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迷宮のドールズ  作者: オグリ
二章
32/88

新たな思い

 草の中を獣が進む音だけに、シオンは意識を集中させた。

 足音から推測される大きさは、香坂に聞いているキメ子のものに近い。聴き慣れた猪や野犬のものとは違う。

 そのリズムが時折乱れるのは、足を引きずっているからだろうか。

 姿は見えないものの、これはキメラではないのかと思ったのは、小さく漏れた鳴き声に、異なる獣の声が混じっていたからだ。

「ダメだ、やっぱり遠過ぎる。姿が分からない」

 キメ子に感づかれないよう、充分な距離を取って後をつけてきたが、これ以上進むと餌場から離れ過ぎてしまう。

「かといって、これ以上は近づけないな。怪我してるなら警戒心も強いだろうし」

 各自、連絡用にトランシーバーを渡されているが、追っている獣がキメ子であるという確証も無いまま、うかつな連絡は出来ない。もし向こうでキメ子の捕獲が始まっていたら、邪魔をしてしまう。

「小野原。私がこのまま追うから、君は奴の側面に回り込め」

 蒼兵衛の言葉に、シオンは頷いた。

「分かった。頼む」

「キメラだったら、こういうサインを出そう」

 と、無表情でピースサインを作って見せる。似合わなかった。

「それと、これの通信機能は切っておく」

 そう言って、ポケットから小型のトランシーバーを取り出す。

「君は入れておけよ。あっちから連絡が入るかもしれないからな。……というかこれは、どうやって通信を切るんだ? スイッチが多いな」

 適当にボタンを押し始めたので、シオンは慌てて声をかけた。

「右上のほうに『POWER』と『MODE』ってボタンが並んでるだろ。その『MODE』のほうで……」

「これか。……ん? あれ?」

 シオンが説明しようとすると、蒼兵衛が顔を上げた。

「なんか、色々消えてしまったぞ」

「電源ごと落としたんじゃ……」

「ふうん。まあいい。どうせ使わん」

 そう勝手に納得し、再びポケットにしまう。

「というわけで、キメラだったらサインを出す。もし逃げられたら、察知するのは君のほうが早いだろう。そのまま餌場に追い込め。後はあのブ……グリンブルが何とかしてくれるだろう」

「ああ」

 彼が香坂のことをブタと言いかけたのは流し、シオンは頷くと、すぐにその場を離れた。

 気付かれないギリギリの距離を保ちながら、キメ子(暫定だが)の進行方向に先回りする。

 草の中に獣気配はするが、こちらに気付いてはいないようだ。

 そのまま肉食獣が獲物を待ち伏せするように、シオンは草むらに身を伏せた。

 そのとき、トランシーバーに通信が入った。

〈小野原くん、出られるか? 俺だ。徳丸だ。どうぞ〉

 シオンは腰に下げていた機械を手に取ると、口許に近づけ、小声で答えた。

「はい。小野原です」

 連絡をする余裕があるということは、向こうにはキメ子は向かっていないということだ。

〈おお。良かった、無事か。モンスターはどうした? どうぞ〉

 返事を促され、シオンは再びトランシーバーを口許に近づけた。

「奇主トロルを確認したので、排除しました。その後、周辺の安全を確認している最中に、変わった獣の気配を感じたので、追跡中です」

 そう答えたが、徳丸からの返事は無い。

「あ、どうぞ」

 そういえばトランシーバーでの会話は、片方が話し終わらないと、もう片方が話せないのだ。だからこれを使うときには、自分が喋った後に、『どうぞ』と促すように言われたのだが、どうも慣れずに忘れてしまうのだった。

〈そうか。実はこっちはまだ、キメ子が現れていないんだ。なんらかの事故に遭った可能性も考え、いったん引き上げるという話になった。小野原くん、そっちで見つけた獣というのは、キメ子か? どうぞ〉

「かもしれないとは思ったけど……はっきりとは分からない。草が深くて、姿が見えなくて。近づけるギリギリまできたんだけど……」

 自分が耳で捉えた様子をそのまま告げる。

 その間も、離れた場所にいる獣の動向に、神経を傾けている。耳の良い亜人種の多くは、複数の物音を同時に感じ取ることが出来る。ワーキャットのシオンも同様だ。たとえ通話中でも、周囲の物音はきちんと聴き分けている。

「いま、蒼兵衛さん……仲間の柊が、接近して姿を確認してます。……どうぞ」

 キメ子かどうか直接確かめに行った蒼兵衛が、草の中を堂々と歩いていく姿にはぎょっとしたが、未確認の獣が逃げ出す様子は無かった。

 森の獣と化す――とまではいかずとも、たしかに彼は自らの殺気を排していた。その振る舞いに、緊張感の欠片も感じさせないのだ。

〈幼獣といっても、気配を察する能力は高いぞ。いけるのか? どうぞ〉

「多分……いえ」

 蒼兵衛はどんなときも平然としているので、自信があるのか適当に言っているだけなのか判別が付かない。

 いや――いい加減に聞こえるようなことも言うが、彼は自信の無いことはやらないし、やれるとも言わない。そういう人だ。本当に強い奴ほど、自分の力を正しくはかれるものだ。

「大丈夫です。キメ子を見失ったりはしません。確認しだい報告します。……あ、どうぞ」

〈分かった。なんにせよ、キメ子を捜索する必要はあるんだ。その獣、キメ子と分からなくてもいい。そのまま姿を見失わないでくれ。いいか、そのままトランシーバーを手放さないでくれ。電源も切らないようにな。それがあれば君たちの位置は分かるからな〉

 すでに切ってしまった人もいるのだが。

 シオンは思い出して少し笑いながら、短く答えた。

「了解」


 草むらの中から、蒼兵衛の腕がすっと上がった。

 ピースサインをしている。

 シオンはすぐにトランシーバーの発信先を、待機している全員に合わせ、小声で告げた。

「未確認の獣は、キメ子だった。どこかを負傷しているみたいだ。引きずってるし、俊敏さも欠いている。指示を頼みます。どうぞ」

〈よっしゃ。ようやった。よう近づいたな〉

 香坂の声が返ってきた。

〈すでにこっちもプランを変えたで。小野原くんの位置を参考に包囲して、逃げ場を塞ぐ。負傷しとるなら、樹上に逃れる可能性は低い。こっちもすぐに動く。そのまま様子を見れるか? どうぞ〉

「はい……」

 シオンが答えたのと同時に、ガサガサ! と激しい音が上がった。蒼兵衛がのんびりとした声を上げた。

「おーい、すまん。ミスった」

「えっ!?」

 思わず通信ボタンを押したまま、声を上げてしまった。草をかき分ける音と共に、小さな獣がシオンのほうに駆けてきた。

〈どないした、小野原くん〉

「キメ子が逃げた! このまま、そっちに追い込む!」

 返事を待たず、シオンはトランシーバーをしまった。

 大きな山猫のようにも見えたそれは、背中から山羊の頭を生やしていた。

 胴体は豹のように斑点の入った茶色の猫がベースだが、山羊の頭が生えた辺りから後肢にかけて白い体毛が交じり合っている。尻尾は短く丸まっており、これも茶色い毛で、先端だけ白い。

