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迷宮のドールズ  作者: オグリ
二章
36/88

失意のサムライ

 シオンが蒼兵衛に電話をすると、あっさり電話に出た。

「もしもし。小野原だけど」

 しばらくの沈黙のうち、怒ったような、押し殺した声が返ってきた。

〈どうして、この番号がわかった?〉

「……は?」

〈シリン。君と話すようなことは何も無い〉

 ――根深い……。

 シオンは眉間に深く皺を寄せた。

 こっちはちゃんと名乗っているし、そもそも声がまったく違うというのに、電話がかかってきただけで、はなから相手はシリンだと決めてかかっている。

「オレだ、小野原だよ。小野原シオン。この前、一緒に仕事しただろ。キメラを捕まえたじゃないか」

〈シリンだろ〉

「どうしてそうなるんだ! オレは男だろ! 声をちゃんと聴け!」

 電話口で思わず怒鳴る。言いたくないが、彼に付けられたあだ名を口にした。

「オレだよ、猫少年だよ!」

〈ああ、君か。紛らわしい奴だな。そうならそうと言え〉

「最初からそう言ってるし、紛らわしくも無いよな!?」

〈で、何の用だ?〉

 涼しい声が返ってくる。

 いちいち怒るのは止めよう……とシオンは気を取り直した。 

〈……そういえば君、何故シリンが女だと判った? 私が君にシリンのことを口走ったのは二度目だが、女だとは言っていない〉

 なんでいきなり冷静になるんだ。しかも、変なところだけ鋭いし。心の中で突っ込みつつ、シオンは正直に答えた。

「会ったんだよ。シリンさんとセイヤさん、アンタの仲間に」

 今度は返事が無かった。

「……センターで、アンタのことを探してたよ。それで」

 プツ、と小さな音と共に、通話が途切れた。

 切られたのだ。

「げっ」

 まさか問答無用で切られるとは思っていなかったので、シオンは慌てた。何度もかけ直したが、呼び出し音は鳴っても今度は通話に出ない。

「しまった……」

 アパートの畳の上で、シオンはうな垂れた。

 もう少し考えて話すべきだった。こういう事態を考えて、呼び出して話せば良かったのだ。逃げられたとしても追いつく自信はある。

 これでは二度と、シオンからの電話には出てくれないかもしれない。

 しかも、彼らがセンターまで来て探していたと、安易に口走ってしまった。センターにまで寄り付かなくなるかもしれない。わざわざ登録先を変えるような人だ。また登録先を帰られたら、足で探すのは大変だ。

 もっと慎重になるべきだった。

「……何してんだ、オレ……」

 あっさり交渉失敗し、シオンは一人で畳に突っ伏しながら、呻いた。




 それからも、蒼兵衛は電話に出てくれなかった。

「私からかけてみようか?」

 週末に紅子と仕事をした後、電車の中でその話をすると、彼女は優しくそう言ってくれた。

「ありがとう。頼む」

 シオンは紅子に、蒼兵衛の番号を教えておいた。

「じゃあ、後でかけてみるね。蒼兵衛さんって鋭そうだから、近くに小野原くんがいるかもって分かったら、また逃げられちゃうかもしれないでしょ?」

「そうだな」

「もし話せたら、なんとか会えるようにがんばってみる。そしたら、報告するね」

「うん。ありがとう……」

 紅子の気遣いがありがたい。

 キキや蒼兵衛に比べ、突飛な言動や行動に驚かされることも無い。天然だなと思うことはあるが、むしろ微笑ましいくらいだ。気さくだし、初めて会う人に失礼なことをしたり、慣れない仕事でも真剣に取り組んでくれる。話も普通に通じるし、心から親身になってくれる。

 訳が分からないということが一切無い。なんて楽なんだろう。

 電車の窓から暗い外を見つめながら、シオンは呟いた。

「オレ……浅羽がいて良かった」

「へっ? そ、そそっそそ、そ、そうっ?」

 紅子が面白い返事の仕方をする。

「うん。父さんが言ってたこと、ちょっと分かる気がしてきたな……」

「お父さんが?」

「キキがうちに来て、オレのパーティーに入りたいって面接したとき、強さよりも、オレの味方になってくれる人と組んでほしいって」

「小野原くんのお父さん、心配してくれてるんだ」

「正直、ちょっと親バカだと思った。でも、そういう仲間を見つけるって、口で言うよりも簡単なことじゃないのかもな」

「そんなことないよー。あ、おみかん貰っていい?」

「うん」

 しゃくだが、セイヤの言ったことも間違いではないのだろう。たしかに蒼兵衛は変わっている。真正面から向き合ってみようとシオンが思っても、あっちもそうしてくれるかはさっぱり分からない。

 下手したら、もう一生会えないかもしれない。

「……せっかく、強い人と知り合えたのにな」

「大丈夫だよ。また会えるよ」

 冷凍みかんの入った袋に、紅子が手を入れる。

 冒険者の集う山小屋で貰ったのだ。仕事で訪れた冒険者に、無償で配っているらしい。

 今日はゴブリン駆除に参加したのだが、山菜採りや護衛依頼に比べると、あまり気持ちの良い仕事では無い。しかし定期的な駆除をしないと、生命力と繁殖力の強い外来ゴブリンは増え過ぎ、山が荒れてしまうし、人や獣に甚大な被害が出る。

 紅子は革の胸当ては脱いでいたが、ショートパンツやタイツにも返り血が染みになって残っていた。多少の汚れならシオンはいちいち着替えないが、女子は気になるのではないかと思う。けれど、紅子はそういったことを気にする素振りは見せない。

「小野原くんも、食べる?」

「あ、うん」

「冷たいうちに食べちゃったほうが美味しいよね」

 紅子がもう一つ、袋からみかんを取り出して、手渡す。

 みかんだけでは無い。ゴブリン駆除を終えた冒険者たちに、山小屋を経営しているオーナーや従業員たちが、熱いタオルや冷たい茶、簡単な食事まで、無償で用意してくれ、一銭にもならないのに、誰もがにこにこと世話を焼いてくれた。

 こうした定期駆除に、シオンはこれまでも何度か参加している。ほとんどの場合、山の所有者やそこで働く人たちが金を出し合って、冒険者協会に頼むものである。本来の報酬だけで充分なのに、手厚いサービスまでしてくれることが不思議だった。そんなの別にいいのに、と親切にされても何も感じず、適当に断ってさえいた。人と関わるのは極力避けたかったし、早く帰りたかった。

 最近は、あまり面倒だと思わなくなった。当たり前だと思ってしていた仕事に、「お疲れ様です」と声をかけられて、なんとなくほっとする。自分の仕事は、モンスターをただ殺してるだけじゃない。そんなふうに思うのも、今更おかしいかもしれないけれど。

