落書きはあべこべに
あべこべに考えてみる。それは、ちょっとだけ頭を使う。
自分が思い込んでいることをあべこべにして、思い描く。
ただそれだけ。
真っ白なカンバスに描くでもいい。
ノートの隅っこに描くだけでもいい。
現実に疲れた感情を癒すだけの、滑稽な落書き。
初めに描くのは、空想生物最強と言われる竜。
なんで竜からかって? ただ、好きだから。それ以上の理由は要らないよね。
その巨躯から放たれる威圧的な雰囲気と、ダークカラーのぬめりとした鱗。
そして鈍く光る射抜く瞳。
悪神として描かれる竜なんて、言ったら想像するだけで心が震える。
それを、真逆に考えてみる。
体を小さく、パステルカラーのふわふわの綿のような鱗。
好奇に満ちた輝く瞳。
……これじゃあ、そのへんのぬいぐるみだ。
でも、綿毛に掴まれるくらい小さなものにしたら?
少しだけ可愛い。
黒い身体の残虐な悪魔と白い身体の包容の天使。
性格だけを入れ替えたなら、最近のダークヒーローだ。
復讐をするために天使と戦う。私利欲のために悪魔を蹴落とす。
何かストーリーが出来そうな気もするけど、今日はそれが目的じゃない。
悪魔の身体をそのまま真っ白に塗り替えて、天使の身体をそのまま真っ黒に塗り替える。
真っ白な身体なのに、釣りあがった目。真っ黒な身体なのに、優しい目。
ありえなくはなさそうだけど、ココで性格は変えない。
石灰かぶった悪魔に、墨かぶった天使。
情景を足したら、少し笑った。
家に着く猫と人に付く犬。
人に付く猫と家に付く犬。
猫の可愛さはアップするが、犬の可愛さが半減。
猫のように高いところを駆け上る犬。
高いところに登れない猫。
一本の木を描いて、高い枝の上から猫を見下ろす犬と、悔しそうに幹を引っかく猫。
ちょっと萌えた。猫に。
他には何があるかな。
頭の回転が速いネズミに頭の回転が遅いライオン。
ライオンがひまわりの種を食う姿が浮かんだ。
ネズミが草原を駆け、獲物を追う。
草食動物と肉食動物の入れ替えじゃ、ちょっと違和感あるか。
手足を逆さに使う人間。
手で、歩き。足で物を掴む。
……訓練しだいで出来そうだ。
人間の毛を刈る羊。
ヅラの製作工場が生まれた。
リゾートを満喫するホッキョクグマ。
ペンギンが真夏の太陽の空を飛んでいる。
海中を泳ぐカモメ。
魚を仲間同士協力して、追い込み漁。
カモメの数が凄いことになる。
適当に書きなぐる落書きには意味は無い。
絵でも、文字の羅列でも。
気を紛らわせるためだけの、ただの心の慰み程度。
感情の針を正常に戻そうとあがいてるだけ。
見知らぬ誰かを楽しそうに相手をしている君。
君の知る相手と楽しく相手してもらっている自分。
感情の波を制御しなければ。
暗い色を明るいものへ変える。
視覚に、想像に色鮮やかに映らせる。
沈んだ色ばかりを見るから、落ちる。
明るい色を見て、あげればいい。
落書きには暖かい色をつけてみよう。
ついでに、真っ白な悪魔にも暖かい色をつけてみよう。
滑稽な絵が増えていく。
多分、考えすぎて、ショートを起こしているんだ。
眉間にしわを寄せたままじゃ、何も始まらないし煮詰まるだけ。
息抜きがてらに、変な事を思い浮かべる。
あべこべに物を考えて、少し笑えたら……
頭をマッサージしてゆっくりと寝よう。
あべこべに考え終わって、少しでも笑えたら。
小さく余裕が出来てきたはず。
意識して笑顔を作って。
ほら、さっきより笑えるようになってる。