていた。

「ダンジョン調査が進めば、危険なダンジョンは封鎖出来るし、危険なモンスターも自然と減る。そうすれば登山客も入山出来るようになる。それは、君達冒険者の仕事なんじゃないの?」

「あ、そっか!」

「だから、キキちゃんはもっとレベルを上げて、正しい冒険者にならなきゃね」

「なるほど、それもキキに向いてるかも……スーパー冒険者……」

「とろおがまた、人間にりんごを貰えるようになるといいね」

「うん!」

「じゃあ、来週はまたコツコツ採取から頑張ろうね」

「おー! そんで持っていこ! とろおのりんご!」

 いつの間にかキキは透哉に乗せられている。流石だなぁ、と思いつつも、シオンもキキやシュンの言う、優しいトロルが人間達と過ごしている姿を、見てみたい気がした。シオンはそんな光景、見たことがなかった。

 外来モンスターの駆除や危険モンスターの討伐は回ってきやすい仕事だ。その仕事ばかりこなしていると、討伐専門の冒険者としてレベルが上がっていく。センターからもそういう仕事が多く回って来る。

 戦うことは嫌いじゃない。何も考えずに体を動かせるし、桜に鍛えられた技や体術を磨いていたら、彼女に近づける気がした。

 そうしてなんとなく、自分は討伐専門の冒険者になるのかと思っていた。考えることは苦手だし、頭も悪い。

 でも最近、頭が悪いからいいやと、思えなくなってきた。


「冒険者の仕事か……」


 ぽつりと呟いて、シオンは夕焼けに燃えているような山々を見つめた。真っ赤な色がりんごを思い出させて、元気になったとろおが人間と歩いている光景を、なんとなく思い浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 透哉さんがさらっと「もう死んでるよ」って言うの、めちゃくちゃナイスプレーだったなと思いました 状況とキキの性格を読み切ったあれがさらっとできるから透哉さんはすごい… サイコ野郎シオンとキ…
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