「小野原くんは、誰に対しても真剣だから。そういうとこ、キキちゃんやセンベ……あ、また間違えた」

 みかんを一粒口に含み、もぐもぐと口を動かしてから、紅子が言い直す。

「……蒼兵衛さんも、話してもらえて、嬉しいんだと思うよ」

「そんなの、普通じゃないか? 浅羽のほうが、よっぽど優しいし」

「んー。私は元々、あんまり頼られるタイプじゃないからなぁ。小野原くんは、頼られるタイプだと思うけど」

「そ……そうかな」

「小野原くんって、人によって態度変えないじゃない?」

「そうか?」

「うん。誰にでも出来ることじゃないよ。私もさ、こっこはのん気だねーってよく言われるけど、そのぶんおうちじゃお兄ちゃんにワガママ言ったりしてるもんね」

「あー……」

 たしかに、透哉と接しているときの紅子は、ちょっとしたことで言い合いをしたり、怒鳴ったり、彼を邪険にしていることすらある。

「小野原くんってちっとも裏表無いから、安心出来るよね。キキちゃんや蒼兵衛さんも、小野原くんだから言えることとか、あるんじゃない?」

「そうかな」

「そうですぞー」

 紅子の言葉を聞きつつ、彼女の食べている様子が美味しそうだったので、シオンもみかんの皮を剥き始めた。

「甘えるのが得意な人って、ちゃーんと甘えられる人を上手に見抜いてるんだって、お兄ちゃんが言ってたよ。小野原くんは甘えられちゃうタイプだね、って」

 こっこの面倒なんかみてるしね、とその後に続いていた言葉は伏せ、紅子は言った。

「オレ、そんなに余裕無いぞ。人のこと全然見てないし、いつも自分のことしか考えてない」

「あはは。小野原くんがほんとに自分のことしか考えない人だったら、そもそもこうして今、私と電車に乗ってないと思うよ」

 紅子が笑う。

「でも、自分じゃ分からないものだよね、そういうの。あ、おみかん、もう一個食べていい?」

 ぱくりとみかんを頬張り、二個目を取り出す。

 彼女のほうが、よっぽど自分のことを分かってない気がする、とシオンは思った。

 稀少なソーサラーで、魔力も高い。性格も良くて、朗らかで、誰とでもすぐ打ち解ける。たまたま最初にシオンと会ったけれど、彼女ならシオンよりもっと強い冒険者とでもパーティーを組める力があるはずだ。

 彼女のためにも、早くちゃんとしたパーティーを組まないとな、と改めてシオンは思った。




 シオンがアパートに辿り着くと、一階に住んでいる管理人が、シオンの帰宅に気付いたらしく、外に出てきた。

「あ、おのたん。お帰リザードマン!」

 苦手なテンションで、若い犬亜人ワーウルフが顔を出す。全頭フルヘッドで、ふさふさとした毛並みは茶色く、狼よりは洋犬に見える。男性だが、長めに揃えた毛を編み込み、アクセサリーもたくさん身に着けている。彼らのオシャレはよく分からないが、チャラ男というやつだろうか。

 ちょっと痩せ気味で、冒険者のワーウルフを見慣れているとやや貧相に見えるが、もちろんそれは同じ種族で比べればの話で、シオンより頭一つぶん大きい。

「こんばんは、西沢さん」

「おつおつ! おのたん、待ってたナリよ~」

 茶色い毛並みのワーウルフにウインクされ、両手の親指を立てられる。仕事帰りの疲れた心身に、このテンションは辛い。

 変なあだ名を付けられているが、決して親しいわけでは無い。入居の挨拶をしたときから、いきなりこう呼ばれているのだ。

 笹岡といい、ワーウルフってなんでこういう人が多いんだろう……。

 若いが管理人をしているのは、大家の親戚だからだ。別に鍛えていなくても、フルヘッド・ワーウルフというだけで、泥棒や強盗も入ることを躊躇するだろう。人懐こそうな顔をしていても、大きな口から覗く牙は鋭い。

 そのお陰か、ここで起こった事件といえば、シオンが知る限りでは、二階に住むワーラビットのキャバクラ嬢の部屋に下着泥棒が侵入してきたことと、彼女と付き合っている男たちが押しかけてきたことくらいだ。

 ちなみに下着泥棒はワーキャットで、壁を登って侵入してきたのだが、シオンが追いかけて捕まえた。

「待ってたって、どうかしたんですか。また下着泥棒ですか?」

「君さー。なんか最近、ノリ悪いよね。とりあえず、その敬語止めちゃおっか。なんかハナがムズムズすんのよ」

「はぁ……」

 どうして礼儀正しさを心がけようとした途端、かえって敬語を止めろと言われるのだろう?

「また、奥の部屋で何かあったのか? 下着泥棒? それとも、また男がいっぱい押しかけてきたのか?」

「ああ、あったね~、そういうことも! 自称カレシがいっぱいきたよね。しかもマリちゃん、全員の名前間違えるって、斬新だったよね」

 西沢がゲラゲラと笑う。マリちゃんとは、奥の部屋に住んでいるキャバクラ嬢の名前である。時折、昼夜を問わず彼女の部屋から切迫した悲鳴が上がるのは、部屋にゴキブリが出たときだが、そのたびに見に行ってゴキブリを叩くのは、なんとなくシオンの仕事にされていた。自称カレシの誰かがまた押しかけていたら危険だと思うからなのだが、そういうときのための管理人では……とも思う。

「阿鼻叫喚とはあのことだよね。大の男たちが人間も亜人も関係無く、泣き喚くわ暴れるわ、あそこまでいくとある種の群像作品を見ているかのようだったよね! ああいうトラブルなら、また見たいかな~」

「もう見たくない、あんなの」

 駆けつけた警官まで、彼女の勤め先の客だったなんて。オチまで完璧だった。

「や、今度のはさ、ちょっと違うのよ。なんか、居座り? スト?」

「ス……スト?」

「そんなかんじなんだよ、なんか、座り込みしてんの」

「カレシが?」

「おのたん、カレシいんの?」

「オレじゃなくて」

「居座ってるのは、おのたんの部屋の前だよ?」

「オレの部屋? そっちを早く言え」

「敬語止めていいって言った途端、キツいね……。その人ら、友達だって言い張ってるけど、おのたん友達は居ないはずだと思ってさ」

「友達なら、最近できた」

「マジでぇ!? すっごいじゃん!」

「すごいのか?」

「すごいすごい! 自分の殻を破ったね! イエーイ!」

 と片手を上げられ、ハイタッチを求められた。仕方なくシオンも荷物を持っていないほうの手を嫌々上げると、思いきり叩かれた。

「おのたん冒険者だしさー、変なのに関わっちゃってたら、大変じゃない? だから、先に教えてあげようと思ってさ、待ってたのよ」

「その人たちってことは、複数?」

「ああ、そうそう。複数。なんと二人も!」

「ギリギリ複数だな……。もしかして、一人は子供じゃないか?」

 キキだろどうせ、と思いつつ尋ねた。もう一人は、付き添いのリザードマンだろうか。

「ああ、そうそう。ちんまりした小学生くらいの女の子ね。カノジョ?」

「後輩」

 冒険者としてはそうなので、間違いでは無い。一応あれでも中学生だが。

「でもさ、もう一人がさ、死んだ魚のような目をした兄ちゃんなんだけどさ、なんかヤバいかんじなのよ。布に包んだ長い棒みたいなの持っててさぁ、オレっちも、ま、いちお管理人じゃん? 怖かったけどさぁ、それなんすか? って訊いたわけよ。エラくね? でもそしたらさ、釣り竿だって言い張るんだよね。絶対違うと思うんだけど、ぞっとしちゃってさぁ。ちょっとカタギの雰囲気じゃないよね。暗殺者かなんか?」

