【作中登場した魔法と詠唱(一章~二章・外伝)】
詠唱(があった)呪文一覧です。
「迷宮のドールズ」一章~二章、外伝「デストラクション・ガール」に登場した魔法の中で、作者のメモから備考を加えてまとめました。
もちろん見なくてもまったく問題ない、おまけ的なものです。
本編・外伝に登場した魔道士、霊媒士は数名いますが、きっちりと詠唱するシーンがあることは少ないです。
作中で一番魔法を使っているはずの魔道士・ヒロインの紅子が、攻撃魔法の大半を「燃えて!」などで済ませてしまっていることが原因の一つですが、そのようにこの世界の魔法は、発動さえすれば詠唱は自由です。出りゃいい。
そんなわけ作中で一番活躍しているであろう紅子の治癒は、「治って、治って」なため、割愛されてしまいました。ヒールたん……(´・ω・`)
スムーズな発動の助けとなるのが、世に広まっている詠唱式と言われるものです。多くの術者に長く、広く使用されている魔法には、「安定した発動を助けるのに最適解に近い」詠唱であり、支持されています。愛されるのには理由があります。
普段から咄嗟に唱える練習をするのにも、例文はあったほうがやりやすい、ということです。
そんな先人たちが編み出した呪文をあらためて紹介します。
*
【魔道士魔法】
---攻撃魔法---
■火炎
詠唱式:浅羽式/作成者:浅羽光悦
作中使用者:浅羽紅子
[私の魔力を火種にして、私の炎が翻る。私の蒔いた魔力の種が、芽吹き、大地の殻を焦がしながら突き破る。茎を伸ばし、火柱になる。葉を広げ、燃え盛る。蕾の綻びとともに、私の敵を焼き尽くす、紅蓮の花が咲き誇る]
備考:紅子の祖父、光悦が作成したが、公式に登録された呪文ではない。草間曰く浅羽光悦の呪文は「他の詠唱のパクリを多様したポエム」。
長く、構築が難しいが、威力は絶大。ただしちゃんと発動すればの話であり、これだけ長々と詠唱して未発動だと、とても恥ずかしい、扱う者を選ぶ呪文。
■火炎
作中使用者:花垂夜
[炎よ、燈れ。敵に向かって迸れ]
備考:桜の仲間の魔法戦士、夜が外伝にて使用。彼は物覚えが悪く、詠唱式を大量に書き留めた分厚いメモ帳に付箋を付けて持ち歩いているが、彼がメモを見ずに唱えられる数少ない詠唱の一つ。
短く、簡単な詠唱だが、基本の威力は低い。魔力の低い者が使っても大した攻撃手段にならない。ある程度魔力に自信のある者だけがドヤ顔で使える。
この魔法に限らず、詠唱の短い魔法は扱いが簡単な反面、人によって威力の差がはっきり出てしまう。「あれ……? 私の魔力量、もしかして少ない……?」と感じたら、すぐさま割りきって詠唱長め・威力安定の呪文をメインに覚えよう。
■凍結
作中使用者:花垂夜
[冷気よ、収束し、鋭き刃となれ。赤く開いた傷口さえも、容赦無く、無慈悲に痛めつけろ。我が敵よ、すみやかに停止せよ。肉も血も凍てつき、果てろ]
備考:氷の攻撃魔法は炎の攻撃魔法よりも発現が難しく、簡単なものでも詠唱がやや長くなるのが難点。これは自らの手で『炎を起こす』イメージに対し、自らの手で『凍らせる』イメージが身近ではないため。
そのため、寒い地方の出身者のほうが比較的上手く扱える傾向にある。「雪なんて見たことない」南国生まれの魔道士にはこの魔法がさっぱり扱えない者も多い。
■退魔
詠唱式:森塔式
作中使用者:浅羽紅子・花垂夜
[世界を循環する魂よ、あるべき姿を取り戻せ。絶えることなき生死の円環を外れし邪道の魂よ。留まるな。流れよ。抗うな。息絶えよ。器無き魂にこの世の安息は訪れず、彷徨い続けるは永遠の牢獄。囚われるな。その生はすでに此処に無し。その死も此処に無し。受け入れろ。その逡巡を断ち切る、二度目の刃を]