 まだ幼獣と分かるそれぞれの頭は、たしかに可愛らしい。が、一つの胴体にくっついていると、やはりちょっと不気味だ。これを可愛いとはしゃいでいた紅子や受付嬢の感性を改めて疑ってしまう。

 前は猫寄り、後ろは山羊寄り、というところか。前肢は茶色く太く、白い毛に覆われた後肢はややほっそりしている。ひょこひょこと不自然な走り方をしているのは、異なった生物の部位を持つからではない。右の後肢の毛が禿げ、そこから血を流していた。

 蒼兵衛から走って逃げたところに、シオンがいて驚いたのか、慌ててキメ子が方向を変えようとする。それが餌場とは逆の方向だったので、シオンは素早く回り込み、吼えた。

「ガァッ!」

 するとキメ子がまた慌てて方向を変えた。

 怪我をしており、その動きはぎこちない。それでも必死に逃げる姿が、なんだか少し可哀相にも思えた。

 そんなことを自然と感じた自分に、シオンは違和感を憶えた。

 今まで、こんなふうに考えたことがあっただろうか?

 魔獣を倒すとき、そんなことを思ったことはなかった。可愛いとも可哀相だとも思わない。ただ、頼まれたから倒すだけだった。

 いや、今はそんなことはどうでもいい――。覚えたばかりの違和感を振りきって、シオンはキメ子を追った。

 敵との遭遇に慣れていないキメラの幼獣は、シオンを振り切ろうと懸命に駆けている。だが、キメ子が逃れそうな場所は、香坂たちの調査で分かっている。キメ子の行動も、クセも、性格も、彼らは徹底的に観察していたのだ。

 それをシオンも、しっかり頭に叩き込んできている。

 たしかに俊敏だが、怪我で思うように走れていない。わざと唸り声を上げて追いかけつつ、思わぬ方向に進みそうになったら、予備動作ですぐに察知し、その先にダガーを投げつけ、進行方向を修正する。

 事前調査のお陰で、キメ子の動きが楽に読める。これなら餌場以外には行かせないよう、追いたてることが出来そうだ。

 キメ子はどんどん餌場のほうに追い詰められていく。

 動きにだんだんと疲れが見えてきた。咄嗟に逃れる場所を見つけられないのは、彼女も自分の縄張りのすべてを熟知しているわけではないのだ。ただ走って逃げるばかりでは、いずれ狩られてしまう。

 たしかに、今日しか無いタイミングではあった。こんな手負いではいつ死んでもおかしくない。

 突然、弱々しい声で魔獣の仔が鳴いた。

 助けを求めるような声だった。

 シオンは走りながら、最後のダガーを投げた。後で回収するのが大変だが、今はそんなことも考えていられない。トランシーバーを掴み、声を上げた。

「そっちに行くぞ!」

 餌場に抜ける草むらを前に、キメ子は飛び込むか躊躇したようだった。シオンは手にしていたトランシーバーを、後肢近くの地面に投げつけた。

 ガツン、と音を立ててトランシーバーが跳ねるのと同時に、驚いたキメ子もぴょんと飛び上がる。

「行け!」

 シオンの怒声に追いたてられ、飛び込んだ先。

「えっ、ブタっ?」

 と思わず口に出してしまったが、そこには巨大なブタ――ではなく、香坂の姿があった。

 さっきも見た姿だ。彼は裸のまま、シオンがこの場を去る前と同じ様子で、ぼんやりと平和そうに座り込んでいる。

 その気配はブタそのものだ。いや、ブタどころでは無い。シオンには香坂の体が、本来の彼の何倍もの大きさの獣にさえ見えた。長く森で暮らす、老成した魔獣のように。

 突然の喧騒に、彼の周囲に集っていた小動物は散り散りに逃げたが、彼は森の侵入者を前に、悠然とそこに存在している。

 その姿は、他の魔獣を脅かす存在ではなく、巨大な宿り木を思わせた。大きく、賢く、雄大な、森の主だ。

 日本では無く外国の、もっと広大な森林には、こんな大きな魔獣がたくさん闊歩しているという。魔素を多く持たない野獣たちが数多く滅びていったように、それより強靭である魔獣たちもまた、多くの種が滅びに向かっている。

 そんなことを、誰に聞いたんだったろうか。昔観たテレビか、父親か、学校の教師か。

 そんな記憶を呼び起こしたのは、香坂の瞳を見たからだ。彼は澄んだ瞳でシオンを見据え、シオンはぴたりと足を止めた。神々しい生き物に出会ったかのように気圧されてしまった。