 聞き終わらないうちに、シオンは走り出した。短い階段をカンカンと音を立て駆け上がると、部屋の前に、見慣れたいつものキキと、コートを着た青年が、体育座りで並んでいた。

「蒼兵衛さん……良かった……」

 ツッコミどころは多いが、シオンはほっとしつつ声を上げた。

 もう会ってくれないかと思っていたので、安堵したのだ。

「あ、帰ってきた! 早く、中に入れてよぉ!」

 キキが立ち上がって叫ぶ。

「うるさい。夜だから静かにしろ」

「ウギー! せっかく差し入れ持ってきたのに!」

 キキが手足をばたつかせる。それは無視して、シオンは部屋の前に行くと、立ち上がってコートの裾をはたく蒼兵衛に尋ねた。

「どうしたんだ? なんで、オレの家に?」

「ああ、爆発娘に訊いた」

「浅羽?」

「さっき電話がかかってきたんだ」

 本当にかけてくれたのか、とシオンは紅子に感謝した。透哉が車で迎えに来ていたから、遅くなる前に車の中で電話してくれたのだろう。

「ねぇねぇ、中に入れてよー! お尻が痛くなったよ! ちゃんとおザブに座らないと、キキちゃんの立派な尻尾が、曲がっちゃうんだよ!」

「オレんち座布団無いけど」

「持ってきたの! キキ専用!」

 キキは大きな風呂敷包みを背負っていた。どん! と下ろしたそれは、かなり厚みがある。

「私物を増やすな。ていうか、せっかく持ってきたんなら、それに座ってればよかったんじゃないか?」

「ハッ!」

 キキはしまった、という顔をした。そして蒼兵衛に怒鳴った。

「教えろよぉ!」

「八つ当たりもはなはだしいな。そのでかい包みの中が全部座布団なんて、誰が思うか」

 涼しい顔で、蒼兵衛がキキを見下ろす。

「それにしてもお前、尻尾があるのか。後で見せてくれよ」

「ムムッ、何言ってんの、ヘンタイ!」

 キキは腰に手を当て、無い胸を逸らした。

「キキちゃんの黄金の尻尾は、そんな簡単に見せられないよっ! このスケベエが!」

「助兵衛は貴様だ。何を期待している、このエロガキが。純粋な知的探究心を下劣な妄想で汚す不埒な貴様なんぞに性的興奮を覚えることがあったら、自ら首を刎ねて現世を去ってくれよう。なんならその首でサッカーしていいぞ」

「ムキー! なんか腹立つ!」

 キキが蒼兵衛のコートの裾を引っ張って、千切ろうとする。シオンはキキを引っぺがした。

「柊魔刀流、今生において一度きりの最終究極奥義、《自刎散華じふんさんげ》という」

「え、なんで自殺の技なんて作るんだ……?」

「心身耗弱気味だった二代目が唯一編み出した技だ。二代目というプレッシャーからだろうな。なんだかんだ長生きしたらしいが」

「技っていうか、それ……死ぬだけじゃ……」

「キキちゃんの奥義も喰らわせちゃる! キキちゃん流、《噛み付き引っ張りデスロール》をな!」

 シオンの脇に抱えられたキキが、ガチンガチンと歯を鳴らして蒼兵衛のコートの裾に噛み付こうとする。

「うるさいから、とりあえずお前ら、中に入れ」

 シオンは扉の鍵を開け、キキを玄関に押し込み、蒼兵衛の背中を押す。

「あっ、キキの風呂敷! おザブだけじゃないよ! おばあちゃんの佃煮もあるんだよ! 煮しめも、卵焼きも入ってるよ!」

「これか?」

 座布団入りの包みの他に、別の風呂敷包みも置いてある。中は重箱だろう。ずしりとしている。シオンは両方とも玄関に運んだ。

「私の刀……じゃない、釣り竿と、私の風呂敷包みも取ってくれ」

「ああ、これだろ」

 布に包まれた長物に、妹尾家のものと違って汚い風呂敷包みが括り付けてある。どう見ても釣り竿では無い。これを背負って歩いてきたのか……と思うと、たしかにかなり怪しい。冒険者の武器は、本来なら鍵付きのケースに入れて持ち歩かなければならないのに。

「いいか。頼むから、静かにしてろよ。管理人が心配してたから、ちょっと待っててくれ。夜だから騒ぐな。迷惑だから」

 二人に強く言い聞かせ、再び階下に下りる。

 西沢はまだ表に居た。シオンを心配してくれていたようだ。なんだかんだ言って律儀なのが、ワーウルフらしい。

「西沢さん」

「おー、おのたん。だいじょうび? アサシン居なかった?」

「ああ。友達だよ」

「うんうん、良かった良かった。後で、ビール持って行こうか? あのお兄さん、イケる口っぽいよね!」

「いや、要らない」

「お菓子は?」

「要らない。ありがとう。じゃあさよなら」

「あっさりしてるね……さすがワーキャット……」

 シオンが戻って行くと、ふっと寂しそうな目をして、西沢が呟いた。




 部屋に入るなり、キキが大きな風呂敷を開け、小さな机を部屋の真ん中に持ってきて、周りに座布団を置いていく。

「おザブを配りまーす。これがー、キキ用でー、シオン用のでー、これは紅子用のね!」

「……ありがとう」

 一応礼は言ったが、リザードマンサイズの座布団は分厚く、大きかった。三枚だけで狭い押入れをけっこう占拠してしまいそうだ。

「うわ、これ気持ちいいな」

「でしょー?」

 妹尾家で使われていただけあって、高級品なのだろう。さすが金持ちだ。座ってみると、ふわふわとして柔らかく体が沈み込む。仕事上がりで疲れているシオンは、座ったまま寝てしまいそうだ。