備考:数多くの詠唱式を遺した天才魔道士が残した魔法の一つ。対ゴースト攻撃魔法。難度の高い魔法だが、冒険者が仲間のソーサラーに覚えていてほしい魔法ベスト3には必ず入る。この魔法を込めた魔弾・退魔弾も存在するが、一発が¥800~と非常に高額。ギリギリまで持っていないフリをする射撃士が絶えない。
森塔式は詠唱長め、難易度高め、威力高め、の玄人好みであり、また有名な呪文も多いことから、森塔式を使うと分かる人には「おっそれは森塔式ですか!?」と言われることもあって、鼻が高い。ただし、下手に使うと失敗することもあるので、わざわざ使って失敗したらとても恥ずかしい。しかし威力はばつぐんなため、レベルの高い魔道士ならぜひ扱いたい詠唱式。
---補助魔法---
■照光
作中使用者:花垂夜
[光よ、この手の中に]
備考:夜がメモを見ずに唱えられる数少ない詠唱の一つ。シンプルで簡単、なにより詠唱っぽいという理由から、多くの魔道士が使っている。
単に「光れ」「明るくなぁれ♪」などで済ませる魔道士も多い。一番個性の出る魔法。
■拘束
作中使用者:浅羽紅子、花垂夜
[敵対者よ、屈服しろ。肉体よ、魂よ、我が支配に下れ。我が魔力よ、縛鎖となれ」
備考:咄嗟に唱えなければならない拘束魔法は、やはり詠唱もシンプルなものが人気。
しかしとにかく、シンプル=威力が低いので、魔力の低い者は注意が必要。拘束したと思ったら一秒で解除されたなんてこともあり、直後の反撃には死を覚悟しよう。
生半可な拘束魔法を使うくらいなら縄やガムテープでぐるぐる巻きにしたほうがマシ。
■反魔法
作中使用者:花垂夜
[反発する力よ、満ちよ。すべての怒り、荒ぶりは鎮まり、今をもって静寂が支配する。魔道士たちよ、棺に入れ。ここでは誰もが沈黙し、抗うことは許されない]
備考:敵からの攻撃魔法――! そのとき――! 咄嗟にこれが発動させられたら、魔道士的には最高にかっこいい。
■睡眠
作中使用者:浅羽透哉
[遊んでおいで。まどろみの中に。誰も追ってはこない、あなただけの逃げ場所。いつわりの夜の訪れ。誰も侵せはしない、あなたの魂の褥]
備考:眠れない夜に。優しく囁くように唱えるのがコツ。朗々と唱えられても寝れない。
■勇猛
作中使用者:浅羽紅子
[強靭な器に宿る迷いなき魂よ。迷いはもはや去りゆき、決意は折れることはない。歩みはとどまらず、阻むものは打ち払え。いまこそ誓いを思い起こし、奮い立て。進み、戦え。その行く手に恐れるものはなく、揺るぎなき信念に敵は屈し、拓かない道は無い。心よ、強くあれ]
備考:精神力を強化する。精神魔法耐性に弱い種族(ワーキャットなど)はよくかかる。
---肉体強化魔法---
■他者強化
詠唱式:浅羽式/作成者:浅羽光悦
作中使用者:浅羽紅子
[私が触れたところから、私はあなたに力を注ぐ。私の魔力であなたを生かす。あなたは誰より強く、あなたは何より迅く、あなたの心はすべてを怖れない。私の指先から、私の魔力をあなたに注ぐ。それはあなたの心臓から、血、肉、骨、皮、はらわた、魔素のすみずみにまで行き渡る。あなたという魂の器を駆け巡り、満ちて、あなたはひととき、今のあなたを超える]
備考・魔道士・浅羽光悦のノートに記された詠唱の一つ。非公式なポエム。長いので、しっかり準備して唱えよう。「私」「あなた」は術者が自由に変更してよい。対象の肉体に触れながら発動させるので、できたら女の子に使ってもらいたい。