 なんとキメ子は自ら、香坂に向かって飛び出した。

 自分とは似ても似つかない姿の獣に向かって、躊躇もせず。

 まるでそこに、自分の親が居るかのように。

 ふわりと跳躍したキメ子を、上体を起こした香坂が抱き留めた。

「よっしゃあっ! 獲ったでぇー!」

 香坂が声を上げる。

 あ、やっぱり香坂さんだよな……とシオンは激しく呼吸を繰り返しながら、裸のグリンブルをぼんやりと眺めた。

 激しく上下する胸を手のひらで押さえる。キメ子を逃がさないよう気を張りながら走り続けた所為だ。変な幻覚を見たのは、酸欠と興奮のせいだろう。

「おー、よしよし、怖かったなぁ、痛かったなぁ」

 我が子に再会したかのようにキメ子を抱き締め、双頭を代わるがわる撫でる。

 急に雰囲気が変わった香坂に、キメ子が驚いて暴れるかと思ったら、まるで飼い主に撫でられているかのように大人しい。

「おうおう、お前、痩せとるなぁ。もう大丈夫やで」

 徳丸の言っていた通りだ。

 麻酔弾も、縄も、網も、ケージも、必要無い。

 キメ子はブルブルと全身を震わせながらも、香坂の傍だけは離れる様子は無い。

 神聖かはともかく、すごい能力ではある。

 どこに潜んでいたのか、気配を殺して待機していた香坂の仲間たちが、毛布やケージを持って香坂に近づいて行った。それでもキメ子は暴れる様子も無く大人しい。

 せっかくキメ子が落ち着いているのだから、追ってきた獣役のシオンは離れたほうがいいだろうと、そっとその場を離れようとした。

 すると、背後から肩を叩かれた。

「お疲れ、小野原くん」

 徳丸だった。水の入ったペットボトルとタオルを渡される。

「よく追い込んだな」

「……香坂さんたちが……キメ子のことを教えてくれてたから……」

 はあ、と息を吐き出し、シオンは受け取ったタオルを首にかけると、その端で額や首を濡らす汗を拭った。ペットボトルを開け、少しずつ喉を湿らせる。

「オレは、覚えてた通りにやっただけで……」

「覚える時間だってそんなになかっただろうに。普通は、何人かで追い込んでもそう巧いこと目的地まで誘導出来んもんだ」

 そう言いながら、徳丸がシオンの背を強くさすった。

「判断も、運動能力も大したもんだ。センターからも、君は信頼出来るって太鼓判を押されてたしな」

「……いえ……」

 役目を終えてほっとしたが、まだ緊張しているのか、中々息が整わない。シオンは切れ切れの声で答えた。

唸り声グロウルとか武器で、散々脅かしまくって……やって良かったのか分かんなかったけど……他に、思いつかなくて……」

 もしキメ子を見つけたのが、香坂チームの誰かだったなら、もっとスムーズにここまで追い込めただろう。そう思いながら、水を喉に流し込む。

「いやいや、そもそも俺らじゃ、すぐに息が上がっちまって、ここまで追っても来れないよ。知識や経験はあってもな」

 徳丸がそう言いながら、硬く節くれだった木のような手のひらで、シオンの背中をねぎらうように撫でる。その感触に、桜の葬儀で会ったきりの祖父のことを思い出した。

「すみません……無事に捕獲する依頼だったのに……オレ、キメ子の怪我を……酷くしてしまったかもしれない……」

「気にするな。魔獣の捕獲ってのは不確定要素が多い。無傷で捕まえられたならそりゃいいが、なかなか、そうもいかん。準備周到なのは香坂くんの良いとこだが、こういうことが起こるとドキリとするぜ」

 そう言って徳丸も、気が抜けてほっとしたような笑いを見せた。

「なにかに襲われて、怪我をして逃げ回ってるうちに、縄張りを離れちまったんだろうな。野生下で怪我をするのは致命的だ。襲われる可能性が増えるし、襲われたら逃げきれず、助かりにくくなる。ここで捕獲を延期すれば、明日にはキメ子は死んでたかもしれん。まさに間一髪だ。見つけたのが君で良かった。ありがとよ」

「……仲間が……手伝ってくれたから……」

 速やかにトロルを倒してくれたのは蒼兵衛だし、キメ子を発見するのにも協力してくれた。

 半分以上は蒼兵衛のお陰だ。

 そう思っていると、当の本人が戻ってきた。相変わらずの無表情で。

「どうやら成功したみたいだな」

 そんな言葉と共に、草をかきわけ、やってきた。その頬には、何故かぽつぽつと赤い斑点が浮かんでいた。

「本当に、君は足が速いよな。追うのも手伝おうかと思ったが、一秒で諦めた。その代わり、これを回収してきてやったぞ」

 その両手には三本ずつ、シオンが投げてきたダガーを持っていた。道中で、全て拾ってくれていたようだ。

「君のだろ」

 そう言ってダガーを地面に放り捨てると、すぐに頬を指で搔き始めた。

「クソ、こういうところにくると、私って虫に刺されやすいんだよな」

 拾ったダガーをホルダーにしまいながら、シオンは礼を言った。

「ありがとう」

「どういたしまして。仕事の後でこういうの拾う作業ほど面倒なことって無いよな」

「うん」

 これは本当にありがたかった。探してくる手間が省けた。たしかに口が悪くて変な人だが、優しいところもあるのだ。

「そういえば、キキはどうしたんだ?」

 シオンは思い出し、辺りを見回した。

 香坂の仲間たちはおのおの素早く動き出し、キメ子を手当てし、移送の準備を始めている。が、キキの姿だけが見当たらない。

「小さいお嬢ちゃんなら、あのへんの茂みの中だよ」

 徳丸が笑いながら、ある方向を指差した。シオンはそちらに向かい、茂みを掻き分けた。

「……キキ!?」

 シオンが驚いて叫ぶ。そこには、地面に、キキがうつ伏せに倒れていた。

「おい、どうした! 大丈夫か!」

 ばったり倒れているキキを、慌てて抱き起こす。その口の端から涎が垂れていた。

「ぐうぐう……」

「ずっと寝てたのか、お前!」

 思わずその額にデコピンをしたシオンは、悶絶した。

「むにゃ……? おじいちゃん、もう討ち入り……?」

 指で目許を擦りながら、キキが体を起こす。

「……いまこそ決戦のとき……」

「どんな夢だよ」

 顔をひきつらせるシオンに、キキはむにゃむにゃと口を動かしながら答えた。

「……殿様が大臣にゴブリンにされて……大臣は実は悪の魔道士で、正体がバレたから竜笛を吹いて、江戸の上空に大きなドラゴンを呼び寄せたの……江戸城を奪還するため突入した魔導八剣士と、ついに最終決戦だよ……」

 何かのあらすじのようなことを口にしながら、まだ寝ぼけ眼である。座ったまま、またうつらうつらと頭を揺らしだす。

「なんで時代劇……?」

「君は『魔導八剣士』も知らないのか?」

 やって来た蒼兵衛が言った。

「え? ほんとにあった話なのか?」

「ねーよ」

 いつもとは違う口調で、冷たく言われた。

「君の中で日本史はどうなってるんだ。創作だよ。小説だ。映画やドラマでも何度かやってるぞ。年末から正月にかけて絶対どれか再放送するから、目にしたら観てみるといい。中盤から後半にかけてのグダグダ感は凄まじいが、中盤に至るまでとクライマックスの展開は熱い」

「はぁ……」

「だが三年前にやった年末スペシャルドラマ、あれは駄目だ。八剣士を集めるくだりをはしょりやがった。それぞれ別の場所で生まれ育ったのに、開始三十分でばったり全員集合だ。運命の八剣士は全員近所住まいか! と思わず声を上げてしまったぞ。腕立て伏せしながら」

「話が早くていいじゃないか」

「なるほど。君のような効率を重視する視聴者が、あんな超展開を肯定するんだな」

「そいつら皆でパーティーを組むんだろ? 面白そうだな」

「ははは、残念だったな。それ以降の展開に期待しても無駄だ。なるほどそのぶん後半の共闘部分に力が入っているのだろうと思ったら大間違いだ。原作では出番の少ないはずのヒロインと、八剣士のリーダーの恋愛部分に焦点を当てまくるスイーツ脚本にいつ戦うんだ! と思わず叫んだからな。逆立ちしながら」

「アンタ逆立ちとかするのか」

「毎日するぞ。君もやれ。体幹が鍛えられて、なんとなく我慢強くなる気がするしな。違う。逆立ちの話じゃない」

「逆立ちの話のほうが気になるんだけど」

「私にとっては日常だからどうでもいい。それよりあのドラマのことを思い出したら苛々してきた。それを吐き出させてくれ」

「はぁ……」

「中盤以降こってりした豚骨スープのようなラブストーリーが延々と展開されるんだが、ヒロイン役がまた演技の下手なアイドルで、大きな事務所の力が働いているのが見え見えでな……」