「私のは?」

 蒼兵衛が尋ねる。

「無いよ。居るなんて知らなかったもん」

「じゃあ、その紅子用をくれ」

「ダメ! これは紅子用って言ってるでしょ!」

「ここに居ない者よりも、いま居る者のことを考えろ。寄こせ」

「ダメダメダメー! 女の子のおザブにその汚いケツで座るなんて、許されないんだからね!」

「安心しろ。この世のケツはすべて等しく汚い」

「ウギー!」

 二人は座布団を引っ張り合い、最終的に蒼兵衛がキキを大人げ無く蹴飛ばして取り上げた。飛びかかってくるキキを、ヘッドロックで捕らえて小脇に挟む。

「離せー! うわぁぁぁん! なんか脇湿ってるよぉ!」

「馬鹿め。この時期にコートなんか着て、汗を掻いていないわけが無いだろう」

「着るなよぉ!」

「これぞ、柊魔刀流奥義、《龍身鎖縛りゅうしんさばく》……」

「ウソつけぇ! 刀関係ねええー! 助けてぇ、シオーン! コイツけっこうバカ力だよぉ!」

「え? ああ……」

 座布団に座ったままうつらうつらとしていたシオンは、ぱちくりと目を開けた。そこには、兄妹のようにじゃれあう二人の姿がある。

「……遊んでもらえて良かったな」

「違うよぉぉ! ううっ……紅子ごめんよぉ! 紅子のおザブが汚されちゃったよぉ! こんな人間にキキちゃんが負けるなんて、悔しい、悔しいよぉ……!」

「おお。本当にケツから何か生えているな」

「お尻触るなぁぁぁ!」

 小脇にキキを挟みながら、ジタバタしているキキの尻を、スカートの上から蒼兵衛がぽんぽんと触る。

 だがすぐに飽きたようで、テーブルに置かれた重箱の蓋を開けた。

「おい、ワニ子。この佃煮食っていいか? しかも、私の好きなあさりじゃないか」

「うわーん、キキのおばあちゃんの佃煮だぞぉ! 勝手に食うなぁ!」

 蒼兵衛の脇の下でキキがもがき、叫ぶ。他の住人の迷惑など忘れ、シオンはまどろみ始めていた。

「……ダメだ、この座布団めちゃくちゃ気持ちいい……」

 いかん、とシオンは慌てて頭を振り、目を擦った。せっかく蒼兵衛と話すチャンスだ。

 眠気覚ましに立ち上がり、じゃれている二人に尋ねる。

「なあ、お前ら。うち、水か牛乳しか無いんだけど……なんか飲むか?」

「キキ、お茶っ葉持って来たよ! 急須も! お湯のみも! 座布団に包んできたんだー。だってシオンのうち、何にも無いんだもん!」

 蒼兵衛に捕まったまま、キキが得意顔をする。

「じゃあ、貰うぞ」

 さすがにシオンでも、茶くらいは淹れられる。実家でそのくらいはしていた。桜にやらされていた、というのが正しいが。

 紅子用の湯のみを蒼兵衛に貸すのを、やはりキキは嫌がったが、シオンがなんとか宥めた。

 でも……良かった、とシオンは安心した。蒼兵衛がこうしてキキと言い合いをしている姿を見ると、思っていたより元気そうだ。

「……で、何しに来たんだ? 特にキキ」

「むぐっ!?」

 自分で持ってきた差し入れをバクバクと食べながら、キキが顔を上げた。

「あたしが来るのは普通でしょっ! ここはもう、キキの別荘みたいなモンだよっ!」

「お祖母さんがそう言っていたのか?」

「スミマセン。シオンお兄さんに、差し入れを持って行くように言われただけです。すぐ帰って来いって言われました。迎えのモンは一時間くらいでまたやって来ます」

 祖母の名前を出され、急にしおらしくなり、キキが頭を下げる。

「そうか。分かった。蒼兵衛さんは? 連絡つかないから心配してたんだけど……」

「キキの扱いと違うよ!? なんで、こんな奴に!?」

「人柄の差だな」

 と、割り箸で佃煮をつまみながら、蒼兵衛が言った。

「あのときは悪かったな。いつの間にか切ってしまっていたようだ。突然、ふっと意識が途切れてな。気がついたら、ホテルの部屋で立ち尽くしていた」

「あ、そ、そうなんだ……」

「それから数日間、電話恐怖症になった。が、今朝くらいかな。ようやく立ち直った」

「……なんか……ごめん……」

 全然、元気じゃなかった……。

 いつも感情の無い顔だから分かりにくいが、傷ついているのだろう。

「ところでこれ、飯が欲しいな」

 綺麗な箸使いで佃煮を口に運びながら、蒼兵衛が言う。

「ごめん、食パンなら少し残ってるけど」

「ほう、佃煮を食パンで食えと……」

「一番下におにぎり入ってるよ」

 キキが重箱をかぱっと開ける。

 海苔に包まれた大きなおにぎりがぎっしりと詰まっていた。

「そういうのは、最初に開けておけ」

「お前が佃煮食いたいって、さっさと上から食べたんじゃん!」

「気の利かない娘だな。さすがワニ」

「ワニじゃねえええ!」

「お前もいちいち怒るなよ。おにぎりもらうぞ」

「いいよー。ていうかシオンに持ってきてあげたのに、なんでコイツがバクバク食ってんの!」

「そう言うな、皆で仲良く食おう」

「お前が言うなぁぁぁ!」

「怒るなって。パーティー組みたいなら、その気が短いの直せよ」

「うぐぐぐー。ゴクゴク」

 シオンの言葉に、キキは喉を鳴らし、大人しくなった。言えば聞くだけマシか、とシオンは思うことにした。

 キキはまだ分かりやすい。感情のまま、怒るし、泣くし、笑う。けれど、蒼兵衛はいつも通りの無表情で、呟いた。

「しかし、もう君に隠しだてすることも無いな」

「え?」

「あの裏切り者どもに会ったんだろう?」

「あ、ああ……」

「アイツらが、私を探していたと? こんなところまでイチャイチャと、ご苦労なことだな。新婚旅行に、私の泣きっ面でも笑うツアーにでも来たのか。さぞ面白可笑しく滑稽に見えたことだろうな。奴らを友人だと信じ、長年、一人で踊り狂っていたピエロの姿は」

 なんという暗い思考だろう。

 淡々と話す、その平坦な目つきが怖い。

「いや、そんなことは……無いんじゃないか。二人とも、心配してたぞ」

「ふん。心配だと? なにが心配だ。おおかた……」

 コートを着たまま座っている蒼兵衛は、箸を置いてポケットに両手を突っ込み、皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「『オレの女にフラれた哀れなピエロが逃げ出したからよ、探してんだよ。アイツ、ほっといたら辻斬りでも始めそうだからな』……とでも言っていたんだろうが」