浅羽式は強力な魔道士が使う前提なので、魔力に自信の無いものは絶対に使ってはいけない。長々とポエムを披露するだけの羞恥プレイが発動する。
---装備付与魔法---
■硬化
詠唱式:柊魔刀流
作中使用者・柊蒼兵衛
[我よ刃となれ、刃よ我となれ]
備考:柊魔刀流における武器付与魔法は〈蒼刃剣〉という剣技である。刀身に〈硬化〉の魔法をかけるのみ、詠唱もいたってシンプルだが、刀を我が身も同然に操る厳しい鍛錬を前提とした、魔法+剣技である。
ステータスがあるとすればMP3くらいしかないような蒼兵衛のカッスカスな魔力で発動している〈硬化〉は、それだけなら生卵が半熟に限りなく近いゆで卵になった程度の効果しか本来は無いのだが、「刀と己とを一身同体とするまでに極めた究極の剣技」を謳う柊魔刀流は、とにかく日ごろから刀を握って修行しまくることでエンチャントの効果を高めている。
幼少期から毎日欠かさず鍛錬を積み重ねることで「こんだけ修行してるんだから俺って絶対めっちゃ強い」という自信が握った刀にこもった執念の剣技。生来思い込みの激しい蒼兵衛に非常に向いた剣術といえる。
柊魔刀流の門下生になるなら、風呂のときも寝るときも刀を背負わされる覚悟が必要。
【霊媒士魔法】
■即時除霊
作中使用者:空代灰児
[迷い子よ、閉じない環から外れた魂よ、恐れるな。死は誕生。死は眠り。永遠を循環する魂は、ひとときの安寧ののち、また此処で、産声を上げるだろう]
備考:シャーマンはターンアンデッドが出来て一人前のシャーマンと言える。
■精神防護
作中使用者:空代灰児
[死者の甘言に、我らは耳を貸さない。生者の確かな歩みを、虚ろな魂のざわめきで、止めることは出来ない]
備考:精神強化魔法の一種。アンデッドからの精神攻撃に耐性が付くうえ、勇猛と同等の効果がある。
■破魔
作中使用者:空代灰児
[死を恐れぬ不遜な魂よ、還るべき場所を失った魂よ、もはや救いは無い、破滅しろ]
備考:貴様には成仏では生ぬるい、死ね! という想いを込めて使う。
霊術は、攻撃魔法のように物理的に何か出るわけではないので、敵が消えたり苦しんだりするリアクションで発動したかが分かる。
もし敵が平然としていたら自分は未熟者なのだと自覚すべし。
■呪縛
作中使用者:空代灰児
[傷つき、疲れた魂よ。その心を横たえよ。目を塞ぎ、思考を閉じ、停止せよ。苦痛に目醒めることの無い、暗く優しき世界に堕ちてゆけ」
備考:拘束の精神攻撃版というと分かりやすい。ただそれをシャーマンに言うと「正しくは魂を拘束しているのであり、精神と魂はまた別物」といううんちくが始まることもあるので注意。
■鎮魂
作中使用者:空代灰児
[無垢な御霊よ、巡る魂の円環に連なる同胞よ、仮初の生より今解き放たれ、ひととき、安らかな場所へと還れ]
備考:一言で言うと「安らかに……」。
呪文というよりは魂の浄化を願う祈り。
■憑依解除
作中使用者:空代灰児
[拠るべなき虚ろな魂よ、その器は此処に無く、仮初めの安寧は無い。縋るもの、魂の在り処を求め嘆くもの。生は呪縛。死は解放。現世うつしよに囚われしものよ。惑うことなく、円環にて眠りにつけ]
備考:憑き物を落とす術。憑依状態を解除するには時間がかかるため、高位のシャーマンが根気良く唱える必要がある。対象者の心身がいちじるしく消耗している場合は解除にそれなりの準備と時間がかかる。
最近精神的に不調かも……と思ったら、心身衰弱からのゴーストの憑依も考えられるので、急に破壊衝動に襲われたり死にたくなったときは、「俺は弱い人間なんだ……」と自分を責める前に、即、霊魂科のある病院へ。変な霊媒に頼るとぼったくられることもある。