「ええと……分かった。分かったよ」

 分からないが、これ以上聞いても多分ずっと理解出来ないので、シオンは適当に相槌を打って話を遮ろうとした。

「それにさ、脇役同士のベッドシーンなんて不必要だと思わないか? 脱がすならアイドル脱がせよ」

「ベッドシーンって?」

「……マジか。君って仕事は出来るくせに、日常会話になるといきなり語彙力ヤバいな。日頃何してるんだ? 爪磨き?」

「爪きりなら、週に二回くらいしてるけど」

「今のは冗談だ」

「ごめん。テレビも本も観ないし、普段、会話する人も居ないから」

「そうか。可哀相に。いつでも電話してこいよ」

「ありがとう。それで、ベッドシーンってなんだ?」

「ベッドのシーンだ」

 そんな会話をよそに、キキは座ったまま寝たり起きたりしている。よほど寝起きが悪いのか、そうしてしばらくぼんやりしていたが、突然はっと声を上げた。

「そうだ、キメ子はっ? 捕まえたのっ? モフモフはっ?」

「もう捕まえたぞ、香坂さんが」

「うおお! マジか!」

 さっきまでむにゃむにゃしていたくせに、いきなりガバッと立ち上がる。

「町人の味方、め組の妹尾組は、八剣士を助けて江戸のために戦ってる場合じゃなかったよ! モフモフしなきゃ!」

「意外と渋い配役だな。夢の中でくらい主役張れよ」

 蒼兵衛が突っ込む。

 走り出そうとするキキを、シオンは止めた。

「こら、邪魔するな。捕まえたばかりなんだ。キメ子が驚くだろ」

「おどかさないっ! モフモフするだけだよっ!」

「ダメだ。そもそもお前は声がうるさい」

「うるさくないよっ! あーキメラの子供、絶対可愛いよぉ!」

「そうか……?」

 とシオンは顔をしかめる。どう見ても不気味な生物だったが。

「大体、なんなんだ、モフモフって」

「モフモフってのは、こうして……こうして……」

 キキは両手で何かを掴むような動きをし、更におにぎりを握るように、ぐいぐいと力強くこねくった。

「こう、モフモフっと……可愛がることだよ!」

「ダメだ。それはモフモフじゃなくてグリグリだし、可愛がってるんじゃなくてイジめてるだけだ」

「なんでよぉ!」

「とにかく今はダメだ。これからキメ子を輸送するんだ。また今度、キメ子が公開されたら観に行けばいい」

「やだやだやだやだ! いま触りたいよぉ!」

「お前は何もしてないくせに、なんでそんなにワガママなんだ!」

「うわぁぁん! モフる! モフるもーん!」

 手をバタバタと振り回し、地団駄まで踏み出す。コイツはもう二度と連れて来るまいと、シオンは堅く心に誓った。

「よし、これでも触っていろ」

 と蒼兵衛がいきなりシオンの尻尾を掴んだ。

「ふぎゃあ!」

 驚き、思わず猫のような声を上げたシオンを無視して、蒼兵衛は長い尻尾の先をキキにひらひらと振ってみせた。

「ほーら、モフモフだぞー」

 しかしキキはひどくつまらなそうな顔で、首を振った。

「それは触り飽きたよ。あんまりモフモフじゃないしさ」

「ふむ。たしかに。毛ヅヤ悪くてバッサバサだな」

 蒼兵衛もシオンの尻尾の先を見つめ、言った。

「そんなんじゃ、モフれないよ」

「モフれないが、バサれるぞ。ほーら、バサバサだぞー」

「なっ……!」

 勝手なことばかり言う仲間たちに、シオンはブルブルと身を震わせた。茂みの向こうでは香坂たちがせわしく仕事をしている。そんなことも忘れ、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「バサバサで悪かったな! なんなんだ、お前ら! 人の尻尾を勝手に触っておいて!」




 結局、キキはキメ子をほんのちょっとだけ、触らせてもらうことが出来た。

 今この場にいるのは香坂たちは、捕獲担当チームだ。キメ子を移送するチームは山小屋で待機している。

 彼らが到着するまでの間、香坂たちはコーヒーを振舞ってくれた。

 本当はコーヒーが苦手なシオンは、「キキちゃんはこっちがええやろ」とキキが手渡されていたココアのほうが飲みたかったとは言えない。

 しかし持ち込んだ道具で、その場で淹れてくれたコーヒーは、苦手だったはずなのに美味しく感じた。疲れているのと、達成感があるからだろうか。

 屋外用のバーナーで火を起こし、熱湯を作り、コーヒーミルで豆まで挽く手間をかけ、ミルクも別に沸かしてくれた。

 香坂が言うには、こういう仕事には暑いときには冷たい茶や、寒いときには温かいコーヒーをすぐに用意してくれる人材も必要だと言う。

 冒険者の仕事では無いようでいて、人数分の飲み物を用意するのはとても大変で、大事な役割だ。それ専門の冒険者などさすがに居ないので、パーティーの新人が請け負ったり、当番を決めて交代でやったりする。バックアップチームを雇っていれば、そういう雑用もすべて一任出来るが、そこまで大がかりになると金がかかる。

 香坂チームの人たちが、休む場所もすぐに作ってくれた。背の高い草を手早く刈り、腰かけられそうな倒木を幾つか運んできたのだ。お陰で、皆でコーヒーを飲みながら、しばらくの間、談笑し体を休める時間が出来た。その輪に交じっているシオンも、香坂に聞いてみたいことがあった。

 捕獲後のキメ子は大人しく首輪を付けられ、香坂の足許に座り込んでいる。

 元々飼いキメラだったのでは? と勘ぐってしまうほど、懐いているように見える。本当に不可思議だった。

「なにか、魔法を使ったんですか?」

 シオンが尋ねると、香坂は笑った。

「いや、使わへんよ。使えへんし。なんていうかな、正直ボクも自分でどうやっとるんか分からん。気配をコイツに馴染ますねん」

 そう説明してもらったが、よけい不思議に思えるだけだった。

 香坂はもう服を着ている。こうしていると、やはりどう見ても普通のグリンブルである。当たり前だが。

「なんかさっき、香坂さんが別の生き物に見えた気がして……」

 砂糖を入れただけでは足りず、こっそりキャラメルを入れたコーヒーを、シオンはちびちびと飲みながら言うと、香坂は自らはっきりと答えた。

「ブタやろ? よう言われるわ」

 コーヒーを啜り、香坂が鼻をブヒブヒと鳴らす。

「えっ、いや……ていうか、もっと大きな……」

「もっと大きなブタ?」

「ええと、森の主っていうか。なんか、森の神様みたいな……」

 離れたところで爆笑が起こった。

「ぬ、主……!」

「神様か! そりゃいいな、香坂くん!」

 香坂チームの人たちが腹を抱えて笑い出し、シオンは赤面した。

「え……オレ、変なこと言ったか……?」

「いや、小野原くんはさすがやね……」

 ふ、と香坂は遠い目で、どこか遠くを眺めた。キメ子を撫でながら、今日見た中で一番凛々しい表情で言った。

「そう、ボクはコイツらだけやない……森すべてを包み込むような気持ちで、この仕事に挑んだつもりや……そして衣服を捨て父なる自然に戻りしとき、まさに大いなる森の意思がこの肉体に宿った……それを小野原くんは美しい心で感じ取ったんやな。そう、それは森の魂……まさに、森の主……」