「あ、似てる」

 セイヤは別にそんなことは言っていないが、喋り方や仕草の物真似が上手かったので、シオンは思わず感心してしまった。さすが長年の友達。決裂しているけど。

 ポケットから手を出した蒼兵衛は、また表情の乏しいいつもの顔に戻った。

「……私を舐めるのも大概にしろ。女にフラれたくらいで、そこまで取り乱すわけが無いだろうが」

「けっこう取り乱してるように見えるけど」

 キキが無遠慮に言う。

「私がやったことなど、手を繋いで往来を歩いているバカップルの間をわざと通っているくらいのことだ」

「それ、やったほうが負けって気がする」

 キキが哀れむような目で見る。

「そんなこと言ってなかったぞ。二人ともすごく探していたし、会いたがってた」

 一度はセイヤに腹を立てたシオンだが、蒼兵衛の様子を見ていると、本当に心配になってきた。

「そんなに暗く考えるなよ。本当に心配してたぞ」

 とりあえず彼の気を落ち着かせようと思ったのだが、蒼兵衛は冷たい目でシオンを睨みつけてきた。

「……君は、誰の味方だ?」

「へ?」

「……電話があったのは、てっきり私を慰めてくれるんだと思っていたんだが、違ったんだな……そうか、君もワーキャットだったな」

「え? え?」

「しょせんは奴らの同胞はらからか……。私をたばかった裏切り者どもの肩を持つわけだな?」

「いや、その」

 言いがかりをつけるなり、蒼兵衛は膝を抱えてしまった。

「……いいんだ、どうせ、誰も、私の味方などしてくれない……。君も、私を笑っていたのか。そうか、君も私が嫌いか……。ああ、そうだろうな……奴らの手先だからな……」

「ご、ごめん……そんなつもりじゃ」

「……シリンのバカ、シリンのバカ、シリンのバカ……」

 抱えた膝に顔を埋めたまま、ブツブツと呪文のように繰り返し始めた。

「なんか、めんどくさい奴だね」

 それほど事情も知らないのに、キキは何となく察したようだった。

「……貴様に何が分かる。シリン……あの女が私にした仕打ちが、どれほど酷いものだったか……私を陥れ、長きに渡って手玉に取り続けた悪女だ。化け猫だ。長年秘め続けていた私の純粋な愛をいともたやすく踏みにじった……」

 押し殺した声で、蒼兵衛が呻く。

「なんで秘めんの? さっさと告っちゃえば良かったんじゃん。ちゃんとフラれてないから、よけい引きずるんじゃないの?」

 意外とキキがまともなことを言っている。シオンは感心した。

「……言ったんだ……」

 蒼兵衛は膝を抱えたまま、言った。

「『ずっと、三人でいたいね』って……」

「は?」

 シオンは顔をしかめた。

「いつの話よ、それ」

 キキが冷静に尋ねる。

「……ずっとだ、ずっと昔から……小学校のとき、初めて出会ったときから……」

「しょ、小学校……?」

 シオンは顔を引きつらせた。

「それなのに、あの男は私の存在など無視し、あの女も私を踏みにじった……!」

「ええと……」

「三人でいたいって、君が言ったんじゃないか……! なのに、どうして、どうして、嘘をついたんだ……!」

 ほとんど独り言のように、蒼兵衛が呟き続ける。

 別に、嘘はついていないだろう。ただの子供の口約束だ。いや、約束ですらない。

「シオン? どしたの?」

 頭を抱えるシオンに、卵焼きを飲み込みながら、キキが尋ねる。

「……キキ、助けてくれ……」

「ん?」

「オレにはもう、何が悪いのか、分からなくなってきた……」

「ふむ。だったら、キキ先輩に任せな!」

 コホンと、キキが咳払いし、胸を張って告げた。

「いいか、サム」

「誰だ? それは……。陽気なアメリカ人か?」

 顔を上げず、蒼兵衛が返す。

「お前だよ。サムライだから、サムな」

「そうか……。なんだ、ボブ」

「誰っ!? あたしはキキだよっ!」

 キキは立ち上がり、膝を抱えたままの青年の背中を思いきり叩いた。

「いいか、サム! 男だろ! しゃんとしな! 取られたなら取り返す! 男は殺せ! 女は奪え! 合戦だ! 戦だぁ!」

「いや、そんな戦はダメだから。あと、あんまり叫ぶな」

 拳を振り上げ、ウオオオと声を上げているキキを、シオンは咎めた。

「そうか……その手があったか」

 キキの言葉に、蒼兵衛はいきなり顔を上げると、天啓を受けたような顔で呟いた。

「……斬ればいいんだ……」

「斬るな! 冗談だ!」

「そうだ、斬って、終わりにしよう。何もかも。全部斬って、最後は私も奥義、《自刎散華》で……」

「やめろ! そんなの奥義じゃない!」

「二人の仲を斬るのはいいじゃん。奪っちゃえ、奪っちゃえ!」

 ざしゅっ、ざしゅっ! と口で言いながら、キキが刀を振るふりをする。煽るキキを、シオンは慌てて咎めた。

「お前もやめろ! そういうのは無し!」

 叫ぶなとキキに言ったことも忘れ、シオンは自分が一番大きな声で叫んだ。

 思い込みの激しい蒼兵衛が、本気にしたら不味い。

「えー、でもさ。恋愛ってそんなモンじゃん? 盗ったり盗られたり、フッたりフラれたり。最後に笑ったモン勝ちだよ!」

「ダメだ、それはダメだ。もう、二人には子供だっているんだぞ」

 と言ってしまって、シオンははっと口を噤んだ。

 蒼兵衛を見ると、彼は目を見開き、唇を震わせた。

「……子……?」

「あっ、い、いまのナシ!」

 シオンは慌てふためき、キキも緊張した顔で蒼兵衛を見つめる。

 一瞬にして凍りついた表情が、突然ふっと溶けたように、彼は微笑んだ。

「……子が……奴らに……子供が……?」

 それは、シオンがそれまで見たことの無い、優しく穏やかな微笑みだった。

 さっきまでの負の感情が微塵も感じられない。もはや、すべてを受け入れたような表情。

 そして、彼は座ったままくるりと後ろを向いた。布に包んだ刀が壁に立てかけてある。それを手にし、布を取り去ると、鞘に収まった見事な日本刀が現れた。蒼兵衛は姿勢を正し、胡坐をかいた姿で、鞘からすらりと刀を抜いた。

 その一連の動きがあまりに滑らかで、演武でも観ているかのようだった。ついシオンもキキも黙って見守ってしまった。

 そして、青年は微笑んだまま――煌く刃を自分の首に当てた。

「……柊魔刀流・最終奥義……《自刎散華》……」

「うわー!!!」

「それはいかーん!!!」

 シオンとキキが慌てて飛びついて止めた。




 二人がかりで自殺を止めようとドタバタしているときに、管理人の西沢がやって来た。

「シ、シオン……! ここはあたしに任せて、援軍を……!」

 暴れているうちに天井に刺さってしまった刀を抜こうとする蒼兵衛の腕に、キキが飛びついてぶら下がった。

 テーブルも重箱もひっくり返り、妹尾家心づくしの差し入れも散乱してしまっていた。

 一見、細い体つきの蒼兵衛は、平然とキキをぶら下げたまま腕を上げた。キキも負けじと両手足を使って腕にしがみつき、あんぐりと口を開けた。

「おばあちゃんのお弁当のカタキ!」

 コートの上からがぶりと肘から下に噛みついたキキが、首を傾げる。

「ん? なんか硬てえな……ぴゃあ!」

 死んだ顔をしたような蒼兵衛が、がじがじと噛みついているキキの首根っこを、片手で軽々とつまみ上げた。

「ぐえええ、締まる……!」

「キキ、もうちょっとがんばれ!」

 シオンは扉を開けた。

「おのたん、盛り上がってるね~。下の階から苦情が来てるよ~。あとビール持って来たよ~」

 そこには苦情を伝えに来たとは思えない、にこにこ顔のワーウルフが、片手に六缶パックのビールを提げている。

 その肩を、がっしとシオンは掴んだ。

「頼む、一緒に止めてくれ! 自殺しようとしている奴が居るんだ!」

「へー、自殺してたんだ……ってええええっ!?」

 慌てて西沢が飛び込んできて、今度は三人がかりで止めた。

 肉体強化の魔法を使っているわけでも無いのに、蒼兵衛は力が強く、刀から手を離させるのに苦労した。自暴自棄になっていても、さすがにシオンたちを傷つける気は無かったことが救いだ。でなければ、全員蹴散らされていた。