■守護英霊降臨
作中使用者:空代灰児
召喚の器:妹尾黄々
応じた召喚霊:先祖のリザードマン多数
支払った対価:器の肉体疲労(筋肉痛)/召喚者と器の手厚い墓参り二週間/英霊の一族総出の鎮魂祭一週間
[無垢なる魂、穢れなき器。現世を憂う英霊よ、ひとときの仮宿に降臨せよ。強き魂、砕けることなき器。その身はいかなる魔も寄せつけず、その心はいかなる哀しみも受けつけない。大いなる力に、猛り、荒ぶり、研ぎ澄ませ]
備考:亡くなった先祖や身内が戦士であったなら、試す価値はあり。誰が力を貸してくれているのかは具体的には分からない。本当に霊が助けてくれているのかも、実際は謎。成功率も非常に低い。成功したとしても、憑霊の影響が後日遅れて肉体に現れ、大体はかなりの筋肉痛に襲われる。その後の行いによっては術者と器になった者に呪いが振りかかる。
死者への感謝と敬いを持たない者が使えば、助けてもらえるどころか、術者への呪い(カース)は凄まじいものになる。
そもそもシャーマン・マジックは扱いが難しく、ソーサラー・マジックに比べリスクが高い。代々続くシャーマンの家系では、後継者となる子供に幼いころから厳しい教育を施している。一般家庭に生まれ、少々の霊力を持っていたとしても、生半可な気持ちで「俺ちょっと霊感あるから退魔師になる!」などとは考えないほうが賢明。
どうしてもゴーストバスターがしたければ、信頼のおける師を探すのが無難。ただしインチキシャーマンはゴロゴロしている。
ちなみにハイジがたまにオネエさんになってしまうのは、過去に受けた呪いの影響とかではない。
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あらためて眺めると、呪文はメモ見て詠唱・魔法戦士・夜の名前がすごく目立ちますね。彼は本編未登場、メモは外伝のほうで読んでます。
前述の通り、これらは元々、作者が詠唱をメモっていたもので、作中に出た魔法を網羅しているわけではないです。だからほんとこれだけだと紅子がまるで活躍してないみたいな……。
彼女の「燃えて!」「おかわり!」「治って~」などはどれもこれもメモの必要無しだったので……。
とはいえ、いまのところ作中最強の(素質を持った)魔道士は紅子ですよ。いまのところ。
他にもちょいちょい魔道士系が登場しましたが、全員がきっちり詠唱しているかというとそうでもなく。けっこう好きに魔法を使ってますね。桜が肉体強化するときに「三割強化」「十割強化」なんてのもそうですね(割合は桜の適当な基準)。
「みんなが使ってる詠唱じゃ物足りない!」そんな魔道士は、オリジナル呪文に拘るのもまた自由です。
一章『冒険者の心得』でも、初心者ソーサラーが唱えようとした魔法があります。
「――我、古よりの契約において、炎を纏い操るもの……」
未発動に終わりましたが、まさに彼のこだわりを感じるフレーズですね!
やえが消臭目的に風を起こした「風に乗って、広がれ~」や、透哉の普通に喋りながら《幻惑》をかける、というのも、オリジナルな使い方といえます。
そのあたりにも魔道士の個性やスタンスが出ます。透哉は器用ですね。シオンはいまでも感心してますが、あれは魔力がどうのではなく、腹話術師的なすごさです。一発芸とか即興芸のノリに近い。
名前のみ登場の《転移》や《遠視》、使用シーンの無かったヒュウガの《喚起》など、そのあたりの魔法もまたいずれまとめたいと思います。いずれ……。