「いや、ただの裸のオッサンだろう」

 仕事の間は香坂をベタ褒めしていた徳丸が、今はすっかり素で突っ込んでいた。どうやら誰しも仕事中はテンションが上がり過ぎておかしくなるようだ。きっと自分もそうだったのだ、とシオンは顔を赤らめたまま、自分の中でこの話題を完結させた。

「ううー……なんでよぉ……キメ子ぉ……」

 あんなにキメ子を触りたがっていたキキは、少し離れたところで、恨めしげにキメ子を見ている。

 今、キキはキメ子に近づくことをシオンに禁じられている。

 触ることは出来たのだが、キキが撫でた途端にキメ子は怯え出し、小便まで漏らしてしまったのだ。

 他の誰が触れても平気で、蒼兵衛が頭を撫でたときでさえ大人しかったので、キキはすっかりむくれてしまった。

 きっとキキの内なる凶暴性を野生が感じ取ったのだろう……とシオンは思った。彼女がもしモンスターであれば、もっとも恐ろしい獣堕ちであるリザード・バーサーカーなのだから。モンスターであるキメ子には分かったのかもしれない。それに、うるさいし。

「今日はまだ気も立ってるし、ごめんな、キキちゃん。人に馴れたら大丈夫や。遊びにおいでな」

「ううう……モフモフ……」

 優しく声をかける香坂は、本当に良い人だとシオンは思った。よくあんなワガママ娘に付き合ってくれるものだ。

「すまんなぁ。ちゃんとした打ち上げをやりたいねんけど、この後キメ子を連れて行くのに、ボクも同行するからな。よかったら、またの機会にな」

「いや、気にしなくて大丈夫です。どうせオレたち、呑めないんで」

「打ち上げっちゅーても、別に居酒屋でなくてええんやで。あっちで甘酒飲んでる兄ちゃんなんか、けっこういけそうやけど」

 蒼兵衛は一人だけ、自分で持ち込んだ甘酒を温め直してもらって飲んでいる。山小屋で見つけて買った缶の甘酒を、そのうち飲もうと思ってコートのポケットに入れていたらしい。

 それがどうして甘酒だったのかというのと、飲まずに忘れていたのかということは、彼のやることなのでもはや不思議とも不可解とも思わない。多分、単に甘酒が好きなのだろう。

 ちなみに至近距離まで近づくことの出来たキメ子に逃げられたのは、入れたことを忘れていた甘酒の缶が、ポケットの中でトランシーバーとぶつかって音を立てたからだという凡ミスだった。

「蒼兵衛さんも未成年なんで。前に、十八歳だって言ってたから」

「あ、そうなんか。ほんま、昔の人みたいな子やね。十八なら元服もとうに終えとる、立派な武士や。見た目は今時の人間の若モンと変わらんけど、中身はそこらの大人より肝が太いというか、全然動じんというか」

「はい。頼りになります」

 蒼兵衛はキキと並んで倒木に腰かけ、香坂チームの人たちと話している。

 今まで対人トラブルを多く起こしているようだが、当人は人付き合いに苦手意識があるわけでもないようだ。

「あの兄ちゃんは、探索よりは戦闘向きやな。変わったとこもあるけど、戦闘専門は強けりゃええねん。どんなにええ奴でも肝心なときにビビられたら、周りが怖い。偏屈でも仕事してくれりゃええんよ」

 香坂の足許で、キメ子が体を起こした。二つの頭が、彼の作業服の端を咥えて引っ張ったりしている。

「戦闘屋に求められるのは、そういうところや。なにせ、全員の命がかかっとるからな。冒険者になる奴には、なんや戦闘好きな奴は多い。けど、ほんまに肝が据わっとる、ほんまに強いのとなると、ずいぶん限られてくる。だから少々性格に問題があっても、強ければ誰も文句言えへん」

「はい」

 ゴブリン、鬼熊、寄主トロルと、蒼兵衛の戦いを見てきたシオンは、同意を込めて頷いた。

「チームは、それぞれの仕事をしっかりこなすことがまず大事や。モチはモチ屋、戦闘は戦闘屋」

 蒼兵衛の強さは魅力的だ。難有りな性格でも、あの強さを手放すのは惜しい。

 それだけに、蒼兵衛が組んでいて、裏切られたと言う元の仲間とは、どんな人たちだったんだろうと、シオンは改めて思った。

 電話で言っていた『シリン』という女性がそうなのかもしれない。あのときの蒼兵衛は、普段とかなり様子が違っていた。

 あのとき、彼は怒っていた。いつも飄々としている彼が、怒っていたのだ。

 それなのに、電話を切りもしなかった。本当に心から冷めているのなら、あんなふうに感情を出すとは思えない。

 話したくないのに、話したい。そんな感じがした。

 それに、性別すら違うシオンとその人を間違うほど、動揺していた。きっと電話が鳴って、咄嗟に彼女だと思い込んだのだ。それ自体が、シオンの知っている彼らしくなかった。

 その女性こそが、彼を裏切ったワーキャットなのだろうか。そして今も、蒼兵衛は仲間のことを引きずっているのだ。ちっとも吹っ切れていない。

「まあ、キキちゃんもある意味、大したモンや。ここで寝るとはな」

「……はあ……」

 香坂は笑ったが、シオンはキキの話になると、まったく笑えなかった。本人は香坂チームの大人たちに囲まれて、構ってもらえてご機嫌だが。

 誘ったのは自分だが、キキを連れてきたことが申し訳なく、キキのぶんの報酬を断り、自分の取り分から渡すと言ったが、香坂たちはそうはいかないと譲らなかった。

「アイツは……連れてきたのは間違いでした。すみません」

「若いころは色々失敗したらええやん。キキちゃんも、君もな」

 真剣に頭を下げるシオンに、香坂はにこにこと笑って答えた。

「君らがどんなふうに仲間になったんかは知らん。けど、せっかく縁があって一緒におるんや。ここで小野原くんが根を上げてまうのは、勿体無いかもしれんよ? あんな、今のキキちゃんやのうて、半年後、一年後、五年後のキキちゃんを想像したらええねん。どう育つかは本人次第でもあるけど、周り次第でもあるんやで」

「周り次第……」

「そうや。小野原くんはようキキちゃんの面倒をみとるし、キキちゃんも君を信頼しとる。何度も失敗しても、付き合ってみたらええ。キメ子をちびらせたんや。いずれ頼もしい仲間になる」

 キメ子を繋ぐ鎖を腕にかけ、コーヒーを啜りながら、空いている手でキメ子を撫で続けている。

 キキの成長を助け、見守る。自分に出来るだろうか。香坂チームの中年たちに囲まれて、何故か倒木の上に立ってアイドルソングを披露し出したキキを眺めつつ、あまり自信は持てなかったが、とりあえず頷いた。

