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やさしいウソの日   作者: 名口慎
2/2

やさしいウソの日 2


年に一度だけ、

私が自分の気持ちを素直に出した嘘を、つく日がある。


きっと、

この日しか伝えることが出来ないんだ。


その気持ちは、口にすることはない。

今年も・・・そして、これからも。


それでも、つき続けるその嘘を、

どうか、今年も受けとってほしい…。




年が明けて早一ヶ月。

今年もこのシーズンがやってきた。


周りの友達は、女の子らしく可愛くなって、

うきうき、キャッキャっと、はしゃいでる。


それ形だけ乗っかって、

友チョコを交換して、

ついでに「彼氏」にも友チョコよりも1~ 2個中身を増やして、

少しばかり可愛いラッピングの包みで手渡す。


そんなのただのイベント・・・

なんて言ったら、私は可愛くない女の子だろうか。

まぁ、それでもいい。


だってほら、

本来今日という日は

「チョコを作ってあげる日」じゃなくて

「想いを伝える日」なんだから。


私は、足早にいつもの場所に向かう。


昔よく遊んでいた公園。


そう。

君は毎年この日は必ずここに来る。


彼女とかいるだろうに、

こんな日に、寒い中たった一人で。


君は、子ども達にあまり人気がない色褪せた遊具に腰かけ、

携帯をいじっていた。


「あ、いたいた。」


私のその声に顔を上げ、こちらを向いた。

マフラーから出した鼻先が少し赤かった。


あぁ、今年も早く来てたんだ・・・。


頑張って早く来たつもりだったのになぁ。



いつも君はそうだ。


いつだって私よりも先いる。


私を待たせない。


それは、君すら気づいてない、

君の優しさだ。



でも、そんな君に、

「待たせてごめん」は言わない。


きっと君は「待ってない」と言うから。


そんなものは必要ない。


約束をしないことが私と君の、

言葉にはしていない約束だから。



そして、やさしい嘘は始まる・・・。



「はい。・・・一個余ったの。」



なんて愛想がない渡し方だろう。

でも、これが正解だ。



言葉とは裏腹に空色の包みをそっと、

やさしく君の手へと渡す。


私の想いの全てを込めて。


何度この瞬間に想いを伝えてしまおうと思っただろう。


去年も、一昨年も、その前も・・・

そして今日、この瞬間も。


これが本当は本命なんだと。


「彼氏」や友達なんかよりも

何倍も想いを込めているんだと。


…そうしたら、

君はなんて言うんかな?



知ってるんだよ?


随分前から私と君は両想いだったんだってこと。



きっと、君も知ってるんでしょ?


でも、互いに何も言わない。

伝えない。



なぜなら、

違う夢を持ってしまったから。


夢や進む道が違くても、

愛があれば・・・


なんて、

そう思える人もいるんだろうな。



そう。


もしかしたら

私たちだってうまくいったのかもしれないね。


でも、私たちはその互いの夢を知った時、

迷うことなく互いの背中を押したんだ。


自分の方にではなく、

それとは逆の、


相手の進もうとしている夢の方へ。



後悔?


そんなのはしなかったよ。


きっと、君もだよね。


だから今年もここに来て、

私の嘘を聞いてくれる。



夢が叶うまではどちらも言葉には出さない。


隣りにいて、

甘えるのは、

君と手を繋ぐのは、


夢を叶えた私がいいから。



君も言う。


今年も、私に優しい嘘を。


「俺、たくさんもらったんだよ?」って。



私さ、知ってんだよ。


君は毎年、

義理だろうと何だろうと、

「彼女」と私からの、たった二つしか受け取ってないってこと。



そして、

彼女のやつよりも私のやつを先に食べるってことも。


だったら彼女なんて作んなよ!とは言わないよ。


私だって人のこと言えないんだけどね。


私たち二人は似てるんだ。


人の真っ直ぐな想いを断るのが苦手なこととかが、特にね。


不器用なんだよ。


優しい嘘しか得意じゃないんだ。


真っ直ぐで素直じゃない片想い合いをしてるんだもんね。



でも、


今年は少しだけ、


嘘以外を言うよ。



「あ、


実は、


来年ね、卒業したら・・・・」




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