 西沢が後ろから羽交い絞めにしたところを、シオンは缶ビールを掴んで、刀を握る蒼兵衛の手を思いきり殴りつけた。自殺されるよりマシだと、相手の指が折れてもいいくらいの勢いで殴ったが、なかなか刀を手放さなかった。

 虚ろな目で、蒼兵衛が呟く。

「もう、死なせてくれ……」

「バカか! なに言ってるんだよ、失恋くらいで!」

「あたしに任せな! 喰らえ! キキちゃん流奥義! 《噛み付き引っ張りデスロール》!」

 キキが蒼兵衛の手の甲にがぶりと噛み付き、思いきり歯を立てたまま、ぶんぶんと頭を振り回し、体全体を使って暴れ回った。まさに獲物にかぶりつくワニだ。

「うわ、これ痛い……」

 シオンはぞっとして顔をしかめた。

「……痛て」

 蒼兵衛もさすがに痛みを感じたのか、指の力が緩んだ。その隙にシオンは素早く刀を取り上げた。

 それを鞘に収めたシオンに、蒼兵衛が西沢に羽交い絞めにされたまま、ゆっくり歩いて近づいてくる。

 据わった目が恐ろしい。

「コソ泥ワーキャットが……私の刀を返せ」

「うるせえ! これでも呑んでろ!」

 キキが部屋に散乱しているビール缶を一つ掴んで、蒼兵衛めがけて投げつけた。

 蒼兵衛はそれを片手でやすやすとキャッチすると、アルミの缶をじっと見つめた。しがみ付いていた西沢をあっさりと振り払い、缶を開ける。

「死んでやる!」

 と宣言して、一気にビールを煽った。

「……バ、バーカ……。ビール一本で死ぬわけないじゃん……」

 スタミナに溢れるキキも、ぜえぜえと息を切らしながら、笑みを浮かべる。

 しかし酒を飲んだ途端に、蒼兵衛の体がぐらりと揺れ、畳の上にバターンと倒れてしまった。

「ぎょええええーっ!? し、死んだっ!?」

 キキが悲鳴を上げる。

 シオンも驚いて西沢を見た。

「あ、アンタ何持ってきたんだ!?」

「ど、毒だ! 下の階からクレーム来ただけで毒殺されるのっ!? このアパート!」

「いやいやいやいや! やめてよ! オレを重要参考人にするの! ほんとにただのビールだよ!」

 西沢がブルブルブル! と犬の頭を振る。動揺のあまり舌が出ていた。

 部屋の真ん中で、蒼兵衛がばったりと倒れている。床に散らばったおかずにまみれ、横向きに倒れている男にシオンは近づき、慎重にその体に触れ、呼吸や脈を確かめた。

「……ね、寝てる……?」

「急性アルコール中毒じゃないのっ?」

「きゅっ、救急車っ!」

 西沢がバタバタと階下に下りていく。

 シオンは体を揺すらずに、声をかけてみた。

「蒼兵衛さん、蒼兵衛さん、しっかりしろ」

 顔をあさりの佃煮まみれにし、閉じられていた蒼兵衛の瞼が、少しだけ動いた。呼びかけに応じたので、シオンはほっとした。

「……アンタ、酒に弱いのか。無茶するなよ。死ぬぞ……」

 死のうとしていた人間に言うのをおかしいかもしれないが、シオンはそう声をかけた。

 蒼兵衛がうっすらと、瞼を開けた。

 アルコールの所為か、顔が真っ赤になっている。その表情に生気はまるで無い。

「……十二年……」

「え?」

「あの子と出会って、好きになって、十二年だ……」

「蒼兵衛さん……」

 それはあまりに、長い年月だ。失恋なんてと馬鹿にしたことを、シオンは申し訳無く感じた。

 ぼんやりとした、焦点の合わない瞳で、彼は遠い思い出でも見ているかのようだった。

「……あの子に出会わなかったら、今の私は無い。柊魔刀流なんて訳の分からん三流剣術を修めることも、冒険者になることも無かった……。今の私は、シリンに作ってもらった……。じゃあ、これからの私は何になる? 何のために刀を振るったらいい?」

 畳に力無く落ちた蒼兵衛の右手の甲は、シオンに殴られ、キキに噛み付かれ、赤と青の混ざり合った痣が出来ていた。血も滲んでいる。

「こんな私に、それでも生きろというなら……。誰でもいい、猫でもワニでもいい……教えてくれよ……」

「ワニじゃねえよ」

 キキが呟く。

「そんなに長い間、同じ人を好きでいるのは、すごいと思う。だから、蒼兵衛さんの辛い気持ちは、多分オレには分からない」

 今なら話が通じると思い、シオンは声をかけた。

「でも、生きる意味なんて、別に立派なものじゃなくていいんじゃないか?」

「ふん……分からないって言うわりに、知ったふうに諭してくれるじゃないか……」

「ごめん。本当に分からない。だって、オレには出来ない。一人の女の人の為にそんなに強くなれるなんて、誰にでも出来ることじゃない。それなのに……そんな簡単に死ぬなんて……そのほうがおかしい。それこそ、今までの蒼兵衛さんは、何だったんだよ」