「考えてみます」

 調子っぱずれの手拍子と、やたらと大きく堂々とした歌に、キメ子がきょろきょろと二つの首を動かす。魔獣の鳴き声と間違えたのかもしれない。

「せや。いっぱい考えて、悩むんや。リーダーはな、そうやって成長するもんや」

「リーダー? オレが?」

「違うん? そういう雰囲気あるけどな。場数もしっかり踏んでそうやし、礼儀正しいしな」

「いえ……オレはまだまだです。知らないことも多いし。それに、最近までソロでやってて、年上の人にもナメた口利いてたと思う」

「そら若いんやし、知らんことが多いんは当たり前や。礼儀や知識は後からでも身に着けられるけど、一番大事なのは向き不向きやで。君は若いなりに、パーティーの面倒をようみとるよ。無意識かもしれんが、ちゃんと全員を見ようとしとる」

 自分ではそう思えず、シオンは俯いた。そんなシオンを、香坂が励ます。

「そら、最初からパーティーを制御すんのは大変やで。メンバーはそれぞれの役割をこなす。そのそれぞれを繋ぐのが、リーダーの仕事や。ま、冒険者って気分屋も多いしな。種族によりけり、クラスによりけり、皆それぞれクセがある。それを一つのパーティーにぎゅっとまとめるんは、絶対に大事なことやで」

「はい。それは分かります」

「戦闘もいけるみたいやけど、そこに特化してるよりは、もっと視野を広げたらええと思うで。小野原くんなら、探索もいけるで」

「そうですか?」

「うん。色々と求められるモンはあるやろけど、注意深く、我慢強い奴が向いとる」

「実は、これから探索をやっていきたいんです。その、探してるものがあって」

「トレジャーハント?」

「はい」

「それを見つけるのが、君の夢なん?」

「いえ……そうじゃないんですけど。それを探してる奴の、協力をしたくて」

「そうか。大変やけど、がんばってな」

「はい」

「寄主トロルを倒して、キメ子まで捕まえてもろたんや。君らはようやってくれた。ええチームやな」

 と言われ、シオンは嬉しくなったが、別に自分のパーティーでは無いのだ。

「いえ、二人には助っ人に来てもらったんです。オレが普段組んでる奴は、平日は来られなくて」

「ほう、そうか」

「そいつも良い奴だし、強いんですけど、週末しかやれないのが勿体無くて」

「ふうん。彼女か?」

「えっ? ち、違います」

 さらっと言われ、シオンは耳を立てながら大きな声を上げてしまった。

「……あれ? ていうか、オレ、女とは言ってないけど……」

「んー、いや、適当に言っただけや。なんとなくな、その子のこと話す君の表情で、女の子かと思っただけや。ボクは観察が仕事やから」

 どんな表情をしていたのだろうと、シオンは不安になった。すると香坂は大きな声で笑った。

「あんま気にせんでや! ほんまに当てずっぽうやから。別に小野原くんが変な顔してたとかちゃうから!」

 大きな手のひらで、バン! とシオンの背中を叩く。コーヒーを飲みかけていたシオンは、少しむせた。

「まあ、なんにせよ、助かったで。また頼みたい仕事があったら、声かけさせてもろてもええか?」

「あっ……はい!」

 香坂の言葉に、シオンは勢い良く返事をしていた。

 今日の仕事が、次に繋がったのだ。今回は不慣れな仕事で、蒼兵衛に手伝ってもらった部分は大きい。それでも次の仕事にも誘われてこんなに嬉しいのは、新人のとき以来だ。

「ぜひ、お願いします」

「これ、名刺。渡すの忘れてたな」

 とウエストポーチから名刺ケースを取り出し、渡してくれた。

「君は?」

「あ、名刺は持ってないです」

「ええよ。電話番号貰ってるから。ボクの番号もそのまま登録しとってな。まあ、うちでやるんはいつもこんな感じの仕事やけどね」

「はい。でも、やったことなかったから、勉強になりました」

「ほうほう。少しは興味ある?」

「他の魔獣の捕獲もあるなら、呼んでほしいです」

「やったら、小野原くんも触ってみ。まだ触ってへんやろ?」

「え?」

「キメ子や」

 足許にまとわりつくキメ子の背中を撫でる。キメ子は足に包帯を巻かれているが、今は安心して穏やかだ。

「あ、でも……オレ、キメ子を追いかけ回したし……」

 キメ子の二つの頭が、それぞれ別々に動いている。

 追いかけ回して申し訳無い、という気持ちと、はっきり言ってこの不可思議な生物が怖い、というのもあった。

 一つの胴体から生えている、小型の豹のような斑点の入った頭と、その後ろの白い毛の山羊の頭。

 一つずつ見れば、可愛らしい幼獣だと思える。

 自分だって人間の体に猫の耳と尻尾が生えているので、彼女を不気味というのも失礼な話だろうが、それにしたって不思議な生き物だ。

「こいつは、それぞれが食事をしたりするんですか?」

「せやで。内臓は共有してるモンもあれば、別個に持っとるモンもある。胃は一つやから、片方だけが食事を採っても大丈夫や。せやけど、一方だけに餌をやり続けると、もう一方がストレスを溜めよるから、飼育下では平等に与える。逆にどっちかが弱っとるときは、元気なほうが食事をしてくれるから、それは便利やな」

「もし、片方の頭だけが死んだら?」

「もう一方がまったく無事なら生きられるが、大抵は早死にする。手足を失うのと近いな。体の一部を大きく失うんや。そのまま生き続けた個体もおるが、ショック死するやつもおる。野生やったら生き延びても、ストレスのかかり方が大きいから、長くは生きんことが多い。飼育下にあるなら、手術で死んだ頭を分離させる」

「へえ……」

 香坂の話を興味深く聴きながら、シオンもキメ子の傍に腰を下ろした。

 さっき追い回したシオンを、キメ子の二つの頭が、特に警戒することなく見上げた。香坂が傍にいる安心感だろうか。

「そういえば、どっちの頭もキメ子なんですか?」

「んー、多頭獣は頭の数に関係無く、一つの個体として数えるから、ボクはそう呼ぶけどね。人に飼われる場合は、一つの名前にするか、それとも頭それぞれに一つずつ名前を付けるかどうかっちゅーのは、その飼い主……この場合は、園の考えによるやろね。まあ、別にどっちでもええと思うよ」

「どっちでもいい? そんなものなのか」

「ま、どう呼ばれようとコイツには関係あれへからな。名前くらいは覚えるやろうけど」

「だったら、名前は一つのほうが覚えやすいな」

「せやな。コイツにとっては、頭が二つあっても、どっちも自分やろからね。ボクらからすれば別々の生物がくっついてるように見えるけど、コイツらにとっては別々なんかやない。二つの頭も含めて、すべてが一つの自分や」

 飲みかけのコーヒーを地面に置いて、シオンはキメ子の傍に近づいてみた。

 彼女の前に屈むと、四つの目がじっとシオンを見ている。キメ子に怯える様子は無い。それでいったんは手を伸ばしかけたのだが、躊躇してしまう。

 不気味だからというより、幼い獣に触るのに慣れていない。今まで魔獣を殺す仕事ばかりしてきたから、触っただけで死んでしまうんじゃないかと、怖いのだ。

 そんなわけは無いと分かっていても、今まで魔獣を可愛がろうとか慈しもうと思ったことが無いのだ。

「触るの、怖いんか?」

 香坂が優しく目を細めながら、言った。シオンは素直に頷いた。

「……殺したことしか無いから」

「でも、今日は小野原くんがこの子を助けたんよ」

 キメ子の頭を交互に撫でる香坂の手つきを、じっと見つめる。どんなふうに触れたらいいのか、彼のようにいかなくても、少しでも真似してみようと思った。

「駆除することも討伐することも、誰もしたくない仕事を、君はやってきただけや。だから今、キメ子に触ったらあかん言うことはない。むしろ、触ったほうがええ。こんな機会はめったに無いからな」