「……ピエロ……」

「シオン、コイツもうダメだ。好きに死なせよう」

 キキが呆れ顔で告げるが、シオンはかぶりを振った。

「ダメだ。こんなところで死んだら。――とりあえず楽にさせて、布団に寝かせよう。キキ、水だ。湯のみにいっぱい入れてくれ」

「おうよ」

 キキがぴょんと立ち上がり、湯のみに並々と水を汲んでくる。シオンは弛緩して重い蒼兵衛の上体をなんとか起こし、キキに言った。

「無くなったらまた汲んでくれ。どんどん飲ませるんだ」

「それでいいの?」

「急性じゃないけど、酒呑んでダンジョン潜って、ぶっ倒れた奴ならいたから」

「ええー、マジでぇー」

「たまにいるんだよ。年中酒呑んでるようなのが」

「……おえっ」

 水を飲まされている蒼兵衛が、気分の悪そうな声で呻く。顔色は赤から蒼白になっていた。

 彼が自分で座れるようになってきたので、シオンは部屋に散らばったテーブルや重箱、中に入っていたおかずを片付け始めた。

「とりあえず布団敷いて寝かせるから、手伝ってくれ。悪かったな、キキ。せっかくの差し入れだったのに」

 中身は多少こぼれていたが、キキばりにしぶとく重箱に残っているおかずも多かった。残りはちゃんと後でいただこうと、蓋をして、シオンは台所に置いた。

「ほんとだよっ。おばあちゃんがここに居たら、ワンパンじゃ済まないよっ。食べ物を粗末にしたら、バチが当たるんだよっ。オラッ、テメーで飲みな!」

 キキは蒼兵衛に湯のみを握らせると、シオンを手伝い出した。

 突き放したわけではなかった。顔を蒼くした青年の瞳が、ぼんやりとしながらも少し潤んでいたので、キキは慌てて傍を離れた。

 男ってのは本当は、うちのおじいちゃんみたいにいっぱい泣かないのだ。だから男の人が泣くところは、女は見ちゃいけないんだって、そうおばあちゃんが言ってたから。






 人生が始まる瞬間とは、必ずしも、生まれたときとは限らない。

 生きるに値する意志が芽生えたときだと、彼は思っている。

 そんな蒼兵衛の人生が始まったのは、初めての友達が出来たときからだ。


 亜人の友達が出来たのは、小学校に入ってすぐのときだった。

 彼はまだ蒼樹という名の少年で、物心ついたときには子供用の刀を持たされ、鍛えられた。

 そのおかげか、無邪気にはしゃいだ記憶が無い。

 少しだけ大人びて、斜に構えていたぶん、幼少期は孤独だった。

 同じクラスの子供など、年下かと思うほど幼く感じた。まだ幼稚園にすら通っていない弟と良い勝負だと思った。

 朝の挨拶で騒ぐ。出席を取って騒ぐ。授業が始まっても騒ぐ。休み時間も騒ぐ。給食を食っても騒ぐ。とりあえず騒ぐ。

 ゴブリンかお前らは。

 いや、庇護されていないだけ、ゴブリンのほうがマシだ。

 コイツらは、世界の中心が自分だと思っている。守られ、愛されることが当たり前だと思っている。優しい大人に甘え、厳しい大人には媚び、不条理を感じれば泣いて主張する。分別も常識も身に着いていないわりに、弱いものを嗅ぎつけ、しっかり虐げるところだけは大人と変わらない。

(皆は、同じクラスの仲間です。だから、皆で仲良くしましょうね)

 若い担任教師の言葉が、理解は出来ても納得は出来なかった。

 いったい誰が、自分たちの母親より若いこの女教師の言葉を訊いている?

 この女も、知能が低く、意思の統一すら難しい幼児の集団に、何を真面目に語りかけているのか。集団行動を促すだけ無駄なのだ。怒鳴りつけ、押さえつけて、支配すればいいのに。

 大勢の小綺麗なゴブリン共の中に、蒼樹の他に一匹だけ、違うのが混ざっていた。

 そいつは、ゴブリン以上に汚い身なりをした、ワーキャットの少年だった。目つきが悪く、尻尾が変に短く、そして、かなり臭い奴だった。赤茶色の髪はボサボサで、いつも同じ服を着て、給食の残ったパンを出来るだけかき集めて帰る。そんな奴だったので、誰もが遠巻きにしていた。

 怪我をしていることも多かった。体中に痣を作り、授業の途中でやって来たときには、さすがに担任がおろおろと理由を訊いた。

(来る途中で、モンスターに襲われた)

 そう平然と答え、彼は席に着いた。周囲の席の生徒は彼と机をくっつけるのを嫌がっていたが、それは無理も無かった。彼は本当に臭かったので、周囲の生徒を責めることは出来ないだろう。担任の精一杯の配慮か、彼の席は教室の一番端にあり、彼自ら席を離して座っていた。

 遅れてきた言い訳が面白かったので、蒼樹は彼に興味を持った。それが、三崎誠也みさきせいやだった。それに、どんなに授業時間は遅れても、給食だけはしっかり食いに来るところも、わりと気に入った。

 他のゴブリンよりは、話せそうだと思ったのだ。蒼樹は他の同級生とは気が合いそうにないとは思っていたものの、孤独なまま学校生活を送りたいわけでもなかったからだ。

 いつものように給食のパンの残りを回収している彼を、教師は黙認していたが、一人のゴブリンが火の付いたように騒ぎ出した。

(せんせえー、コイツばっかり、なんでパンもってかえるのー?)

 ええとね、それはね、と言いながら若い女教師はやはりおろおろと口ごもっていたので、蒼樹が代わりに言ってやった。

(貧しいからに決まってるだろ。パンぐらいくれてやれ)

 心から正直に言っただけなのに、勘に触ったらしく、最初はケンカになった。

 しばらく険悪だったようにも思うが、所詮子供だ。いつの間にか仲良くなっていた。仲良くなったきっかけさえ覚えていない。そんなものだろう。


 セイヤには、登下校を一緒にしている少女が居た。同じように汚い服を着たワーキャットで、別のクラスでよく男子にからかわれていた。

 それを聞きつけるたびに、彼はいつも少女を助けに走っていた。

 いつのころか、蒼樹も一緒に助けに行くようになった。


 少女の名前は、四ノ原しのはら志鈴しりんといった。

 セイヤと同様に汚らしかったが、感情表現が豊かで、笑顔を絶やさない娘だった。

 髪や顔が薄汚れていても、服が汚くても、尻尾や耳が毛づやを無くしていても、いつもにこにこと笑っていた。こんなの何でもないよ、というように。

 セイヤとは、他の子供が馬鹿みたいに見えるという理由で、非常に気が合ったが、シリンは違った。

 皆で仲良くしましょう、というありきたりな教師の言葉を、とても大切にしていた。そういう娘だった。他の子供に、ちっとも仲良くしてもらえないくせに、学校は楽しいというのだった。

 この子は馬鹿だと、内心では思っていた。でも、実際に馬鹿にする奴は許せなかった。シリンを守りたいという点でも、セイヤとは意思の統一された仲間だったのだ。


 彼らと出会って、蒼樹は独りではなくなった。

 一緒に並んで帰るようになり、家で遊ぶようにもなった。

 ごく普通のことが、普通に楽しいと思えた。

 彼らの親は、気まぐれ以外に彼らに構うということが無く、蒼樹の両親や祖父母とよく喧嘩になった。剣術家である祖父や父に恫喝されると、チンピラ同然のワーキャットたちは縮こまった。

 その様子を見て、セイヤは強くなろうと思ったらしい。道場で剣術を習うこともあったが、ワーキャットにはあまり向いていないようだった。稽古だけは一緒にして、彼は彼なりの戦い方を身に着けていった。

 もっとも手合わせは何度やっても、蒼樹が勝っていたが。

(オレは、強くなる。体を鍛えて、強くなったら、クソ親はもうオレに手を出せなくなる。そんで、シリンのことも助ける)

 いつものように汗だくになったセイヤが、道場の畳に寝転がり、高い天井を見つめながら言った。ジャージが汗で変色していた。

(お前はいつも、シリンのことばっかり言ってるな)