 シオンがおそるおそる指を近づけると、体の前にある猫の頭が、鼻を近づけて匂いを嗅いできた。手を引きたくなるのを堪えていると、鼻づらを押し付けられた。

「ひえ……」

「別に、噛めへんよ?」

「いや、分かってるんだけど……なんか感触が……うわっ、舐めた」

 グローブに覆われていない指先を舐められ、顔をひきつらせたシオンに、香坂は大きな鼻をひくひくさせながら笑った。

「普通の猫と同じや。顎の下とか、耳の裏とか撫でたってや」

「猫も触ったことあんまり……」

「ぷっ。なに言ってんの。自分が猫じゃん」

「君が触られて気持ち良いところが、そいつの気持ち良いところだろう」

 背中にキキと蒼兵衛の声を受ける。

 山中アイドルショーはいつの間にか終わり、シオンがキメ子と初めて触れ合う様子を見物されていたらしい。

「オレは別に、顎の下も耳の裏も、触られたって気持ち良くない」

 ついむすっとした声を出してしまったが、あいつらにいちいち怒っても仕方が無いのだ。そうシオンは心の中で噛み締めた。これも忍耐の訓練だ。

 その間にも、シオンの指もグローブに覆われた手のひらも、キメ子の猫頭に舐められてびしょびしょになっていた。その後ろの山羊頭も興味を持ち出し、小さくいななきながらシオンの手に顔を寄せている。

「ヤ、ヤギまで……」

「大丈夫、大丈夫。ちゅーか、怖がるほど寄って来るで」

 香坂の言うとおり、キメ子はシオンのほうに体を寄せてくる。屈んでいるシオンの膝に前肢をかけ、猫の頭がスカーフを噛んで引っ張り出した。山羊頭のほうが大胆な性格なのか、シオンの髪や耳を咥えようとしてきた。

「うわっ、く、喰われる!」

「こらこら、あかんやろ。なにしとんねん、やめんかい!」

 さすがに香坂もシオンからキメ子を引き剥がしにかかった。山羊頭が耳を咥えたままだったので、引っ張られてシオンは悲鳴を上げた。

「い、いたた!」

「オイこら、あんまはしゃぐな。お前も怪我してんねんぞ」

 キメ子を引き剥がしてもらい、シオンはほっと胸を撫で下ろした。後ろでキキが爆笑している。

「あの、香坂さん」

「ん?」

「もう一度、キメ子に触ってみていいですか。出来たら、あんまり暴れないように押さえておいてほしいんですけど……」

「お、ええよ。ほら」

 香坂がキメ子の二つの喉を代わるがわる撫でながら、腹の突き出た大きな体を後ろに引く。キメ子は再び近くにきたシオンを見て、玩具を返してもらったように興奮している。

「な、撫でるコツとか……無いですか……?」

「んじゃ、目ぇしっかり見てみ。舐めてかかってきたら、睨んだったらええねん」

「え……と、どっちの目を?」

「んー? テキトーに」

 とりあえず両方の顔を視界に入れながら、シオンはまず猫の頭に手を伸ばした。シオンが勝手にびくついていただけで、キメ子は頭を撫でられると目を細めた。

 そのシオンの指先を、山羊頭のほうが興味深そうにまた口先を押し付けてくる。あっという間に唾液でべたべたになってしまった。

 気味が悪いと思っていたが、触れてみると愛着がわいた。両方の頭を撫でながら、包帯を巻かれた右の後肢が目に入った。

 歩き方はぎこちないが、痛がっているふうではない。

「人と違って……痛がってるとかよく分からないな」

「口がきけたら言うかもな。表情もたいして無いしな。人にはそれがある。コイツらにはそれが無い。ただ、痛くても苦しくても生きるのをやめへんというだけや。ボクは人も亜人も獣も虫も好きやけど、目指したのは魔獣を観察する仕事やった。そこから広がって、今は色々やっとるけどな」

「どうして魔獣だったんですか?」

「子供んときに映画観たからや。言うたやろ、『キメラ、森へ帰る』って映画。美しい少女とキメラの仔の交流を描いた、古い映画や。もし観るときはリメイク版やなくてオリジナルやからな」

「あ、はい」

「理由はその程度のモンや。元々生き物は好きやった。それで、これが人生の一本と言える映画に感銘受けて、それから魔獣が好きになった。特にキメラには思い入れがある。関東ではキメラ関連の仕事なら、まずボクに話がくるくらいには、キメラのことを見てきた」

「そうだったのか。すごい人だったんだ」

 尊敬の眼差しを向けるシオンに、香坂は照れたような笑い声を上げながら、顔の前でぱたぱたと手を振った。

「いやー、正確に言うと、日本でそこまでキメラに熱入れてるやつは、そんなにおれへんっちゅーだけやけどね。特に冒険者でってなるとな。お、慣れてきたか?」

 少しキメ子に慣れたシオンは、両手で二つの頭を撫でたり、胴体を撫でた。すり寄ってきても平気になった。

 キメ子はというと、シオンの尻尾が気になるのか、先のほうにじゃれてきた。

「はい。ちょっと……可愛い気がしてきました」

「せやろ! 可愛いねん、ほんま!」

 シオンがぽつりと呟いたことに、香坂は嬉しそうに大きく頷いた。そして、シオンの背中を何度も撫でたりさすったりした。

「いやあ、嬉しいなぁ! 今日ここにもキメラの魅力に取り付かれたモンが、また一人!」

「へ? いや……そこまでは……。あ、そうだ。香坂さん、訊きたいことがあるんだけど」

「なんやなんや、キメラ愛好会のアドレスなら、名刺に書いとるで」

「じゃなくて……というか、キメラには関係無いんですけど。このへんで、お土産売ってるところって、ありますか? できたら、美味しいもの」

 キメ子に尻尾を遊ばれ、すっかりべちゃべちゃにされながら、シオンはそう尋ねた。




 その晩、シオンは仕事が終わると、家では無く地元に向かった。そこにはシオンの実家があり、紅子が住む町でもある。

 アパートには戻らなかったので、汚れたジャージ姿のままだが、実家に戻れば着替えはある。思いつきで帰ることにしたので、父親には連絡していないが、別に必要は無いだろう。急に帰っても歓迎はされるだろうし、留守でも鍵は持っているから勝手に入って寝ればいい。

 ただ、紅子にお土産を渡そうと思っただけだ。

 実家に向かう前に、地元の駅で紅子と待ち合わせをしている。電車の中でメールをしたら、ちょうどアルバイトが終わったところだったらしい。そのまま自分も駅に向かうと、紅子は妙にあたふたした様子で答えた。相変わらず忙しそうだ。急に呼び出して、悪かったかもしれない。そう思いながら改札に向かっていると、聴き慣れた大声がした。