 散々にぶちのめしてやったワーキャットの横で、着物も袴も大して汚していない蒼樹は、息ひとつ乱さず座った。

 セイヤとシリンは汚れていると、柊家で風呂を貰った。最初は遠慮して家に来たがらなかったが、一度来れば気兼ねなくなった。

 どうせ門下生が少なく、暇な道場を持て余しているのだ。門下生の世話を焼きたくても焼けないぶん、蒼樹の家族は彼らの面倒をみた。

 衣服も洗ってもらえたし、髪も切ってもらえるようになった。きちんと身なりを整えると、シリンなどは見違えるほど可愛らしい娘になった。

 シリンは体を鍛えるのは得意では無いようだった。蒼樹の母や祖母と一緒に、菓子を作るほうが好きで、柊家も男ばかりの兄弟だったから、女親たちもシリンの面倒をみるのが楽しいようだった。

 蒼樹も、シリンが楽しそうにしている姿を見るのが、好きだった。

 不器用で、はっきり言って彼女の作った菓子は不味いが、あの子は母親になるのがとても似合うだろうと思った。

 まだセイヤは息を切らしている。荒い息を整えながら、呟いた。

(……シリンは、オレの妹みてーなモンだから)

 嘘つけ、と蒼樹は思ったが、言わなかった。自分もシリンが好きだということは、言ったことが無かったし、別に言うことでも無い。

(けど、セイは弱過ぎるな。めちゃくちゃ弱い)

(うるせえ。お前は強過ぎんだよ)

(動きに無駄が多いし、素直過ぎる。俺より腕力が無いのに、なんで真っ直ぐ突っ込むんだ? 速さを生かして、もっとフェイントとか入れろよ。あと、俺みたいにとりあえず技名言っとけば、なんか相手ひっかかるぞ。お前引っかかってるしな)

(こっちは必死に動いてんのに、とっさに技名とか言えねえよ。舌噛むわ)

(そんなもの、適当でいいんだ。騙し合いなら、お前よりシリンのほうが上手そうだな。まさかにこにこ笑って近づかれて、一本取られるとは思わなかった)

 シリンも稽古に参加することもあるが、ほっそりした体に袴姿が可愛らしく、ぼんやりしている間に脳天を遠慮無くぽこっとやられた。それでも、「あ、一本取れちゃった」と嬉しそうに微笑まれたら、笑いながら死ねるというものだ。

(テメーしか引っかかんねえよ、あんなの。それに、騙してるつもりはねえよ、アイツは)

 セイヤが呆れ顔で笑ったが、蒼樹は真面目な顔で呟いた。

(しかし、ああやって直前まで殺気無しで、隙だらけで近づいて来られたら、かえって怖いな。勉強になった。そういうモンスターいたら、俺死ぬかもしれん。直前まで愛くるしいウサギとかで、喜んで抱き上げたとたんにいきなり豹変されたら……)

(そもそもモンスターを喜んで抱き上げるなよ。ま、たしかに、お前は強いけど、そういうことあるよな。変なとこで抜けてるっつーか、ツメが甘いっつーか)

 ようやく元気が戻ってきたのか、セイヤが体を起こす。出会った当時は栄養失調でガリガリに痩せていたが、ずいぶん男らしくなりつつあった。

(ま、そういうときは、オレが止めてやるよ。妙な気配とかに勘付くのは、わりと得意だしな)

 偉そうに笑う友人に、ふむ、と蒼樹は頷いた。

(なるほど。俺が侍なら、お前は隠密というわけか)

(それはやめろ。なんかイテエよ……)

(そうか?)

(それに、オレは冒険者になろうと思ってる。お前みたいに魔法は使えねーから、体張る戦士ファイターかなー)

 起き上がった友人とは逆に、蒼樹はごろりと寝転がった。

 いつからだろう。幼いときは嫌いだった畳の匂いが、好きになった。

 どう考えても三流だと思っていた剣術も、真面目に学ぶようになった。

 それは、目的が出来たからだ。

 好きな子を、親友を、守りたかった。

 二人と一緒に、こうしている時間が、好きだったからだ。

(ねえねえ、おばさんが、おやつにしようって!)

 シリンが太陽のような眩しい笑顔でやって来た。蒼樹は慌てて体を起こし、セイヤは別にどうということもない様子でいる。

 いずれセイヤは家を出て、自立するだろう。それまでの困難など全て、一緒に斬り拓いてやるつもりだった。

 目的を果たした先に、どんな未来があるか、そんなことは考えたことはなかった。

 ただ、シリンが言ったから。

(わたし、二人といるのが一番楽しい。ずっと、三人でいたいね)

 告白なんて、しようとも思わなかった。

 その言葉が、すでに嬉しかったから。






 夜中に目を醒ました蒼兵衛は、体を起こした。

 暗い部屋で、ちゃんと布団に寝かされていた。コートは脱がされ、下手くそに畳まれて枕許に置いてあった。刀も布に包まれ、すぐ近くに置かれていた。

 部屋の隅を見やると、座布団を布団代わりにしたワーキャットの少年が転がっていた。疲れていたのか、まったく起きる気配が無い。

 物音に敏感なワーキャットを起こさないように、蒼兵衛は静かに布団の上にあぐらをかき、刀を手に取った。

 何故か右手の甲に包帯が巻かれていた。なにか、ワニのような……凶暴な生物に噛まれたような記憶もあるが、酷く酩酊した後なので、曖昧だ。

 掴んだ刀を鞘に納めたまま、横にして膝の上に置く。特別意味は無い行為だが、気分の落ち着かないとき、刀を握って考え事をすると、少し落ち着く気がする。

 これを握っている間は、誰にも負けたことが無いからだ。


 ――結局、これしか残らなかったな。

 

 だが、誰しもがそんなに強くはなれないのだと、誰かが言った。誰だったかと思い返すと、部屋の隅で丸くなって寝ている少年だった。

 最初はワーキャットというだけで小憎たらしかったこの少年とも、不思議な縁がある。この後、適当に別れても、また彼らとは会うような気がする。

 セイヤとシリンに出会ったときのような、何かを与えてもらえそうな期待感は無いが、邪気が無く、一生懸命な奴らだ。小動物に囲まれているように、ささくれた心が少しは癒された。

 シオンを見ると、子供時代のセイヤを思い出す。だからだろう、久々に、昔の夢を見たのは。

 あのころのアイツは、弱かったが必死に生きていた。ただのチビ猫だったのが、いつの間にか地元の似たようなガキを集めて、リーダーぶるようになり、それは蒼兵衛にも悪くない気分だった。這いずるように生きていた友人が、同じようなガキに慕われる存在になった。

 苦労したぶん、弱い奴を思いやれる。そういうのが、アイツには向いている。自分はというと、多分、敵をぶちのめすのが向いている。

 蒼兵衛は刀を握った。右手は痛んだが、剣を握れないというほどではない。シオンの言ったように、今は目的なんて無くてもいいのなら。


 ……しばらく、向いていることでもするか。


 蒼兵衛はカーテンを引き忘れている窓を見つめた。街灯と月明かりの所為で、夜は明るい。けれど、街の賑やかさは、今の彼にはいささかわずらわしい。

 久しぶりに、夜も昼も無く暗い場所に、行ってみるのも悪くない。

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