「小野原くーん!」

 改札のすぐ外で、セーラー服姿の紅子が手を振っている。

 地元で目立つのは嫌なので、シオンは足早に改札を抜けた。

「お疲れさまっ! 今日は、直接こっちに戻ってきたの?」

 ジャージ姿に、武器や道具の入ったザックを担いだシオンに、紅子がそう声をかけた。

「ああ、ちょっと思いついて」

「そうなんだ。バイト終わって帰るとこだったから、メールもらって、ちょうど良かったよー」

「ごめんな、急に」

 前に制服姿を見たときは、長袖の黒いセーラー服だったのが、今は襟とスカートが紺色で、タイは赤の、白い半袖のセーラー服に変わっていた。

「ううん。せっかくだから事務所で、魔法の詠唱を暗記してたの。小野原くん、今日はおうちに帰るんだね」

「ああ。浅羽に会うついでだけど、戻るのも面倒だからこのまま実家に帰って寝るよ」

「あ、会うって、わ、私に? わざわざ?」

 紅子が上ずった声を上げる。

「そう。土産あるんだ。とりあえず帰ろうぜ。家の前まで送ってくから」

「え、大丈夫だよ。小野原くんのうち、反対方向じゃない?」

「いいよ。話したいこともあるしな」

 そう促して、シオンは紅子と並んで歩き出した。

 紅子の家に着くまで、今日の仕事の話をした。

 彼女は香坂たちの仕事ぶりを、うんうんと何度も頷きながら、真剣に聞いた。キメ子の可愛さを想像してはしゃぎ、蒼兵衛の強さに感心していた。

 そして、最後に皆でコーヒーを飲んだと言うと、紅子はほうっと大きく息をついた。

「いっぱい、頑張ったんだねえ。小野原くんと、キキちゃんと、おサムライさん」

「キキは頑張ってないけどな」

「いいなぁ。私も行きたかった。学校やバイトが無かったらなぁ」

 今度は少し寂しそうに、小さく息をつく。

「行けばいいだろ。香坂さんが、また誘ってくれるって言ってくれたんだ。都合が合えば、浅羽も行こう。いい人たちだったし、珍しい仕事だから、面白いと思う」

「うん! 小野原くん、楽しかった?」

 と紅子が微笑みながら、シオンの顔を見た。

「小野原くん、楽しそうだから」

「ん、まあ……勉強になった。キメラも、案外可愛かったよ」

「でしょ! いいなー。私もキメ子触りたいよー」

 キキのようなことを言っている。シオンは小さく笑った。

「お前なら、キメラ愛好会に入れそうだな」

「えっ、なにそれ」

 薄暗い道を並んで歩きながら、いつもとは逆で、今日はシオンのほうがお喋りだった。

 シオンは仕事の話くらいしか出来ないが、何を話しても紅子は楽しそうに聞いてくれるから、その笑顔に引き出されるように、どんな話でも楽に出来た。

 そうして彼女と居ると、時間はいつもすぐに過ぎてしまう。駅からそれほどかからず、あっという間に紅子の家の近くにきた。

「あ、そこ曲がったところだから。ここでいいよ」

 と紅子が言った。叔父や叔母に見られては良くないのだろうと、シオンも頷いた。

「あ、これ。土産」

 と、シオンは手にしていた袋を差し出した。

「わ、なんだろ」

「群馬で有名な弁当だってさ。なんだっけ、釜めし弁当?」

「わぁ……ほんとだ」

 街灯の下で、紅子はビニール袋の中を覗き込み、中に入っている釜めし弁当の包みに、目を輝かせた。

 そして、セーラー服の胸にぎゅっと抱き締めた。

「ありがとう、すごく嬉しい。ずっと、大事にするね」

「いや、早めに食べろよ。腐るから」

「うん……じゃあ、食べます」

 シオンからの初めてのプレゼントだ。噛み締めて食べようと紅子は思った。一口ごとに彼のことを考えてしまって、夜明けまで食べているかもしれないが。

 とりあえず帰ったら手帳に、今日を『釜めし記念日』と書き記そう。

 そんな紅子の姿を見て、こんなに喜ぶなんてよほど釜めしが好きなのだろう、香坂に勧められたこの弁当にして良かったと、シオンも微笑ましく思った。

「じゃあ、また連絡する」

「うん。ありがとう。小野原くんは明日には、もうおうちに帰っちゃう?」

「そうだな。センターにも行きたいし、蒼兵衛さんがヒマだったら、また別の仕事に誘ってみようかな」

「キキちゃんは?」

「うーん、アイツとはしばらく仕事したくない気もするけど……良さそうなのがあればな。あ、土日の仕事はちゃんと探しとくからな」

「はい。お願いします」

 ぺこりと紅子が頭を下げ、それからにこりと笑って、小さく手を振る。

「おやすみなさい、小野原くん」

「おやすみ、浅羽」




 紅子と別れ、実家までの道のりを歩いていると、携帯電話が鳴った。

 見れば、知らない番号だった。歩きながらシオンは電話に出た。

「はい」

 すぐに向こうから、大きな声が響いた。

〈あ、いきなりすいません。小野原シオンさんの携帯すか?〉

「そうですけど」

 聴き覚えの無い男性の声だった。人の名前を覚えるのは苦手でも、声はけっこう覚えているほうだ。

〈あー、オレ、妹尾です〉

「ああ、キキのところの……」

 妹尾組の人だったようだ。キキか国重から、また何かの頼みごとだろうか。それとも、延期になっていた宴会の誘いかもしれない。ということは、国重の腰痛も大分良くなったのだろう。元気な老リザードマンのことを思い出しながら、シオンは尋ねた。

「国重さん、元気になったんですか?」

〈え? あー、なんかおお伯父貴おじき、ケガしたらしいっすね。入院してる間にボケが進んだとか聞いたけど、ま、元の性格からボケてるっぽいとこあるからなぁ、あの人〉

 国重に対しての親密そうな話しぶりに、彼が妹尾組の若衆と呼ばれる者たちとは違うとシオンは気づいた。

〈なんか、大伯父貴とキキが世話になったとかって。キキが早く電話しろしろ言ってたんすけど、なんか仕事が立て込んじまって。戻って来れたかと思ったらまた仕事で、今まで遅くなってすいません〉

「え……えーと……?」

 シオンが理解するより早く、どんどん話を進めていくのは、リザードマン族の特徴なのだろうか。

〈あ、いけねえや。オレ、挨拶自体ろくにしてないっすね。お久しぶりっす。つっても覚えてないすかねえ。姐さん……いや、桜さんの葬儀以来で。ご無沙汰してます〉

 そう言われ、シオンは足を止めた。

 誰も歩いていない夜の住宅街で、黙って佇んだシオンの耳に、リザードマンらしい気さくそうな声が響く。

〈オレ、桜さんとパーティーを組ませていただいてた、妹尾鯛介です〉

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